最高裁判例④労働判例についての最高裁破棄判決のご紹介(令和5年3月10日判決)

今回は、残業手当の支払いにつき、労働基準法第37条の割増賃金の支払いにつき、原審(高等裁判所)の判断(判決)に違法があるとして、これを破棄して、原審へ差戻した判例について、ご紹介します。

 

事案としては、トラック運送業の事例です。被告となっている会社の給与体系では、基本給、基本歩合給、時間外手当の3種類の賃金が支給されていました(旧給与体系)。但し、賃金内訳とは無関係に、日々の業務内容等に応じて、従業員ごとに月ごとの賃金総額が決まっており、賃金総額から基本給と基本歩合給を差引いた残りを「時間外手当」としていました。ところが、労働基準監督署から、残業時間が計算されていないと指摘を受け、以後、時間外手当については、残業時間をきちんと計算をして支払い、時間外手当の問題はクリアしたかに見えました。しかし、結局は、旧給与体系で払っていた賃金総額の枠は変わらず、旧給与体系で計算上の残りが「時間外手当」とされていたものが「調整金」という名目の賃金に変わっただけのことでした。すなわち、毎月の労働時間が増えて、時間外手当が増えてくれば、調整金は少なくなり、逆に、労働時間が少なくなれば、時間外手当が少なくなり、調整金が増えるだけで、合計金額は変わらない(新給与体系)という状況に変わりはなかったものです。

 

原審、原々審は、各賃金項目を個別に検討して、1つずつは問題はなく、適法としていました。しかし、最高裁は、「新給与体系は、その実質について、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労基法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金にあたる基本給歩合給として支払われた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべき」として、この会社の時間外手当の支給について判例上求められる要件、すなわち、

①時間外労働に対する対価として支払われるものであること(対価性要件)

②通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とが明確に判別できること(判別性要件)

をいずれも欠き、割増賃金が支払われたものという原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があると判示しました。

 

最高裁判所の判断は、個々の賃金項目を1つずつ分けて、近視眼的に見るのではなく、全体を俯瞰して判断したものであり、常識的な考え方にも沿ったものと思います。池田総合法律事務所では、残業による割増賃金手当の問題を含め労働問題全般も取り扱っておりますので、お悩みの方は、ご相談下さい。

                (池田伸之)

最高裁判例③トランスジェンダーのトイレ使用制限に関する最高裁判例のご紹介

今回は、トランスジェンダーのトイレ使用制限について、制限を適法とした控訴審判決を覆した最高裁判決(最判令和5年7月11日)について、ご紹介します。

 

1 事案の概要

上告人であるXは、生物学的な性別は男性ですが、性同一性障害である旨の医師の診断を受け、平成20年頃から女性として私生活を送るようになりました。

Xは、自らが勤務している経済産業省に対し、女性トイレの使用等についての要望を出しましたが、Xが執務する階とその上下階の女性トイレの使用については認められなかったため、執務階から2階離れた階の女性トイレを使用していました。

Xは、国家公務員法86条に基づき、人事院に対し、職場の女性トイレを自由に使用させることを含め、原則として女性職員と同等の処遇を行うこと等を内容とする行政措置の要求をしたところ、人事院は、いずれの要求も認められない旨の判定をしました。

これに対し、Xは、上記人事院の判定は、裁量権の逸脱濫用があり違法であるとして、その取消しを求める訴訟を提起しました。

 

2 第一審、控訴審、上告審の判断

第一審は、「Xが専門医から性同一性障害との診断を受けている者であり、その自認する性別が女性なのであるから、本件トイレに係る処遇は、Xがその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができることという重要な法的利益を制約するものであり(中略)違法の評価を免れない。」として、人事院の判定を違法と判断しました。

これに対し控訴審は、「自己の性別に関する認識(性自認)とは、あくまでも、基本的に個人の内心の問題であり、自己の認識する性と異なる性での生き方を不当に強制されないという意味合いにおいては、個人の人格的な生存と密接かつ不可分なものといい得るとしても、これを社会的にみれば、戸籍上(ないし生物学上)の性別は、民法に定める身分に関する法制の根幹をなすものであって、これらの法制の趣旨と無関係に、自由に自己の認識する性の使用が当然に認められることにはならない。」として、人事院の判断を適法としました。

これに対し最高裁は、「本件の事実関係のもとでは、本件判定が行われた時点では、Xにトイレ使用制限による不利益を甘受させるだけの具体的な事情は見当たらなかったというべきであり、人事院の判断は、本件における具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、Xの不利益を不当に軽視するものであって、関係者の公平ならびに能率の発揮および増進の見地から判断しなかったものとして、著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ない。」とし、「職場での女性用トイレ使用に制限を設けないこととする処遇の措置要求(国家公務員法86条)を認めなかった人事院の判定につき、裁量権の逸脱濫用があり違法となるというべきである。」として控訴審の判断を覆し、人事院の判定を違法と判断しました。

