公益通報者保護法の一部改正について

本年6月4日に、公益通報者保護法の一部改正が成立しました。公布日から1年6月以内の施行ということになっており、これにより公益通報者の保護が一層強化されますので、これを機会に、既に企業の内部通報制度を運用している企業にあっては見直しを、これから導入しようという企業にあっては、今回の改正を踏まえて制度構築をする必要があります。

今回の改正の概要は以下の通りです。内部通報、公益通報者保護法全般については、これまでのブログを参照して下さい。

(1)従事者指定義務違反をした事業者への対応

常時使用する労働者数が300人超の事業者は、公益通報を受け、調査・是正措置をとる業務への従事者を定めなければならないこととされていますが、従前認められていた内閣総理大臣の指導、勧告権限に加え、勧告に従わない場合の命令権、この命令に違反したときの刑事罰(30万円以下の罰金)を新設しています。

また、従事者指定義務違反の事実が公益通報の対象事実とされており、指定義務を履行していない事業者については、労働者等から公益通報される危険があり、至急体制を整えて従事者を指定する必要があります。

(2)公益通報者の範囲の拡大

公益通報者の範囲に、フリーランス及び業務委任関係が終了して1年以内のフリーランスが追加され、公益通報を理由とする業務委任契約の解除その他の不利益な取扱いが禁じられています。

(3)公益通報を阻害する要因への対処

事業者が、正当な理由なく、労働者等に公益通報をしないことの合意を求めること等によって、公益通報を妨げる行為をすることを禁止し、これに違反した法律行為は無効とされます。

また、事業者が正当な理由なく、公益通報者を特定することを目的とする行為も禁止しています。

(4)公益通報を理由とする不利益な取扱いについての抑止、救済の強化

公益通報者に対する解雇は従来より無効とされていましたが、改正により、懲戒も無効とされることになりました。通報後1年以内(又は、事業者が外部通報があったことを知って解雇又は懲戒をした場合は、事業者が知った日から1年以内)の解雇または懲戒は、公益通報を理由としてされたものを推定すると定められ、民事訴訟法上の立証責任が、事業者側が負担することになります。すなわち、事業者側で公益通報を理由としたものではないことの立証をする必要があります。

さらに、公益通報を理由として解雇又は懲戒したものに対し、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が課せられることになり、法人自体についても、3000万円以下の罰金が課せられることになりました。

また、一般職の国家公務員等についても、公益通報を理由とする不利益取扱いを禁止し、これに違反して、分限免職または懲戒処分をした者に対しても、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金刑が適用される旨の規定が新設されました。私企業にとどまらず、公務員を含めて、社会全般の内部通報者保護を拡大していこうとするものです。

当事務所では、複数企業等の内部通報制度の窓口を受任しており、また、従事者に指定されている弁護士も在籍しております。制度導入を検討されているような場合には、是非ともご相談下さい。

(池田伸之)

財産分与に関する改正

1.はじめに

令和6年(2024年)5月、民法の家族法の一部が改正されました。令和8年(2026年)5月24日までに施行される予定です。

今回は、財産分与の改正について解説します。

 

2.財産分与

(1)財産分与の請求期間

従来、財産分与は、離婚から2年以内に請求することが必要でした。

しかし、婚姻期間中に夫からDV等を受けていたため、離婚後も恐怖心から元夫に対して財産分与の請求が出来なかったり、子どもが幼く育児等に追われ、財産分与を請求する余裕がなく、時機を逃してしまったなど、離婚の際の事情によっては、2年以内に財産分与の請求ができないこともあり、離婚後に一方当事者が困窮することになるなどの指摘がありました。

一方で、財産分与の期間を伸ばすことで、財産分与の請求時から財産分与の基準時(通常は、離婚時または別居時のいずれか早い時点)まで、相当長期間遡ることになるため、基準時における財産分与の把握が困難になるおそれがあり、紛争が長期化・複雑化するといった懸念があります。

以上の事情を踏まえ、今回の改正では、5年に伸長されることになりました。

なお、年金分割は、原則として、離婚をした日の翌日から2年を経過すると請求できなくなります。今回の財産分与の期間伸長によっても、年金分割の手続期間は変わりませんので、注意する必要があります。

 

(2)財産分与の法的性質、2分の1ルール等

現行法では、財産分与の目的や考え方が定められていませんでしたが、今回の改正では、これらの点が一定程度明確になりました。

 

