最近では、柔軟な働き方として、副業の普及促進が取り上げられ、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」や副業・兼業に就業規則の改定案のモデル案を示しています。
副業を持とうとする動機は、様々で、副収入の獲得や第二、第三の人生を模索する等いろいろあると思います。これまで、副業が社会的な問題として取り上げられたことは、少なくなく、例えば、スルガ銀行の関与で最近でも話題となったワンルームマンションなどの不動産投資がありますし、また、手近な副業といった触れ込みでネット上よく見かけるFX投資(外貨為替証拠金取引)やバイナリーオプションなどの金融取引、また、アフィリエイトといって運営するサイトにリンクを張りリンク経由で商材の購入に結び付けば収入が得られるような商品の品評や紹介仕事などもあります。
それぞれの判断で行えばよいとも考えられる副業・兼業は、これまで、企業などでは禁止されていることが多かったのですが、その理由は、厚生労働省が新しく出した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」によっても、整理されています。副業禁止が認められるケースとして3つのポイントが明示されています。これを見てみましょう。
「①本業務への影響
休息や睡眠が取ることが出来ず、疲れが残った状態で本業に従事すれば本業がおろそかになり、本業への影響が出る恐れのある場合、就業規則上の副業禁止事項やそれに倣った解雇などの懲戒は有効と認められることになります。
②本業務との競合
副業として従事する先が同業他社など競合する立場にあり、本業との競合となれば直接仕事が奪われるほか、本業における機密事項やその他本業を毀損する知見が流用される恐れがある場合も考えられます。
③本業務への信用・ブランド毀損
従事する副業が公序良俗に反していたり、また本業との兼ね合いにおいてイメージ的に疑念を持たざるを得ないものである場合など、本業が持つ信用やブランドが毀損される恐れがあるとして、副業禁止事項とそれによる解雇などの懲罰も有効とされることがあります。」
このところ、副業・兼業が従業員の能力開発やキャリアアップにつながり、会社にも良い影響を与える好事例も出てきていると考えられることから、積極的に届け出れば、認めるという企業も出てきました。通常、勤務先への届け出制をとっていますが、次のような課題があるので、これへの対応が必要です。
①労働時間の通算
1日の労働時間が8時間を超えた分に対しては時間外割増賃金が発生しますが、これは勤務先が異なる場合も適用されます。自社、副業・兼業先両方で雇用されている場合には、労働時間通算に関する規定 (労働基準法第38条、通達)が適用されます。労働時間を通算した結果、法定労働時間を超えてしまい労働させることになる場合は、法定外労働時間を初精させた使用者が労働基準法上の義務を負います。
例えば、労働契約により、甲社で月曜日から金曜日まで勤務し40時間に達した場合、土曜日に乙社で5時間の労働は法定時間外労働になるということになり、乙社の事業主は5時間の労働について割増賃金の支払い義務を負います。
また、丙社で所定内労働時間4時間、丁社で4時間のそれぞれ雇用契約をしていた場合、丙社で1時間オーバーして5時間勤務し、丁社で予定通り4時間勤務したとすると通算9時間になりますが、超過の原因を発生させた丙社が割増賃金の支払い義務を負うことになると思います。
②健康管理
副業による身体への影響が出て、過労で注意散漫になり、A社かB社の勤務中に労災事故が発生した場合、責任の所在が分かりにくくなることも予想されます。労務災害としてとらえることができるとしても因果関係の立証が課題となります。
③情報管理の問題
顧客情報だけでなく、仕事の進め方や、取引先などのノウハウが流する可能性もあるので、副業先が主要勤務先と同業種の場合、競業禁止や秘密保持に関する約束を取り交わしておくことも検討しておいた方がよいでしょう。重要な情報の漏洩について懸念は、業種が違っても対応が必要でしょう。
④社会保険の加入
複数社に勤務する場合、厚生年金や雇用保険などの手続きはそれぞれの社について発生します。労災保険制度は労働基準法における個別の事業主の災害補償責任を担保する制度ですから、給付額は、災害が発生した就業先の賃金分のみに基づいて計算されます。次の事業所に向かう途中で通勤災害にあった場合は、終点の事業所の保険関係で対応するという通達があります。
それぞれの事業所で被保険者要件を満たす場合は、被保険者は、いずれかの事業所の管轄の年金事務所や医療保険を選択し、各事業者の報酬月額を合算して、標準報酬月額を算定し、保険料を決定することになり、事業主は、報酬に応じて按分した保険料を、選択した年金事務所に納付するということになります。手続きの当初だけのことと思いますが、事務の手間が増える可能性があります。
本業務への影響が認められるかどうか、裁判で争われた事例は少なくありませんが、本業における休業日である週末の従事であることや、本業が別業種であることから兼業先での就業禁止は認められない、といった趣旨の判例は従来からありました。就業規則は「事業活動を円滑に遂行するに必要な限り」で適用されるものであり、「労働者の私生活に対する使用者の一般的支配までを生ぜしめるものではない」と思います。副業・兼業が、本業の労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度であることを前提として、認められることにはこれからも変わりはないように思います。従業者は、いざという時は懲戒権の乱用といった形で争うことになると思います。
本業か副業かは働く者の側の位置づけであり、就業先が複数に亘る場合には、雇用状況、雇用条件が正しく把握される必要があり、手続き的にも作業が必要となるため、就業先の納得もきちんと得られるような雇用関係が前提となるでしょう。社会がより柔軟な働き方やキャリアコースの複線化に資するのであれば、積極的に活用すべきです。
従業者と関わる企業や副業・兼業の接点を見つけるの難しくないと思いますが、一方で、互いに責任が伴うことも忘れることなく、リスクを考えてということを忘れないでおきたいと思います。
服務規律を含む就業規則の改訂、競業避止義務の在り方などの課題について、また、消費者被害的な副業・兼業の勧めに安易に乗ってしまわないように、ご相談ください。
また、会社勤務の場合、確定申告において副業の収入申告をお忘れなく!
<池田桂子>