 

3 おわりに

上記最高裁判決の結論は、自己の認識する性に基づいて社会生活を送る利益に配慮した判断として注目を集めました。また、令和5年6月23日には、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(LGBT理解増進法)が施行されています。

このような中、企業は、他の従業員に配慮をしつつも、従業員のアイデンティティの多様性に配慮し、より良い就業環境を整備することが一層求められます。

(石田美果)

最高裁判例紹介②

(最高裁令和5年10月26日決定:遺言により相続分が無いと指定された相続人は,遺留分侵害額請求権を行使した場合には,特別寄与料を負担するか)

 

1 最高裁令和5年10月26日決定の事案の概要

今回取り上げる最高裁令和5年10月26日は,特別寄与料についての最高裁の判断の一つです。

この判例の事実関係は次のようなものでした。

Aさん(=被相続人)が令和2年6月に死亡し,Aさんの相続人はAの子であるBさん及びCさんでした。

Aさんは,生前にAさんの遺産すべてをBさんに全部相続させる内容の遺言書を残していました(Cの相続分は無い)。

そこで,Aさんが死亡した後,CさんはBさんに対して遺留分侵害額請求権を行使しました。

この事実関係のもとで,Bさんの妻Dさんが特別寄与料の請求をCさんに対して行いました。

最高裁の決定文からは詳細な親族関係は分かりませんが,Aさんは配偶者に先立たれており,法定相続人が子どもであるBとCのみでした。そして,おそらくAさんはBさんとDさんご夫婦と同居して,DさんがAさんの介護をしていたので,AさんはBさんに全てを相続させるという内容の遺言書を残しました。

これに対して,遺言書で何も相続できないとされたCさんが,Bさんに対して遺留分侵害額請求権を行使したところ,DさんがCさんにAさんの介護をしていたことを理由として特別寄与料を請求した事案と思われます。

 

2 特別寄与料とは

特別寄与料という制度は,民法改正に伴い,令和元年(2019年)7月1日に導入されています(民法1050条)。

特別寄与料制度は,相続人ではない被相続人の親族が被相続人の療養看護に務めるなどの貢献を行った場合に,貢献をした者が,貢献に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求できるとする制度です。

具体的には,

・相続人以外の被相続人の六等親内の血族,配偶者,三親等内の姻族が,

・無償で療養看護その他の労務を提供し,

・被相続人の財産の維持または増加したという

・特別の寄与をしたことに対し,

・相続人の一人または数人に対して特別寄与料の支払いを請求する

という制度です。

例えば,夫の母親の介護を自宅で行っていた配偶者(妻)のような場合が想定されており,配偶者は夫の母親(=被相続人)の法定相続人ではありませんが,有料介護サービス並の療養看護をしていたのであれば,有料サービスの利用料分は夫の母親の財産は減少しなかった(=維持された)ので,それを特別の寄与として,夫の母親(=被相続人)の法定相続人(夫の兄弟など)に対して特別寄与料を請求できるとするものです。

今回ご紹介する最高裁令和5年10月26日決定の事案は,Dさんが遺留分侵害額請求権を行使して一部の遺産を取得することになるCさんに特別寄与料の負担を求めたことに対して,Cさんは遺留分侵害額請求権を行使すれば特別寄与料を負担しなければならないのかが争点となった事案でした。

3 最高裁令和5年10月26日決定

(原審の判断)

原審は,相続人が複数人いる場合には,各相続人は特別寄与料を法定相続分等に応じた額を負担するので,遺言により相続分が無いものと指定された相続人は特別寄与料を負担せず,遺言により相続分が無いものと指定された相続人が遺留分侵害額請求権を行使したとしても特別寄与料は負担しない,としました。

これに対して,遺留分侵害額請求権を行使した相続人は,特別寄与料について遺留分に応じた額を負担すべきとして許可抗告が申立てられ,最高裁は次のように判断しました。

(最高裁利和5年10月26日決定)

最高裁は,「遺言により相続分がないものと指定された相続人は,遺留分侵害額請求権を行使したとしても,特別寄与料は負担しない」としました。

その理由としては,民法1050条5項(相続人が数人ある場合には,各相続人は,特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する)は,相続人が数人ある場合における各相続人の特別寄与料の負担割合について,相続人間の衡平に配慮しつつ,特別寄与料をめぐる紛争の複雑化,長期化を防止する観点から,相続人の構成,遺言の有無及びその内容により定まる明確な基準である法定相続分等によることとしているものの,同項は遺留分侵害額請求権の行使を定めておらず,そうであれば1050条5項の負担割合が法定相続分等から修正されないためとしています。

