株式交付に関する規定の新設

1.株式交付とは

2021年3月1日に施行された改正会社法での改正点を連続コラムで解説する第4回目は、株式交付に関する規定の新設についてです。

株式交付制度(会社法2条31号)とは、他の株式会社を買収しようとする株式会社が、その株式を対価として、円滑に当該他の株式会社を子会社とすることを可能にする制度です。

具体的には、他の株式会社を買収しようとする株式会社(買収会社,A社といいます。)は、当該他の株式会社(被買収会社,B社といいます。)の株式を譲り受ける際に、B社株式の譲渡人に対して、その対価として、A社の株式を交付することができるという制度です。

 

従来から、他の株式会社を買収するには、①株式交換(被買収会社が、その発行済み株式の全部を買収会社に取得させること)、または②現物出資(買収会社が、被買収会社の株式を現物出資財産として、被買収会社の株主に新株発行等を行うこと)といった方法があります。

しかし、①株式交換については、対象会社を完全子会社とする場合でなければ利用することができないこと、②現物出資については、原則として裁判所が選任する検査役の検査が必要であり、その時間・費用が発生すること、手続が複雑であるという指摘がされています。

このような問題を解消するため、今回の改正法により、株式交付制度が新設されました。

 

2.株式交付の手続き

(1)株式交付計画の作成・承認

株式交付を行う場合は、買収会社は株式交付計画を作成する必要があります。

株式交付計画では、つぎのような事項を定める必要があります。

・被買収会社の株主から譲り受ける被買収会社株式の数の下限

・株式交付の対価として交付する買収会社の株式や金銭等の内容およびその割当てに関する事項

・株式交付の効力発生日 等

なお、株式交付計画は、原則として、株主総会の特別決議による承認を受ける必要があります。

(2)買収会社による通知

買収会社は、被買収会社の株主のうち譲渡を申し込もうとする者に対して、株式交付計画の内容等を通知します。

(3)被買収会社の株主による株式の譲渡の申込み

申込者(被買収会社の株主)は、申込期日までに、譲渡しようとする株式数等を記載した書面を買収会社に交付します。

(4)申込者への割当て

買収会社は、申込者の中から、株式を譲り受ける者およびその者に割り当てる株式交付親会社の株式の数を定め、その内容を申込者に通知します。

(5)被買収会社株式の譲渡

申込者は、効力発生日に、被買収会社株式を買収会社に給付します。これによって、申込者は買収会社の株主となります。

(6)事前・事後の備置き

買収会社は、事前開示として、株式交付計画備置開始日から6か月を経過する日までの間、株式交付計画の内容その他一定の事項を記載した書面(または電磁的記録)を本店に備え置く必要があります。

また、事後開示として、効力発生日後遅滞なく、株式交付によって譲り受けた株式の数等を記載した書面(または電磁的記録)を、効力発生日から6か月間本店に備え置く必要があります。

 

以上が、株式交付の大まかな手続きです。

今回の株式交付制度の新設により、株式を対価とした企業買収が、より円滑に行えることになると考えられます。

<石田美果>

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑪

ynassociates.net の最近の投稿より

まだまだ続くコロナ感染をニューヨークから。続編

Posted 2021年8月14日 YokoNogami

世界中で感染が止まらない状況をニューヨークから見ていますが、ここマンハッタンでは、7月初めから やっと街の様子が、前の状態に戻っていくように感じました。人混みも増え車の渋滞も増えてきました。

クラクションの音はこの1年半聞くこともあまりありませんでしたが、それも戻ってきました。「あぁ〜、うるさいな~」と感じる反面、なんだかホッとする私がいます。

これまでは、感染防止対策で仕方がなく車道まではみ出していたレストランやバーのテーブルは、ちょっと気軽に軽食をするホッとした場所に変わり、週末には、大人数のグループがワイワイと子供を含めて食事するのも見るようになりました。こうした雑踏もなんだかよいものだと感じています。マスクを外して散歩、住んでいるビルではマスクなしでランドリーに行けます。

しかし、米国全体を見ると、感染拡大中のパンデミックです。ニューヨークなどの大都市を有する州の感染が静まり、今度はその他の州で、感染拡大がひどくなってきています。ニューヨークやカリフォルニア、ボストン、シカゴなど大都市のある州から多くの感染者が出て、恐ろしいほど早い広がりを見せていた時、感染拡大は都会の外国人のせいだと騒いだり、感染は限定的だ、ワクチンは信じない、感染はインフルエンザ程度と共和党議員たちが言い、トランプ大統領も「自分を見ろ。心配はない」と主張し、そういった意見を支持していた州の住民が、今、犠牲になっています。

テレビでは、「専門家の意見を聞こう! 医学を信じよう!」と宣伝していますが、米国中を見ると感染が増えるばかりです。予防接種に積極的な地域では、感染のおさまりが見られ、接種に批判的な地域では感染拡大が起きています。

こうした状況でも、人の移動に制限ができないので、今週からは、ニューヨークでもマスクをできるだけするように、特に建物の中ではマスクをしてくださいとテレビで盛んに言っています。確かに外でマスクをする人が増えましたし、エレベーターでは、マスクを自主的にする人を多く見かけます。

私は、過去にインフルエンザでひどい目に遭ったことがあります。年末の休暇中に寝込み、「もっと気を付けていたらよかった」と寝込んで思っても手遅れでした。今は予防接種をしたり、体調を考えたりしていますのは、忍び寄る癌やその他の病気も含めて、自分の体調を過信したり、知らないうちに病気になることが起きると実感し、早期診察や健康診断をしています。

ワクチンがなく、接種したくてもできない国がある反面、ワクチンが十分にあるのに打たない人たち、米国ニュースでは、ワクチンを打たないのは、自由な考えとして報道されていますが、その中には、まったく根も葉もないバカバカしい理由もあり、根拠のない理由もあります。

米国人は「自由」という言葉が好きです。基本的には、本人の意思で決め、強制はできないと、以前も書きました。その通りなのですが、街を歩いていて、接種したのに今も感染するかもしれないと怯えて気を使って行動する人たちと 接種に反対し普段の生活も変えず、マスクもしない人たちの、その両方がすぐ近くにいます。

米国で接種する人としない人を差別してはいけないと、多くの人が言います。米国では予防接種をしなければ渡航Visaが取れない時期がありました。差別ではなく、感染の可能性は本人も周りも同様ですが、現状況では接種をしていない人の重症化が明らかです。

