第5回 共有物の変更・管理に関する見直し

2021年の民法の改正により、2023年4月1日から、共有物の変更・管理に関するルールが大きく変わりました。

本コラムでは、その内容についてご説明します。

 

1 共有物の「管理」の範囲の拡大・明確化

これまでは、共有状態にある土地、建物に変更を加える場合、それが軽微な変更であっても、共有者全員の同意が必要でしたが、民法改正により、軽微な変更については、持分の過半数で決定することができるようになりました。

軽微な変更に当たる例としては、砂利道のアスファルト舗装や、建物の外壁・屋上防水等の修繕工事が挙げられます。

 

2 共有物を使用する共有者がいる場合のルール

これまでは、一部の共有者が共有物を使用している場合に、他の共有者が共有物を使用することは事実上困難でした。

民法改正により、持分の過半数で管理に関する事項を決定することができるようになったため、共有物を使用する共有者がいる場合でも、共有物を使用する共有者以外の共有者に共有物を使用させる旨決定することが可能となりました。

なお、管理に関する事項の決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすときは、その共有者の承諾を得なければならないとされています。

この「特別の影響」とは、対象となる共有物の性質に応じて、決定の変更等をする必要性と、その変更等によって共有物を使用する共有者に生じる不利益とを比較して、共有物を使用する共有者に受忍すべき程度を超えて不利益を生じさせることをいい、その有無は、具体的事案によって判断されます。

例えば、A、B、Cが各3分の1の持分で建物を共有している場合において、過半数の決定に基づいてAが当該建物を住居として使用しているとします。Aが他に住居を探すのが容易ではなく、Bが他の建物を利用することも可能であるにもかかわらず、BとCの賛成によって、Bに建物を事務所として使用させる旨を決定するといったケースです。この場合、Aが承諾しなければ、Bに建物を事務所として使用させるといった決定は出来ないということになります。

なお、共有物を使用する共有者は、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負います。

また、共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければなりません。

 

3 賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理

共有者の中で賛否を明らかにしない共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定することができます。

例えば、A、B、C、D、E共有(持分各5分の1)の砂利道につき、A、Bがアスファルト舗装をすることについて、他の共有者に事前に連絡をしたが、D、Eは賛否を明らかにせず、Cが反対した場合には、AとBは裁判所の決定を得た上で、アスファルト舗装をすることができます。

ただし、変更行為や賛否を明らかにしない共有者が共有持分を失うことになる行為(抵当権の設定等)は、決定することができません。

なお、所在等が不明の共有者がいる場合も、裁判所の決定を得て、同共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に変更を加えることができます。

また、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定することができます。

 

4 共有物の管理者

旧民法には共有物の管理者に関する明文規定がありませんでしたが、民法改正により、共有物の管理者を選任し、管理を委ねることが出来るようになりました。

管理者の選任・解任は、共有物の管理のルールに従い、共有者の持分の過半数で決定します。共有者以外を管理者とすることも可能です。

選任された管理者は、管理に関する行為をすることができますが、軽微でない変更を加えるには、共有者全員の同意を得なければなりません。

 

5 裁判による共有物分割

旧民法では、裁判による共有物の分割方法として、現物分割と競売分割が挙げられており、裁判所はまず現物分割の可否について検討した上で、現物分割が困難な場合に競売分割を命じることができるとされています。

しかし、賠償分割、つまり共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を金銭で支払わせる方法については明文の規定がありませんでした。

民法の改正により、裁判による共有物分割の方法として、賠償分割が可能であることが明文化されました。

また併せて、①現物分割・賠償分割のいずれもできない場合、又は②分割によって共有物の価格を著しく減少させるおそれがある場合、に競売分割を行うこととして、検討順序を明確化しています。

 

共有物の管理・処分をめぐるトラブルについては、池田総合法律事務所において、ご相談・受任の上、解決した例が多くあります。共有物に関してお困りの方は、経験豊富な池田総合法律事務所にご相談ください。

(石田美果)

第4回 民法の相隣関係の改正について

令和5年(2023年)4月1日から,いわゆる「所有者不明土地」関係に伴う民法改正の中で,相隣関係(そうりんかんけい)の民法の規定も改正され,既に施行されています。この相隣関係を含む民法物権編の大改正は明治時代以来です。

相隣関係は民法物権編・第209条~238条に定められています。

 

1 相隣関係とは

 そもそも相隣関係とは,隣地,簡単に言えば「おとなり」との関係のことで,民法の相隣関係に関する規定は,おとなりさんとの関係を調整する規定です。

今回の改正では,「隣地使用権」「ライフラインの設備の設置・使用権」「越境した竹木の枝の切り取り」の各規定が見直しされています。

 

2 隣地使用権

(1)旧規定の問題点

改正前の民法では,「土地の所有者は,境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で,隣地の使用を請求することができる」(旧209条1項本文)と定められていました。

しかし,「隣地の使用を請求することができる」が具体的に何を指しているのかが明確ではなく,「障壁又は建物の築造・修繕」以外の目的で隣地を使用できるかどうかも不明確でした。

