発明の進歩性判断~「予測できない顕著な効果」~について

発明における解決課題は、従来の技術との対比して判断します。発明が保護に値する進歩性を有するかの判断は、当該発明の構成を当業者が容易に想いを到ることができたか、容易想到性の枠組みで判断することになります。その判断として、評価を根拠づける事実と評価を障碍する(妨げる)事実のないことを検討していきます。

とりわけ、用途発明については、実務上、既存の物の新規な用途における作用が予測できない顕著な効果を有するか否かが、進歩性判断の際に重要な考慮要素とされています。

 

昨年、最高裁は、化合物の医薬用途にかかる特許発明の進歩性について、発明の顕著な効果の有無の判断手法を示し、知財高裁の原判決を破棄する判決を言い渡しました。

事案は、ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための点眼剤に係る特許 (特許第3068858号) に対する無効審判の審決取消訴訟において、本件特許の進歩性を否定し、審決を取消した知財高裁の判決を破棄し(第四部判決、平成29年(行ケ) 第10003号。以下「原審」といいます。)、事件を知財高裁に差戻したものです(最高裁第三小法廷、令和元年8月27日判決、平成30年(行ヒ)第69号、審決取消請求事件)。

 

事案の特許は、発明の名称を「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」とし、平成7年6月6日に米国でした特許出願に基づく優先権を主張して、翌8年5月3日に特許出願され、平成12年5月19日に設定登録されました。アレルギー性眼疾患を処置するための点眼薬として、公知のオキセピン誘導体である化合物を、ヒト結膜肥満細胞安定化(結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制)の用途に適用する薬剤に関するものです。

 

原審は、優先日の技術水準から予測できる範囲と比較して、顕著な効果がないとして進歩性を否定しました。本件他の化合物について同程度以上のヒスタミン遊離抑制率が記録された文献がその根拠とされています。これに対して、最高裁は、請求項にかかる構成から予測される範囲と比較して顕著な効果の有無を判断すべきであるとの見解を示したものと考えられます。

 

最高裁判決の判旨は、(難解な言い回しでありますが)、要約すると、①特許発明の構成から当業者が予測することができなかったか否か、②構成から当業者が予測することができた範囲を超える顕著な効果であるか否か、という点について、十分に検討する必要があるというものです。そして、化合物を特許発明の用途に適用することが容易に思い至ったことを前提に、判断基準時に他の複数の化合物が知られていたということのみで、直ちに、効果を予測できないほど顕著なものではないと否定してはいけない、と言っています。なお、判決文の言い回しは、末尾に掲げますので、ゆっくり味わってください(*)。この最高裁判決は、今回、予測できない顕著な効果の認定方法を示した初の判断として、重要な意義があると思われ、この判決を受け、知財高裁がどのような判断を下すのか注目されます。

 

進歩性のレベルは経済に与える影響が強いところがあります。複数の先行技術を組み合わせる場合、進歩性の判断には、請求項毎に発明を容易に想到できたことの論理付けができるかが重要です。引用発明の内容や技術常識からみて、様々な観点から論理付けを試みます。引用発明の一致点、相違点を見極め、発明の動機付けとなりうるものがあるか否かなどをよく点検してみることが重要です。相違点に係る構成について進歩性をどう判断するかは、①公知材料の中からの最適材料の選択、②数値範囲の最適化又は好適化、③均等物による置き換え、④技術の具体的適用に伴う設計変更等に加えて、「予想以上の効果はあるか否か」が、要件となります。

 

今回の判断は、進歩性違反の拒絶理由に対し、発明が予測できない顕著な効果を有するときの反論を行う場合の参考となるでしょうし、出願するときには、効果の程度について、明細書に発明の構成から当業者が予測できた範囲の効果を超える顕著なものであることを主張できるように、複数の実施例を記載しておくべきでしょう。

<池田桂子>

 

*「原審は,結局のところ,本件各発明の効果,取り分けその程度が,予測できない顕著なものであるかについて,優先日当時本件各発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か,当該構成から当業者 が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から十分に検討することなく,本件化合物を本件各発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提として,本件化合物と同等の効果を有する 本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということのみから直ちに,本件各発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定して本件審決 を取り消したものとみるほかなく,このような原審の判断には,法令の解釈適用を 誤った違法があるといわざるを得ない。」

【配偶者居住権が新設されます】

1 相続法の改正により,配偶者居住権(民法新1028条~1036条)が新設され,2020年4月1日以降に発生する相続に適用されます。
配偶者居住権は,被相続人(亡くなった人)の配偶者が,被相続人の死後も,それまで夫婦で住んでいた家に無償で住み続ける権利を確保するための制度です。

