はじめに
本ブログでは、今回から全6回にわたって、概ね以下のスケジュールで大家さん(賃貸人)向けの記事を連載します(あくまで予定であり、予告なく変更となる可能性がありますので、ご了承ください)。
第1回 令和4年4月15日 契約書作成の際の注意点(掲載済)
第2回 (今回)令和4年5月1日 賃貸期間中のトラブルへの対応(本記事)
第3回 令和4年5月15日 家賃の未払への対応(その1・家賃の回収)
第4回 令和4年6月1日 家賃の未払への対応(その2・明渡請求)
第5回 令和4年6月15日 賃貸物件の取壊しのための立退き請求
第6回 令和4年7月1日 賃借人(入居者)が死亡したときの対応
相続税対策といわれて賃貸アパートを建築したり、親から賃貸物件を引き継いだりして、賃貸経営に携わるようになったという方も少なくないと思います。
順調に賃料が支払われている間は良いですが、ひとたびトラブルが生じると、大家さんにかかる負担は小さくありません。
本コラムでは、よくある相談内容をもとに、弁護士の視点から発生しやすいトラブルについてご紹介をしますので、参考としていただければと思います。
第2回 賃貸期間中のトラブルへの対応
Q1 契約書にペット飼育禁止と明示してあるにもかかわらず,内緒で室内犬を飼育している入居者がいます。どのように対応したら良いでしょうか?
A1 ペット禁止と契約上で明示されているのであれば,室内犬を飼うことは賃貸借契約に違反していることになります。
そこで,賃貸人(大家)としては,室内犬を飼育していることを把握した場合には即時,ペットが居室内に入ることは認めない旨を書面で通知すべきです。
そのうえで,入居者が任意に退去しないのであれば,賃貸借契約に違反しているとして契約を解除して退去を求め,それでも退去しないのであれば訴訟で明け渡しを求めていくことになります。
一般的に室内犬などのペットの飼育が発覚するのは,鳴き声,排泄物等の異臭,犬猫等のペットの毛などに対するアレルギーがある方がいればアレルギー反応が出ているなどがきっかけになります。トラブルとして徐々に大きなものに発展していきかねませんので,早急に対応をする必要があります。
Q2 ある入居者の2階室内で水漏れが発生し,1階にまで水が流れてしまい,1階入居者のテレビなどの電化製品が壊れてしまいました。私は大家として損害賠償責任を負いますか?
A2 賃貸物件内の水漏れには色々な原因があります。例えば,壁内や床下に配置されている配管が破損したことが原因での水漏れであれば,賃貸人(大家)が2階入居者と1階入居者が被った損害を賠償する責任があります。
しかし,仮に2階室内での水漏れが,2階入居者がトイレに大量の異物を流したことが原因であったり,風呂の排水口の毛髪等のよる目詰まりを掃除しなかったことが原因であるなど,2階入居者に原因がある場合には,賃貸人(大家)は2階居室と1階居室の修繕工事にかかった費用を2階居住者に請求することができます。
また,上記の場合など,2階入居者に原因があることを明記した方が誤解がないと思います。1階入居者の家電製品が壊れたことについて,賃貸人(大家)としては特に責任があるわけではありませんので,1階入居者に対しては2階入居者に対して損害賠償を求めるよう伝えることになります。
質問の内容では2階居室の水漏れの原因が分かりませんので,正確に原因を調査したうえで,上記の場合分けにそって対応していく必要があります。
Q3 賃貸物件に備え付けられたエアコンが故障したり,トイレの詰まりで便器の故障が発生した場合,賃貸人(大家)として何かしなければなりませんか?