今のマンハッタンでは、美術館や博物館、映画館などでは、入場制限をして密にならないようにするための安全対策をして開館しています。以前紹介したように6月には、ある大規模な音楽コンサートで、チケット購入しても接種完了を示す証明がなければ、会場に入れないことが記事になりました。参加ミュージシャンがインタビューでファンに「できるだけ安全対策をしてみてほしい」と言いました。

だいぶ前ですが、あるミュージシャンは、観客だけでなく演奏家も大きな透明な風船の中に入れてコンサートをして話題になりました。去年の夏は、それぞれが間隔を空けるよう、円を書いてその中で日光浴をしていました。

観光地ハワイでは、入島する際にはワクチン接種の証明が必要などの処置がとられています。秋から本格的に開演するブロードウェイのショーは、出演者、劇場関係者全員の接種が必須、そして観客には“接種証明書が必要”としました。そして、オペラ、バレエ、コンサートホールのあるリンカーンセンターでも、観客はチケットと接種証明、それと接種のできない年齢の子供は、観劇できないと決めました。これは、それぞれの劇場労働組合や海外出身の出演者の健康安全第一で、万が一感染すれば、すべての公演中止になる恐れがあるからです。特に長いオペラシーズンでは、冬場の公演が中止になれば大問題です。

州外からの観光者に対しては、接種した証明を持ち歩くこと、外国からの観光客には接種を勧めることによって、ニューヨークで感染拡大がまた起きないようにすることを狙い、接種していないと観光が制限されます。

ニューヨーク州では3月から州独自の接種カードを作りました。初めは2回の接種の確認のためだけだったのですが、新しい接種カードには、接種をした日時、ワクチンの種類、そしてそのワクチンのロット番号が記載されていて、3度目のワクチン接種をする際には、記憶に頼らなくてもよいわけです(私は今は両方携帯に入れて必要であればすぐ提示出来る様にしていますが、まだ提示を求められたことはありません。)。

今後レストラン、バーでも接種証明の確認を義務づける発表がありました。接種をするかしないかは本人の自由だけども、他人の生活を妨げてはいけない。レストランやバーで働く人も感染する可能性があるのだから、接種した証明書を提示すのは当たり前だとの考えのようです。

客の接種確認して、その確認を怠った場合は、レストランやバーが罰金を支払うことになります。以前から、お酒の提供や購入には、年齢証明書を確認する義務があり、これを怠った場合と同様になります。

レストランやバーでマスクを外し、食事をしながら会話をするのは楽しいことですが、隣のテーブルの人が自分と同じく接種しているかどうか気になります。サーブする側もされる側も感染リスクをいつも考えます。日本でも、居酒屋の感染対策を強化し、お店の感染対策を問われますが、どんなに除菌をしてもお客が持ち込む感染は、防げません。

マンハッタンでは、去年、宅配人をビルに入れない徹底ぶりでした。今の日本では、ただただ息をひそめているしか方法がないかもしれません。

ニューヨークでの、1年半の間、多くのレストランやバーが閉店しました。閉店した店舗はまだ空き店舗です。開店していて感染違反で罰金や営業停止など多くの問題がありました。今やっと感染が減り、ワクチン接種だけが感染を防ぐ方法だと感じます。この方法も完全ではありませんが、今できる感染死亡を防ぐ方法として接種が必要だと思う人がいますし、3回目のワクチン接種の医学的根拠と時期について興味がある人が多くいます。

ニューヨークの接種証明確認は、苦肉の策ですが、すでにスポーツジムでは、接種証明と身分証明書が必要になったと友人が言います。ワクチン接種をして感染したくない人達は、新たな感染拡大防止策に前向きです。

このようにマンハッタンの感染対策を徹底することは、観光、演劇、芸術の分野や多くの経済の後押しになると信じたいです。そして、これは経済立て直しの始めになります。

米国の深刻な問題は、日本でもすでに報道されていますが、米国で「接種はしない」、「普段の生活は変えない」と声を上げていた人たちが、今パンデミックの中にいます。都会から離れて密にならない田舎で、教会や親族パーティー、学校など集まる場所で感染が増えています。もちろんレストランやバーも通常通り運営していた州は、今医療崩壊の危機にいます。もう一つ、東京で開催のオリンピックに現地まで応援に行けないアメリカ選手団の親族が実況中継見ながら、集まって大声で観戦、応援をしていました。これを見て、オリンピック開催が感染拡大につながっているのは、日本だけじゃなく、もしかしたらどこの国でも起きているのではないかと感じていました。

感染は、また起きうることです。代表的なものとしてエボラですが、それ以外にも多くの感染症の予防薬や特効薬が開発されていません。日本は地震大国で地震は、また起きます。米国の竜巻も同じで止めることは出来ません。でも、過去のデーターを分析し対策を考えることはできます。現に今回のコロナワクチンも何十年ものデーターの解析で得た資料が基になっているということです。日本の地震予測はどの国よりも優れていると何かで読んだ覚えがあります。

今の世の中、コンピューターを使い多くの学術的資料を探せるのですから、多くの予備知識を蓄え、世界中から学んで、うわさやデマなどに惑わされないよう行動してほしいと思います。最後に自分で決断をして行動を取るのは災害の時と同じだと考えます。

資料です。NY州でワクチンパス 携帯アプリで表示、全米初―新型コロナの日本での記事です。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021032700310&g=int

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

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土壌汚染対策法の概要

2020年6月11日掲載の法律コラム「土壌汚染が疑われる土地売買その他の注意点」で土壌汚染が疑われる土地売買にあたっての注意点などを挙げましたが,土壌汚染については土壌汚染対策法で規制がかかっています。

そこで,今回は土壌汚染対策法の概要をまとめました。土壌汚染の問題は環境分野の一つではあり,古くて新しい問題であり続けています。現在では,ESG投資という言葉もあるとおり,土壌汚染は環境,社会,企業統治のいずれの面からも問題になる可能性がありますので,ご参照ください。

 

1 土壌汚染対策法の目的(法1条)

土壌汚染対策法では,①汚染土壌から有害物質が地下水に溶出し,その地下水を飲用利用等する経路による健康被害,②汚染土壌の摂取(例えば,砂塵となった土壌が口に入る場合など)や皮膚からの吸収による直接摂取の経路による健康被害を防止することに目的があります。

農用地の土壌汚染については,人の健康を損なうおそれがある農畜産物の生産及び農作物との生育の阻害を防止することを目的として,「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」に基づく規制があります。