特に,隣地所有者が所在不明の場合などには,隣地使用権を使うことができないという問題があったため,所有者不明土地関係の法改正に伴って改正がなされています。

(2)改正法

そこで,改正法では次のとおりルールが明確化されました。

 ①隣地使用権の明確化

「土地の所有者は,次に掲げる目的のため必要な範囲内で,隣地を使用することができる。ただし,住家については,その居住者の承諾がなければ,立ち入ることはできない。

・境界又はその付近における障壁,建物その他の工作物の築造,収去又は修繕

・境界標の調査又は境界に関する測量

・越境した竹木の枝の切り取り」

と民法209条1項が改められました。

これにより,土地所有者は隣地について,上記の3つの目的のためであれば,隣地を使用する権利が明確に定められています。

ただし,権利として明確になっただけですので,例えば隣地に居住している隣地所有者が使用を拒否した場合には,裁判所に対して妨害排除の裁判等を提起して,判決に基づいて使用すべきことになります。

もっとも,法務省によれば,事案ごとの判断ではあるものの,隣地が空き地で,実際に使っている者もおらず,隣地使用を妨害する者がいない場合には,裁判を経なくても隣地を使用できるとの見解も示されています。

土地家屋調査士による確定測量では,隣地に立ち入って境界杭を確認し,測量をする必要がある場合がありますが,隣地所有者に対して測量のための立入りの権利があると明確に説明できるようになった点で,土地家屋調査士の業務が円滑に進みやすくなる法理論が増えたことになります。

②隣地所有者・隣地使用者(賃借人等)の利益への配慮

隣地使用権が明確になりましたが,隣地を使用する場合には,

・隣地使用の日時・場所・方法は,隣地所有者や隣地使用者のために損害が最も少ないものを選択しなければならない,とされています(民法209条2項)

・隣地使用をする場合には,

(原則)

あらかじめ,日時・場所・方法を隣地所有者(隣地所有者とは別に隣地使用者がいる場合には隣地使用者にも)通知をしなければならない(民法209条3項本文)

※『あらかじめ』は法務省によれば,通常は「2週間程度」前とされています。

(例外)

あらかじめ通知することが困難なときは,隣地使用を開始した後,遅滞なく通知する(民法209条3項但書)

【たとえば】

・隣地所有者が特定できない場合

・隣地所有者が所在不明である場合

⇒これらの場合,隣地所有者が特定されたり,所在が判明した後に遅滞なく通知すれば足ります。

 

3 ライフラインの設備の設置・使用権

(1)旧規定の問題点

電気の引き込み線,ガス管,水道管,電話線,インターネット用光ファイバーといったライフライン設備を引き込みたいが,そのためには隣地を通す(隣地を使用する)必要があっても,法律に明文がないため,とくに隣地所有者が所在不明である場合などには,ライフライン設備を引き込めないという問題が生じていました。

(2)改正法

①設備設置権(他の土地にライフラインの設備を設置する権利)の明確化

他の土地に設備を設置しなければ,電気,ガスまたは水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない土地の所有者は,必要な範囲で,他の土地に設備を設置する権利を有することが明文で定められました(民法213条の2第1項)。

②設備使用権(他人が所有するライフラインの設備を使用する権利)の明確化

他人が所有する設備を使用しなければ,電気,ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を引き込むことができない土地所有者は,必要な範囲で,他人の所有する設備を使用する権利を有することも明文で定められました(民法213条の2第1項)。

③場所・方法の限定

ただし,設備の設置,使用の場所・方法は,他の土地や他人の設備のために損害が最も少ないものにする必要があります(民法213条の2第2項)。

④権利の実現方法

設備設置権・使用権がある場合でも,その設置や使用を拒否された場合には,裁判所に対し妨害禁止の裁判を提起し,判決に基づいて設置権や使用権を実現していくことが原則になります。

ただし,他の土地が空き家になっており,実際に使用している者がおらず,かつ,設備の設置や使用が妨害されるおそれもない場合には,裁判を経なくても適法に設備の設置や使用ができると,法務省は見解を示しています。

また,設備の設置工事などのために一時的に隣地を使用する場合には,上記の「隣地使用権」を活用することになります(民法213条の2第4,5項)。

⑤事前通知

他の土地に設備を設置し,または他人の設備を使用する土地の所有者は,あらかじめ,その目的,場所,方法を他の土地・設備の所有者に通知する必要があります(民法213条の2第3項)

・「あらかじめ」とは

通知の相手方が設備設置使用権の行使に対する準備をするのに足りる合理的な期間をおく必要があります。

法務省は,事案によるが,2週間~1か月程度としています。

・他の土地に設備を設置する場合には,他の土地に所有者とは別に使用者(賃借人等)がいるときは,使用者にも通知をする必要があります。

・通知の相手方が特定できない,所在不明といった場合でも,例外なく,通知が必要です(この点が隣地使用権と異なります)。

特定できない場合や所在不明の場合は,『公示による意思表示』(民法98条)を活用する必要があります。

 ⑥償金・費用負担の規律

 ア 設置の場合

土地の所有者は,他の土地に設備を設置する際に

・設備設置工事のために一時的に他の土地を使用する場合は,実損害を償金とし て一括払いをする必要があり,

・設備の設置により土地が継続的に使用できなくなる場合には,設備設置部分の使用料相当額を償金として支払う(この場合は1年毎に定期払が可能)必要が

あります。

【土地が継続的に使用できなくなる場合とは】

例えば,水道管を地上に設置し,水道管の設置部分の土地が使用できなくなる場合などです。

したがって,水道管が地下に設置された場合は,地上の利用は制限がないことが通常ですので,償金の支払義務が無い場合もあります。

【償金以外に承諾料を支払わなければならないのか】

償金以外に設備を設置するに際して,承諾料を求められても,償金以外には支払義務がないので,承諾料の支払いを拒否することができます。

イ 使用の場合

・土地の所有者は,設備の使用開始の際に損害が生じた時は,償金を一括払いで支払う必要があります。

(たとえば)