A3 これもエアコンが故障した原因やトイレが詰まった原因が設備そのものにあるのか,入居者が原因であるかによって,賃貸人(大家)としての対応が変わります。
もし,備え付けのエアコンが経年劣化などによって壊れた場合には,大家として交換する必要があります。
もっとも,入居者がエアコンのフィルターを掃除せず,フィルターが汚いといったこともあるかもしれませんが,直接故障につながったと断定できるほどに汚い場合は入居者にエアコンの修理代や新調代を請求できる可能性はあるかもしれませんが,断定をすることは一般的には困難だと思いますので,現実的には賃貸人(大家)負担で,エアコンを修理したり交換したりせざるをえません。
トイレの詰まりについても同様で,入居者が1ロール全部といった大量のトイレットペーパーをトイレに流したことにより詰まったのであれば,入居者にトイレの修理代を請求することはできます。しかし,入居者は通常の使用をし,それ以外の理由で故障したのであれば,やはりトイレの修理は賃貸人(大家)負担となるでしょう。
Q4 賃貸アパートの敷地の塀が倒れて通行人がケガをしました。どうやら2週間ほど前にあった大きめの地震で塀にヒビが入っており,それが原因で倒れたようです。私は通行人のケガについて損害賠償をしなければならないでしょうか?
A4 賃貸物件の敷地内における事故は,原則として賃貸人に責任があります。特に,敷地内の塀の倒壊の場合,民法717条1項は,「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは,その工作物の占有者は,被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし,占有者が損害の発生を防止するに必要な注意をしたときは,所有者がその損害を賠償しなければならない。」として工作物責任を定めています。
そして,この所有者の工作物責任は,無過失責任ですので,賃貸人(大家)として過失が無くても,通行人に対して賠償責任を負うことになります。
これは,例えば塀を設置する工事に手抜きがあるなど工事業者に責任があるのではないかと思われる場合も,所有者=賃貸人(大家)は,通行人に対して賠償責任を負わなければならないことを意味しています。
つまり,通行人としては,塀の倒壊によってケガをした賠償を求めるにあたって,工事業者か所有者のいずれでも構わないので,まずは賠償を受ける必要があり,工事業者と所有者の金銭負担の割合などは所有者と工事業者との間の内部的な問題なので関知しないということです。
以上のとおりですので,ご質問いただいた点については,塀の所有者として通行人の方のケガに対する賠償責任を負うことになります。
Q5 入居者の1人が夜中に大きな音で音楽を聴いたり,人を呼んで宴会をしていることがしばしばあり,他の入居者から苦情が来ています。貸主として何か対応する必要がありますか?
A5 アパートの住民による騒音等のトラブルは賃貸物件ではしばしば見受けられます。日勤や夜勤の方など生活時間は人それぞれですし,音に対する感受性もやはり人それぞれです。
したがって,明らかに過剰な騒音などを発生させているのではない限り,トラブルとなっている入居者同士の解決に委ね,賃貸人(大家)として関与するのであれば管理会社に委託していれば管理会社に間に入ってもらい,全戸に書面での注意を呼びかけるといった対応しか現実的には取れません。
しかし,近隣住民から警察に通報されるような騒音や迷惑行為が度重なるようであれば,賃貸借契約書の内容にもよりますが,賃貸借契約を解除することも可能な場合もあります。特にトラブルを発生させる入居者を放置していては,他の入居者が退去したり,新しい入居者が見つからないなど,入居率の低下も招くことになります。
入居率の低下は,特に建築資金を借り入れでまかなっている場合には,資金繰りにすら影響を与える重大な問題につながります。
そこで,明らかに騒音等のトラブルを繰り返し発生させている入居者に対しては,賃貸借契約を解除し,必要であれば訴訟で明渡しを求めるといった断固とした対応をする必要がある場合もあります。
まとめ
賃貸物件の入居率を維持するためには,賃貸人(大家)として賃貸期間中のトラブルに対しても適切に対応していく必要があります。
もちろん,入居者同士のトラブルであれば,賃貸人が積極的にトラブルに介入する必要はありません。
しかし,トラブルも対応を誤ると,評判の低下につながり,最終的には入居率の低下につながります。
そこで,管理会社に委託するというのも一つの方法ですが,さらに積極的にトラブルを解決していくということでれば,弁護士の助言や助力は必要不可欠と思います。
賃貸物件をお持ちのオーナーの皆さまで,継続的に弁護士のサポートが必要な方は,池田総合法律事務所にご相談ください。
(小澤尚記(こざわなおき))