AI(人工知能)と弁護士業務

AI(人工知能)に契約書の文言を学習させ,契約書のチェックや定型的な契約書の作成をAIに担わせるということが世の中に徐々に広がりつつあります。

そして,現在,アメリカ合衆国のOpenAIが開発したChatGPTが話題になっています。

ChatGPTは,対話型AIですが,短文に対して応答できないSiriやAmazonエコーなどのAIとは異なり,まとまった文章(質問)に対して,まとまった文章で回答ができるというAIです。

ChatGPTの核心的な部分は,会話を成立させるための強化学習をし,文章での質問を,AIが検討し,質問に対してまとまった回答を文章として提示できるというところにあります。そのうえで,回答の内容も一見して人間があたかも回答したような水準に到達しています(内容として正しいか,間違っているかは別の問題です。また,AIに故意に偽の情報を大量に作成させ,インターネットに拡散させることも技術的に不可能ではないでしょう)。

このように言語を処理して,言葉を読み解き,言葉で返答,文章で回答できるようになれば,例えば,あるワードを提示すれば,一定の回答のようなものがAIにより提示される将来が来るかも知れません。スマートフォンに疑問に思っていることを言葉で入力すると,スマートフォンからまとまった回答が数秒後に言葉で返ってくるという世界です。

法律分野であれば,例えば,まずAIに我が国の法令をすべて機械学習させます。そのうえで,大量の判例を読み込ませ,どのような事案で,どのような法律が適用され,その結果として判決がどのような結論になったかを機械学習させます。更に,法曹が学習する法学や要件事実をも機械学習させるとします。

そうすると,法律的な問題を抱えた相談者は,その法律分野に特化したAIに,言葉や文章で事実関係を入力できれば,AIは事実関係を言語処理して読み解き,一定の文章等で回答できる未来が来るかもしれません。

そのような将来で,弁護士が果たす役割は,相談者から事実関係を聴き取ることになるかもしれません。人間の記憶は曖昧なものですし,必要な事実関係を相談者自身が適切に整理して,言語化するのは相当に困難であろうと思いますので,その事実の抽出が必要になるためです。もっとも,このような仕事は現在も弁護士として必要なスキルですので,弁護士の仕事はあまり変わらないのかもしれません。

また,AIが法律業務を担う場合には,弁護士法72条の問題は必ず生じてくるものと思われます。

池田総合法律事務所では,新しい技術で世の中をより良く変革できる可能性のあるサービスなどを提供するベンチャー企業様などにも,法的サービスを提供しています。企業の法務については,池田総合法律事務所にご相談ください。

                         〈小澤尚記(こざわなおき)〉

債権回収のセオリー

期限までに支払われなかった売掛金などの債権を回収するために債権者側が起こす行動(債権回収)として、日頃から考えておかなければならないことは何でしょうか。改めて、整理しておきたいと思います。 債権には一定期間権利を行使しないとその権利が消滅する消滅時効(債権者が権利を行使できることを知ったときから5年、または権利を行使できるときから10年)があるため、それまでに行動を起こす必要があります。

 

1 スムーズに債権回収を進めるには、まず債権の状況を把握する必要があります。

契約書と債権額のチェックをする要点は、支払期限、期限の利益喪失約款条項(例、一回でも支払いを怠れば一括請求できるなどの条項)の有無、連帯保証人の有無、裁判所の合意管轄、発注書などでの当事者の一致などです。

 

 債権回収の具体的方法を検討します。債権回収方法の例をご紹介します。

①電話や面会での交渉

②交渉に応じないような場合は、弁護士に依頼して督促。特に感情的な対立が起きている場合などは弁護士が客観的立場で話をすることで、交渉がスムーズに進むケースもあります。

③内容証明郵便での督促-差出日時や差出人、受取人、内容について、郵便局が証明する郵便物です。正式な請求であるという意思表示です。記載する内容は、一般に、債権の金額とその根拠のほか、遅延損害金の金額とその根拠、支払期限、振込口座などです。なお、それに加えて、「期限内に支払わなければ法的措置を講じる」といった一文を加えます。

内容証明郵便などを利用して督促することで、消滅時効の完成を6ヵ月間猶予させることができます(催告)。

④民事調停手続-裁判所で当事者間の話し合いによって解決を図る。債務者が支払う意思を示すようであれば、柔軟な解決方法を探ることが可能です。弁護士を立てることも、立てずに自ら調停の申し立てを行うことも可能です。

⑤支払督促-簡易裁判所によって債務者に対して支払いの督促をしてもらう手続。支払督促を行って相手方が異議を申し立てなければ、仮執行宣言を得て、強制執行をすることができます。 但し、相手方が支払督促に異議を申し立てた場合には、支払督促は効力を失い、通常訴訟に移行します。

⑥通常訴訟

地方裁判所の民事事件第一審の平均審理期間は、9.5ケ月。相手方が争わない場合や相手方の主張に明らかに理由がない場合には、1回目や2回目の裁判期日で判決が出るケースもあります。また、一括ではなく分割で支払うなどの案を申し入れて、裁判上の和解が成立することもあります。

⑦少額訴訟

60万円以下の金銭の支払を求める場合は、簡易裁判所で少額訴訟を行うこともできます。少額訴訟は原則として1回のみで審理を終え、即日判決が出ます。しかし、相手が通常訴訟を求めた場合には通常訴訟に移行し、少額訴訟の判決に異議を申し立てると再び審理をやり直すことになります。

 