水道管を接続する際に,一時的に断水したことに伴って生じた損害

・土地の所有者は,利益を受ける割合に応じて,設備の修繕・維持等の費用を負担する必要があります。

 

4 越境した竹木の枝の切り取り

(1)旧規定の問題点

もともと隣地から越境した竹木の『根』は,土地所有者が切り取ることができるとされていました。この点は,改正後も変更ありません。

これに対し,隣地から越境した竹木の「枝」を,土地所有者が切り取ることができるとする規定はなく,隣地の竹木所有者に枝を切るよう求める必要がありました。

もっとも,竹木所有者に枝の切除を求めても,竹木所有者が枝を切り取らない場合には,裁判所に訴訟を提起し,枝の切除を命じる判決を得て,強制執行する必要がありました。

しかし,植物である以上,枝は適宜剪定しない限り伸び続けるものですので,枝が越境するたびに訴えを提起しなければならないとするのは現実的ではありませんでした。

また,隣地の竹木が共有林の場合には,越境した枝を切るためには,竹木共有者全員の同意が必要と考えられており,特に財産的価値に乏しく放置されている共有林については,竹木共有者全員を探し出し,意思を確認して,全員の同意を得ることも現実的ではありませんでした。

(2)改正法

①越境された土地所有者による,越境した枝の切除する権利の明確化

越境された土地の所有者は,

・竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したが,竹木の所有者が相当期間内に切除しないとき

【相当期間】

法務省は「基本的に2週間程度」と考えられるとしています。

・竹木の所有者を特定できず,または竹木所有者が所在不明のとき

・急迫の事情があるとき

には,自ら越境した枝を切除することができる,とされました(民法233条3項)。

この場合の枝の切り取り費用は,竹木所有者が剪定費用を免れたと考えれば民法703条に基づき費用相当額を請求できると考えられています。

②竹木共有者各自による枝の切除

竹木が共有物である場合,各共有者が越境している枝を切り取ることができる,と定められました(民法233条2項)

 ③枝が越境している竹木の幹を切れるか

隣地に生えていて枝が越境している竹木の幹は,隣地所有者が所有する竹木そのものに手を加えることになりますので,今回の民法改正でも対象外です。

枝は毎年伸びるので,根本的に竹木を伐採してもらいたいと希望したとしても,幹から伐採することはできません。

 

5 相隣関係の弁護士の関与

相隣関係では,特に自宅を購入して,そこで長く住み続けている場合には,ご近所の目や今後住みづらくなるかもしれないという懸念もあります。

今回の相隣関係の改正の中でも,ライフラインの設備の設置・使用は,電気・水道・ガスという生活の根幹にかかわる事柄です。弁護士としてご依頼を受ければ,解決に向けての一助になることもできると思いますので,一度,池田総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))

第3回 相続土地国庫帰属制度について

令和5年4月27日から、「相続土地国庫帰属制度」が始まりました。

本コラムでは、この制度についてQA方式で概要を説明します。

 

Q1 相続土地国庫帰属制度とは何ですか?

A1 相続土地国庫帰属制度とは、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限られます)により取得した土地を手放して、国庫に帰属させる制度です。

 

Q2 なぜこのような制度が設けられたのですか。

A2 土地利用ニーズの低下等により、不動産によっては所有する負担の方が大きいケースが増えてきました。

いらない不動産は手放すことができればこうした負担は無くなるのですが、これまでは不動産を手放す、放棄するという手段がなく、ひとたび所有した不動産は原則として誰かに譲渡するまで保有し続けなければなりませんでした。

その結果、特に、相続等により自ら望まずに土地を取得した場合に、管理が十分になされないという事態を招いていました。

こうした事態を改善するため、所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直しの一環として、令和3年4月21日に、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、令和5年4月27日より、土地を手放すための制度として、相続土地国庫帰属制度が開始しました。

 

Q3 相続放棄との違いは何ですか。

A3 欲しくない土地を相続しない方法としては、「相続放棄」をするという方法もありますが、相続放棄は、基本的に全ての遺産を相続しないという制度ですので、特定の土地のみを相続しないという選択をすることができません。

それに対して、特定の土地を手放すことができるのがこの制度の特徴です。

 

Q4 どんな土地を手放すことができるのですか。

A4 制度の対象となるのは、相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限られます)により取得した土地です。したがって、売買や贈与で取得した土地は原則として対象とはなりません。また、後述の通り、土地についていくつかの要件がありますので、それらの要件を満たす必要があります。

一方で、相続によって取得した土地であれば、令和5年4月27日より前に取得した土地も対象となり得ます。

 