 

最高裁は,特別寄与料の負担割合について,遺言書などで定められた相続分に従うのであって,1050条5項が調整条項などを定めていない遺留分侵害額請求権の行使があっても負担割合は遺言書などで定められたとおりのままであるとしています。

この判例の事例であれば,Dさんは遺留分侵害額請求権を行使したCさんに対して特別寄与料を請求できないことになります。

 

相続の分野も民法改正などによって制度が変化していっています。

相続や遺言などでお困りの方は,池田総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))

最高裁判例紹介① (遺贈放棄後の相続財産の帰属)

私たち弁護士が様々な紛争、トラブルの相談を受けたとき、まずは、法律上、どのように規定されているかを考えます。しかしながら、法律は一般的、抽象的な規定がなされていますので、具体的な事案でどのように考えるべきか(解釈するか)悩むことがあります。そんなときに参考になるのが、裁判所の考え方、特に最高裁判所の考え方です。ある法律の規定に関する解釈について、最高裁判所が既に見解を述べている場合、実務はそれを前提に動きます。そして、最高裁判所の見解は、具体的な事案に対する判決の中で示されます。

 

本コラムでは、今後6回にわたり、令和4年から令和5年に出された最高裁の判決の中から、一定の法律解釈が示されているものを1つずつ紹介します。

 

第1回で紹介するのは、最高裁令和5年5月19日判決(判例タイムズ1511号107頁)です。遺言による贈与(遺贈)が放棄された場合の相続財産の帰すうが問題となった事案です。

 

事実関係は以下のとおりです。(後の説明で特に関係がある箇所に下腺を引いています)

主な登場人物は、夫であるAと妻であるB、その間の子CとD、Cの子EとDの子Fです。

平成20年6月にAが亡くなりました。法定相続人の一人であるDが相続放棄をしたことから、Aが生前に所有していた土地(本件土地)を、BとCが2分の1の割合で共同相続しました。

その後、平成21年7月に、Bは、Bの一切の財産を、Dに2分の1の割合で相続させるとともに、Dの子Fに3分の1の割合で遺贈し、Cの子Eに6分の1の割合で遺贈する旨の公正証書遺言(本件遺言)を作成しました。

平成23年1月、Cは、BとCとの間でCが本件土地を取得する旨の遺産分割協議が成立したという内容の遺産分割協議書を利用して、本件土地の所有権をCに移転する登記をしました。しかし、この遺産分割協議は、Bの意思に基づかない無効なものでした。

平成23年2月にBが亡くなりましたが、Eは、Bの死亡後、本件遺言に基づく遺贈を放棄しました。

平成23年6月、Cは本件土地を第三者に売却し、所有権移転登記をしました。

 

 

 

 

 

 

この判決の中では、本件遺言の遺言執行者が、本件土地についてなされた登記の抹消を求める訴えを起こせるかなどの点が主たる争点の1つとなりましたが、今回は、判決の中で述べられている別の争点「Eが遺贈を放棄したことにより、本来、Eが受けるはずであった相続財産は誰に帰属するか」という点の紹介をします。

この点について、民法の995条は以下のとおり規定しています。

(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)

第995条 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 

つまり、Eが遺贈を放棄した場合、受遺者であるEが受けるべきであったものは、原則として相続人に帰属することになります。

一方で、民法990条は以下のとおり規定しています。

 

(包括受遺者の権利義務)

第990条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

 

この規定によると、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有することになりますので、民法995条に定める相続人にも包括受遺者が含まれるのか(本件でいうと、Eが放棄した分がFにも帰属するのか)、学説上争いがありました。

 

この点について、本判決は、「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(同法(引用者注:民法のこと)990条)ものの、相続人ではない。同法995条本文は、上記の受遺者が受けるべきであったものが相続人と上記受遺者以外の包括受遺者とのいずれに帰属するかが問題となる場面において、これが『相続人』に帰属する旨を定めた規定であり、その文理に照らして、包括受遺者は同条の『相続人』には含まれないと解される」と述べ、包括受遺者は、民法995条の「相続人」には含まれないという見解を明らかにしました。

 

以上より、今後の実務は、受遺者が遺贈を放棄した場合、受遺者が受けるべきであったものは相続人に帰属することを前提に動くことが想定されます。もし、このような扱いをしてもらいたくない場合、例えば、本件でEが遺贈を放棄した場合、EがもらうべきであったものはFに遺贈したいと考える場合には、そのように遺言に明記すべきこととなります(民法995条ただし書き)。

 

せっかく遺言書を作成したのに、思っていたように遺産を渡すことができなかったとならないよう、悩む場合には専門家に相談をしましょう。

(川瀬 裕久)