3 仮差押えと強制執行

訴訟が確定してからでは財産が散逸してしまう恐れがある場合には、訴訟提起に併せて、仮差押を申立て、保全します。保全の場合、裁判所の定める担保(現金等)を法務局に供託する必要があります。

裁判で勝訴判決や和解調書を得たにもかかわらず相手方が支払いに応じない場合、債権者の申立てにより、裁判所が差し押さえた債務者の財産から債権を回収します。強制執行には大きく分けて、不動産を売却して支払いにあてる「不動産執行」、在庫や設備などを売却して支払いにあてる「動産執行」、預金などを取り立てる「債権執行」の3種類があります。

差し押さえるべ物の有無がわからないときには、財産開示手続きを申し立てて、相手方を呼び出します。

 

4 債権回収できない場合に備えてファクタリングの活用

取引先の経営悪化などで債権回収が必要になった場合、多くの手間や時間がかかってしまいます。また、債権回収を行っても、回収できないケースもあるでしょう。そのような場合に備えて、債権保全の準備もしておきましょう。債権保全のためには、保証型ファクタリングの導入が有効です。取引先の倒産などにより売掛債権が回収できなくなった場合、取引先に代わって保証会社が支払いを行います。

 

5 その他の回収方法として重要な相殺

取引先が破産しても債権回収が図れるケースの代表例として「相殺」が挙げられます。相殺とは、当事者間で対立する債権を相互に保有し合っているような場合、両債権を同じ金額分だけ共に消滅させることができるという制度です。

取引先が破綻してしまった場合でも、取引先に対して債権と債務の両方が存する場合には、両者を相殺することにより、取引先に対する債権を回収したのと同様の効果を得ることができます。弁護士を利用すれば、破産手続等の法的整理手続に応じて、内容証明郵便を利用する等、より確実な方法で、相殺の意思表示を行うことができます。

 

6 債権の保全としての担保

契約時に、不動産に抵当権などを担保設定しておくことや集合動産担保、すなわち、債権者が有する第三債務者に対する複数の特定された個々の債権を一個の債権としてとらえこれに譲渡担保権等を設定しておくなどして、破産手続開始決定があっても、債権者の担保権は制限されることなく行使することができるのが原則です。

また、商品を納入している業種では、所有権留保で、商品を取引先に売買して取引先が倒産した場合、売買契約を解除し、取引先の了解をとった上で商品を引き上げます。取引先の了解をとらないと、窃盗罪などに問われるおそれがあるため、書面で了解をとります。了解をとる場合、代表者か取引先の弁護士とすべきです。

取引先がその商品を既に第三者に転売している場合、その第三者が商品の所有権を即時取得していることが考えられること、また、取引先との売買契約の中で第三者に転売されたときは所有権留保が解除されると定められている場合がありますので、その場合は所有権留保の方法によることは難しくなります。

抵当権の場合、裁判所に対し、競売の申立てを行います。申立に際して必要な書類は、抵当権の設定登記に関する登記簿謄本です。登記簿謄本は、他にも抵当権の存在を証明する確定判決でもよいですが、大抵は登記簿謄本で申立てを行います。申立を行う裁判所は、対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所に行います。

 

7 債権譲渡

取引先が別の会社に対して売掛金を持っている場合、取引先からその債権の譲渡を受け、譲り受けた債権を第三者に対して行使することにより、債権の回収を図ります。債権譲渡は原則として自由にできますが、債権譲渡を第三者に対抗するには、確定日付ある証書により、取引先から第三債務者に対して譲渡の事実を通知させる必要があります。内容証明ならば確定日付がありますので、内容証明を用いて、取引先に譲渡の通知をさせます。

 

8 自社製品・他社製品を回収する

所有権留保している自社製品を回収する方法は、所有権に基づいて回収しますが、取引先の承諾が必要になります。また、他社の製品を取引先から譲り受けることにより、代物弁済として債権の回収を図ることができます。

 

9 契約書作成段階での検討

契約を締結する段階で、私文書である一般的な契約書の作成でもよいのですが、公証人役場で作る公文書、公正証書を作成する場合には、記載内容すべてが当事者の合意に基づいて真正なものとして作成されたという推定が働きます。「証書に定める金銭債務を履行しない場合には直ちに強制執行することに服する」という強制執行認諾文言を入れておくことによって、訴訟手続きを省いて強制執行することができます。

 

池田総合法律事務所では、業種や事案にあった債権回収や予防の制度をアドバイスしています。早めにご相談して頂ければ、と思います。(池田桂子)

法人破産について (連載・全4回中第4回)

法人の民事再生手続について

1 はじめに

3回にわたって、法人破産について説明をしてきました。今回は、法人の民事再生手続について説明します。

 

2 破産と民事再生の違い

法人が経済的に破綻し、債務を弁済しなければならない時期に弁済ができない状態を倒産の状態といいます。このような状態の法人の清算をするための法的手続が破産です。

一方で、民事再生は倒産状態の会社の再建を目的とした法的手続です(なお、民事再生は法人の中でも主に中小企業を対象とし、比較的大規模な株式会社の再建型の手続は、会社更生手続という民事再生手続よりも厳格な手続が利用される場合があります。)。

破産手続では、裁判所に選任された破産管財人が、債務や財産の調査等を行って、財産を換価したうえで公平の観点から配当を行い、法人格を消滅させるという流れになりますが、会社の再建を目的とする民事再生では、裁判所に選任された監督委員の監督のもと、債務の一部を免除してもらい、分割して返済していく、あるいは免除後の債務を一括返済する等の計画をたてて、債権者の同意と裁判所の許可を得て、その計画(再生計画といいます)を実行していくという流れになります。