Q5 この制度を利用するにはどのような手続をとれば良いのですか。

A5 ①手放す(国庫帰属する)事を望む土地を管轄する法務局・地方法務局に国庫帰属の承認申請書を提出し、審査手数料(※)を納付します。

法務局担当官により、②書面審査、③実地調査、が行われ、法律上の要件を満たすか否かを判断します。

法律上の要件を満たすと判断された場合には、④法務大臣・管轄法務局長による承認がなされます。

⑤承認後30日以内に負担金(※)を納付することにより、国庫帰属がなされます。

※審査手数料と負担金の詳細についてはQ7をご覧ください。

 

Q6 法律上の要件とはどのようなものがありますか。

A6 法律上の要件は、(1)当該事由があると国庫帰属の承認申請すらできないという却下要件と、(2)当該事由があると承認が認められない不承認要件があります。

(1)の却下要件は以下のとおりです。

a 建物がある土地

b 担保権(抵当権など)や使用収益権(賃借権など)が設定されている土地

c 他人の利用が予定されている土地 例:現に道路として利用されている土地

d 特定有害物質により土壌汚染されている土地

e 境界が明らかでない土地・所有権の存否や帰属、範囲について争いがある土地

(2)の不承認要件は以下のとおりです。

a 一定の勾配・高さの崖があって、かつ、管理に過分な費用・労力がかかる土地

b 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地

有体物の例:果樹園の樹木、建物には該当しない廃屋、放置車両など

c 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地

有体物の例:産業廃棄物、地下にある既存建物の基礎部分やコンクリート片

d 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地

e その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

具体例:

(a)災害の危険により、土地周辺の人や財産に被害を生じさせるおそれを防止するため、措置が必要な土地、

(b)土地に生息する動物により、土地や土地周辺の人、農産物、樹木に被害を生じさせる土地

 

Q7 費用はどのくらいかかりますか。

A7 承認申請をした段階で、審査手数料として土地一筆当たり14,000円が必要となるほか、承認がなされた後に、10年分の土地管理費相当額を負担金として納める必要があります。

審査手数料は、承認申請書に収入印紙を貼付して納付します。複数の土地をまとめて承認申請する場合であっても、特に軽減はなく(例えば5筆の土地をまとめて申請する場合には、14,000円×5筆=70,000円)、また、申請を途中で取り下げたり、却下をされたりした場合であっても返還されません。

負担金は、20万円が基本となっていますが、市街化区域等の宅地・農地や森林については、土地の面積に応じて別途算定されます。

例:面積が100㎡の市街化区域内の宅地 548,000円

面積が100㎡の農用地区域内の農地 329,000円

面積が100㎡の森林               215,000円

こうした例外にあたるケースの算定式については、法務省のウェブサイト( https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html )上に記載をされていますし、負担金額の自動計算シートも公開されていますので、そちらを用いて計算をすることが可能です。

 

制度の概要は以上のとおりです。

A6に記載したとおり、国庫帰属の承認を受けるためには様々な要件があり、手放したいと考える土地が却下要件、不承認要件のいずれかに該当してしまうということも少なくないと思います。また、A7に記載したとおり、国庫に帰属させるためにはそれなりの費用もかかります。

しかしながら、負担となっている土地を手放すことができる制度が出来たこと自体は画期的なことですし、不承認要件該当性の判断については、今後の運用に委ねられている部分もあります。

本制度を利用して土地を手放したい、あるいは、本制度を利用できそうか知りたいという方は、ぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。

(川瀬裕久)

第2回 相続登記が義務化されます!ご注意を

本年令和5年4月1日から、いわゆる「所有者不明土地」にかかわる法律や制度が変わりました。今回は、所有者不明土地の発生を予防する方策の一つとして、今後私たちに影響のある相続登記の義務化についてお話しします。

所有者不明土地が増加する背景には、①相続登記の申請が義務とはされていないため、相続が生じても申請されず、申請しなくとも不利益が課されなかったこと、また、②相続した土地の価値が乏しく、または売却も困難であるといった場合には、登記申請する意欲も湧かないで放置されてしまう傾向にあるといったこと等の事情がありました。遺産分割をしないまま相続がくりかえされると土地の共有者が倍々ゲームのように増えてしまい、更に面倒臭くなります。

そこで、来年令和6年4月1日から相続登記申請は義務化され、また、住所変更登記申請の義務化も進められることになりました。その一方で、相続登記や住所変更登記の手続を簡単に行うようにする方策も採用されました。

 

相続登記の申請義務についての新しいルールは次の通りです。

(1)基本的なルールとして、

相続によって不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないことにされました。

(2)遺産分割が成立したときは、

遺産分割によって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請しなければならないことにされました。

(3)いずれの場合も、正当な理由がないのに義務に違反した場合、10万円以下の過料の適用対象となります。

 

相続登記は大変ではないのか、とご心配になる方もあるやもしれません。そこで、新しく「相続人申告登記」が設けられることになりました。

登記簿上の所有者について相続が開始したこと、自らがその相続人であることを登記官に申し出ることで、相続登記の申請義務を履行することができます。この申し出がなされると、申し出をした相続人の氏名・住所等が登記されますが、持分の割合までは登記されません。つまり、すべての相続人を把握するための資料は不要で、自分が相続人であることがわかる戸籍謄本等を提出すればよいのです。