公正取引委員会『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』について

独占禁止法は優越的地位の濫用(2条9項5号)を規制し,下請法(下請代金支払遅延等防止法)は買いたたきも規制しているところです。

そして,公正取引委員会は,受注者から発注者への労務費の転嫁にフォーカスをあてた『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』(https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/romuhitenka.html)を令和5年11月29日,公表しています。

この指針では,公正取引委員会は,公正な競争を阻害するおそれがある場合には,独占禁止法及び下請法に基づき『厳正に対処』していくと表明していますので,今後の発注者・受注者との事業者間取引では注意を要します。

要点は,

①発注者は経営トップレベルで価格転嫁を受け入れる方針を決めて対応していくこと

②発注者は,受注者から労務費上昇分の取引価格の引き上げを求められいなくても,業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に受注者との協議の場を設けること

③発注者は,労務費の上昇の資料を受注者に求める場合は,公表資料(最低賃金の上昇率,春闘の妥結額等)に基づき,受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格は合理的な根拠があるものとして尊重すること

です。

受注者側は,上記の発注者側の反面になるのですが,指針では国・地方公共団体等の相談窓口に相談するなどして積極的に情報を収集して発注者との交渉に臨むこと,と記載されています。また,上記の指針では,コスト上昇分の価格転嫁についての特別調査の結果をもとに各業種の取組事例を紹介しています。

 

賃金の上昇は,政府が推進していることではありますが,発注者にとっても,受注者にとっても容易ではないものです。

労務費の転嫁等の取引条件等で困っている事業者の方は,池田総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))

副業・兼業 これからの働き方を使用者側の立場から見てみると

会社の就業規則によって社員・従業員の副業を制限したり、禁止したりしている企業がこれまでは大半であったと思いますが、新たな技術開発やキャリア形成につながるという観点から、考え方を転換し、副業を認める企業も少しずつみられるようになりました。

 

本業以外に従事する仕事(副業)から収入を得ることは、そもそも法律(憲法22条の職業選択の自由)は禁止していません。原則的には、労働契約に拘束される以外の時間で副業を行うことは個人の自由です。それを拘束しているのは、会社の就業規則の規定で、勤務中は職務に専念する義務(職務専念義務)や職務上知り得た秘密を守る義務(秘密保持義務)、競業する他者に雇用され、在籍している会社の利益を不当に侵害してはいけない(競業避止義務)などが規定され、場合によっては懲戒処分の対象となる可能性があります。

裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的に労働者の自由であり、各企業において、制限することが許されるのは、

①労務提供上の支障がある場合

②業務上の秘密が漏洩する場合

③競業により自社の利益が害される場合

④」自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

に要約されます。

 

企業の副業解禁の動きは、最近、起業が珍しいことではなくなり、また、社員の次の人生のステージの準備としても有効なことが意識され始めたこともあって、企業としても、消極的に考えるばかりではなく、社内での複数の分野に跨る活躍以上に有用な社員の能力開発の方法として、積極的に捉える考え方もみられます。

副業・兼業の形態も、正社員、パート、アルバイト、会社役員、起業による自営業主など様々です。

 

厚生労働省は、2018年(平成30)1月にモデル就業規則を改定し、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」としています。

 

副業を認めている企業の多くは、副業を始めるにあたって事前に会社からの許可が必要であると定めています。申請書を提出し、会社から許可を受けるということになります。会社としては、副業先の事業主名や業務内容、想定される業務時間の記載を求めるということになります。その際、長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には、副業・兼業を禁止または制限することができる様にしておきます。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の合意書の様式例などを参考にされるとよいと思います。

また、業務上の秘密漏洩についても注意喚起が必要です。

労働基準法では、労働時間は事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算すると規定されています(同法第38条1項)が、事業主を異にする場合も同様です。

労働者が使用者A(先契約)に加えて、使用者B(後契約)で副業・兼業を行う場合、使用者Aでの法定労働時間(1週40時間、1日8時間を超える労働時間)と使用者Bでの労働時間を合計して、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となるように、各々の使用者の事業所における労働時間の上限をそれぞれ設定します。使用者Bは、使用者Aでの実際の労働時間にかかわらず、自らの事業場の「労働時間全体」を「法定外労働時間」として、割増賃金を支払います。それぞれがあらかじめ設定した労働時間の上限の範囲内で労働させる限り、他の使用者の下での実労働時間を把握する必要はありません。以上のように、厚生労働省の労働時間の「管理モデル」では、労使双方の負荷軽減が示されています。

言うまでもないことかもしれませんが、そもそも、顧問、理事等の就任には労基法が適用されませんし、労基法は適用されるものの労働時間規制が適用されない、農水畜産業、管理監督者、高度プロフェショナル制度などもあります。