ダイオキシン類による土壌汚染については,特別法であるダイオキシン類対策特別措置法が土壌汚染対策法よりも優先適用されるものと考えられます。

放射性物質による土壌汚染についても,特別法である放射性物質汚染対処特別措置法による規制が優先されます。

廃棄物の処理等を原因とする土壌汚染については,土壌汚染対策法の規制対象ですが,土壌中の廃棄物は廃棄物処理法の規制対象になります。なお,土壌が汚染されておらず,産業廃棄物も存在しない「土壌」,いわゆる建築残土などの『土』そのものは,土壌汚染対策法の規制対象にもなりませんし,『土』は廃棄物=ゴミではないので,廃棄物処理法の規制対象にもなりません。

 

2 土壌汚染対策法の規制対象物質(法2条)

土壌汚染対策法の規制対象物質は,法2条とそれをうけた土壌汚染対策法施行規則で定められた,①第1種特定有害物質(揮発性有機化合物)(12項目),②第2種特定有害物質(重金属等)(9項目),③第3種特定有害物質(農薬,PCB等)(5項目)があります。

そして,①~③については,「土壌溶出量基準」が定められ,地下水に溶出した場合の健康リスクを防止しようとしています。

また,②については,「土壌含有量基準」も定められており,直接摂取による健康リスクを防止しようとしています。

例えば,土壌汚染対策法施行規則第1条第1号に定められている「カドミウム」(第2種特定有害物質)は,富山県神通川流域でイタイイタイ病という公害をもたらした原因物質であり,神通川流域にカドミウムが排出され,土壌中に入り込み,そこで育った作物等の摂取を通じて人体に取り込まれ,人の健康に害を及ぼしました。そこで規制対象となっています。

 

3 土壌汚染状況調査(法3条)

(1)調査対象土地

調査対象となる土地は,特定有害物質を使用等する水質汚濁防止法の特定施設(特定物質使用特定施設)が設置されている工場または事業場(工場等)の敷地です。

(2)調査の契機

調査は,工場等を廃止(特定有害物質の使用をやめる場合も含む)し,土地の用途を工場等以外の用途に変更する時点です。

(3)調査の実施主体

工場等の土地の所有者,管理者,占有者があたります。

所有者が調査主体となるのは,調査のため土地の掘削等を要するので必要な権原を有するのは所有者であるためです。

しかし,必要な権原を所有者が破産していれば破産管財人が権原を有しますので,その場合には管理者,占有者が調査実施主体になります。

(4)他の調査

他に,①土壌汚染のおそれがある土地の形質の変更が行われる場合の調査(法4条),②土壌汚染による健康被害が生ずるおそれがある土地の調査(法5条)があります。

 

4 土壌汚染の除去

(1)土壌汚染の除去主体(法7条)

土壌汚染の除去の主体は,汚染原因者,土地の所有者,管理者,占有者です。

これも調査の考え方と同じで,土壌汚染を除去しようとする場合には土地そのものに手を入れる必要があることから,権原として所有権を有する所有者が主体になります。

(2)費用の請求(法8条)

土地の所有者等が,土壌汚染の除去をした場合,その除去費用は,所有者から汚染原因者に請求できます(汚染者負担の原則)。

しかし,土壌汚染対策法8条に基づき,土地所有者等が汚染原因者に請求できるのは,土壌汚染対策法に基づく指示を受けた場合に限定されます。

また,土地所有者等が,汚染原因者に請求できる費用は,指示の差異に示された措置(指示措置)に必要な計画の作成,変更及び指示措置のための実施費用に限定されています(土壌汚染状況調査の費用や指示措置以外の内容の費用は請求できません。)。

(3)消滅時効

①実施措置を講じ,汚染原因者を知ってから「3年間」

②実施措置を講じてから「20年」経過

に請求しなければ消滅時効となり,権利が消滅するおそれがあります。

 

5 最後に

土壌汚染対策法は,土壌汚染の原因を作ったわけではない土地の所有者等が最終的に土壌汚染の除去工事をしなければならない可能性があるとしています。

工場跡地などの大規模商業施設開発,大規模マンション開発の際には,避けて通れない問題ですし,一度,土壌汚染が判明すれば多額の費用をかけて土壌汚染対策工事除去工事をする必要があります。

法人の事業等において,土壌汚染の問題がありましたら,一度,池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

会社補償・役員賠償責任保険のルールの新設

1 はじめに

2021年3月1日に施行された改正会社法での改正点を連続コラムで解説する第3回目は,会社補償や役員賠償責任保険(D&O保険(Directors and Officers Liability Insurance))のルールです。

失敗から学び,試行錯誤しながら事業を行っていくなかで,役員などが職務執行にあたって失敗した場合に賠償責任を負うことになると,大胆な職務執行ができなくなる可能性がありますが,他方,何らの責任も負わないとすると会社法が役員等の賠償責任を認めている意味がなくなります。

これらの両要素のバランスをとるためのルールが導入されました。

上場会社,非上場会社にかかわらず,役員等の賠償責任の問題は生じますので,会社経営者や取締役等として会社の経営に携わっている方は,知識として把握しておくと良いでしょう。

 

2 会社補償(会社法430条の2)

(1)会社補償とは

会社補償は,役員が職務執行に関して損害賠償請求,刑事訴追等を受けた場合に,役員等が要した争訟費用,損害賠償金等の全部・一部を会社が負担することです。

(2)会社補償契約の内容決定

会社が会社補償契約の内容を決定するには,

①取締役会設置会社では,取締役会決議

②取締役会非設置会社では,株主総会決議

が必要になります。

(3)会社補償契約の内容

補償契約の内容としては,

・役員等が,職務執行に関し,法令違反(刑法・独禁法等)が疑われ,または責任追及に係る請求を受けたこと(悪意・重過失があっても良い。必要であれば430条の2第3項で返還請求をします)に対処するために支出する費用(例えば,弁護士費用)(430条の2第1項第1号)。

ただし,通常要する費用を超える部分は補償できない。

善意・有過失の役員等が,職務執行に関し,会社以外の第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合に,①損害を役員等が賠償することにより生じる損失,②損害賠償に関する紛争について当事者間で和解が成立した場合の和解に基づく金銭の支払いにより生じる損失(430条の2第1項第2号)

ただし,会社と取締役が連帯して第三者に賠償責任を負っている場合に,取締役負担部分は補償できない(この補償を認めると取締役の会社に対する責任を免除したことと何ら変わらないため)。