そもそも相続人間で遺産分割の話し合いがまとまるまでは、すべての相続人で法定相続分の割合で共有した状態になり、共有状態を反映した相続登記をしようとすると、法定相続人の範囲や相続分の割合を確定しなければならないため、結局すべての相続人を把握するための資料を収集しなければなりません。そこで、より簡単に相続登記を促して行ってもらうための仕組みが必要だったというわけです。

 

では、そもそも、親の不動産がどこにあるのか、どう調べたらよいのでしょうか。登記官において、特定の被相続人の登記簿上の所有者として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度が新たに設けられました。

 

また、住所等の変更登記の申請義務化といって、登記簿上の所有者については、住所を変更した日から2年以内に住所等の変更登記をしなければならないこととされました。

 

相続登記の申請義務の実効性を確保するために、それを促す環境整備も議論され、登記手続きの費用負担を軽減し、登録免許税の免税措置の延長、拡充、また職権登記への非課税措置が導入されることになりました。地方公共団体との連携も必要であり、死亡届の提出者に対する周知や啓発活動が要請されます。

 

新しい制度の導入でご心配な方は、改めて、登記を調査することをお勧めします。そのようなお手伝いやご相談があれば、お力になれると思います。どうぞお気軽にご相談ください。

<池田桂子>

所有者不明の土地に関する法律や制度の改正について(第1回)

民法や不動産登記法が改正され、令和5年4月1日から、いわゆる所有者不明土地にかかわる法律や制度が変わりました(ただし、一部は未施行)。これから何回かに分けて、改正された内容について説明します。第1回目の今回は、民法が改正された背景や、改正の概要について説明します。

今回民法等が改正された背景には、だれが所有者かわからない所有者不明土地の問題がありました。この所有者不明土地とは、不動産登記簿をみても所有者がわからない土地(例えば、明治に登記された後相続登記がされていないケースや、○○他10名などすべての共有者が記載されていないケースなど)や、所有者が判明してもその所在が不明であ

ったり連絡が付かない土地のこと(例えば、転居先が追えないケースや、相続人が膨大なケースなど)です。全国の土地のおよそ24%が所有者不明と言われています。

このような所有者不明土地があると、土地が何ら活用できないままになってしまうだけでなく、公共事業が進まなくなるなど、大きな弊害が生じます。そして、高齢化の進展による死亡者の増加等によって、今後このような所有者不明土地は増加し、深刻化するおそれがあります。今回、民法が改正されたのは、このような所有者不明土地問題の解決のためです。

所有者不明土地が増加する背景には、①相続登記の申請が義務ではなく、申請をしなくてもなんらのペナルティもなかったこと、②遺産分割をしないまま相続がくりかえされると土地の共有者が倍々ゲームのように増えてしまうことなどが指摘されていました。

そこで、所有者不明土地の発生を予防するため、登記がされるような仕組みづくりが進められました。具体的には、一方で相続登記申請義務化(令和6年4月1日から)や住所変更登記申請義務化(いつからかを定める政令は未制定)が進められ、もう一方で相続登記や住所変更登記の手続を簡単にしたり容易にしたりするなどして、登記簿上に現状が反映されるようにしました(第2回で解説します)。また、相続に関する法律や制度も改正されて遺産分割を促進する仕組み作り(一定期間経過後の寄与分や特別受益の主張の制限など)も進められました。

また、あらたに相続土地国庫帰属法が制定され、相続人が土地を手放すための制度である相続土地国庫帰属制度が設けられました(令和5年4月27日から)(第3回)。これも所有者不明土地を予防するための制度です。

その他に、不動産に関連する従前の民法の相隣関係(第4回)や共有関係に関する制度(第5回)が見直されるとともに、所有者不明の土地や建物の利用を円滑にするための所有者不明土地管理制度の見直し(第6回)も進められます。

第2回以降、それぞれの制度について、詳しく説明していきます。

 (山下陽平)

財産開示期日について(連載第2回)

前回の財産開示手続の概要を踏まえて、実際の財産開示期日の流れをご説明させていただきます。

 

1 財産開示手続の申立

財産開示手続の申立てを、債務者の所在地(=住所地)を管轄する裁判所に申し立てることになります。

そのため、弁護士として必要があると判断した場合には、債務名義の債務者の住所が現在も変わっていないかを、弁護士の職権で債務者の住民票を取得して確認します。なお、債務者の住民票は、債権者が住民基本台帳法12条の3第1項に定める手続によって取得することも可能です。

債務者の住所が確認できれば、債務者の住所を管轄する地方裁判所に財産開示手続申立書を提出します。たとえば、債務者の住所が名古屋市内であれば、名古屋地方裁判所に申立をすることになります。

申立書を提出すると、その内容に不備等の問題がなければ、裁判所が後日、財産開示手続実施決定をします。

この実施決定は、債務者にも送付されますが、債務者には財産開示期日の日時と、財産目録の提出期限が通知されます(財産目録のひな形も同封されています)。

財産開示期日は、実施決定の概ね1か月後に定められます。

財産目録の提出期限は、財産開示期日の日時の10日ほど前と定められますので、事案によりますが、財産目録が手元にある状況で財産開示期日に臨むことになります(債務者から財産目録が提出されても、裁判所から自動的に写しがもらえるわけではありませんので、謄写請求をして写しを入手します)。