 

副業・兼業の開始後、企業としては、社員・従業員から報告を求め、健康管理に問題が認められるような場合に適切な措置を取るなど安全配慮義務があることも忘れてはならない点です。

また、副業先での社会保険の適用要件を満たしているときは、副業先でも加入義務が生じます。保険料については、各企業で案分して計算する必要が出てくると考えられます。

 

やる気のある社員・従業員に制限をかけることは退職を促すことにもなりかねません。副業・兼業に関してポジティブな社員・従業員の声があるとすれば、企業側も検討してみてはいかがでしょう。

社員・従業員の雇用施策で課題を感じられる場合には、お気軽に池田総合法律事務所ご相談ください。

 <池田桂子>

副業・兼業について(労働者側の注意点)

厚生労働省は、平成30年1月に、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成しました。このガイドラインは、令和2年9月、令和4年7月の2度に渡って改訂されています。このようなガイドライン策定・改訂は、働き方が多様化する中で、ルールを明確化することにより働く方が安心して副業・兼業に取り組める環境を整備するためのものです。

副業・兼業のあり方は雇用、業務委託、起業の組み合わせによって様々な形式がありますが、ここでは既に雇用されている労働者を念頭に、別の仕事を掛け持ちする場合に注意すべき点について説明します。

 

会社に雇用されている方が副業・兼業を始めようとする場合、まずは既に働いている会社(会社での業務を「本業」と言うことがあります)の就業規則や雇用契約書において、副業・兼業が可能か、また可能だとしてどのような手続が必要かを検討する必要があります。

なお、労働基準法では、原則1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないこと等の労働時間に関する規制がなされているところ、本業と副業・兼業のそれぞれの労働時間を合算した時間が当該労働者の労働時間となります。そのため、形式上手続を踏めば副業・兼業が可能な場合でも、フルタイムで働いている場合には実際には本業への影響を懸念して副業・兼業が許可されなかったり、禁止されたりすることがありえます。このような場合には、元々の雇用契約上の労働日や労働時間を減らすなどの交渉・調整が必要となるでしょう。副業・兼業の経験やスキルが本業にも活かせると示すことや、自身の有する職務上の権限やノウハウ等の引継期間を調整するなどして準備をすることなどが必要でしょう。

 

副業・兼業では、労働者として留意すべき点があります。

まず、働く時間が長くなる可能性があるため、働く側で自律的に労働時間や体調を管理する必要があります。副業・兼業の場合、働く側が就業先に労働時間を自己申告することになります。そのため、無理に過重な労働をしようとすれば無理ができてしまいますし、場合によっては事情が変わって当初の申告と実際の副業・兼業による労働時間が乖離してしまうこともあるでしょう。その場合、少なくとも正確な労働時間の訂正の申告をしていないことによる処分のおそれがありますし、無理がたたって本業での働きぶりに悪影響が出れば、職務専念義務との関係でも問題が生じます。

また、本業での処分との関係では、秘密保持義務には注意を要しますし、本業と関連する業務を副業とする場合には競業避止義務にも配慮が必要です。

さらに、雇用保険との関係でも注意が必要です。1週間の所定労働時間が20時間より短い業務を複数行う場合には、実際の通算労働時間は長いのに、雇用保険の対象とならないという事態も有り得るので注意が必要です。その他にも、雇用保険に加入している会社を退職したとき、副業を続けていると失業給付の対象外となる場合があります。具体的には、離職票をハローワークへ提出し、求職の申し込みをした時点で副業を週20時間以上している場合は失業の状態とみなされず、失業保険の給付を受けられません。

加えて、求職の申し込み後から通算7日間の待機期間中は、副業することも禁止されていますので、待機期間中に副業をしてしまって不正受給にならないよう注意が必要です。

(山下陽平)

 

フリーランス保護法(正式名称:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)について

フリーランスに業務委託を行う発注事業者とフリーランスとの間には、通常、交渉力等について大きな格差があることから、それを是正するために発注事業者側に最低限の規律を設けることにより、その取引関係の適正を図ることを目的として、上記のフリーランス保護法が令和5年4月28日に成立し、5月12日に公布されております。

まだ施行日は決まっておりませんが、公布日から1年6ヶ月以内で、今後政令で決められます。

同様の取引関係を規制する法律として、下請法(正式名称「下請代金支払遅延等防止法」)があります。同法は、親事業者、下請の双方の資本金額で適用の有無を決めていますが、フリーランス保護法は、実際に事業に従事する人の人数で決まります。

フリーランス保護法と下請法は、保護範囲と規制範囲に違いがあります。下請法は、原則として、資本金1000万円超の事業者を対象としますが、フリーランス法では資本金の大小を問いません。