現行民法768条3項

家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

 

 

改正民法768条3項

家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。

 

今回の改正で、財産分与の目的として、「離婚後の当事者間の財産上の衡平を図る」ことが明示されるとともに、新たに追加された「各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入」の文言により、財産分与の法的性質として、清算的要素、扶養的要素、補償的要素を有することが明確になりました。

したがって、今後事案によっては、単純に財産額のみから財産分与額を決するのではなく、上記の事情についてもより積極的に主張していくことが考えられます。

また、財産分与における寄与の割合について、「婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。」として、原則的には2分の1とすることが明記されました。

現在の実務においても、2分の1ルールについては既に定着しているところですが、これが条文に明記された形になります。

 

3.おわりに

財産分与は、離婚後に安定した生活を送るために、重要な制度です。夫婦の共有財産について出来る限りの調査を行い、必要な主張を尽くすことで、最終的に得られる財産分与の額が変わる可能性もあります。

どのようなことを調査するのか、その手掛かりは何かなど考えるポイントがありますので、お悩みの方は池田総合法律事務所までご相談ください。

(石田美果)

養育費に関する民法改正

親子関係の改正民法は令和8年(2026年)5月24日までに施行されます。

今回は,養育費について,どのような改正がされているのかを解説します。

 

第1 法定養育費の導入

1 現在の養育費の定め方

現在,養育費は両親の話し合いで決めるほかは,養育費請求調停で合意する,家庭裁判所の審判で定められるという形で,養育費の具体的な金額が決まっています。

2 改正民法での変化

(1)法定養育費の導入

改正民法766条の3が新設され,離婚の時に両親が養育費の具体的な金額を取り決めていない場合でも,離婚のときから引き続き子どもの監護を主として行う両親のいずれかは,他の親に対して,一定の法定養育費が請求できるようになります。

この法定養育費は法務省令で別途算定方法などを定めることになっています。

もっとも,法定養育費は,両親が養育費について合意できた時,または審判で定められた時(正確には審判が確定した時),子が18歳に達したときまでの暫定的なものですので,合意や審判などで養育費の具体的な金額が定まれば役割を終えることになります。

現在は,養育費の具体的な金額は,両親のそれぞれの収入状況から養育費の算定表等をもとに定められていますが,給与明細や源泉徴収票の提出が拒否された結果,なかなか養育費が決められないということが実務上はよく起こっています。

しかし,法定養育費が導入されることで,後述の養育費の額を当事者同士で定めた書面が何も存在しない場合でも,給与明細や源泉徴収票などの収入資料が無い場合でも,法定養育費として暫定的な養育費が定められるようになり,さらに法定養育費が一般の先取特権となるため,法定養育費の存在をもって強制執行ができるようになります。

(2)法定養育費の発生

法定養育費は,『離婚の日』から発生し,毎月末までに,その月の分の法定養育費を支払う必要があります。

(3)改正民法施行前の離婚と法定養育費

改正民法の施行前に離婚した場合,法定養育費の定めは適用されません。

改正民法の施行後に離婚した場合に限って,法定養育費が発生します。

 

第2 強制執行手続が容易に

1 現在の養育費の強制執行

これまでは養育費を口頭や夫婦間の覚書などで決めていた場合,養育費を支払うべき側の親が養育費を支払わないときは,公正証書を別途取り交わすか,養育費請求調停を家庭裁判所に申し立て,裁判所の公的な書面である調停調書や審判書が手元になければ,強制執行ができませんでした。

しかし,公正証書は,基本的に夫婦がそろって公証役場におもむいて,公証人の面前で公正証書を作成する必要がありますが,夫婦がそろって公証役場に出向くということ自体,ハードルが高いものです。

また,家庭裁判所で養育費請求調停を申立て,養育費について合意ができた場合には調停調書が作成されますが,すぐに養育費についての合意ができるわけでもなく,調停調書が入手できるまでには相応の時間がかかります。

そのうえで,調停で合意ができなかった場合には,家庭裁判所の裁判官が判断を下す審判がなされることになりますが,これは調停が成立しなかった場合ですので,調停でも時間がかかり,審判が出るまでに時間がかかるので,やはり相当の時間がかかってしまいます。