また、財産開示期日前に、債務者に質問したい事項をまとめて、裁判所に提出しておきます。質問事項は債務者の財産状況に関する事項に基本的に限定されます。

 

2 財産開示期日

財産開示期日の流れは次のようなものです。

・裁判官が、債務者の住所・氏名等を確認します。

・裁判官が宣誓の趣旨を説明し、債務者が正当な理由無く陳述すべき事項について陳述をせず、又は虚偽の陳述をした場合には罰則があることを告げます。

・債務者が虚偽を述べない旨の宣誓をします。

・裁判官の許可を得て、事前に提出した質問事項に沿って債権者(又は債権者代理人

弁護士)が質問をします。

質問に与えられる時間は10~15分程度ですが、事案により裁判官からもう少し時間が与えられたり、事前の質問事項とは別の質問が認められることもあります。

・債務者が、上記質問に対し回答します。

以上が大まかな流れですが、所要時間は30分程度です。

池田総合法律事務所では、小澤尚記弁護士が、財産開示期日において、債務者の身につけている装飾品の内容について質問するなど、その場で依頼者である債権者と協議しながら臨機応変に質問をしたことがあります。

 

3 財産目録の内容

名古屋地裁で債務者に送付される財産目録のひな形では、

・債務者の住所・氏名・電話番号を記載する欄

・給与・俸給・役員報酬・退職金目録として、勤務先等を記入する欄

・預貯金・現金目録として、預貯金の金融機関名及び支店名等を記入する欄

・生命保険契約・損害保険契約目録として、保険の内容を記入する欄

・売掛金・請負代金・貸付金目録として、売掛金の内容等を記入する欄

・所有不動産・不動産賃借権目録として、不動産の所在等を記入する欄

・自動車・電話加入権・ゴルフ会員権目録として、自動車の登録番号等を記入する欄

・株式・債券・出資持分権・手形小切手・主要動産目録として、株式等の内容を記入する欄

・その他の財産目録として、上記に当たらないものを自由に記入する欄

から構成されています。

そこで、例えば、勤務先が記入してあれば、給与差押えを検討することになりますし、預貯金があれば預貯金の差押えを検討することになります。ただし、財産開示手続中で財産目録を提出した後に預貯金口座から出金されている可能性は否定できません。

 

4 債務者が不出頭、宣誓拒否、又は虚偽の陳述を行った場合

債務者が、正当な理由もなく、財産開示期日への不出頭、宣誓拒否、陳述拒否、または虚偽の陳述を行った場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されます(民事執行法213条1項5号、同6号)。

これにより、財産開示手続の実効性が期待できるようになります。

 

5 まとめ

財産開示手続を弁護士に依頼した方が手続の進行もスムーズですし、財産開示期日での質問についても弁護士が債務者の応答内容を考慮して、その場で随時組み替えていった方が、効率的に情報を収集できる可能性が上がります。

債務名義はあるけれど、債務者が支払わず困っている方は、あきらめずに池田総合法律事務所にご相談ください。

(石田美果)

財産開示手続について(連載第1回)

2021年9月30日の「民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情」(民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情)でご紹介したとおり,2019年の民事執行法により財産開示手続も改正され,改正前よりも使い勝手が良くなっています。

また,当事務所でも申立代理人として財産開示手続を利用し,実務的な流れについても把握できました。

そこで,財産開示手続の概略と実務の流れを2回に分けてコラムにします。

 

1 財産開示手続とは

(1)財産開示手続の概要

財産開示手続は,債務者を裁判所に呼び出し,どのような財産を持っているかを裁判官の前で明らかにさせる手続です。

債務者とは,主に次のような裁判所等が支払いを命じた書類(こういった書類のことを「債務名義」といいます。)により,金銭の支払いを命じられた者のことを言います。

①判決

②仮執行宣言付判決

③強制執行受諾文言付の公正証書

④家事審判(婚姻費用審判や養育費審判など)

⑤和解調書

⑥民事調停調書

⑦家事調停調書(婚姻費用の調停調書や養育費の調停調書など)

なお,債務名義は,金銭の支払いを命じるもの(=金銭債権)に限られます。

(2)財産開示手続の申立て

財産開示手続の申立ては,債務者(=金銭の支払いをしなければならない者)の所在地(≒住所地)を管轄する地方裁判所に行うことになります。また,財産開示期日も申立てを受けた地方裁判所が行います。

例えば,債権者が名古屋市在住,債務者が東京23区内在住であれば,財産開示手続を申し立てる地方裁判所は東京地方裁判所になり,財産開示期日も東京地方裁判所で実施されることになります。

(3)財産開示手続の費用

財産開示手続を申し立てる際には,裁判所に対し,債権者1名ごとに2000円と,予納郵券約6000円程度か予納金7000円程度が必要になります(予納郵券や予納金は手続後に余りがあれば返還されます)。

従って,裁判所に納める金額は約1万円程度です。

また,裁判所に納める金額とは別に,財産開示手続を弁護士に依頼する場合には,弁護士費用が別途必要です。

池田総合法律事務所では,事案ごとに個別性が強いですので,着手金・報酬金をご相談のうえで決定させていただきますが,着手金としては11万円(消費税込)及び実費を最低限とさせていただいています。