2 制度の背景
夫婦の一方が亡くなった場合,残された配偶者はそれまで一緒に住んでいた家に住み続けたいのが通常ですが,それを保障する制度はありませんでした。そのため,配偶者は,確実に家に住み続けるには,遺産分割で,①家の所有権を相続する,②ほかの相続人(例:子ども)が家の所有権を相続した場合は,その相続人と家の賃貸借契約または使用貸借契約を締結する必要があります。
しかし,①の場合,家の評価額が高額になってしまうと,その分,預貯金等他の遺産の取り分が減ってしまい,後の生活に困るという事態もありえます。
また,②は,他の相続人が契約締結に同意してくれないと採れない手段です。
そして,既に高齢の配偶者が,それまでの家に住めなくなってしまった場合,新たに住居を探すのは難しいことが多いと思います。また,他の相続人と仲が良くない場合,他の相続人が配偶者の生活の安定に配慮してくれないことがあります。
以上の状況に照らし,配偶者の居住権保護の実現のために新設されたのが配偶者居住権です。

3 要件,内容
(1) 配偶者居住権が認められる要件(民法1028条)
① 相続開始時に被相続人が建物を所有していたこと
*被相続人と配偶者の共有の場合は問題ありませんが,他に共有者がいる場合はこの要件を満たしません。
② 相続開始時に,配偶者がその建物に居住していたこと
*内縁の場合,「配偶者」の要件を満たしません。
③ 配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割,遺贈,または審判がされたこと
(2) 内容
① 配偶者は,従前の用法に従い*,善良な管理者の注意をもって,建物を使用収益しなければいけません(民法1032条1項)。
*居住用にしていた場所を配偶者居住権取得後に賃貸物件化することはできません。
② 存続期間は原則として終身の間です(民法1030条)。
③ 配偶者居住権の譲渡はできません(民法1032条2項)。
④ 建物の増改築,転貸には所有者の承諾が必要です(民法1032条3項)。
⑤ 建物使用に必要な修繕費は配偶者負担です(民法1033条1項)。
⑥ 通常の必要費(例:固定資産税)は配偶者負担です(民法1034条)
*ただし,固定資産税は,税法上は所有者が納税者なので,一旦は所有者が支払い,所有者から配偶者に求償することになります。
⑦ 所有者は配偶者に配偶者居住権の設定登記を備えさせる義務を負い,配偶者は
設定登記をすれば,第三者に配偶者居住権を対抗できます(民法1031条)。

4 配偶者居住権のメリット
前述のとおり,配偶者居住権を取得した配偶者は,居住権以外の,預貯金等の遺産を確保しつつ,住み慣れた家に無償で住み続けることができます。
また,配偶者居住権の設定は,相続税の節税にもなりえます。

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【例】

①夫が死亡し,戸建て住宅とその敷地が遺産として遺された。相続人は妻と子供。

⇒妻が配偶者居住権と敷地の利用権を取得・子供が配偶者居住権の負担付きの戸建て住宅,敷地の所有権を取得

②妻が死亡し,妻の相続が発生(二次相続)

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①の段階では,小規模宅地等の特例の適用を受けられることがあります。小規模宅地等の特例は,個人が,被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業用または居住用に使用されていた宅地または宅地上に存する権利(併せて「宅地等」といいます。)のうち,一定の区分に該当するものについて,その土地のうち一定の面積まで,相続税の計算上,課税価格を50%または80%の割合で減額する制度です。
被相続人とその妻が住んでいた戸建て住宅と敷地の場合,妻が配偶者居住権と同時に取得した敷地の利用権は,「特定居住用宅地等」として,小規模宅地等の特例の適用を受けられます。また,子供が相続開始時に被相続人と当該戸建て住宅で同居していた等の場合,子供も小規模宅地等の特例の適用を受けられます。

次に,②の段階では,妻が死亡することで配偶者居住権が消滅しますので,配偶者居住権は妻の遺産に含まれず相続の対象になりません。そうすると,②の相続で,配偶者居住権に相続税がかかることはなく,子供は相続税を節約しつつ,配偶者居住権の負担のない完全な所有権を取得します。また,負担のない完全な所有権になることで,所有権の価値が増加していますが,財務省が2019年7月に発表した「令和元年度税制改正の解説」のうち「相続税法の改正」によると,その価値増加分に対して課税はされません。

5 以上のとおり,配偶者居住権には,配偶者の老後の生活の安定,節税といったメリットがありますが,配偶者居住権が設定された不動産を好んで買う人はほぼいないと思われますので,今後住宅,土地を売却して何かに用立てたい相続人にとっては好ましくない一面があることも確かです。そのため,遺産分割協議で配偶者居住権を設定しようと考えても,反発する相続人が現れて協議がまとまらないことも予想されます。配偶者居住権に関しお悩みの方はぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。<藪内遥>