2 改正民法での変化 ~養育費債権が先取特権へ~

改正民法306条3号が新設され「子の監護の費用」が一般の先取特権になります。

先取特権は,債務者の財産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利(民法303条)をいいます。

簡単に説明すると,養育費を支払わない親が他にも借金をしていても,その借金よりも優先して回収ができる権利が養育費に認められるということです。

そして,養育費が一般先取特権となることで,前述の法定養育費とあわせて,先取特権の存在を示す文書があれば強制執行ができるようになります。

ただし,先取特権が認められる養育費の範囲(金額)は,改正民法308条の2において法務省令で定めることとなっていますので,実際には法務省令で定められた金額の範囲内になります。

したがって,改正民法が施行された後は,養育費の額を当事者同士で定めた書面が何か存在すれば,それが養育費という先取特権の存在を示す文書となって,その文書をもとに強制執行(例えば,給与の差押えや預貯金の差押えなど)を行えるようになります。

また,前述のとおり,養育費の額を当事者同士で定めた書面が何も存在しない場合でも,法定養育費が一般の先取特権になるため,やはり法定養育費の範囲内で強制執行が行えるようになります。

 

第3 その他の養育費請求の利便性向上

1 財産状況に関する情報開示命令

改正人事訴訟法34条の3,家事事件手続法152条の2が新設され,家庭裁判所が子を監護していない親の収入や資産の状況に関して情報を開示するよう命ずる情報開示命令制度が導入されます。

これにより,家庭裁判所の養育費の調停などの際に,給与明細や源泉徴収票の提出を拒否する親に対して,収入や資産状況を開示させることができるようになります。

なお,情報開示命令に対して開示を拒否したり,虚偽の情報を開示した場合には,10万円以下の過料の制裁があります。

2 民事執行の各制度のワンストップ化

改正民事執行法167条の17が新設され,地方裁判所に養育費の支払いを求めるために財産開示手続を申し立てた場合には,同時に市町村に対して養育費の支払い義務者の給与情報の提供を命じる第三者の情報取得制度の申立てがあったことになり,さらに給与を差し押さえる債権差押命令の申立ても同時に申し立てられたとみなされることになり,強制執行手続の一部分がワンストップ化します。

 

第4 まとめ

養育費を支払ってもらえないことが多いという現実の前に,養育費の制度が大きく変革される時期に差しかかっています。

改正された法律を活用して,お子さんのために養育費を確保していくためには,弁護士の関与が必要不可欠です。

池田総合法律事務所では離婚,養育費なども取り扱っていますので,お困りの方は,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

養子縁組に関する改正

令和6年のいわゆる家族法改正により、養子縁組に関してもいくつか改正がなされました。

 

1 養子縁組がされた場合の親権の明確化

現行民法の規定

(親権者)

第818条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。

2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。

3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

 

改正民法の規定

(親権)

第818条 親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。

2 父母の婚姻中はその双方を親権者とする。

3 子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。

一 養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。)

二 子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの

 

⑴ 未成年子が複数の人と養子縁組をした場合の親権について

成年に達しない子(未成年子)は、父母の親権に服します(民法818条1項)。このときに、未成年子が養子である場合には、養親の親権に服することになります(同2項)。

ところで、我が国の民法では、1人が複数の人と養子縁組をすることも可能です(婚姻における重婚禁止(民法732条)のような規定がありません)。そのため、未成年子が複数の人と養子縁組をしたときに、どの養親の親権に服するのかについて現行法上は規定がなく、解釈に委ねられていました。

改正民法818条3項は、「子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。」と規定した上で、第1号として「養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。)」と規定し、最後の養子縁組で養親となった者が親権者になることを明確にしました。

⑵ 未成年子と養子縁組をした養親が、未成年子の父母の配偶者である場合について

実父母の離婚後、未成年子がその一方の再婚相手との間で養子縁組をすることがあります(いわゆる連れ子養子)。この場合に、改正民法818条3項1号の規定をそのまま適用すると、未成年子の親権者は再婚相手である養親となり、再婚をした実父母は親権者で無いようにも考えられます。しかしながら、実態としては、再婚をした実父母と再婚相手である養親が共同して子を養育することが一般的であると考えられることから、改正民法818条3項第2号は、「子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの」を親権者として定めました。

 