(4)刑事罰について

改正後の財産開示手続では刑事罰が導入されています。

具体的には,

①「執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において,正当な理由なく,出頭せず,又は宣誓を拒んだ開示義務者」(民事執行法213条1項5号)

②「財産開示期日において宣誓した開示義務者であって,正当な理由なく第199条第1項から第4項までの規定により陳述すべき事項について陳述をせず,又は虚偽の陳述をしたもの」(民事執行法213条1項6号)

については,『6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する』とされています。

具体的には,

・債務者が財産開示期日に正当な理由無く欠席した場合

・債務者が財産開示期日冒頭で求められる虚偽を述べない旨の宣誓を拒否した場合

・債務者が財産の内容の陳述を拒否した場合

・債務者が財産の内容について虚偽を陳述した場合

には,刑事罰の対象となります。

この場合には,警察に対し,民事執行法違反として告発をするかどうかを検討する必要があります。

告発をする際には,例えば不出頭や宣誓拒否であれば,裁判所の財産開示期日調書が証拠になります。

 

2 財産開示手続への弁護士の関与

財産開示手続を弁護士に依頼した方が手続の進行もスムーズですし,刑事告発の場面でも必要な助言をさせていただくことができます(ただし,刑事告発は財産開示手続とは別の手続ですので,ご相談のうえで別途の弁護士費用が必要となる場合があります)。

財産開示手続に罰則が導入されたことで,罰則の圧力のもとで,金銭を支払わない債務者から情報を引き出すことができるようになり,財産開示期日での和解や,財産開示手続で得た債務者の財産情報から給与差押え等の強制執行につなげていくことも可能となりました。

債務名義はあるけれど,債務者が支払わず困っている方は,あきらめずに池田総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))

自動車に対する強制執行

判決等の債務名義を得ても、相手方が任意にその支払いをしないときには、強制執行を検討しますが、依頼者の方から、「債務者は高級外車に乗っているので、差押えしたい。」と言われることがありますので、今回は自動車に対する強制執行(自動車執行といいます)について、お話します。

 

自動車執行の対象となる自動車は、道路運送車両法13条1項の登録自動車、いわゆるナンバーのある自動車で、軽自動車等は除外されており、今回はこれを除外してお話します(軽自動車等については、動産類への強制執行と同様となります。)。

 

まず、要件として、登録上の所有者と債務者が一致しなくては、強制執行はできません。使用者欄が債務者であったり、現実に使用しているのが債務者であっても、強制執行はできません。ローンで自動車を購入したような場合は、ローン会社の名義で登録されている場合がありますので、事前に登録事項証明書を取得して所有者の確認をする必要があります。ナンバーがわかっていても、車台番号がわからないと、私有地の放置車両のケースの場合を除いて、登録事項証明書を発行してもらえません。車台番号は、車体に打刻されていますが、外から見えにくい位置にあり、通常はわかりません。このような場合は、強制執行を弁護士へ依頼して、その調査の一環として、弁護士法による照会を利用することにより、ナンバーしかわからない場合でも、登録事項証明書を入手することが出来ます。登録上の名義と債務者が一致すれば、申立が可能となり、登録上の使用の本拠地を管轄する地方裁判所に申立をして、裁判所の決定が出れば、差押をした旨登録され、これで第三者に売却をしようとしても、普通のルートでは売却できなくなります。

 

しかし、これだけでは債権の回収はできません。開始決定には、自動車を執行官に引き渡すべき旨記載されており、執行官が引渡しを受けて、売却をするということになります。但し、自動車は簡単に移動して隠匿することができますので、通常は、債務者に開始決定が届く前に、執行官による引上げの執行を行います。自動車の所在は、執行官が捜してくれるわけではないので、債権者の側で調査をすることになり、債権者の方も通常同行します。

 

引渡を受けた後は、執行官が場所を定めて、売却までの間保管をしますが、予め債権者の方で保管費用を予納しておく必要があり、売却代金から後日、立替えた保管費用の返還を受けることになります。

 

過去に自動車執行を行ったことがありますが、執行の途中で逃げられたりしたこともあります(逃げられないよう、自動車等でふさぐ等の対応が必要です。)。また、大型トラックの売却代金の分割金を、初回から支払わず、トラック自体を回収するため引渡の仮処分を申立したケースではありますが、車の回収はできたものの、強制執行を察知したのか、新品のタイヤが全て古タイヤに交換されていて、数百万円の損害が発生したというようなこともありました。

 

昨今、世界的な半導体不足から、新車も納期が大幅に遅れる等している状況で、中古車市場が活気を得て、価格も上がっているようです。上述したように、自動車の強制執行は、難点もありますが、強制執行の方法として十分に検討には値すると思います。強制執行に関するご相談、受任にも池田総合法律事務所は対応しておりますので、ご利用下さい。              (池田伸之)

譲渡担保について

2月3日のコラム「債権回収のセオリー」のセオリーでも少し紹介をしましたが、債権回収において、事前に担保を得ておくことは大変重要です。

本コラムでは、担保の中でいわゆる非典型担保といわれる担保の一つである譲渡担保について取り上げます。

 