 

3 民事再生の3つの分類

民事再生手続上で、再生計画案は債権者集会での決議と裁判所の認可を得る必要がありますから、確かな裏付けを持った実行可能な弁済の計画を提示する必要があります。そのような再建のあり方については3つに分類されるとされています。自力再生型、スポンサー型、清算型の3つです。

自力再生型は、一部免除による債務の軽減と、不採算部門の閉鎖等の企業努力により再建を図るというものです。第三者の援助もなく比較的シンプルな方法で、規模の小さな会社の場合に選択されることが多いようです。

スポンサー型は、スポンサーとなる他の会社等から、直接的な資金援助を受けて再建を図る方法です。

清算型は、多角的に事業を展開している会社が、価値がある事業を営業譲渡して得られた代金で債務の弁済を図る方法です。

なお、スポンサー型や清算型のうち、スポンサーや事業譲渡先を、民事再生申立手続き前に決まっている場合のことをプレパッケージ型ともいいます。

 

4 早期のご相談の必要性

再建のあり方は以上のような3つですが、実行可能な再生計画でなくては、債権者の理解も裁判所の認可も得られません。債権者が、再生計画案に賛成するかどうかの判断に際しては、収支や弁済の見通しが立つのか、その裏付けとなるスポンサーや事業譲渡先となってくれるような企業があるのか、といった点が検討されます。さまざまな要因が絡んできますし、多くの場合状況は流動的です。また、民事再生手続きについては、申立代理人となる弁護士費用や監督委員選任のための予納金等の費用がかかりますので、厳しい資金繰りの中で諸々の費用を確保しなくてはなりません。費用の確保も重要なポイントです。

 

池田総合法律事務所では、倒産手続について多くの実績があります。会社の経営が思わしくない場合、できるだけ早くご相談くださいますと幸いです。最善の選択肢を模索することができるかと思います。

 

山下陽平

 

法人破産について (連載・全4回中第3回)

1.はじめに

これまで事業者の破産について、法人破産の概要(第1回)、代表者の債務整理を上手に行うために(第2回)についてご説明しました。

今回は、法人破産の申立の費用とスケジュールについて、ご説明したいと思います。

 

2.法人破産の費用

(1)第1回コラム「法人破産の概要」で、「法人が破産をするには、裁判所に破産を申し立てる必要があり、破産管財人の費用として一定額を予納する」という話をしました。

具体的には、名古屋地方裁判所では、法人の負債総額が1億円未満の場合、裁判所に納める予納金は60万円、負債総額1億円以上の場合予納金は80万円、同3億円以上の場合予納金は100万円と段階的に増えていきます。負債総額1000億円以上になると、予納金は1500万円以上となります。

一方、少額予納管財事件として取り扱われることになると、予納金は20万円で済みます。

少額予納管財事件として取り扱ってもらうためには、

① 弁護士が申立代理人となっている法人破産申し立てであること

② 申立代理人による財産調査がなされた上で、換価可能な財産が存在しないことが確実であること、又は申立時点の法人の財産が60万円未満であることが確実であること、又は60万円以上であっても換価容易な財産(例えば預貯金や保険解約返戻金等)しか存在しないこと

③ 賃借不動産の明渡(原状回復)が終了していること

④ リース物件の返還が完了していること

⑤ 一般債権者が50名以下であること

⑥ 労働債権者が10名以下であり、かつ、申立前に解雇されており、解雇に関連する諸手続き(源泉徴収票の作成・交付、離職票の交付、労働債権額の明示、労働者健康福祉機構に提出する証明書の作成)が完了していること。加えて労働債権者に対し、破産手続等に関する説明を行っていること

などの要件を満たす必要があります。

他に費用として、収入印紙、予納郵券、官報公告費用で計3万円程度が必要になります。

(2)また、法人破産の申立てを弁護士に依頼する場合、別途弁護士費用がかかります。

当事務所では、法人の負債総額等により50万円からお受けしています。他に、実費(郵便代、交通費等)がかかります。

(3)以上のように、法人破産を申し立てるには、決して少なくない費用が必要となりますので、費用の確保を慎重に検討して下さい。

 

3.法人破産のスケジュール

つぎに、法人破産のスケジュールについてご説明します。

(1)弁護士への相談、委任契約

まず始めに、弁護士に会社の状況(債務を抱えるに至った経緯)、債務の種類や金額、会社の資産(在庫、預金、不動産等)、従業員の人数や雇用形態などをお話しいただき、破産の方針を決定します。

(2)受任通知書の発送

弁護士から債権者に対し、破産予定であることを書面で通知します。

弁護士が破産申立てを受任してから、通常1~3日程度で発送することになります。なお、会社が営業を続けているようなときは、売掛金の回収見込み等も考え、受任通知のXデーを予め決めておいて対応します。

(3)会社財産等の保全、従業員の解雇、賃貸物件等の明渡し等

会社の財産が散逸することを防ぐため、破産の方針を決定後すぐに、弁護士が会社から財産(在庫、預金、不動産等)の引き渡しを受け管理を開始します。

また、従業員の解雇や賃貸物件の明渡し等を行います。

(4)破産申立て

破産の申し立てに必要な書類を準備し、裁判所に破産の申し立てをします。

弁護士が受任してから申し立てまで、通常1か月程度かかります。混乱が見込まれる場合には、ある程度資料が整っていれば、1週間程度で迅速に対応します。

(5)破産手続開始決定

破産の申し立てをしてから、書類に不備等がなければ、通常2週間程度で破産開始決定が出て、破産管財人が選任され、債権者集会の期日が決まります。なお、早期に管財人に引き継ぐことを要するケース(生鮮食料品を扱う会社等)では、事前に裁判所と打ち合わせの上、申立後比較的短期間で開始決定を出してもらうこともあります。