遺産分割の仕方により、相続税総額が違ってくることはご存知ですか。

相続税の金額を計算するにあたって、相続税の総額を計算したうえで、各人の取得した遺産の割合に応じて相続税額が割り付けられるため、遺産分割の仕方によって、各人の負担する相続税が異なるのは当然としても、相続税の総額は変わらないのではないかと思い勝ちですが、相続債務があるとき等、遺産分割の仕方により、相続税の総額が大きく異なってくることがあります。

 

例をあげます。相続人が、兄弟2人で、遺産としては、自宅1億円、収益物件のマンション2億円の計3億円ですが、マンションの建築のためのローンが3億円残っているとします。この場合、遺産合計3億円、債務3億円で、差し引き0なので、どのように遺産分割をしても、相続税総額は変わらないと考えていいでしょうか。

 

気を付けなくてはいけないのは、はじめに、相続額の総額を計算する際には、「『各人』の取得した遺産の課税価格」を計算して、それを合計するので、いきなり遺産の合計を出すわけではないということです。同じではないかと思われますが、債務が存在する場合には、同じ結果になりません。

 

この例で、長男が自宅、次男がマンションを取得し、債務はマンションを引き継いだ次男が承継して支払うことで、遺産分割をしたとします。

このとき、次男の遺産の課税価格を計算するときには、2億円-3億円=マイナス1億円となりますが、マイナスのときは、マイナスのまま総額を計算するのではなく、0円となり、そのうえで、合計されます。したがって、上の場合には、課税価格の合計は、

 

(長男分)    (次男分)

1億円 +  (2億円-3億円)= 0 ではなく、

1億円 +    0円    = 1億円となります。

 

これが、基礎控除の範囲内に収まれば、相続税は課税されませんが、上記の場合は、基礎控除額は3000万円+600×2=4200万円ですので、1億円-4200万円=5800万円が課税遺産総額となり、相続税が課されます。

 

上の例で、法定相続分のとおり、遺産も債務も取得、負担するということになると、長男、次男の課税価格はそれぞれ1億×1/2+2億円×1/2-3億円×1/2=0となり、相続税の課税はありません。

 

収益物件を取得する相続人が、その収益物件建築のための借入債務を負担するのは、自然なことです。一方、相続税法上の評価としては、残ローンが物件の相続税法上の評価額を上回ることがあっても、実際の物件価格(時価)はその収益性等からローンを上回ることは十分ありうる話で、マイナスの形の課税価格となる相続人がいることも、珍しくありません。

 

上の例のように、取得した遺産の課税価格がマイナスとなる相続人がいる場合には注意が必要で、相続税の負担のことも念頭において、遺産分割の協議をする必要があります。

         (池田伸之)

法定相続情報証明制度について

法定相続情報証明制度をご存知ですか。あまり耳にしたことの無い方も多いと思います。今回は同制度の内容や手続き等について簡単にご紹介したいと思います。

1.法定相続情報証明制度とは

法定相続情報証明制度は、2017年5月29日に新しく開始した制度で、亡くなった方(被相続人)と相続人(法定相続人に限る)との相続関係等を証明するための制度です。

従来の相続手続では、被相続人が生前所有していた不動産の相続登記や預金の引き出しを行う際、被相続人と相続人の相続関係を証明するために、戸籍謄本等を遡って取得し、取得した戸籍謄本等の束を各窓口に提出することが必要でした。

戸籍謄本等の取得には、時間や費用がかかる上、各窓口では通常、原本の提示が要求されるため、同時に諸手続きを進めようとすると、行う手続きの数だけ戸籍謄本等を取得する必要があります。

法定相続情報証明制度を利用すると、登記官により、被相続人と相続人がどのような間柄なのかという情報を証明する法定相続情報一覧図の写しが発行されますので、同一覧図の写しを提出することで各種相続手続きが行えるようになります。戸籍謄本等の束を何度も取得し、提出する必要がなくなるので、大変便利な制度と言えます。

一度法定相続情報証明制度の申出手続きを行うと、認証文が付記された法定相続情報一覧図の写しを何通でも無料で取得することが出来ます。

なお、同制度の利用は任意なので、同制度を利用せず、従来の方法によることも可能です。

 

2.法定相続情報証明制度が利用できるケース

法定相続情報証明制度は、主に次のケースで利用することが想定されます。

ア.不動産の相続登記

イ.預貯金の名義変更や解約

民間の金融機関について同制度が利用できるか否かは、各金融機関の判断に委ねられています。現在、多くの金融機関で同制度の利用が可能ですが、一部利用できない金融機関もあります。

ウ.相続税申告

 