 


※第2号の損失補償については,悪意・重過失の役員等の補償はできません。したがって,会社法429条の役員等の第三者に対する損害賠償責任(429条1項「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは,当該役員等は,これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」)は,役員等の悪意・重過失を要件としていますので,カバーできないことになります。


(4)補償の実行

すでに締結済みの補償契約に基づき,補償を実行する場合には,取締役会や株主総会の決議は不要です。

ただし,補償の実行額等によっては,会社の重要な業務執行の決定に当たることも考えられますので,取締役会決議が必要になることは想定されます。

(5)補償についての重要な事実の報告

取締役会設置会社では,補償契約に基づく補償を受けた役員等は,遅滞なく,補償についての重要な事実を取締役会に報告しなければならないと定められています(430条の2第4項)。

(6)公開会社における補償契約の内容の開示

公開会社では,

①補償契約を締結している取締役の氏名・契約内容

②費用を補償した場合において当該役員等が責任を負うこと等を知ったとき

③損失を補償した場合には,その旨及び金額

を事業報告において開示する必要があります。

また,取締役選任の際の株主総会参考書類に,補償契約の内容の概要を記載しなければいけません。

 

3 役員賠償責任保険(会社法430条の3)

(1)概要

役員等を被保険者,会社を保険契約者として,役員等が業務について行った行為(不作為を含む)を理由に損害賠償請求を受けた場合に,役員等の損害を補填する損害賠償保険のことを役員賠償責任保険(D&O保険)といいます。

役員賠償責任保険は,1993年の販売認可により導入されてきましたが,会社が保険契約者ですので,その保険料は会社が負担します。しかし,会社が保険料を支払って,取締役の会社に対する損害賠償責任に対しても保険金が支払うことも可能であり,会社補償契約よりも問題が大きいとされていました。

そこで,今回の会社法改正で役員賠償責任保険のルールが導入されました。

(2)役員賠償責任保険の内容決定

会社が,役員等の職務執行に関し責任を負うこと,または責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者(=損保会社)が填補することを約束し,役員等を被保険者とする保険契約の内容を決定するには,

①取締役会設置会社では,取締役会決議

②取締役会非設置会社では,株主総会決議

が必要になります。

(3)役員賠償責任保険の更新

役員賠償責任保険の更新時には,契約内容が従前のままでも,取締役会または株主総会の決議が必要となります。

(4)公開会社における役員賠償責任保険の内容の開示

公開会社では,

①被保険者の範囲

②保険契約の内容の概要(被保険者が実質的に保険料を負担している場合には負担割合,保険事故の概要等)

を事業報告において開示する必要があります。

※保険金額・保険料,契約に基づく保険給付の金額等は開示対象外です。

また,取締役選任の際の株主総会参考書類に,候補者を被保険者とする役員賠償責任保険の内容の概要を記載しなければいけません。

 

4 まとめ

以上のように,これまで会社と役員等の利益相反にあたるのではないかと考えられていた会社補償契約や役員賠償責任保険が,どういったルールのもとで締結できるのかが改正法により明確になりました。

会社補償契約や役員賠償責任保険は上場,非上場にかかわらず導入できる制度です。これらの導入をすれば,役員等の人材確保や積極的な経営判断につながり,会社の活性化につながりえるものです。

例えば事業承継を検討されるなど,会社のこれからを検討されている事業者様に対しては,会社の現状をお聞きして,将来に向けて何ができるのかを弁護士としてアドバイスさせていただきます。

是非,池田総合法律事務所にご相談ください。

 

<小澤尚記(こざわなおき)>

取締役の報酬に関する規律の見直し

2021年3月1日に施行された改正会社法で、取締役の報酬に関する規律の見直しがなされました。一部の改正については対象が上場会社等に限定されていますが、そうした改正についても、今後上場を目指している経営者の方は、知識として把握しておくと良いでしょう。

 

1 概要

取締役の報酬等の内容の決定手続等に関する透明性を向上させるとともに、株式会社が業績等に連動した報酬等を適正かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため、概ね以下の内容の改正がなされました。

① 上場会社等の取締役会は、定款の定めや株主総会の決議により取締役の個人別の報酬等の内容が具体的に定められない場合には、その内容についての決定方針を定めなければならないこととなりました。

② 取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、当該株式又は新株予約権の数の上限等を定めなければならないこととなりました。

③ 上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととなりました。

④ 事業報告による情報開示の充実

 

2 個人別の報酬等の決定方針の決定の義務化(会社法361条7項)について

(1)改正の内容

取締役が報酬、賞与その他の職務執行上の対価である財産上の利益(報酬等)を受領する場合には、その額や具体的な算定方法を定款もしくは株主総会の決議で定めなければなりません(会社法361条1項)。

もっとも、こうした規制の目的は、高額の報酬が株主の利益を害する危険を排除することにあるため、定款・株主総会決議により個々の取締役ごとに金額等を定める必要は無く、取締役全員に支給する総額等のみを定め、各取締役に対する具体的配分は、取締役会に委ねることが出来るものとされていました(最判昭和60年3月26日判時1159号150頁)。

しかしながら、上記の手続では、個々の取締役の報酬を定めるプロセスが透明性に欠けます。また、取締役会が具体的配分を代表取締役に一任する例も多く、そうした場合には、取締役会による代表取締役の監督に不適切な影響を与える可能性があります。

報酬は、取締役に適切な職務執行のインセンティブを付与する手段となり得るものであり、これを適切に機能させ、その手続を透明化する必要があることから、後記(2)の会社については、取締役会において、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として会社法施行規則98条の5各号に定める事項(報酬等の決定方針)を決定し(会社法361条7項)、事業報告に開示しなければならないものとされました(会社法施行規則119条2号・121条6号)。

 

(2)対象となる会社

改正1の対象となるのは以下のいずれかに該当する会社です。

① 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって、金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの

② 監査等委員会設置会社

 

3 株式や新株予約権を報酬とするときに決議すべき事項について

従前より、取締役に対する非金銭的な報酬等として、株式や新株予約権(いわゆるストック・オプション)を付与することがありました。

こうした報酬等を付与する場合、改正前の会社法では、「具体的な内容」を定款や株主総会の決議で定めなければならないとされているだけでした。

この度の改正で、株式や新株予約権を報酬等とする場合に、報酬として付与される株式や新株予約権の数の上限等、定款や株主総会で決議すべき事項が具体的に規定されました(株式について会社法361条1項3号・会社法施行規則98条の2、新株予約権について会社法361条1項4号・会社法施行規則98条の3)。