1 担保とは

契約どおりに債務の弁済が行われない場合に、他の債権者よりも優先して自己の債権の満足を受ける方法として、事前に担保を取っておくという方法があります。担保には、保証人など債務者以外の人の信用力で債権回収における優先的地位を確保する人的担保と、物や権利の上に債権回収における優先的地位を確保する物的担保があります。

 

2 非典型担保

民法には、物的担保として留置権、先取特権、質権、抵当権の規定が置かれていますが、これらの担保権ではカバーできない場面において、実務上異なる方法での債権回収における優先的地位の確保がなされるようになりました。それが、譲渡担保や所有権留保といったいわゆる非典型担保と言われるものです。

なお、こうした非典型担保については、民法上に規定がないことから、主に実務及び判例の積み重ねによってルール作りがなされています。しかしながら、判例の射程がどこまで及ぶかは必ずしも明確でないことも多く、法的安定性に欠ける面があるほか、判例がルールを示していない論点も残されていました。そこで、現在、ルールの明文化・明確化を目指し、担保法制の見直しが審議されおり、令和4年12月に「担保法制の見直しに関する中間試案」が出されるに至っています。

 

3 譲渡担保の概要

譲渡担保とは、事業者Aが金融機関Bから融資を受けるにあたって、例えばAが所有する機械の所有権をBに譲渡するという担保形態です。

機械の所有権をBに譲渡するといっても、その機械がBの手元に置かれてしまうとAはその機械を使用して事業をすることができません。そこで、機械自体はAの手元においた状態で引渡す、占有改定(民法183条)という方法が用いられることになります。

機械のような動産を担保に取る場合、民法上定められた制度としては質権を用いることが考えられます。しかしながら、質権を設定するためには、担保の目的物(質物)の引渡しをする必要があるところ(民法344条)、その引渡しは占有改定ではできないと理解されていることから(民法345条)、質権を設定した上でAが機械を使用し続けることができません。そのため、譲渡担保という方法が採られるようになりました。

 

4 譲渡担保の実行方法(私的実行)

弁済期が到来したにも関わらず弁済がなされないときに、担保権者は設定者に対して譲渡担保権の実行通知を出し、目的物から優先的に弁済を受けることができます。裁判所による執行手続きは不要です(私的実行)。

私的実行の方法は2種類あります。

一つは、設定者が弁済期に被担保債権の弁済をしない場合、譲渡担保権者に目的物の所有権が確定的に帰属するという帰属清算型です。もう一つは、設定者が被担保債権の弁済をしない場合、譲渡担保権者は目的物の処分権限を取得し、処分の結果として得た価額から被担保債権を満足させた残額を清算金として設定者に支払うという処分清算型です。

いずれの場合であっても、目的物の価値が被担保債権の額を超える場合には、譲渡担保権者は差額を設定者に返還しなければなりません(清算義務)。

また、被担保債権の弁済期到来後であっても、譲渡担保権の実行が終了するまで(清算未了)の間は、設定者は被担保債権の弁済をすることで目的物の所有権を回復することができます。このことをとらえて、設定者には受戻権があると言われます。

 

5 集合物・集合債権等に対する譲渡担保

(1)集合動産譲渡担保

譲渡担保は、機械などの単体の動産だけでなく、動産の集合体(集合物)を対象として設定することもできます。例えば、ある一定の範囲に存在する在庫商品を一括して担保に取るというような場合です。このような譲渡担保を集合動産譲渡担保と言います。

集合動産譲渡担保では、譲渡担保権の実行通知があるまでは、設定者は、通常の事業の範囲内であれば、集合物を構成する個々の動産を処分することができます。上の例であれば、譲渡担保権の実行前であれば、通常の事業として在庫商品を販売することが可能です。他方で、集合動産譲渡担保を設定した後に集合物の範囲に入ってきた後の動産にも譲渡担保の効力が及びます。上の例であれば、譲渡担保設定後の増えた在庫商品も担保の対象となりえます。

(2)集合債権譲渡担保

複数の債権を一括して譲渡担保にとる場合があり、集合債権譲渡担保と呼ばれています。例えば複数の売掛金債権を一括して担保にすることが考えられます。将来発生する債権について譲渡担保の対象とすることも可能です。

(3)事業担保

事業担保とは「事業」すなわち動産等の有形資産や債権のみならず、契約上の地位、のれん等の無形資産を含めた全ての財産から成る有機的な一体としての事業を対象とする担保です。事業全体を一体として評価したときの価値が個別財産の清算価値の総和を上回る場合には、事業全体を担保とすることで資金調達の容易化や調達額の増大が期待されます。

現在、担保法の改正の中で導入が議論されています。

 

6 債務者が他の債権者の抵当権がついていない不動産を所有しているのであれば、その不動産に抵当権を設定することが考えられますが、実際には、債務者が価値のある不動産を所有していない、あるいは、所有していても既に他の債権者の抵当権がついており、そこからの回収は困難という場合が少なくありません。

そうした場合には、債務者の他の財産に目を向け、本コラムで紹介した譲渡担保などの手段で担保をとることを検討します。

債権の保全について悩んでいるという方は、ぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。

(川瀬 裕久)