3.法定相続情報証明制度の手続き

法定相続情報証明制度を利用するには、次のような流れで手続きを行います。

(1)必要書類の収集

必要書類は各相続により異なりますが、必ず必要となるのは次の書類です。

ア.被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と除籍謄本

イ.被相続人の住民票の除票

ウ.相続人全員の戸籍謄本または戸籍抄本

エ.申出人の本人確認書類

他に、各相続人の住民票記載事項証明書(住民票の写し)等が必要となる場合があります。

(2)法定相続情報一覧図及び申出書の作成

被相続人と法定相続人全員の関係を記載した法定相続情報一覧図を作成します。ここには、相続放棄をした人、相続欠格の人、遺産分割協議の結果相続しないことになった法定相続人についても全て記載します。

申出書は、登記所に法定相続情報証明制度の利用を申し出るための書類で、正式には「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」といいます。法務局のHPにテンプレートがあります。

(3)登記所へ提出

上記(1)(2)で収集、作成した書類を登記所に提出します。次のいずれかの住所地を管轄する登記所を選択して提出することができます。

・被相続人の死亡時の本籍地

・被相続人の最後の住所地

・申出人の住所地

・被相続人名義の不動産の所在地

手続きとしては、以上で終了です。

登記官による確認が終了し、認証文が付記された法定相続情報一覧図の写しが交付されるようになるまでの期間は登記所によって異なりますが、数日から数週間かかります。

 

法定相続情報証明制度を利用するためには、上記手続きが必要となるので、同制度を利用する方が良いのか、迷う方もいると思います。

まだ利用件数はそれほど多くないようですが、一般的には、相続財産に不動産や金融機関口座などが多ければ多いほど、行う手続きの数が増えるので、法定相続情報証明制度を利用するメリットが大きくなると言えます。

戸籍謄本等必要書類の取得や法定相続情報一覧図の作成等には、ある程度専門知識が必要となりますので、手続きの利用を考えたいという方は、池田総合法律事務所までご相談下さい。

法定相続情報一覧図の例

以上

(石田美果)

野上陽子の摩天楼ダイアリー④

「 今回の日本旅行で感じた事 その2 ~街角での良い?習慣について~ 」

 

今回の日本旅行で感じた事の第2弾です。日本でも、かつては、早朝、家の周りを掃き清めたりして、きれいにする習慣がありました。今も、見かける地域もありますが、かつてよりは少なくなった気がします。

ところで、家の周りをきれいに片付けておくのは、ニューヨークでは義務です。マンハッタンは管理費に歩道の整備と清掃費が含まれています。ビルの前の歩道はビル管理、車道は市の管理部分です。歩道の穴に氷が張って人が転ぶとビルの責任になります。お店の前の清掃もお店の責任で道路にゴミが有れば罰金、駐車違反も罰金、何もかもが罰金が付いて回ります。歩道で怪我人が出ると補償問題で裁判にもなります。

日本はどこも本当にきれいです。きれいにする習慣を訪れた観光客が学んでくれると良いのですが、きれいなところにペットボトルや食べ残しをその場に置いていく悪い習慣はなかなか治らないようです。

さて、昨年年末は(今回は)ちょうど、ハロウィンの時期の帰国でした。ニューヨークで見るNHKニュースからの印象ではハロインの東京はどこもが大変という印象でした。それが渋谷のような本当に限られた場所での大騒ぎだと初めて知りました。DJポリスと呼ばれるような警官もいて、警察官がマイクロホンで歩行者に注意を促していながら起きるいざこざや違法行為など報道されていていました。

ニューヨークだったらどうなのかと考えました。ハロインでは警官はマイクロフォンで注意をしません。違法行為が行われれば直ちにその場で手錠をかけ警察所へ連行します。警官は、罰金行為で有ればその場でチケットを切り、罰金を納めるか裁判所に出頭するかの選択が有ります。米国では知らなかったでは済まされませんから、気を付けないとなりません。

ニューヨーク1月1日0時のタイムズスクエアでの年越しの状況は世界的に有名ですが、その周り10ブロックはバックパック禁止、傘禁止です。バッグ検査も有り警戒厳重です。日本の初詣でバッグ検査は無いですし、テロ事件の心配もありません。

それからニューヨークのビルはどこも警備の為、写真入り身分証明が必要です。弁護士事務所が入っているビルなどは、その場で写真も撮ります。2020年からは、国内線の空港で写真入り身分証明書(今までの運転免許証)では飛行機に乗れません。州発行の新運転免許証は、もっと多くの資料が書き込まれているそうで、新しい運転免許証か、またはパスポートを提示しないとなりません。日本では警備員に身分証明書を見せませんし、空港で切符と身分証明書を提示しなくても良いのが、何時まで続くでしょうか。アジアへ旅行に行った時に日本パスポートが高く売れると聞いたことが有ります。指紋も偽造するそうです。

 

街角を歩くにもさまざまなルールがあるようです。こんなことを知るのも、それぞれの街角で安全にそして気持ちよく暮らすためのルールがあるということなのでしょう。

ニューヨークに来られた時には、その土地のルールやマナーにご注意を!