 

4 報酬として株式を発行等する場合の金銭の払込みの不要化について

上場会社が取締役の報酬として株式を発行等する場合に、出資の履行(金銭の払込み等)を要しないこととなりました(会社法202条の2)。

会社法199条1項の募集株式の発行等においては、募集株式の払込金額またはその算定方法を定めなければならないこととされています(同2項)。そのため、取締役の報酬等として株式を交付しようとする場合、実務上、金銭を取締役の報酬等とした上で、取締役に募集株式を割り当て、引受人となった取締役に会社に対する報酬債権を現物出資する形をとっていました。

改正後の会社法では、こうした手法をとる必要はなくなります。

 

5 事業報告による情報開示の充実化について

公開会社について、事業報告における取締役の報酬等に関する記載事項の充実が図られました(会社法施行規則121条4号~6号の3)。

<川瀬 裕久>

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑩

20216月、ニューヨーク にて。コロナ感染を考える

ニューヨーク州から市民宛に送られてきたEメールを訳してみました(そのEメールの原文(一部)は末尾にありますのでご覧ください)。

2020年初め緊急事態宣言後から今まで州知事から毎日来ていたemailは、「親愛なるXXXさん」で始まります。

 

「本日、パンデミックの緊急事態を解除し、ニューヨークのCOVID-19非常事態宣言は終了しました。 しかし連邦CDCガイダンスは引き続き実施されます。つまり、ワクチン接種を受けていない場合は、屋内の公共の場ではマスクを着用する必要があります。 公共交通機関や医療施設などの特定の場所では、マスクは引き続き必要です。 COVIDとの戦いとニューヨーカーへの予防接種は依然として私たちの最優先事項ですが、緊急事態は終わりました。これは、ニューヨーカー、特にすべての重要な労働者の努力のおかげです。私たちは、COVIDの回復と、ニューヨークの再考と再建に引き続き注力していきます。」

 

緊急事態宣言後、生活に必要な食料品店以外はすべて閉店。美容院、ネイルサロン、もちろん洋服店などは当然閉店でした。マンハッタンは、劇場も映画館もホテルもすべて閉鎖、娯楽は全くなくなりました。寂しいという感じは全くなく、緊張した日が続きました。今は、すでに博物館や美術館は定員制限の予約制ですが開館しました。もうすぐブロードウェイも戻ってきます。

去年を思い出すと、公共交通も医療従事者や食料品の従業員など、必要不可欠な人以外は使わないようにと告知され、6か月間は、事務所は自粛閉鎖。去年の秋から、事務所まで徒歩30分ほど、途中の道は、誰にもすれ違うことがなく、車が走っていないため信号機が不必要でした。当時、事務所にも人がいませんが部屋を出る時は、マスクをして、ドアやノブを触る度に消毒は欠かせませんでした。

マーケットは人数制限をして、床には一方通行の印が有り、並ぶときには2メートル間隔で並ぶように床には印があります(今もあります)。エレベーターはサイズに関わらず3人まで、アパートのエレベーターは2人まで、皆我慢をしていました。買い物かごは、部屋に即持ち込まず、半日や1日置きっぱなしにして感染を防いでいました。

ここまでしなければ ダメなのかしら?と思うかもしれませんが、こうした防御は、自分を自分で守る方法でした。私の住んでいるビルからも感染者が出ましたし、ビルの管理者も感染しました。感染はすぐそばにあるもので、でも見えないもので、対策をとっても感染してしまう可能性がありました。

 

 

あれから1年半が経ち、ワクチンが進み、事務所のビルはマスクなしで入れます。エレベーターは3人から4人まで乗れます。事務所内でもマスクなしで過ごせるようになり、事務所の住人の笑顔が見えます。それでも習慣化したマスクやデスタンスは残っています。

ニューヨークでのワクチン接種は、2021年1月から始まり、75歳以上の高年齢者、医師や医療従事者(高年齢者施設の職員も含む)、そしてその2週間後には、65歳以上の市民、マーケットの従業員、公共交通従事者、警察官、消防士らの接種が始まりました。予約はインターネットで行い、年齢が判る身分証明書(人によっては職種証明書や雇用証明など)を持って接種所に向かいました。場所は幕張メッセの様な大きな施設(週末は、州の学校)を会場にしていました。私の接種時に一緒になった若い人たちは、職業の証明書を見せていました。

どのくらいの勢いで接種が進むのかが気になっていましたが、かかりつけの医師や病院の関係者、その次に、マーケットのレジのお姉さん、食料品を運んでくるトランクのおじさん、バスの運転手、地下鉄の運転手など、24時間働いて普段の生活を支えてくれる人達が高年齢者と一緒に接種が進み、生活を支えてくれている人たちが受けられて、本当にほっとしました。

 

 

今は誰でも即接種ができます。PCR検査も同じように移動車が回っています。どちらも気軽にその場で受付してもらい無料です。徐々に通常の生活に戻ってきている感じがします。車の渋滞を見ますし、朝の通勤ラッシュで人が多く移動しています。

マンハッタンの接種率は、大変高いですが、でも全員ではありません。それに、他の州からの訪問者もいます。通勤で使うバスの中には、マスクを外している人をたまに見ます。不愉快と感じているのは私だけではないようです。

マーケットでは、接種をした人はマスクが不要といいますが、自己申告で本当のところはわかりません。マスクをしていない人に限って、マスクの件を指摘されると、自分は接種していると言い張ります。同時に、お店のレジの人達は、緊張して笑顔が消えます。レストランやバーではもちろんマスクを外していますが、お店の人たちは、マスクをしています。

もちろん病院では、全員マスク着用です(これは今後長きにわたり残ると思います)。こうしてニューヨークのマンハッタンのことを書いていますが、では米国全体としてどうなのでしょう?