2 未成年養子縁組及び離縁の代諾に関するルール

⑴ 未成年養子縁組の代諾に関する規定

養子縁組は、養親となる者と養子となる者の合意によって成立しますが、養子となる者が15歳未満の場合には、その法定代理人が養子縁組の代諾をすることができます(民法797条1項)。未成年者の法定代理人は、親権者がいる場合には親権者ですが、父母双方が親権者である場合には、親権は共同で行使しますので(現行民法818条3項)、父母両方の同意が必要となります。しかしながら、父母の意見が対立したときについて、現行法では定めがありませんでした。

そこで、改正民法では、「第一項の縁組をすることが子の利益のため特に必要であるにもかかわらず、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが縁組の同意をしないときは、家庭裁判所は、養子となる者の法定代理人の請求により、その同意に代わる許可を与えることができる。」と規定されました(改正民法797条3項)。これにより、家庭裁判所が特定の事項について親権行使を単独で行うことを認めるということになります。

 

⑵ 養子の父母が離婚している場合における離縁の代諾

縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができます(民法811条1項)。養子が15歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でなされます(同2項)。この場合において、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、養子の離縁後にその親権者となるべき者を定めなければいけません(同3項)。

この「親権者となるべき者」について、現行民法では、養子の父母の「一方を」「親権者となるべき者」と定めなければならないとしていましたが、改正民法において、離婚後の父母双方を親権者とすることができるように改正された(改正民法819条)ことに伴い、離縁後の「親権者となるべき者」についても、養子の父母の双方を定めることが可能となりました(改正民法811条3項)。

 

3 実務への影響

養子縁組に関する改正のうち1については従前の取り扱いを明確化したものにすぎないため、実務への影響はさほど大きくありません。一方で2については、新たに制度が設けされたものであり、実務上の影響も少なくないと考えられます。

例えば、今後の家族の紛争として離婚時に共同親権を選択し、連れ子を養子縁組する場面などで、家庭裁判所が関わる事案も増えていくことが考えられます。子の利益に特に必要かという要件を満たすかが、鍵になるものと言えるでしょう。

(川瀬裕久)

面会交流に関する改正

親子関係の改正民法は、令和8年5月24日までに施行されます。今回は、親子の面会交流について、どのような改正がなされたのかを解説します。

 

離婚協議の過程で、夫婦が別居をすることは珍しくありません。夫婦仲が悪くなりトラブルになる、一緒に暮らす意欲が乏しくなる(別の人と暮らす意欲が増す)などという個別の事情もあるでしょうし、一定期間以上の別居期間を経れば一方当事者の意思のみで裁判手続での離婚が可能となるという法的な効果を狙ってのこともあるでしょう。

ただ、別居は当事者たる夫婦関係の問題であるのみならず、父母と子どもの親子関係の問題でもあります。夫婦の別居により子どもを監護していない親(非監護親)が子どもと定期的かつ継続的に面会することを、「面会交流」といいます。

この面会交流は、離婚の前後にかかわらず重要なはずですが、現行の民法では婚姻中の夫婦・父母が別居している場合の面会交流については、これまでも調停手続の中で話し合われてはきましたが、明文の規定がありませんでした。そこで、改正民法では第817条の13は、婚姻中の別居の場合の親子の面会交流の規定を新設しました。父母の協議によってさだめること、子の利益を最も優先して考慮しなければならないこと、父母での協議が調わずまた協議できないときは、家庭裁判所がこれを定めるという内容が明記されました。

その他、改正民法では、父母以外の親族と子(例えば、祖父母と孫)の交流についての規定が新設されました。従前の判例では、父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に面会交流についての審判申立が出来ないとされていました。しかし、子にとって、長年一緒に暮らしていた祖父母と交流を絶たれてしまうのが望ましいとは思えません。そこで、改正法の第766条の2第1項は、親子関係と同じような親密な関係が形成されているような、「子の利益のため特に必要があると認めるとき」は、家裁は祖父母等との交流を実施する旨を定めることができるとしました。なお、祖父母や兄弟姉妹以外の親族でも、過去にその子を監護していた場合には、子との面会が認められる余地があります(同2項)

以上は、民法の改正点についての説明ですが、家庭裁判所での家事審判の進め方に関する家事事件手続法についても、関係する改正がありました。家事審判で面会交流をどのように定めるか検討する際に、よりよい面会交流のあり方を決めるため、結論を出す前の段階で、試行的に面会交流を実施出来るとしたのです(改正家事事件手続法第153条の3)