 

2020年初春   野上陽子     サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

野上陽子の摩天楼ダイアリー③

「 今回の日本旅行で感じた事 その1 ~出入国について~ 」

 

明けましておめでとうございます。お読みいただき感謝申し上げます。どうぞ今年もよろしくお願い申し上げます。

 

大晦日にカルロス・ゴーン氏の日本脱出が話題となり、ニューヨークでも話題となっています。真相が次第に明らかになってきましたが、出入国の管理は国により、大きく異なります。

昨年11月から12月にかけて、仕事の関係でニューヨークから出かけ、日本に滞在しました。改めて、日本での「出入国」の手続きについて、感じたところがありますので、書いてみました。皆さんはどんな感想をお持ちでしょうか。

日本は、世界の中で然も安全な国だと旅行者は感じています。安全、時間に正確な鉄道、公共施設が綺麗です。何度も行き来している日本、今回、羽田空港では、今までよりも待たされずに入国出来ました。それというのも、日本の入国手続きは、顔認識と指紋、パスポートの検査が早いです。でもこんなに早くて大丈夫なのかしら?と思うのは私だけでしょうか。

それから出国時にはパスポートと上半身の認識だけでスタンプなしです。上半身の認識は気になりました、どこまで正確なのでしょうか? i-phoneは指紋認識か顔認識ですが、顔認識は正確ではなく、双子や姉妹の認識が完全ではないといわれています。

それから、出国スタンプが無いのです。国によってはまだ目でパスポートを確認する習慣が有り、日本経由でアジアへ行き、何時どこ経由でここに来たかと聞かれて説明する必要が出ました。

もっと厄介なのは、日本出国スタンプが無いため、アメリカでの税金申告上や移民局からの質問に、出国日数計算する時困ります。日本入国スタンプが有っても出国スタンプが無いので日数を自分で記載しておかないといけない注意が必要になります。移民局が持っている出国数字と申請書に書いた数字が違うと問題になります。観光客の呼び寄せの一環として出入国を簡単にして、招かざる客を受け入れる可能性や犯罪者を国外に出してしまう可能性が出るのではないかと考えるのは、私だけでしょうか? そして永住者や長期滞在者が今後増えると米国のように税金申告や他国での犯罪経歴など多種の問題が出てくると思います。

話が逸れますが、米国入国時に犯罪を犯したことが有りますか?警察に捕まったことが有りますか?この質問に、正しく回答する必要が有ります。犯罪を犯しても刑に服せば良いことであり、警察に捕まっても無実であれば問題にはなりません。それよりも正しく回答しないと偽証罪になり、偽証罪は入国拒否の可能性が有ります。それからハワイに新婚旅行で入国しようとして学生時代に不法滞在(許可期間以内に出国しなかった)で、入国時に拒否された例が有ります。米国はそんな国です。

ニューヨークのJFK国際空港では、外国からの渡航者は入国時にかなり待たされます。それはテロ対策の為だけでなく、違法移民や違法就業者、犯罪者などの取締りが厳しいからです。実際に日本からの社員が飲酒運転をして、出張が重なり裁判所からの出廷を何度か延期して、その後に罰金を支払いました。その後就業ビザ延長申請時に却下され、観光許可も下りなくなり、アメリカ大使館で入国許可を取りすべての引っ越しを終わらせました。

日本入国時は何も言葉を交わすことが有りませんが、米国では入国時に会話が有ります。係官がいろいろ聞きます。多分心理作戦で犯罪者を探しているのだと思うのです。

今、カルロス・ゴーンさんの日本脱出で、日本の出国手続きが緩いことが話題となっています。便利で迅速なことは良いことですが、出入国の手続きも、世界共通ではなく、社会の秩序を保ち、市民を安全から守るためには、まだまだ見直さなければならない点が多いと感じます。

今年も、摩天楼ダイアリーを楽しくお読みいただけるように、話題提供したいと思っています。

 

2020年初春   野上陽子     サイトのご案内 https://www.ynassociates.net/

 

 

養育費・婚姻費用算定表の改定と無料相談会のお知らせ

2019年12月23日、改定された養育費・婚姻費用算定表が公表されました(最高裁判所の司法研修所が作成)。

今回は、養育費・婚姻費用算定表とは何なのか、算定表の改定によって何がどのように変わったのかを説明します。また、合わせて公表された、成年年齢の引き下げが養育費の支払いに及ぼす影響についての考え方も説明します。