 

 

米国では、自分の身は自分で守る。個人の意志を尊重する考え方があります。ここに住み始めて、よく聞かれたのは、「あなたは、どうしたいの?」という言葉でした。その通りにならないとしても自分の思いを言うようにとよく言われました。

宗教、個人の考え、体調、どんな理由であれ、接種は強制できません。もちろんインフルエンザや他の接種についても同じです。今回は政治的な背景があるようですが、それも個人が判断することです。

日本からの訪問者だけでなく、多くの国から米国に入国する人たちも、国内での移動時など、他人が1メートル以内に長い間いるような移動は、気になるようです。私も気になります。私が気になる理由は、もしかしたら2020年の3月ごろ、同じ事務所を使っていた人がマイアミに行き、機内で感染して2週間後に亡くなったせいかもしれません。40歳ぐらいでがっちりとした体格の健康そうな人でした。誰もが驚きましたが、どうにもなりません。本人が一番驚いたと思います。

世界中を巻き込んでいる感染ですから、国内に持ちこませまいとすべてのことを遮断していても日本に入って来てしまうでしょう。

インドもEUも他のアジアでも感染はどこでも起きています。パスポートで母国に帰る理由で行き来する渡航者、ニューヨークの様に二重国籍の多いところでは、人の動きを止めるよりも、できる限り接種して、感染犠牲者を防ぎたいと考えていると感じます。誰が接種完了したか判りませんから。

 

 

先日、ブルース・スプリングスティーンのコンサートがあり、入場には、チケットと身分証明、それに2回の接種完了の証明がないと会場に入れない、という方法が取られました。接種証明書は、アメリカでは反対派が多く、実現しないと言われていますが、ニューヨーカーはニューヨーク独自の接種証明書をApp化しています。

ここ世界中の人が住んでいるニューヨークでは、確実に死者や感染者が減少しています。6月24日発表では、ニューヨーク州人口20,759,365人中、PCR検査113,108人中343人の感染、死者は5人、入院中442人です。

6月28日発表では、PCR検査55,334人中、290人の感染確認、死者は3人、入院中346人でした。

感染者や患者の中で、ワクチンを打っていない人が多いのもまた事実です。

 

 

今後、出張や旅行、すべての移動に制限を付けてはいられません。観光大国は日本だけではなく、マンハッタンもパリもミラノも観光は、大きな経済の支えです。オリンピックイベントだけではなく、海外アーテストのコンサートやオペラ、演劇など、多くの海外からの文化を遮断することはできないと思うのです。

何十年も前の話ですが、私は、日本を出る時に予防接種をしました。米国入国時に接種をしていなければ入国できなかったのです。そんな時代もあったのです。

私は(もし陽性だとしても)人に移したくないし、これ以上知り合いで亡くなって欲しくないです。味覚障害や臭覚障害は、一度なってみないと判らないことですが、とても辛いでしょう。体調不良や呼吸疾患なども治る保証はありません。

 

 

以上、ニューヨークで改めて考えさせられたことを書きました。ニューヨークで事業展開や投資業務のお手伝いをしている私ですが、安全・安心の下、ビジネスを進めていかなければなりません。現地情報が必要な方々は、私の会社窓口までお尋ねください。いつでもお気軽にお尋ね頂ければ幸甚です。

 

 

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

 

New York StateからのMailの原文(一部分)


June 24, 2021.

Dear Yoko,

Today we close out the emergency chapter in the pandemic—effective today, New York’s COVID-19 State of Emergency has ended. Federal CDC guidance will remain in place, meaning if you’re unvaccinated, you should still wear a mask in public indoors. Masks will also still be required on public transit and certain other settings, like health care facilities. Fighting COVID and vaccinating New Yorkers are still our top priorities but the emergency is over—and that’s thanks to the hard work of New Yorkers and especially all our essential workers. We will continue to focus on COVID recovery and reimagining and rebuilding New York.

 

  1. COVID hospitalizations are at 442. Of the 113,108 tests reported yesterday, 343, or 0.30 percent, were positive. The 7-day average percent positivity was 0.35 percent. There were 101 patients in ICU yesterday, down one from the previous day. Of them, 60 are intubated. Sadly, we lost 5 New Yorkers to the virus.

 

  1. As of 11am this morning, 71.3 percent of adult New Yorkers have completed at least one vaccine dose, per the CDC. Over the past 24 hours, 56,547 total doses have been administered. To date, New York administered 20,759,365 total doses with 63.5 percent of adult New Yorkers completing their vaccine series. See additional data on the State’s

 

社外取締役を置くことの義務付けについて

令和元年の会社法改正により、監査役会設置会社のうち、公開会社であり、かつ大会社で、金融商品取引法上、発行株式につき、有価証券報告書の提出義務を負う会社については、社外取締役を置かなければならないとされ(改正会社法第327条の2)、既に改正会社法は施行されております。但し、改正法の施行当時(2021年3月1日)、上場会社等であって社外取締役を置いていないものについては、選任のために臨時株主総会を開催することは要せず、改正法の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までに、社外取締役を選任すればいいことになっています。したがって、3月末日を決算日とする会社については、来年の定時株主総会までに対応すればいいことになります。

 

これまでは、上記の対象会社が社外取締役を置いていない場合には、取締役は定期株主総会で、社外取締役を置くことが相当でない事由を説明しなければならないとされていたものを一歩進めて、義務化したものです。少数株主を含む全ての株主に共通する株主の共同の利益を代弁する立場として、業務執行者から独立して経営を監督し、コーポレートガバナンスを実効的に機能させていくという社外取締役の役割、有用性が広く認知されていることもあり(令和2年7月現在で上場会社の98.4%において社外取締役が選任)、義務化されたものです。

 

対象会社は、以下の要件を全て満たす株式会社です。

①監査役会設置会社であること

なお、監査等委員会設置会社や指名委員会設置会社については、2人以上の社外取締役を必ず置くこととされており、今回の改正は監査役会設置会社のみを対象としたものです。

②公開会社であること

全株式を自由に譲渡できる株式会社であること(株式の譲渡制限のない会社)

③大会社であること

貸借対照表上の資本金が5億円以上であるか、又は、負債の合計額が200億円以上で計上されている株式会社

④金融商品取引法24条第1項により、株式について有価証券報告書の提出義務を負う会社

金融商品取引所に上場されている株券の発行者である会社、すなわち、上場会社がその対象となります(同項1号)。また、上場していなくても、株主が1000人以上である株式会社等は対象会社となります(同項2号)。

 

施行後遅滞なく社外取締役の選任をしなかった場合には、取締役としての善管注意義務違反が問われ、また、100万円以下の過料に処せられます。

また、事故等により、社外取締役が欠けるに至った場合も、社外取締役を選任するための手続きを遅滞なく進めて、合理的な期間内に社外取締役が選任されたときは、それまでの間になされ取締役会の決議は無効とならないとされています。但し、長期間欠員のまま放置され、社外取締役による監督がなされていない状況の取締役会の決議は無効となる場合もあります。