(6)破産管財人による財産調査・管理・換価

破産開始決定後、通常1週間以内に、破産管財人と会社代表者、申立代理人弁護士とで打ち合わせを行います。この時、申立代理人弁護士が管理していた会社財産等を破産管財人に引き継ぐことになります。

その後は、破産管財人により、財産調査、管理、換価が行われます。

(7)債権者集会

破産開始決定から通常3~4か月後に債権者集会が開かれます。債権者集会は1回で終わることもありますが、会社財産の換価、処分の状況によっては、複数回行われます。

(8)債権者への配当

破産管財人による会社財産の換価、処分が終了し、配当ができるような原資が確保された場合は、債権者への配当の手続きが行われます。

(9)終結、廃止決定

配当手続が終了すると、裁判所より終結決定が、配当を行わない場合は廃止決定がなされます。ここまでに1年程度を要することはよくあります。

終結決定または廃止決定により、会社の権利義務は消滅し、会社の法人格は消滅します。

 

次回は、法人の民事再生について、ご説明します。          (石田美果)

法人破産について(第2回)~代表者の債務整理を上手に行うために~

今回は、会社代表者の債務整理について、ご説明します。
中小企業の場合、金融機関等からの借入れをする際、あるいは仕入れをする際に、企業の信用力を補完するため、会社代表者が連帯保証をしているケースが大半を占めています。
後述する経営者保証ガイドラインにより、今後は、中小企業の場合でも代表者の個人保証をとらずに、企業自体の収益力に注目して融資がなされるケースも増えていくとは思いますが、現状多くのケースでは代表者の個人保証が融資にあたって要求されることが大半です。
したがって、会社経営が破綻した場合、個人保証が現実化することになり、代表者が債務を返済できない場合、会社について再生、破産等の法的整理をとるだけでは足らず、個人についても債務整理の必要が生じます。

債権者との任意の話し合いで、連帯保証債務についても減免を承諾してもらえるときでも、債権者が、特に金融機関の場合には、経営者保証ガイドラインに沿った特定調停による解決を求められることが多いと思います。これは、債権者との間で債務の減免をしてもらうことについて事実上の合意を得たうえで、簡易裁判所にその合意内容を特定調停という形で確認して成立させる手続きで、2013年12月から経営者保証ガイドラインによって認められた解決手法(特定調停スキーム)です。この手続きをとれば、代表者は、破産をする必要もなく、代表者が自ら手元に置ける財産の範囲も拡がり(破産の場合は、原則最大限99万円ですが、ガイドラインによれば、代表者の年齢等にもよりますが、場合により、数百万円を手元に置けたり、華美でない自宅を残したりすることが出来ます。)、裁判所に納める費用等も安価で済み、債務者にとっては有利な解決となります。

但し、要件として、自らの財産、債務内容について全て開示をする等誠実な対応をしていることが要求されます。
したがって、債権者との交渉の際に、財産開示等で虚偽があったり、直前に財産隠しや財産移転のようなことがあったり、個人と会社の財産との区別が曖昧であるような場合は、債権者の不信を買い、また、手続き上も要件を欠くことになるので、ガイドラインに沿った解決はできなくなってしまいます。
このような場合や減免について債権者の理解が得られない場合については、代表者も自己破産や再生の申立てをして解決をしていくことになります。

最近は、代表者の連帯保証債務等につき、この特定調停スキームによる解決例が、増えてきており、これからは、このスキームによる解決が可能かどうかをまず検討することになっていくものと思います。
池田総合法律事務所では、自己破産、再生等の法的整理、ガイドラインに沿った特定調停による解決を取り扱っておりますので、会社経営が思わしくない場合には、早めにご相談して頂ければ、と思います。

(池田伸之)

法人破産について(連載第1回)

新型コロナウイルス感染症,コロナ特別融資の返済,円安,金利動向など経営環境は様々な変化があり,今後もどのような経営上の不安要素が突発的に発生するかが分からない難しい時代です。

池田総合法律事務所は,企業法務を主軸として取り扱っており,企業継続のための法的なサポート業務を日常的にご提供していますが,法人の倒産事案も相当数取り扱っています。

特に,池田総合法律事務所では,法人の破産申立だけではなく,裁判所から選任される法人破産の破産管財人も多く務めています。

今回は,破産・再生等の倒産分野にフォーカスをあてて,これから4回の連載をしていきます。

第1回は「法人破産の概要」,第2回は「代表者の破産(経営者保証ガイドラインの利用を含む)」,第3回は「法人破産申立のスケジュール,費用」,第4回は「法人の民事再生」です。

それでは,第1回は,法人破産の概要です。

 

1 破産とは

(1)破産とは

破産を簡単に説明させていただければ,会社にある財産(現金,預貯金,売掛金,不動産,機械設備その他のプラスの財産)と,会社の借金(債務)とを裁判所に明らかにして,裁判所が選任する破産管財人がプラスの財産を換価(=換金)して,破産管財人が債権者に配当という形で金銭を支払って,財産の無くなった会社を消滅させる手続です。