以下もう少し詳しく説明します。

1.対象となる事業者や取引について

業務委託を受け、本法の対象となる受託者は、「特定受託事業者」と定義され、「従業員を使用しない個人又は従業員を使用せず、かつ、その代表者以外に他の役員がいない法人」、つまり従業員を持たない事業者が対象です。委託者のほうは、「業務委託事業者」と定義され、「従業員を使用する個人又は従業員を使用しているか、もしくは2以上の役員がいる法人」が対象です。したがって、従業員のいない個人、あるいは、社長1人の会社が委託者となって、業務委託をするような場合は対象外です。

従業員の有無が要件となっていますが、短時間、短期間の一時的な雇用である等の場合には、本法の適用上は、「従業員」に含まれず、「従業員を使用した」とは認められないことになります。

「業務委託」は、事業者からの事業のために、他の事業者に、物品の製造、情報成果物(ソフトウェア、映像コンテンツ等)の作成を委託すること、又は、他の事業者に役務の提供を委託することをいいます。下請法の役務提供委託には該当しないとされている、受託事業者が発注事業者に対して直接役務を提供する類型の役務(いわゆる自家利用役務)も該当します。

2.取引の適正化のための方策

下請法と同様、以下に述べるような規制があります。

(1)取引条件の明示

業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合には、直ちに、書面又は電磁的方法により取引条件を明示しなければいけません。発注は口頭ではだめで、文書で行なわなければいけません。

(2)報酬の支払義務

報酬は、原則として、給付を受領した日(検収終了日ではありません。)から60日以内のできるだけ短い期間で定めなければいけません。

検収完了により引渡完了とする合意をしても、無効です。但し、再委託の場合には一定条件の下、例外的に元委託契約の支払期日から起算して30日以内の支払期日とすることも認められています。

(3)受領拒否の禁止、返品の禁止

(4)報酬減額の禁止

(5)買いたたきの禁止

(6)購入、利用強制の禁止

委託者による自社商品、サービス等の押し付け販売を禁止するものです。

(7)不当な経済上の利益の提供要請の禁止

たとえば、名目を問わず、協賛会への協力を要請したりするような行為が該当します。

3.特定受託業務従事者の就業のための整備

特定受託業務従業者というのは、「特定受託事業者」である個人または法人の代表者その人を指します。法人が「特定受託事業者」である場合、法人それ自体へのハラスメント等は観念されないので、個人又は法人の場合の代表者その人である自然人をこのように別途定義したものです。

その自然人たる特定受託業務従事者の就業環境を整備するため、以下のような方策をとるべきとしています。

(1)募集情報の的確表示

募集にあたって、虚偽表示や誤解を生じさせる表示を禁止し、正確かつ最新の内容を保たなければいけないとされています。

(2)育児介護等と業務の両立に対する配慮

政令で今後定める以上の期間にわたって業務委託をした場合には、特定受託事業者からの申出に応じ、育児介護等と業務の両立ができるように、必要な配慮をしなければいけないとされています。

この配慮は、申出を契機として配慮することを定めているもので、申出のないすべての特定受託事業者について配慮を求めているものではなく、また、配慮は努力義務で、可能な範囲で対応すればよく、申出内容を必ず実現することまで求められているわけではありません。

(3)ハラスメント対策に係る体制整備等

各種のハラスメントにより特定受託業務従事者の就業環境が害されることのないよう、相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければならないとされ、ハラスメント相談を行ったことを理由として、契約の解除や報酬の減額その他の不利益な取り扱いをしてはならないとしています。

(4)中途解約などの事前予告及び理由の開示

解除や不更新の場合は、30日前までにその旨の予告をして、求めがあれば、その理由の開示をしなければならないとされています。

理由の開示については、第3者の利益を害するおそれのある場合等に一定の例外が認められて、省令で定められる予定です。

4.違反した場合の対応

本法の違反が疑われる場合は、公正取引委員会、中小企業庁長官は、必要に応じ報告徴収、立入検査が可能で、違反が認められた場合には、勧告、勧告に従わない場合の命令及び命令の公表を行うことができるとされています。

また、前述の3(2)(3)を除く就業環境の整備への違反が疑われる場合は、厚生労働大臣は、上記と同様の調査及び措置を講ずることができます。

また、上記(3)の違反の疑われるときは、厚生労働大臣は、報告徴収を行うことができ、違反が認められた場合は、勧告と勧告に従わない場合の公表が認められています(命令は認められていません。)。

また、上記の命令、勧告のほか、必要に応じて公正取引委員会、中小企業庁長官および厚生労働大臣は、指導、助言をすることができるとされており、また上記報告徴収、立入検査の妨害、命令違反に対しては、罰金、厚生労働大臣の報告徴収の妨害に対しては、過料の制裁が課されます。