以上のような法律の改正がありましたが、子の利益を第一にするという基本方針には変わりはありません。子の利益を、よりきめ細やかに掬い上げるために改正が行われました。円満・円滑な面会交流が期待されます。

(山下陽平)

離婚後の子どもの監護(養育)に関するルールについて

令和6年5月の家族法改正により、これまで離婚後は認められていなかった「共同親権」が可能になりました。この記事では、共同親権の選択方法や行使方法、離婚後の子どもの監護(養育)に関するルールについて解説します。

1 離婚後も「共同親権」を選択可能に
改正前は、父母が離婚した場合、どちらか一方のみを親権者と定める「単独親権」しか認められていませんでした。しかし、改正により、離婚後も父母双方を親権者と定める「共同親権」を選択できるようになります。これは、父が認知をした子どもについても同様です。
具体的には、協議離婚や調停離婚の場合、父母の話し合いにより、共同親権とするか単独親権とするかを決定します。協議が調わず裁判離婚となった場合には、家庭裁判所が父母の子どもとの関係や生活状況などの様々な事情を考慮し、子どもの利益に照らして親権者を決定します。ただし、虐待やDVのおそれがある場合など、共同親権と定めることで子どもの利益を害すると判断されるときは、必ず単独親権と決定されます。
また、改正により、子ども本人やその親族は、親権者の変更として、父母の一方の単独親権から他の一方の単独親権だけではなく、単独親権から共同親権、共同親権から単独親権に変更することを請求できるようになります。家庭裁判所は、親権者を定める協議の経過やその後の事情変更を考慮して、子どもの利益のため必要があると判断した場合に、親権者の変更を認めることになります。
例えば、離婚前に父母の一方が他方に対して暴力をふるっていたようなケースでは、対等な立場での話し合いができず、やむを得ず暴力をふるっていた一方を単独親権と定めることが考えられます。そのような場合には、子ども本人やその親族は、離婚後に家庭裁判所に対して親権者の変更を請求し、協議の経過や事情変更を考慮してもらうことで、不適正な合意がなされたケースに対応することができます。
なお、改正前に離婚して単独親権と定めた場合には、改正により自動的に共同親権に変更されることはありませんが、改正後に家庭裁判所に対して親権者の変更を請求することにより、共同親権への変更が認められる可能性があります。

2 共同親権の行使方法
共同親権と定めた場合、原則として、父母が共同して親権を行使します。ただし、実際の子育てではすべてを父母で話し合って決定するのは現実的ではないため、一定の例外も設けられています。
例外的に父母の一方が単独で親権を行使することができるのは、監護教育に関する日常の行為をするとき(例:食事や服装の決定、習い事)や、子どもの利益のため急迫の事情があるとき(例:DVや虐待からの避難、緊急の医療対応)です。
また、上記の例外に当たらない事項で、父母の意見が対立するときには、家庭裁判所に対して、その事項に限って親権を行使する親を指定してもらうよう請求することができます。

3 離婚後の監護(養育)のルールが明確に
離婚の際、子どもの利益を最優先に考慮して、父母で子どもの監護の分担を定めることができます。例えば、平日は父母の一方が子どもを監護し、土日祝日は他方が担当するといった取り決めが考えられます。
また、父母の一方を「監護者」と定めることもできます。共同親権と定めたとしても、実際に子どもと暮らすのはどちらか一方だけというケースも考えられます。そのような場合には、父母の一方を「監護者」と定めることで、監護者に子どもの監護を委ねることができます。監護者は、日常の行為に限らず、子どもの住まいや育児方針などを単独で決定することができるようになります。監護者でない親権者は、監護者による監護の妨害をしてはなりませんが、妨害しない範囲であれば、親子交流の機会などに一時的に子どもの監護をすることができます。

家族法改正は、令和8年5月までに施行されます。今回の改正により、離婚後も父母がともに親権者として子どもに関わる「共同親権」の選択肢が広がり、親権や監護に関するルールがより柔軟かつ明確に定められるようになりました。これにより、離婚後も子どもの利益を最優先に考えた子育てが可能となり、父母双方の協力のもとで円滑な子育てが実現されることが期待されます。ただし、制度を活かすには父母の理解と協力が不可欠です。トラブルを防ぐためにも、弁護士など専門家のサポートを受けながら、子どもの利益を最優先に考えた親権・監護のあり方を選択していきましょう。

(栗本真結)

家族法の改正で、これからの「家族」の行方は?