 

1 養育費・婚姻費用算定表の改訂について

(1)養育費・婚姻費用算定表とは

ア 養育費とは

養育費は、監護者となった親が、他方の親に対して請求する「子の監護に関する費用」のことです。

子どものいる夫婦が離婚をするときは、夫婦のどちらが子どもの監護をするかを決めますが、離婚しても親子関係が無くなるわけではありませんので、別居した親も子を扶養する義務があります(民法877条1項)。そのため、別居した親は、子と同居して監護している親に養育費を支払うことになります。

イ 婚姻費用とは

社会生活を営むには様々な費用が必要となりますが、夫婦は「婚姻から生じる費用を分担する」(民法760条)ものとされており、このような費用を婚姻費用と言います。

夫婦が別居するなどして生活費を別々に支出している場合に、例えば子と同居している方が、他方に対して婚姻費用を請求することがあります。

ウ 養育費・婚姻費用算定表の意義

養育費や婚姻費用をいくらにするかについて、夫婦が話し合って納得できる金額を決めることが出来るのであれば、その金額とすることに問題はありません。

しかしながら、そのように決めることが出来ない場合には、夫婦それぞれの収入や支出などを踏まえ、金額を決める必要が生じます。

もっとも、1件1件、個別の事情を考慮して一から金額を決めるのは、大変煩雑であり、また、当事者が金額を予測しにくいという問題もあります。そこで、平成15年、当時の統計資料などを参考に、当事者の収入や子どもの数などに応じて養育費・婚姻費用の目安を示す算定表が提案され、実務に定着してきました。これが、養育費・婚姻費用算定表です。

 

(2)算定表の改定

上記のとおり実務に定着した算定表ですが、提案された平成15年から15年以上が経過し、この間の税制等の法改正、社会情勢の変化等を踏まえ、より現在の社会実態を反映した内容にする必要性が生じました。

そこで、算定表についての見直しが行われ、この度、改定された算定表が公表されるに至りました。今後、調停や訴訟などの実務では、この算定表を基準として養育費・婚姻費用の金額を決めていくことになります。

 

(3)具体的な内容

従前の算定表と改定後の算定表を比較すると、改定後の方が養育費・婚姻費用の金額が高めに出る傾向があります。具体例でみると、以下のとおりです。

(なお、算定表はあくまで目安であり、最終的な金額は個別の事情を踏まえて決めることになりますのでご留意ください。)

<養育費>

例1 夫A(給与所得者・年収500万円)、妻B(主婦・無収入)

5歳の子が1名おり、妻Bが親権者となって子を監護するケースの養育費。

【従前の算定表】    4~6万円

【改定後の算定表】   6~8万円

 

例2 夫A(給与所得者・年収400万円)、妻B(給与所得者・年収350万円)

6歳と3歳の子がおり、妻Bが子2名の親権者となって子を監護するケースの養育費。

【従前の算定表】    2~4万円

【改定後の算定表】   4~6万円

 

例3 夫A(給与所得者・年収600万円)、妻B(給与所得者・年収600万円)

16歳と12歳の子がおり、夫Aが子2名の親権者となって子を監護するケースの養育費。

【従前の算定表】    4~6万円

【改定後の算定表】   6~8万円

 

<婚姻費用>

例4 夫A(自営業・年収600万円)、妻B(給与所得者・年収150万円)

夫婦は別居しているが離婚はしていない。3歳の子が1名で、妻Bが監護しているケースの婚姻費用。

【従前の算定表】   12~14万円

【改定後の算定表】  14~16万円

 

(4)運用についてのQ&A

Q1 私は3年前に離婚し、そのときに養育費の金額も決めたのですが、算定表が改定されたことを理由に、養育費を改定後の算定表に基づく金額に変更してもらうことはできますか?

A1 現在のところ、算定表の改定のみを理由として養育費の金額を改定後の算定表の金額に変更することはできないと考えられています。もっとも、相手が変更に応じるのであれば、変更することは可能です。

 

Q2 私は3年前に離婚し、相手に対して養育費を支払うことになりました。ところが、その後再婚し、新たに子どもが出来たため、養育費の金額を変更してもらいたいと考えています。この場合、従前の算定表と改定後の算定表のどちらに基づいて計算すればよいのでしょうか。

A2 現在のところ、養育費の金額を変更する必要が生じたと判断された場合には、改定後の算定表に基づいて計算することが想定されています。

 