端的にいえば,裁判所によって,法人の債務を法人ごと消滅させてしまう制度が破産です。

(2)プラス財産の洗い出し

そこで,破産の申立てをするには,まずはプラスの財産の洗い出しをする必要があります。

実務上は,法人の2期分の決算報告書をもとに,現に存在している財産を把握して,裁判所に提出できるよう目録を作成します。

(3)債務の洗い出し

次に,債権者が誰で,債務額がいくらあるのかを把握して,これも債権者一覧表という形でまとめる必要があります。

また,債権者といっても,税金,給与(解雇予告手当も含む),銀行融資,取引先(仕入れ先など)などがありますが,法律上の位置付けは様々です。

例えば,給与を支払ってもらえなければ,労働者が生活できなくなるおそれがありますので,銀行融資や取引先などの債務に比べて,優先的に支払を受けることができると法律上定められています(ただし,未払給与の全部というわけではなく,期間的な制限はあります)。

実務上は,手持ちの現預金を確認して支払が可能であれば,いままで働いていただいた労働者の方に迷惑をかけないように給与等を支払うことを検討することになります。

(4)労働者(従業員)について

破産は,法人ごと消滅させる手続ですので,裁判所に破産を申し立てる前に労働者(従業員)は全員解雇するのが原則です。

もっとも,破産手続が始まった後に破産管財人が必要であれば,経理担当者などを一時的にアルバイト等として雇用することもありますが,いずれにしても破産申立前には基本的に全従業員を解雇します。

(5)破産申立をすることの決定

法人が破産を申し立てる場合,個人と違い,取締役などがいるので,取締役等の決議や同意が必要になります。

具体的には,

【取締役会設置会社(取締役会がある会社)の場合】

取締役会の決議が必要

【取締役会非設置会社(取締役会がない会社)の場合】

取締役全員が破産申立に同意したことが分かる同意書面が必要です。

仮に取締役が1名の会社であれば,1名が破産申立をすることを決定したことが分かる書面があれば良いですが,2名以上の取締役がいる場合には,全員の同意が分かる書面が必要になります。

ただし,反対している人や連絡がとれない場合でも,準自己破産という手続は準備されています(ただし,この場合,裁判所に予納する予納金の金額は通常に比べて高額になります)。

(6)裁判所への破産申立

取締役会等で破産申立をすることを決め,プラスの財産の目録や債権者一覧表が整った段階で,裁判所に破産を申し立てることになります。

破産を申し立てる場合には,申立をする弁護士の弁護士費用以外にも,破産管財人の費用として裁判所に一定額を予納する必要がありますが,この点は第3回で概要を説明させていただきます。

驚かれる方もいますが,破産を申し立てるにあたっては,裁判所に一定額のお金を予納する(支払う)必要があります。自らの費用で自ら法人を設立した以上,破産をするときも自らの会社を消滅させる手続の費用は自ら負担すべきだからです。

 

2 破産申立への弁護士の関与

破産申立をする場合,破産法を十分に理解したうえで,破産法上問題が無いように申立前にできる限りの準備をすることになります。

また,債権者に対する対応も必要になりますが,債権者対応は弁護士以外には難しいものです。問題無く破産手続を進めていくためには,弁護士の関与が必須です。

池田総合法律事務所では,多数の法人破産申立の実績もありますし,裁判所に選任される法人の破産管財人業務の実績も多くあり,申立てにあたってのノウハウも豊富に有しています。

法人破産の申立時期をいつとするのかは大変重要です。事業が立ちゆかないのではないか,後継者がいないが借金があるなどといった法人の廃業や破産をご検討の事業者は,切羽詰まってからではなく,早めに池田総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))

下請法について(第3回)

 

建設業における下請け契約で気を付けるべきことは?

 

下請法について、第3回目は、資材の高騰や人手不足が懸念される業種の一つ、建設業にスポットを当ててみます。

 

1 建設業法と下請法

建設業法は、建設工事全般について規定した法律ですが、下請業者が元請業者と結ぶ下請け契約について、触れている箇所が少なくありませんので、注意が必要です。下請法では資本金で下請けに当たるか適用の有無を定めていますが、建設業法では、企業規模は考慮されません。

 

建設業法の下請け保護のために、丸投げの禁止があります(建設業法第20条)。丸投げをした事業者が工事を請負だけで利益を得るのは公正ではないからです。

 

2 「建設業法令順守ガイドライン」

建設業法上の下請け規制については、「建設業法令順守ガイドライン」(国土交通省総合政策局建設業課 発行)が参考となります。主要な点を見ていきます。

元請人は、下請け契約を締結する前に、見積条件として、以下の事項について具体的な内容を提示し、下請業者が適正な見積もりができるようにしなければなりません。

・工事内容

・工事着手時期や完成の時期

・請負代金の前金払いや出来高部分に対する支払いの定めをする時はその時期や方   法

・価格等の変動や変更に基づく請負代金の額や工事内容の変更

・工事完成の確認検査の時期や方法、引渡しの時期

・工事完成後における代金の支払いの時期や方法

・工事の目的物が種類・品質に関して契約内容に不適合な場合における担保責任やその責任の履行に関して講ずべき保証、保険契約の締結その他の措置

・遅延利息や違約金その他の損害金

・工事を施工しない日や時間帯の定めをする時はその内容

 

工事内容ついては、最低限、明記すべき事項がガイドラインで示されています。

 

3 2020年の改正

最近では、コンプライアンスの重視から、ガイドライン第7版―元請人と下請人の関係にかかる留意点―に網羅的な説明がなされていますので、こちらもご注意願います。

特に注目される改正点は下記の通りです。

(1)見積条件の提示(建設業法第20条の2)