下請法における事例等からみて、はじめての違反や軽微な違反についてはこの指導、助言が活用されるのではないかと予想されます。

池田総合法律事務所では、この新法のフリーランス保護法のみならず、優劣関係のある取引関係の規制を目的とした、独占禁止法、下請法、建設業法等の案件を取り扱っておりますので、関連の紛争やお悩みがありましたらご相談ください。

                          (池田伸之)

社会保険の適用拡大、賃金デジタル払い解禁、育休取得状況公表義務化 ~働き方改革への対応は十分ですか~

1.はじめに

働き方改革の一環として、2023年4月に、賃金デジタル払いの解禁、育児休暇取得状況の公表義務化に関する改正省令が施行されました。

また、2016年から社会保険の適用が段階的に拡大されており、2024年にはさらなる適用範囲の拡大化が予定されています。

本コラムでは、これらの内容についてご説明します。

 

2.社会保険の適用拡大化

厚生年金保険、健康保険、介護保険などの社会保険は、労働者の健康や退職後の生活を支える大切な制度です。

労働者の働き方、企業による雇い方の選択において、社会保険制度における取扱いによって選択を歪められたり、不公平を生じたりすることがないよう、出来るだけ多くの労働者に社会保険を適用することが目標とされています。

一方で、社会保険適用の拡大化は、事業主の負担増に直結し、経営への影響も大きいため、これまで段階的に適用拡大化が進められてきました。

2016年10月から、「従業員数501人以上の企業」が対象となりましたが、2022年10月からは「従業員数101人以上の企業」に拡大、2024年10月からさらに対象が拡大され、「従業員数51人以上の企業」が対象となります。

また、2016年10月から、対象企業の拡大と同時に、被保険者の範囲についても見直しが行われ、「①週所定労働時間が20時間以上、②月額賃金8.8万円以上、③勤務期間1年以上」 の要件を満たす短時間労働者(ただし学生は適用除外)への適用が実現され(③については2022年10月に撤廃)、2017年4月からは、労使の合意に基づき、企業単位で短時間労働者への適用拡大が可能となりました。

これにより、フルタイムで働く厚生年金の被保険者約4480万人(2020年現在)に加え、上記要件を充たす短時間労働者約232万人が被保険者として新たに加わることになりました。

 

3.賃金デジタル払いの解禁

労働基準法では、賃金は現金払いが原則となります。昔は、毎月給料日になると、現金の入った給料袋が従業員に配られるといった光景が見られました。

しかし、現在は現金で支払っている会社はごく一部に限られ、多くの会社では、労働者の同意のもと、銀行口座などへ振り込む方法により支払われているものと思います。

今後は、さらに進んで、キャッシュレス決済の普及や送金手段の多様化のニーズに対応するため、一部の資金移動業者(○○Payなど)の口座への賃金支払いが認められ、電子マネーとして給料を受け取ることができるようになります。

会社が賃金のデジタル払いを始めるには、まず、①利用する資金移動業者の指定などを内容とする労使協定を締結する必要があります。その上で、②労働者が、賃金のデジタル払いを希望する場合、会社に同意書を提出することが必要です。

なお、万が一、指定資金移動業者が破綻したときには、保証機関から支払いが行われるようになっています。

 

4.育休取得状況公表の義務化

2023年4月1日から、常時雇用する労働者が1000人を超える事業主は、育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務付けられるようになりました。

常時雇用する労働者とは、雇用契約の形態を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者を指し、具体的には、①期間の定めなく雇用されている者、②過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者、又は日々雇用される者で、その雇用期間が反復更新されて、事実上①と同等と認められる者(アルバイト、パートを含む)を言います。

今回、男性の育児休業取得促進のために、男性の育児休業等取得率の公表も義務付けられています。

育児休業は、「子を養育するための休業」であり、男女がともに育児に主体的に取り組むために、労働者が希望するとおりの期間の休業を申出・取得できるよう、会社は、育児休業を取得しやすい雇用環境を整備することが重要です。

 

5.おわりに

会社の経営者の立場から見ると、賃金のデジタル払いはともかくとして、育休状況の公表義務化や社会保険の適用拡大化は、経営の負担を増大することになると思われます。

しかし、国民の価値観やライフスタイルが多様化し、働き方の多様化がますます進む中、どのような働き方をしてもセーフティネットが確保され、誰もが安心して希望どおりに働くことができる環境を作っていくことは、長期的に見れば、人材の安定的な確保、会社の信用向上等、会社にも良い影響を与えるものと考えます。

池田総合法律事務所では、労務管理等についても経験豊富な弁護士が複数いますので、お気軽にご相談ください。

(石田美果)