 

社外取締役が1名の場合は、不慮の事態に備えて補欠取締役の選任(会社法329条3項)をするといった対応も必要であると考えられます。

また、東京証券取引所が上場会社に求める主要な原則をまとめた改訂コーポレートガバナンスコード(令和3年6月11日施行)では、市場再編後のプライム市場上場会社においては、独立社外取締役を3分の1以上、それ以外の市場上場会社は、2名以上選任すべきとされています。

 

池田総合法律事務所は、会社の組織運営・株主総会運営等を含め会社法務全般について業務を取扱っており、社外取締役、監査役として稼働している弁護士も在籍しております。お気軽にご相談ください。

(池田伸之)

中小企業とリース契約

1 はじめに

中小企業であっても,大企業であっても,複合機をはじめとした設備機器をリース契約で導入する事業者は多いと思います。

オペレーションリース契約であれば,税法上,賃貸借取引となり,リース料を支払うべき日において経費処理ができるという費用の平準化メリットがあります。また,中小企業でも,リース会社にリース物件の所有権が留保されるファイナンスリース契約では,オペレーションリース契約と同様,税法上,賃貸借取引として処理することができます。

このように費用の平準化をすることができる,貸借対照表上の資産に計上されずにオフバランスできるというのがリース契約のメリットとなります。

 

2 リース契約の特徴

リース契約の特徴は,ユーザー(賃借人),販売会社(サプライヤー),リース会社(賃貸人)の三者関係である点です。

従って,一般的に,ユーザーは販売会社を通じて,リース会社にリース契約を申込み,リース会社とリース契約を締結します。

 

3 中小企業でのリース契約トラブル

中小企業(株式会社,有限会社,社会福祉法人,医療法人等)は事業者であり,一般消費者と異なり,消費者契約法等の消費者保護のための法制度の適用がありません。

サプライヤーの営業担当が,ユーザーのもとを訪問し,必要な機器であるとしてリースでの機器の導入を勧められ,営業担当者が誤った説明等をした場合でも,消費者契約法の直接の保護は得られません。

また,最近はIT機器の導入営業もありますが,事業者側が十分に理解できないまま,営業担当者が必要というのを鵜呑みにしてリース契約の申込みをしてしまうこともあります。

この場合,営業担当者の営業行為には,ユーザーの錯誤(勘違い)を誘発するものや,詐欺にあたるものもあり,民法95条,民法96条で問題になる余地はありますが,リース会社は第三者に当たりますので,リース会社がユーザーの錯誤やサプライヤーの詐欺を知っていた場合(悪意)やリース会社に過失がなければ,リース会社に対して錯誤や詐欺を主張できない(対抗できない)ことになります。

従って,一度,リース会社との間でリース契約が締結されてしまえば,ユーザーはリース料を支払い続ける必要があります。

 

4 早急な申込みの撤回を

ユーザーは,サプライヤーを通じて,リース契約の申込みをし,サプライヤーからリース会社に申込みがあったことが通知され,リース会社が審査をして,契約締結に応じるか否かを判断します。

そこで,リース会社がリース契約の審査が終了するまえ(契約が締結される前)に,ユーザーからリース会社に対して契約申込みを撤回することで,リース契約締結に至ることを回避できる可能性があります。

池田総合法律事務所でも,サプライヤーとリース会社双方に内容証明郵便を発送し,リース会社に申込みの撤回を認めさせた事案もあります。

しかし,この申込みの撤回については,リース会社の審査終了前という限られた時間内で内容証明郵便などで意思表示をする必要があります。

このような極めて短時間での対応をするには,日頃からコミュニケーションを取っている顧問先の事業者様に限られます。

リース契約をはじめ,法的トラブルは事業を続けていく上では避けがたいものです。顧問弁護士であれば,早急な対応により,より良い解決を導ける可能性もありますので,顧問弁護士の活用をおすすめします。

池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤尚記〉

ハラスメント防止のための社内体制の強化を! ~ハラスメントはどこにでも起こりうる意識をもって~

1 今求められる社内体制強化

いわゆる労働施策総合推進法(※以下本文は法令を略称で説明し、正式名称は末尾に記載します)が改正され、パワーハラスメント防止対策が強化、パワーハラスメント相談窓口設置が義務化されました(令和2年6月1日施行)。

パワハラについては、これまで事業主の措置義務等を定めた法律はありませんでしたが、いわゆる労働施策総合推進法30条の2第1項が、パワハラを防止するために雇用管理上必要な措置を講じることを大企業に義務付けるに至りました。すでに令和2年6月1日から始まっています。この対策義務は、中小企業にも令和4年4月1日から課せられます。

 

2 ハラスメントの法的責任

令和2年7月1日の厚生労働省発表によると、「『いじめ・嫌がらせ』に関する民事上の個別労働紛争の相談件数が8年連続トップ」(※)であり、大きな社会問題となっています(※参考URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000213219_00003.html

 

職場内におけるいじめ・嫌がらせといったハラスメントは多様で、性的な言動によるセクシャルハラスメント(セクハラ)や職務上の地位・権限を背景とするパワーハラスメント(パワハラ)だけでなく、妊娠・出産・育児に関わるマタニティハラスメント(マタハラ)やパタニティハラスメント(パタハラ)も問題になりえます。

このようなハラスメントは、労働者の人格を傷つけ、働きやすい職場環境で働く利益を侵害する行為であり、被害者はハラスメントを行った者に対して損害賠償請求をすることができます(民法709条)。また、加害者に不法行為責任が認められる場合には、事業主に使用者責任(民法715条)や債務不履行責任(民法415条)が認められることもあります。法律上、事業主はハラスメント防止に関する雇用管理上の必要な措置を講ずることが義務付けられており、必要な措置を講じていない場合には事業主への損害賠償請求が認められやすいといえるでしょう。

 

3 ハラスメント防止を義務付ける法令(複数あります)

このような事業主のハラスメント防止に関する雇用管理上の必要な措置を基礎づける法律や指針は、改正が相次いでいます。セクハラに関するいわゆる男女雇用機会均等法11条やいわゆるセクハラ防止指針が、マタハラに関しては男女雇用機会均等法改正法11条の3、育児介護休業法25条、いわゆるマタハラ防止指針が、それぞれ改正を重ねる中で内容を充実させながら事業主のハラスメント防止義務を基礎づけてきました。