①地盤沈下や地下埋設物による土壌の汚染その他の地中の状態に起因する事象

②騒音、振動その他の周辺の環境に配慮が必要な事象

が発生する恐れがあることを知っている時には情報提供が必要とされました。情報提供を行わずに見積を行わせたり、契約を行った場合には、法違反となります。

(2)長時間労働の是正→工事をしない日等の定め(法第19条)

(3)著しく短い工期の禁止(法第19条)

(4)下請代金の現金支払い(法第24条の3)

(5)不利益取扱いの禁止(法第24条の5)

 

4 ホットラインの開設

国土交通省の地方整備局には、法令違反行為の疑義情報の受付窓口が設けられています。通報や相談をしたことによる不利益な取り扱いは特に禁止されています。

 

5 独占禁止法にも注意を

建設業者が不当に低い請負代金の禁止や、不当に低い資材の購入強制の禁止、下請代金の支払い、検査や引き渡しなどに違反している事実があり、それが建設業法19条に違反していると認めるときには、公正取引委員会に対して、措置請求を行うことができると定められていますので、独禁法に抵触することもあるということを頭の片隅に入れておくことが望まれます。

 

6 まとめ

気を付けるべきことはいろいろですが、おかしなことをしていないか点検をする姿勢で、次のようなことを再度点検してください。

一方的な指値発注がないかどうか、やり直し工事で無理を言っていないか、赤伝処理(元請負人が一方的に諸費用を代金支払い時に差し引く)をしていないか、支払留保をしていないか、帳簿の備え付けや保存はしているか(5年間の保存義務あり)、工事完了時の検査機関が20日を超えていないか。

 

適正な取引は、元請と下請の良好な契約関係の維持、発展に資するものです。

契約書のチェックなどご相談がありましたら、お尋ねください。

 

(池田桂子)

下請法について(第2回)

親事業者の禁止行為~買いたたき、下請代金の減額を中心として~

 

本コラムでは、前回(2022年10月4日 下請法について(連載・全3回))に引き続き、下請法の概要を解説します。

今回のテーマは、親事業者の禁止行為です。

 

 

1 親事業者の禁止行為

下請法4条は、「親事業者の遵守事項」というタイトルで、親事業者による一定の行為を禁止しています(そのような行為を「親事業者の禁止行為」といいます)。

(1)禁止行為(下請法4条1項:次に掲げる行為をしてはならない)

禁止事項 概要
受領拒否

(1号)

下請事業者に責任がないのに、発注した物品等を受け取らないこと。
下請代金の支払遅延

(2号)

物品等を受け取った日から60日以内で定めなければならない支払日までに下請代金を支払わないこと。
下請代金の減額

(3号)

下請事業者に責任がないのに、あらかじめ定めた下請代金を減額すること。
返品

(4号)

下請事業者に責任がないのに、発注した物品等を受け取った後に返品すること。
 

買いたたき

(5号)

下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比べて著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
購入・利用強制

(6号)

正当な理由がないのに、親事業者が指定する物品、役務などを強制して購入、利用させること。
 

報復措置

(7号)

下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。

 

(2)禁止行為(下請法4条2項:次に掲げる行為をすることによって、下請事業者の利益を不当に害してはならない)

禁止事項 概要
 

有償支給原材料等の

対価の早期決済

(1号)

有償支給する原材料等で下請事業者が物品の製造等を行っている場合に、下請事業者に責任がないのに、その原材料等が使用された物品の下請代金の支払日より早く、支給した原材料等の対価を支払わせたり、下請代金の額から控除したりすること。
割引困難な手形の交付

(2号)

下請代金を手形で支払う際に、一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付すること。
不当な経済上の

利益の提供

(3号)

自社のために、下請事業者に現金やサービス、その他の経済上の利益(協賛金や従業員の派遣など)を提供させること。
不当な給付内容の変更及び

不当なやり直し(4号)

下請業者に責任がないのに、費用を負担せず、発注の取消しや内容変更、給付の受領後にやり直しをさせること。

 

(1)については、それぞれの禁止事項にあたる行為をすれば直ちに違法となりえますが、(2)については、それぞれの禁止事項にあたる行為をすることに加え、それによって下請事業者の利益が不当に害されることによって初めて違法の問題となります。

 

2 買いたたきについて

(1)買いたたきとは

下請代金の額を定める際に、

①下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い額を

②不当に定めること

をいいます(下請法4条1項5号)。

(2)買いたたきに当たるか否かの判断について

ア 「通常支払われる対価」について

「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)(以下「運用基準」といいます)では、「通常支払われる対価」について、

「当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。」とした上で、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱う。」としています(運用基準第4の5(1))。

イ 買いたたきに該当するかの判断について

買いたたきに該当するか否かは、

①下請代金の額の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等対価の決定方法、

②差別的であるかどうか等の決定内容、

③通常の対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況

及び

④当該給付に必要な原材料等の価格動向等

を勘案して総合的に判断します(運用基準第4の5(1))。

(3)買いたたきに該当するおそれのある行為について

運用基準第4の5(2)は、買いたたきに該当するおそれのある行為を列挙しています。

ア 多量の発注をすることを前提として下請事業者に見積りをさせ、その見積価格の単価を少量の発注しかしない場合の単価として下請代金の額を定めること。

イ 量産期間が終了し、発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず、単価を見直すことなく、一方的に量産時の大量発注を前提とした単価で下請代金の額を定めること。

ウ 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。

エ 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。

オ 一律に一定比率で単価を引き下げて下請代金の額を定めること。

カ 親事業者の予算単価のみを基準として、一方的に通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めること。

