給与債権に関する情報の入手手続きについて
1.はじめに
債務者が、支払をしないとき、給与を差押えてその回収を図ることが出来ます。不動産等他の執行手続きと比べて手続きが簡易で迅速に回収が出来るということで債権回収にあたっては、検討されるべき手法の一つです。
ところが、肝心の勤務先が全くわからなかったり、転居・転職等で勤務先が変わってしまっているときには、差押えが出来ません。差押えをした給与(の一部)は、勤務先から直接支払ってもらうため、勤務先の住所、氏名(会社名)がわからなければ、差押命令自体の発令が出来ません。
2.勤務先情報の情報提供命令手続きの流れと要件
そこで、今回の執行法の改正により、勤務先名やその住所の情報を市町村や厚生年金を扱う日本年金機構等から入手する方法が認められました。
具体的には、債権者が裁判所に第三者(情報の照会先)に対し、勤務先情報に関する情報の開示命令の発令を申立て、裁判所に第三者宛情報提供命令の発令をしてもらい、第三者から情報提供を受けます。
但し、申立の日の3年以内に財産開示手続の期日における手続きが実施されていること、強制執行の不奏功が要件となっています。後者については、強制執行手続の中で6ヶ月以内に実施された配当等で完全な弁済を受けられなかったことの証明、あるいは不動産等の調査をして、強制執行をしても完全な弁済を受けられないとの疎明することが求められています(調査事項は、細かく決められています。)。
3.申立ての出来る債権者
といっても、全ての債権について認められるわけではなく、「債務名義」(※当事務所の法律コラム、不動産に関する情報取得手続きと利用の実情の2(3)参照)の対象となっている債権のうち、①「扶養等の義務に係る請求権」と「人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権」に限定されています。①は、婚姻費用や養育費の支払請求権が代表的です。②については、交通事故等の事故による治療費、休業損害、慰謝料、後遺症による損害といった人的損害が典型的です。
こうした債権に該当するかどうかの判断については、判決の場合は、判決理由中の記載で通常は明確になりますが、和解調書等の場合には、金銭給付の名目が、「和解金」のような場合には、それだけでは債権の性質が決定出来ず、また、「本件事故による損害賠償債務として」という記載だけでも不十分とされています。和解をしても不履行のおそれのあるようなときは、和解金の内容を調書中で特定をする等、調書の条項の表現にも気を付ける必要があります。
4.情報提供を求める第三者の選択
情報提供を求める第三者については、市町村、日本年金機構等厚生年金を扱う団体のどちらか、又は、両者を選択することも可能です。市町村は、当該市町村に住所のある給与所得者について、毎年1回提出される給与支払報告書を基本に情報を把握しているので、年度途中で転居・転職等をした場合には、情報が古くて空振りということがあります。
これに対して、厚生年金保険の場合は、異動を含めた加入に関する事由は短期間で処理されますので、こうしたリスクは小さいと考えられます。
また、厚生年金保険の実施機関は、複数あり、①民間か公務員か、②国家公務員か地方公務員か、③公務員でも、どの共済組合に加入しているのか等照会先については、検討する必要があります。③の場合で所属がわからない場合には、共済組合の連合会を照会先とすることも可能です(但し、市町村の職員の場合は、地方公務員共済組合連合会ではなく、全国市町村職員共済組合連合会を第三者とする必要であります。)。
5.最後に
勤務先情報の入手のための手続は、上記の通り、その要件や第三者の選択等法的に複雑な面もあり、また、その結果を受けて、引続き差押手続きを取ることになりますので、当初より、弁護士に相談・依頼されることをお勧めします。
池田総合法律事務所では、これらの業務も取り扱っておりますので、御相談下さい。
(池田伸之)