2 成年年齢の引き下げが与える影響について

平成30年の民法改正により、令和4年4月1日から、民法上の成年年齢が18歳となります。

これに伴い、例えば、養育費の終期を「子が成年に達する日まで」などとした協議書や調停調書等について、養育費の終期が18歳までになるのかという問題があります。

この点について、取り決めをした時点で当事者は「成年」=20歳と認識していたのが通常であることから、こうした場合における「成年」とは、基本的には「20歳」を意味するものと理解すべきであるとの考え方が示されました。

また、養育費の支払義務の終期は子が未成熟子を脱する時期とされているのですが、従前は、その時期が成年年齢である「20歳」とされることも多くありました。この点について、成年年齢が18歳になったとしても、「未成熟子を脱する時期が特定して認定されない事案については、未成熟子を脱するのは20歳になる時点とされ、その時点が養育費の支払義務の終期と判断される」という考え方が示されました。

したがって、養育費の支払義務の終期の決め方に関して、基本的には成年年齢の引き下げはあまり影響をしないものと思われます。

 

3 無料相談会の実施

池田総合法律事務所では、養育費・婚姻費用の算定表の改訂を受けて、以下のとおり無料相談会を実施します。

離婚を検討されている方、養育費や婚姻費用の請求を検討されている方は、是非一度専門家にご相談ください(要予約)。

日時:令和2年1月23日(木)14時~16時

同日   17時~19時

同月25日(土)10時~12時

(お一人30分程度の相談時間となります)

場所:池田総合法律事務所内

<川瀬裕久>

刑事弁護④~身体拘束が長期化する場合~

1 被疑者段階(捜査段階)

刑事事件①のコラムでは,被疑者段階では,1事件につき23日間程度,自由を奪われると書きました。

しかし,カルロス・ゴーン氏の事件のように,被疑者段階が数か月続くこともあります。

カルロス・ゴーン氏の事件では,有価証券報告書の虚偽記載という金融商品取引法違反で最初に逮捕・勾留されました。

このときは,同じ有価証券報告書でも2011年から2015年の虚偽記載で最初に逮捕・勾留され,その後直近3年分の有価証券報告書の虚偽記載で逮捕・勾留され,最後に特別背任という会社法違反の被疑事実で逮捕・勾留が繰り返されました。

日産自動車株式会社は,上場企業として毎年有価証券報告書を作成・提出しなければならないのですが,その一部を切り取って一つの事件とし,他の部分を切り取って一つの事件とすることは,警察・検察といった捜査機関のある程度自由が効くところです。事件を組み合わせていけば,逮捕・勾留だけで数か月にわたる身体拘束も可能です。

また,例えば,遺体が河川敷で発見され,遺体を捨てた被疑者が逮捕・勾留される場合,まずは死体遺棄罪で逮捕・勾留されます。そして,被疑者が殺人をしたということであれば,殺人罪で再逮捕・再勾留され,23日間程度を2回,合計46日間程度は身体拘束が継続することになります。

このように,逮捕・勾留だけでも1か月半以上の身体拘束が継続することもあります。

この数か月に及ぶ身体拘束中,継続的に取調べを受けることは,精神的・肉体的に相当追い込まれることになります。数か月間,お前がやったんだろうと取調官に追及され続けても平気という人はまずいません。

そういった中で,的確にアドバイスができ,味方であることができるのは弁護人しかいません。

弁護人を選ぶことは大変重要です。

 

2 被告人段階(刑事裁判段階)

通常の刑事裁判は,起訴後1か月すると第1回公判(裁判)の期日が入り,自白事件であれば,第1回公判の約2~3週間後に判決が出て,手続が終了することが多いです。

しかし,否認事件であれば,公判は1か月に1回程度しか入りませんので,証人の人数などによっては手続が終了するまでに数か月が必要になることもあります。

また,裁判員裁判対象事件(殺人事件など)は,起訴されて裁判が始まるまでに1年程度かかることは比較的多いです。

裁判員裁判では,長いものであれば3,4年程度,判決までかかる事案もあります。

このように刑事裁判(正式裁判)となった場合には,保釈が認められない限り,数か月の身体拘束が継続することになります。

 

3 最後に

刑事事件では,弁護人からアドバイスを受けつつ,捜査機関に対していくことは必要不可欠です。

刑事事件でお困りの方は,池田総合法律事務所までご相談ください。

 

〈小澤尚記〉

刑事弁護③

【刑事弁護①】【刑事弁護②】に続いて,刑事弁護での弁護士の依頼の仕方などのコラムです。

 

1 はじめに

刑事弁護のご依頼を受けた場合,弁護士は弁護人(べんごにん)と呼ばれることになります。

日本国憲法37条3項では,「刑事被告人は,いかなる場合にも,資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは,国でこれを附する」とされ,弁護人を付ける権利が憲法により保障されています。