キ 短納期発注を行う場合に、下請事業者に発生する費用増を考慮せずに通常の対価より低い下請代金の額を定めること。

ク 給付の内容に知的財産権が含まれているにもかかわらず、当該知的財産権の対価を考慮せず、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めること。

ケ 合理的な理由がないにもかかわらず特定の下請事業者を差別して取り扱い、他の下請事業者より低い下請代金の額を定めること。

コ 同種の給付について、特定の地域又は顧客向けであることを理由に、通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めること。

以上の項目の中で、ウ、エについては、令和3年12月27日に内閣官房、消費者庁、厚生労働省、経済産業省、国土交通省及び公正取引委員会の出した「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」の中で、「中小企業等が賃上げの原資を確保できるよう・・・労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分を適切に転嫁できる」よう、「下請代金法上の『買いたたき』の解釈」を「明確化する」とされたことを踏まえ、令和4年1月26日の運用基準の改正で追加されました。

 

3 下請代金の減額について

下請法4条1項3号は、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」を禁止しています。

(1)下請代金の額を「減ずること」について

発注時に定められた金額(発注時に直ちに交付しなければならない書面に記載された額)から一定額を減じて支払うことを全面的に禁止する趣旨ですが、以下のような場合にも「減ずること」に当たると考えられます(運用基準第4の3(1))。

親事業者が下請事業者に対して、

・消費税・地方消費税額相当分を支払わないこと

・下請事業者との間で単価の引下げについて合意して単価改定した場合において、単価引下げの合意日前に発注したものについても新単価を遡及適用して下請代金の額から旧単価と新単価との差額を差し引くこと

・下請代金の総額はそのままにしておいて、数量を増加させること

・下請事業者と書面で合意することなく、下請代金を下請事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を下請事業者に負担させ、下請代金から差し引くこと

(2)「下請事業者の責に帰すべき理由」がある場合について

同号が禁止をしているのは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに」下請代金を減額することですので、「下請事業者の責に帰すべき理由」がある場合には、下請代金の減額が認められることがあります。

例えば、下請事業者の給付の内容が下請法3条に基づき交付される書面(3条書面)に明記された委託内容と異なることを理由に受領を拒否した場合には、その給付に係る下請代金を減額することができます。

 

4 禁止行為を行った場合の制裁

親事業者が禁止行為を行った場合、公正取引委員会から、その親事業者に対し、禁止行為を取りやめて原状回復させること(減額分や遅延利息の支払い等)や再発防止等の措置を実施するよう勧告がなされるとともに(下請法7条)、勧告がなされたケースでは、原則として会社名とともに、違反事実の概要、勧告の概要が公表されます。

 

5 親事業者から禁止行為を行われているのではないかと考えたら

親事業者からの行為が禁止行為に当たるか否かの判断は、その行為が下請法4条1項2項の各号のいずれに該当するのか、事実関係を整理し、運用基準や過去の判例等を踏まえた上で検討をする必要があります。

親事業者から禁止行為を行われているのではないかと考えた場合には、公正取引委員会の相談窓口で相談するか、弁護士にご相談されると良いでしょう。

池田総合法律事務所でも、この種の案件を取り扱っておりますので、ぜひご相談ください。

(川瀬 裕久)

下請法について (連載・全3回)

1.はじめに

下請法(法律名:下請代金支払遅延等防止法)とは、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるために制定された法律です。

下請法に違反した場合には、公正取引委員会から、違反行為を取り止めるよう勧告されます。勧告があった場合、企業名、違反事実の概要などが公表されることになります。

企業の法令遵守が強く求められる中、下請法違反は、企業の信用を大きく損なう行為となり得ます。

そこで、下請法の内容を正しく理解し、公正な取引を行うことが重要です。

本法律コラムでは、全3回にわたって下請法についてご説明したいと思います。

 

2.対象となる取引

まず、下請法の規制対象となる取引は、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4つの取引に大別されています。

①製造委託

物品の販売や製造を営む事業者が、企画、品質、形状、デザインなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを依頼することをいいます。ここでいう「物品」は動産であり、家屋などの建築物は対象に含まれません。

②修理委託

物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託することなどをいいます。

③情報成果物作成委託

ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を営む事業者が、他の事業者にその作成作業を委託することをいいます。情報成果物の代表的な例としては、プログラム(ゲームソフト、会計ソフト、家電製品の制御プログラムなど)映像や音声などから構成されるもの(テレビ・ラジオ番組、映画など)、文字、図形、記号などから構成されるもの(設計図、各種デザイン、雑誌広告など)が挙げられ、物品の付属品・内臓部品、物品の設計・デザインに係わる作成物全般を含んでいます。

④役務提供委託

運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を営む事業者が、請け負った役務を他の会社に委託することをいいます。ただし、建設業法に規定される建設業を営む事業者が請け負う建設工事は、下請法の対象とはなりません。

 

3.対象となる取引の主体(「親事業者」「下請事業者」)

対象となる事業者は、以下のとおり資本金の額と、上記取引の内容により決まります。

(1)①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託(プログラム作成に関するもの)、④役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に関するもの)

親事業者 下請事業者
資本金3億円超 資本金3億円以下(個人を含む)
資本金1千万円超3億円以下 資本金1千万円以下(個人を含む)

(2)③情報成果物作成委託(プログラム作成を除く)、④役務提供委託(運送、物品

の倉庫における保管及び情報処理を除く)

親事業者 下請事業者
資本金5千万円超 資本金5千万円以下(個人を含む)
資本金1千万円超5千万円以下 資本金1千万円以下(個人を含む)