令和6年5月に民法の家族法の一部が改正されました。父母の離婚後も子供の利益を確保することを目的として、親権・監護権の決め方や養育費に関するルールなどが大きく変わります。離婚後の共同親権が認められ、父母に改めて、親としての権利や義務を自覚してもらうことが求められます。今後、社会的にも大きな影響があると予想されます。2年以内の施行を予定していますので、家庭裁判所をはじめ、関係機関では、施行に向けて、研修やマニュアル作りの準備に追われています。

 

主な改正点は、以下の通りです。

1 親子関係に関する基本的な規律

父母の責務の明確化と親権の性質の明確化

2 親権・監護権に関する規律

父母の離婚後の親権者の定め / 親権行使のルールの整備 / 離婚後の子どもの監護に関するルールの定め

3 養育費に関する規律

養育費の請求権の実効性を高めるための改正-先取特権の付与

法定養育費制度の創設

裁判手続きによる父母の収入資産状況の情報開示義務

4 親子交流に関する規律

別居中の取り決め / 裁判手続きにおける試行的な実施 / 親以外の第三者との交流ルール

5 養子に関する規律

養子縁組がされた場合の親権の明確化

未成年養子縁組及び離縁の代諾に関するルール

6 財産分与に関する規律

期間制限は2年から5年へ / 考慮要素の明確化 / 裁判手続きでの財産状況の情報開示義務

7 夫婦間の契約の取消を定めた規定の削除

8 裁判上の離婚の事由のうち、民法770条1項4号、強度の精神病に罹患し見込みがないことの削除

等です。

 

少子化の進行や男女ともに子育てに関わることが当たり前となってきている風潮などを背景に、子どもへの関心は高まっており、子の養育の在り方は、改正に当たって、特に注目されてきました。また、日本は子どもの権利条約に批准したのが遅く(196ケ国中158番目)、児童虐待や子どもの貧困などをはじめとする日本の状況から国内外からの様々な指摘を受けてきました。

今回の改正審議の過程では、諸外国が共同親権の法制をとっているのに対して、日本が離婚後父母のどちらかに親権者を決めなければならないという単独親権を巡って、激しい議論もありました。昨今社会問題となっているドメスティックバイオレンスや子どもに対する虐待等を受けている事案への対処にかえって悪影響を与えはしないかとの論点もありました。

 

共同親権に舵を切って、親権行使の方法もルール化されますと、離婚後といえども、父母は、監護に関する日常的な行為(食事や日々の習い事等)や子どもに急迫の事情(手術がその例)がある場合には単独で親権を行うことになると思いますが、急ぐ必要のない転居等で父母の意見が対立するような場合、調停や審判で親権行使者を指定する事件や、期間や事案に応じた監護権の分担をする事件などの、選択肢が増えるだけ調停・審判事件の増加も予想されています。

 

また、厚生労働省が行った調査では、日本では、養育費を受け取っている母子家庭は3割に満たないのです。改正法では、養育費の取り決めをしなくても、暫定的に一定額の法定養育費を請求し、差し押さえることができるようになります。もっとも、具体的には父母間の個別事情に依ります

大きく変わる家族法、これから、何回かに分けて、解説をしていきますので、お読みいただければと思います。

<池田桂子>

情報流通プラットフォーム対処法(以下、情プラ法と略記します。)について (運用状況の透明化)― その2

 

令和6年5月17日に公布された情プラ法が、本日(令和7年4月1日)より施行されます。この間、総務省によりガイドライン(R6.3/11制定https://www.soumu.go.jp/main_content/000996607.pdf)が公表されております。今回は、先回に引き続き、運用状況の透明化についてお話します。

 

(1)判断基準の策定・公表(運用状況の公表を含む)について

SNS等で、どのような投稿が削除されたり、場合によってはアカウントが停止されるかどうかは、利用者にとっては重要な情報です。また、情プラ法が規制対象としている「大規模特定電気通信役務提供者」(以下、事業者といいます。)の行うサービスの利用者や投稿数は膨大な量となり、事業者の判断が、利用者の表現の自由に大きな影響を与え、また、被害者にとっても、削除の基準が明確になれば、被害情報が事業者によって削除されるかどうかの予見性が高められることになります。