そして,「資格を有する弁護人」は弁護士のみを指しますので,被告人には「弁護人」である弁護士を依頼する権利が認められています。

 

2 私選弁護人

私選弁護人は,捜査を受けていたり,刑事裁判を受けている本人や家族からご依頼を受けて,弁護人になる場合です。

私選弁護人の場合,ご本人やご家族と弁護士との間で直接,委任契約を締結し,弁護士の費用はご本人やご家族に負担していただくことになります。

 

3 国選弁護人

財産が50万円未満しか無い場合等には,国(裁判所)が弁護人を付けてくれます。

これを「国選弁護人」(こくせんべんごにん)と言います。

現在の法律では,被疑者段階の国選弁護人は,被疑者勾留をされた全事件について,被疑者本人が希望(請求)すれば選任されます。

国選弁護人は国(裁判所)が選任するものですので,国選弁護人が誰になるかは選ぶことができません。ある特定の弁護士が国選弁護人に就くことをご本人やご家族が希望したとしても,基本的にそのご希望とは関係無く,一定のルールで国選弁護人が国(裁判所)により選ばれます。特定の弁護士を希望する場合には,基本的に私選弁護人を選ぶ必要があります。

なお,国選弁護人の弁護士費用は,基本的に国が負担しますが,判決でご本人が負担することを命じられることもありますので,国選弁護人の費用がかからないとは限りません。

 

4 国選から私選への切り替え

国選弁護人が選ばれていても,親族などが私選弁護人を選ぶことは当然できます。

私選弁護人が選ばれれば,国選弁護人は当然に解任されます。

私選弁護人を選ぶ場合には,委任契約を締結のうえで,私選弁護人として選任していただくことになります。

 

刑事弁護でお困りの方は,池田総合法律事務所までご相談ください。

 

〈小澤尚記〉

「医療法人」の設立方法,税務について勉強会をしました

令和元年11月27日,池田総合法律事務所の小澤が入っている異業種交流会内での勉強会で,医療法人の設立から税務までを,医療法人の立ち上げに多く関わっているメンバーの鈴木昌道税理士(名古屋市中区栄2-2-23アーク白川公園ビルディング4階鈴木税務計事務所)に講師をお願いして勉強会をしました。

医科の法人割合は約43%程度,歯科の法人割合は約15%程度であり,法人化率はそこまで高くありません。

現在,設立可能な一般的な医療法人は,基金拠出型医療法人のみであり[i][ii],医師・歯科医が,基金を拠出し(株式会社の資本金と違い,出資ではなく,法的性質としては貸付金のなかでも劣後債に近い位置付け),法人を設立します。

そして,法人解散時に,拠出した基金額以上の財産が法人に存在すれば,国庫や医師会などに最終的に帰属させられることになります。そこで,内部留保をしすぎないように財務管理を行っていくことが必要とのことでした。

また,医療法人には監事1名が必要ですが,法人理事長の2親等以内の直系血族,兄弟姉妹,配偶者は監事になれないことから,監事の担い手確保が難しいとのことです。この医療法人の監事には弁護士であれば就任することができるとのことですので,弁護士の潜在的な需要がこういったところにもあるのではないかと感じました。

税務面では,租税特別措置法26条を利用していて税務申告をしている場合,法人化をすると措置法26条が使えなくなり,その想定が必要とのことでした。具体的には,社会保険診療報酬が例えば2500万円~3000万円であれば,「社会保険診療報酬×70%+50万円」が,措置法26条により概算経費として認められるため,精神科クリニック等の設備投資等があまり必要の無いクリニックでは法人化による税務面でのメリットは無いとのことでした。

したがって,医療法人を設立するか否かは税務面も含めて十分なメリットがあるかどうかの十分な事前検討が必要不可欠とのことです。

加えて,医療法人の場合,法人登記をしたからといって,すぐに診察を始められるわけではなく,必要な書類をすべて整えたうえで保健所への届出,保健医療機関としての指定申請が必要になり,この点のスケジュール感がなければ,クリニックの開業スケジュールが遅延するおそれがあり,開業支援にあたって特に緊張感が伴う領域とのことでした。

 

医療法人の設立は以上のように比較的特殊な分野で,十分な知識・経験が必要な分野ですが,弁護士として,医療法人の設立時や,医療法人の設立後の法人運営でも,お手伝いすることも色々あると実感しました。

 

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

[i] 平成19年の制度改正前までは,株式会社に近い出資額限度法人が設立できましたが,現在は設立できません。出資額限度法人は「当面の間」存続できることになっています。

[ii] 現行法による医療法人は,他に「社会医療法人」「特定医療法人」などがありますが,救急医療などを行う地域の大規模病院が主です。