 

 

4 事業主に義務付けられる必要な措置

ハラスメントに関する各種指針で事業主が雇用管理上講ずべきとされるのは、主に以下の措置です。

・事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

・相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

・職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

・併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取り扱いの禁止等)

・原因や背景となる要因を解消するための措置(マタハラのみ対象)

事業主は以上の措置については必ず講じなければなりません(なお、実施が望ましいとされている取り組みも別途定められています)。

簡単に説明すると、事業主は、労働者の意識啓発を行うなどハラスメント防止対策の周知徹底をはかり、相談窓口が相談しやすいものであるかをチェックするとともに、発生したハラスメントへの迅速な対応を行わなければなりません。

 

5 ハラスメント防止のための社内体制確立の必要性

このような措置が義務付けられた背景には、ハラスメント行為が一義的に定まらないという事情があります。ハラスメントは、社会通念上許される限度を超え、社会的に相当といえない場合に違法と評価されますが、判断に際しては両当事者の職務上の地位・関係、行為の場所・時間・態様、被害者の対応等の諸般の事情が考慮されます。業種や企業文化、当事者の職業的キャリアや社内的立場によって、同じような行為でもハラスメントに該当すると裁判所に認定されるケースもあれば該当しないとされるケースもありえます。

前項で述べた事業主に義務付けられる必要な措置のうち、事業主の方針の明確化及びその周知・啓発は、各企業・各職場でハラスメントの線引きに関する認識をそろえてその範囲を明確にすることで、多様なハラスメント行為を防止することにつながります。

また、ハラスメントは、社内の立場を利用したり、被害者側の業績不振が背景にあったり、密室で行われたりと表面化しづらいケースも一定数あります。企業や事業主の把握できない水面下で労働者の人格的利益が損なわれ、休職・退職や訴訟といった形で突如問題として表面化することも少なくありません。

前項で述べた事業主に義務付けられる必要な措置のうち、相談しやすい環境を整えることと相談に対して迅速かつ適切な対応を行うことは、仮にハラスメント行為がなされた場合でも人格的利益の侵害を最小化するためのものです。

このように、ハラスメント防止の社内体制の確立は、企業や事業主にとって、法的リスクを軽減させる手段であるとともに、大切な労働者の人格的利益を守るための手立てでもあります。重要な意義を有するものですので、実効的なものとなるよう積極的に取り組む必要があります。

事業主の方針の作成、ハラスメント研修、相談窓口のマニュアル作成や相談窓口の外部化など、当事務所が支援できることがたくさんあります。ハラスメント防止の社内体制構築についてお気軽にご相談ください。

(山下陽平)

 

※ 第3項中でふれた関係法令の正式名称は次のとおりです(上段が略称、下段が正式名称)。

・労働施策総合推進法

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の 安定及び職業生活の祷実等に関する法律

・男女雇用機会均等法

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

・セクハラ防止指針

事業主が職場における性的言動等に起因する問題に対して雇用管理上講ずべき措置についての指針

・育児介護休業法

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

・マタハラ防止指針

事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針

令和に入って初めての会社法の改正~株主総会の運営や取締役の職務執行の一層の適正化~

会社運営に欠かせない会社法の改正への対応は、株主をはじめステークホルダーにとっても重要な視点です。平成時代の前半は規制緩和のニーズもあり、ほぼ毎年のように改正がなされました。今回の改正は、令和になって初めての改正ですが、5月から6月の株主総会シーズンを前に、おさらいしておきたいと思います。

何回かに分けて取り上げる予定ですが、今回は、まず、株主総会に関する重要な改正について、御紹介します。今回の改正では、株主総会に関して重要な改正が2つ行われました。

 

1 一つには、「株主総会資料の電子提供制度」です。定時株主総会に関して、株主に送付する招集通知などの資料のうち、一定の資料について、紙で送る代わりに、会社のウェブサイトなどに掲載することで株主に提供したこととする、という制度です(会社法325条の2)。

資料とは、①株主総会参考資料、②議決権行使書面、③437条の計算書類及び事業報告書、④44条6項の連結計算書類です。

 

書面投票制度と異なり、電子投票制度の採用は義務付けられてはいません(会社法301条2項は、「できる」と書かれています)が、デジタル情報社会の進行に伴い、増えていくものと思われます。会社としては、印刷や郵送のための時間や費用を節約することにもなります。

 

電子提供制度を採用する場合、定款で定め、登記をする必要があります。

また、株主総会の3週間前(又は招集通知を発した日のいずれか早い日)までにウェブサイトへの掲載を開始する必要があります。また、株主総会の日の3ケ月後まで掲載を続ける必要があります。EDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子公開システムで、金融庁が公開している)において、有価証券報告書の提出を行うことで電子提供を代替することも可能となります。

 

注意すべきは電子提供制度を採用する場合であったとしても、招集通知は書面で発送する必要があることです。招集通知の発送期限は公開会社、非公開会社を問わず一律に株主総会の2週間前です。

また、重複投票がなされて混乱することがないように、書面投票と電子投票の両方がなされたときのルールを定め、会社側の恣意的な判断とならないように準備することも必要です。

 

今年、この制度を先取りして、実際の出席、書面での議決権行使に加えて、インターネットでの議決権行使も併せて記載した通知を送付した企業も多いと思いますが、この制度が導入されると、システムの整備など、総会の実務に大きな影響を与えます。例えば定款変更しておきながら電子提供措置を取らなかった場合には過料が課せられます(会社法976条19号)。この制度については、他の改正内容とは違って、施行日は、本年3月1日からではなく、公布日から起算して3年6か月を超えない日として政令で定める日から施行されることとなっています(2023年(令和5年)3月末)。

 

2 もう一つは、株主提案権のうち、株主が一つの株主総会で、自ら提案する議案の内容を会社の招集通知に掲載せよと要求できる権利(議案要領請求権)について、提案できる議案数が、今までは無制限だったのですが、今回の改正では10個までに制限されました。

 

10を超えるときの優先順位は、取締役が定めるものとされ、株主が優先順位を定めている場合には、取締役はそれに従って定めるものとされます。

なお、国会に提出された法案では、数だけでなく、不当な目的等による議案を制限する規定も提案されていたのですが、株主の権利保護の観点から、衆議院で修正され、削除されました。

 

次回は、改正の中でも重要な取締役に関する規律の変更について、取り上げます。

 <池田桂子>