削除基準について、行政が立ち入ることは、表現の自由を確保する観点から適切ではないので、従前どおり、事業者が自ら行うことを前提とする仕組みは維持し、ガイドラインの形で、その基準の具体化をはかっています。

違法情報ガイドラインによれば、①他人の権利を不当に侵害する情報(権利侵害情報)と②その他送信防止措置を講ずる法令上の義務がある(努力義務を除く)情報(法令違反情報)を含むものが送信防止(削除)義務の対象となります。

①の例としては、名誉権、プライバシー、私生活の平穏、肖像権、パブリシティ権、著作権、無体財産権、営業上の利益等が対象となり、

②の例としては、わいせつ関係、薬物関係、振り込め詐欺関係、犯罪実行者の募集関係、金融業関係、消費者取引における表示、銃刀法関係に関して、当該情報の流通が各法令に違反する場合が、その対象となります。

これらの基準は、事前に公表する義務が課せられ、情報の流通を知ることとなった原因別に、情報の種類を出来る限り具体的に定められていることや、利用者が容易に理解できる表現を用いること、基準について、その理解を助けるために、参考事例等を作成して公表することも求められています。

(2)削除した場合の発信者への通知

被害者の救済と表現の自由とのバランスから、発信者に対する削除またはアカウントを停止した場合には、その事実およびその理由を発信者に対して通知し、又は発信者が容易に知り得る状態に置く義務が課されています。これにより、発信者は、事業者に異議を申し立てて再考を促す機会を得ることにもなり、不当な削除については、事業者に対して民事訴訟で争う際の資料を得ることになります。

但し、例外的に、①過去に同一の発信者に対して同様の情報の送信を同様の理由により削除したことについて、既に通知等の措置を講じたり、②情報の二次被害を惹起する蓋然性が高い場合等、正当な理由のある場合には、通知等の措置は不要となります。

理由の通知にあたっては、その理由の説明をどの程度詳しく記載するか、発信者への分かりやすさの観点が重要であるとともに、悪意のある発信者による基準の潜脱に繋がらないようにすることへの配慮も必要です。いずれにしても、基準の具体的項目への該当性が示され、異議申立をする際の参考となる程度の具体性が求められることになります。

SNSには誹謗中傷、SNSを利用した犯罪や、犯罪への勧誘、詐欺が蔓延する中、今回の情プラ法の施行を受けて事業者が適切な対応をして、迅速に被害の拡大防止を計っていくことが、期待されます。池田総合法律事務所においても、SNSによる誹謗中傷等の相談を実施していますので、ご相談下さい。

(池田伸之)

 

情報流通プラットフォーム対処法について

1.はじめに

SNSの利用が増加し、多くの人にとって重要なコミュニケーションツールとなっています。その反面、インターネット上での誹謗中傷やプライバシーの侵害等、違法・有害な投稿も増加しており、深刻な問題となっています。

そこで、違法・有害な投稿への対応を強化するため、従来のプロバイダ責任制限法を改正した特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律、通称情報流通プラットフォーム対処法が、今年4月1日から施行されます。

情報流通プラットフォーム対処法では、新たに大規模プラットフォーム事業者に対し、①対応の迅速化、②運用状況の透明化に係る措置が義務付けられました。

これから2回に分けて、従来のプロバイダ責任制限法からの主な変更点について、ご紹介していきます。

本コラムでは、①対応の迅速化について、ご紹介します。続いて第2回目では、②運用状況の透明化等についてご紹介します。

なお、従来のプロバイダ責任制限法から変更のない部分については、2024年12月4日付法律コラム(リンク貼り付け)をご参照ください。

 

2.対応の迅速化について

総務省の委託事業として設置された違法・有害情報相談センターでは、インターネットの一般利用者などから、被害に関する相談を受け付けています。

ここに寄せられる相談は、年々増加していますが、中でも多いのが、住所・電話番号等の掲載(プライバシー侵害)、写真・映像などの掲載(肖像権侵害)、名誉毀損に当たる投稿、わいせつ画像等違法・有害情報の掲載です。