 

また、子会社を通して取引する場合であっても、事業者(直接下請事業者に委託をすれば下請法の対象となる場合)が、資本金3億円以下の子会社を設立し、その子会社を通じて委託取引を行っている場合には、①親会社-子会社の支配関係、②関係事業者間の取引実態について一定の要件を満たせば、その子会社は、親事業者とみなされて下請法の適用を受けるので、注意が必要です。

 

4.親事業者の義務

親事業者には、4つの義務が課されています。

(1)書面の交付義務

口頭発注によるトラブルを未然に防止するため、親事業者は発注に当たって、発注内容に関する具体的記載事項を記載した書面を交付する義務があります。

(2)書類作成・保存義務

製造委託をはじめとする下請取引が完了した場合、親事業者は給付内容、下請代金の金額など、取引に関する記録を書類として作成し、2年間保存することが義務付けられています。

(3)下請代金の支払期日を定める義務

不当な支払期日の変更、支払遅延により、下請事業者の経営が不安定になることを防止するため、親事業者は下請事業者と合意の上で、下請代金の支払期日を事前に定めることが義務付けられています。この場合、支払期日は納入された物品の受領後60日以内で、かつ、出来る限り短い期間になるように定めなければなりません。

(4)遅延利息の支払義務

親事業者が、支払期日までに下請代金を支払わなかった場合、下請事業者に対して遅延利息を支払う義務が課されます。

 

次回は、買いたたきや下請代金の減額など、親事業者に禁止される行為について、ご説明します。

(石田美果)

商標について 4 ~商標とフランチャイズ契約~

1 はじめに

3回にわたって、商標の制度や判例について説明してきました。今回は、商標権の保護が重要な役割を担う一例として、フランチャイズ契約を取り上げます。

 

2 フランチャイズ契約と商標

フランチャイズ契約とは、フランチャイザー(コンビニチェーンの本部をイメージしてください)がフランチャイジー(コンビニ店舗の各店長さんをイメージしてください)に対して、特定の商標等を使用する権利を与えるとともに、フランチャイジーの事業や経営についてノウハウを提供して指導や援助を行い、それらの対価をフランチャイジーがフランチャイザーに支払うことを内容とする契約です。

フランチャイジーは、フランチャイズ契約によって、自身のサービスや商品にフランチャイザーの商標を付けることが許されます。フランチャイザーの知名度、信用力、集客力をフランチャイジーが利用するうえで商標は重要な機能を担います(自他識別機能、出所表示機能、品質保証機能、広告宣伝機能などについては、第1回の記事を参照ください)。一方でフランチャイザーは、自身の知名度、信用力や集客力を維持しなくてはなりませんから、商標の価値・ブランドイメージを維持するためにフランチャイジーに強い統制・コントロールを及ぼす必要があります。

そのため、フランチャイズ契約の中には商標権の使用に関する詳細な条項が置かれます。具体的な条項としては、商標権がフランチャイザーに帰属することの確認に始まり、使用目的の限定、使用方法の遵守、改変の禁止、第三者による侵害・違反事実の通知義務、フランチャイズ契約終了後の使用中止や原状回復、違約金の定めなどです。

以上のように、フランチャイザーにとって、その知名度等を適切にフランチャイジーに利用させるためには、商標権は使い勝手のいいツールです。フランチャイズ展開を検討する事業者は、早めに商標登録をしておくことをおすすめします。次項では、商標登録を怠ったままフランチャイズ展開を進めることのリスクについて説明します。

 

3 商標登録を怠った場合のリスク

フランチャイズ展開が始動したばかりの段階では、商標の出願を念頭に置いていないケースもあるでしょう。商標権の出願・登録を怠ったままでいると、別の商標登録を得ている第三者から、「同一の商標」や「類似の商標」などとして警告を受け、商標の使用差し止めや損害賠償請求を提起されるおそれがあります。

そのような場合、様々な反論が可能でしょうが、費用や労力を投じる必要がありますし、こちらの商標の使用が別の商標権を侵害していると裁判所に判断された場合には、商標権者から商標使用権の設定をうけて対価を支払って従前の商標の使用を続けるか、従前の商標の使用を諦めなくてはなりません。フランチャイズ展開が進んだ段階でそのような事態に到れば、チェーン全体の損害は大きなものとなります。商標登録をしないままフランチャイズ展開を進めることは事業にとって大きなリスクです。

フランチャイズ展開を考えるならば、商標登録は避ける事のできない必須のステップです。まず、自身の商標と類似する商標がないかの調査を行い、次に第三者の商標権の侵害がなければ商標出願の手続を進めます(商標登録手続は第2回でも説明しましたので参照ください)。類似性の判断は、判例などを元に検討する必要があるので、専門家に依頼した方が確実です。

また、商標登録に際しては、将来の事業計画を検討しておくことも必要です。例えば、飲食店の場合、役務商標(サービスマーク)だけで足りるようにも思われますが、将来、商品の販売(テイクアウトや冷凍食品)をも視野に入れる場合には商品商標の申請が必要な場面もあり得るでしょう。どの区分で申請するか等についても、専門家のアドバイスを受けるべきだと考えます。

 

4 おわりに

池田総合法律事務所・池田特許事務所では、商標を利用したフランチャイズ展開などのビジネススキームについての法的サポートもさせていただいております。商標登録や知的財産を中心としたビジネス法務についてご相談がありましたら、池田総合法律事務所・池田特許事務所までご連絡ください。

 

山下陽平