パワハラの定義と対応(「働き方」に関する労働法制連載)

1 はじめに

労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」。旧雇用対策法)により,2020年6月から大企業においてパワーハラスメント防止が義務化されていますが,2022年4月から中小企業でもパワーハラスメント防止が法的な義務として定められるに至っています。

パワーハラスメントは,企業内で不正・違法行為があったとしても,それを隠蔽するベクトルで作用することが往々にしてあり,場合によってはコンプライアンス経営ができていないとして企業の存続すら左右する最初のきっかけになりかねません。

例えば,上司が部下に対して日常的にパワーハラスメントに当たるような行為を繰り返したうえで,上司が部下に過大なノルマを課す,製品の品質管理等で違法な指示を出すなどした場合には,部下は上司に対する恐怖などから違法不当な指示でも抵抗できなくなり,それが常態して,後任に引き継がれて,問題が顕在化したときには取り返しのつかない企業不祥事に至っていることもあります。

そこで,パワーハラスメントとは何か,企業としてどのような対応をしていくかについて,「働き方」に関する労働法制の連載の一つとしてコラムとして紹介させていただきます。

 

2 パワーハラスメントの定義(労働施策総合推進法30条の2)

労働施策総合推進法30条の2は,パワーハラスメント(パワハラ)を法的に定義しています。

同法の定義は,

①優越的な関係を背景とした

②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

③就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)

の3要素すべてを満たすものとされています。

①の「優越的な関係を背景とした」については,典型的には上司から部下に対する言動があたりますが,同僚や部下の言動であっても該当する場合があります。例えば,同僚や部下が業務遂行上で必要な知識等を有していて,その同僚や部下の協力がなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合などでは優越的な関係を背景にしているといえます。

次に,②の「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」は,業務上明らかに必要性の無い言動などです。例えば,上司が部下に対して「いますぐ辞めろ」「死ね」「親の顔がみてみたい」といった発言をすれば,それは業務上何らの必要性も相当性もありませんので,パワハラにあたることは異論の無いところだと思います。

最後に,③の「就業環境が害される」については,社会一般の労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかが基準となります。 上記の例でいえば,「いますぐ辞めろ」というのは会社から追い出されるかもしれない,このまま就業を続けることができないと感じさせるものですので,通常は,就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動にあたります。

 

3 パワーハラスメントへの対応

(1)どうやって把握するか

パワーハラスメントが会社内で起こっていたとしても,それをどうやって把握していくかが最初のハードルになります。

パワーハラスメントの場合,例えばパワハラをされている部下などが,パワーハラスメントの存在を会社のしかるべき部署に報告・通報しても,パワーハラスメントをしている上司を通じて握りつぶされるのではないか,報復があるのではないかという恐怖心から報告・通報できないことが多いと思われます。加えて,パワハラをしている者,されている者の周囲の同僚も,あえて報告・通報してトラブルに巻き込まれるのは避けようとしがちです。

そこで,パワハラを把握するためには,パワハラがあると報告・通報した者が守られる制度を構築する必要があります。

会社内で十分な人的資源があるところであれば,自社内の監査部門が対応することが多いでしょうし,外部の弁護士事務所にも通報窓口となることを依頼していることも多くあります。当事務所も公益通報の窓口として,パワハラ・セクハラの通報も受け付ける外部通報窓口業務をご依頼いただいています。

また,会社内に十分な対応ができない会社であっても,外部の弁護士事務所が通報窓口となって情報を収集することは可能ですし,中小企業でもパワーハラスメントの防止義務がある以上,何らかの対応策を講じる必要があります。

(2)どうやって調査するか

パワーハラスメントの報告・通報があったからといって,報告・通報は調査に入り,会社をより良くしていくためのきっかけにすぎません。

報告・通報があれば,調査を行い,事実を確認し,確認できた事実から処分などを検討する必要があります。

しかし,どうやって調査をし,事実を確認していくかは,会社員であれば経験したことの無い業務ですので,難しいと感じられることが多い印象です。

当事務所でのハラスメントの調査をしている,あるいは社内での調査をサポートさせていただいていても,ハラスメントかどうかが明確にならないこともあります。

そういった場合でも,弁護士として調査をどうすべきか,確認できる事実は何かを協議させていただきながら,一件一件の事案に対応させていただいています。

 

4 最後に

当事務所では,パワーハラスメント防止に向けた研修,ハラスメントを含む公益通報の外部窓口,ハラスメントの企業側調査のサポートなどを日常的に行っています。

ハラスメントを防止するように日常から従業員に意識付けをもたせ,ハラスメントが起こった場合でも一貫して対応できる体制,知識,経験がありますので,池田総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))