これらについて、被害者としては、まず事業者に情報の削除を求めたいと考えるのが一般的です。

そこで情報流通プラットフォーム対処法では、被害者からの削除の申請に対して、大規模なプラットフォーム事業者を対象に、一定の対応が義務付けられるようになりました。

ここで、大規模なプラットフォーム事業者とは、月間アクティブユーザー数が一定規模以上など、サービスの利用者数の多い事業者が想定されています。

大規模プラットフォーム事業者に義務付けられる対応は、以下の3点です。

①被害者から削除の申出を受けるための窓口や手続きを整備・公表すること

②削除の申出への対応体制を整備すること

③削除の申出に対する判断・通知を行うこと

上記①では、被害者がインターネット上で削除の申出をすることができ、且つ、申出の手続きが容易であることが求められています。

上記②では、事業者は、権利侵害への対処について十分な知識経験を有する者を選任することが求められています。

また、③削除の申出に対する判断・通知については、事業者は、被害者から削除の申請を受けてから、1週間程度で迅速に判断・通知を行わなければなりません。

従来のプロバイダ責任制限法では、事業者に対する上記対応は、定められていませんでした。

今後は、事業者は、表現の場を提供するだけでなく、不当な権利侵害に対して、より一層適切な対応をとることが求められます。

(石田美果)

刑事手続と証拠

1 冤罪事件と証拠

いわゆる袴田事件について,2024年9月26日,静岡地方裁判所が再審無罪判決を言渡し,その無罪判決が確定に至ったことは記憶に新しいことかと思います。

また,いわゆる湖東記念病院事件について,2020年3月31日に大津地方裁判所が再審無罪判決を言渡し,これも無罪判決が確定しています。

事件発生時期の古い,新しいにかかわらず,これまで数々の冤罪事件が発生してきました。

 

さて,弁護士(弁護人)として弁護活動を行うにあたって,冤罪事件を発生させることが決して無いように,証拠をよく吟味する必要があります。

しかし,刑事手続においては,警察,検察といった国家権力が,必要な捜査を強制力をもって行い,各種の証拠を収集し,弁護人はこれらの証拠を事後的にチェックすることが多くなります。

 

2 被疑者段階の証拠

刑事弁護をお引き受けする中で,よく被疑者段階(起訴される前の段階のこと)であっても弁護士(弁護人)は捜査機関(警察・検察など)が収集している証拠を見ることができるはずだから確認して欲しいといったことを言われることがあります。

しかし,刑事訴訟法47条は「訴訟に関する書類は,公判の開廷前には,これを公にしてはならない。但し,公益上の必要その他の事由があって,相当と認められるときは,この限りではない。」とされていることを根拠として,弁護士(弁護人)であっても,被疑者段階では捜査機関の収集した証拠を見ることは原則できません。

そこで,被疑者段階では,逮捕勾留などをされている方(被疑者の方)から,弁護士(弁護人)はお話しをお聞きすることで,事件の概要を把握することになります。

 

3 被告人段階の証拠

被告人段階(起訴された後の段階)になると,弁護士(弁護人)は,検察庁が刑事裁判の法廷で証拠調べを請求する予定の証拠の開示をはじめて受けることができ,やっと捜査機関の収集した証拠を見ることができるようになります。

もっとも,基本的には,検察庁が証拠調べを請求する予定の証拠だけが開示されるので,他にも膨大な量の証拠があったとしても必ずしも開示されるわけではありません。

そこで,弁護士(弁護人)としては,検察庁に証拠を任意に開示するように求めることになります。

 

4 裁判員裁判の被告人段階の場合

裁判員裁判の場合は,刑事訴訟法で証拠開示の手続が一定程度定められているので,証拠一覧表の開示制度(刑事訴訟法316条の14第2項。といっても本当に全ての一覧表になっているわけではなく,「検察官が保管する証拠」に限定されています。警察にある証拠は一覧表の対象外です),類型証拠開示請求及び主張関連証拠開示請求といった制度により,裁判員裁判の対象ではない事件に比べて,捜査機関がもっている証拠を入手しやすくなっています。

 

5 まとめ

いずれにしても,捜査機関がもっている証拠を入手できる機会は,基本的に第1審段階しかありませんので,第1審で徹底して証拠を入手し,証拠を分析していくことが必要になります。

刑事事件の弁護では,実務経験が民事事件以上に重要です。池田総合法律事務所では刑事事件も取り扱っていますので,刑事事件でお困りの方は,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