遺産分割の仕方により、相続税総額が違ってくることはご存知ですか。

相続税の金額を計算するにあたって、相続税の総額を計算したうえで、各人の取得した遺産の割合に応じて相続税額が割り付けられるため、遺産分割の仕方によって、各人の負担する相続税が異なるのは当然としても、相続税の総額は変わらないのではないかと思い勝ちですが、相続債務があるとき等、遺産分割の仕方により、相続税の総額が大きく異なってくることがあります。

 

例をあげます。相続人が、兄弟2人で、遺産としては、自宅1億円、収益物件のマンション2億円の計3億円ですが、マンションの建築のためのローンが3億円残っているとします。この場合、遺産合計3億円、債務3億円で、差し引き0なので、どのように遺産分割をしても、相続税総額は変わらないと考えていいでしょうか。

 

気を付けなくてはいけないのは、はじめに、相続額の総額を計算する際には、「『各人』の取得した遺産の課税価格」を計算して、それを合計するので、いきなり遺産の合計を出すわけではないということです。同じではないかと思われますが、債務が存在する場合には、同じ結果になりません。

 

この例で、長男が自宅、次男がマンションを取得し、債務はマンションを引き継いだ次男が承継して支払うことで、遺産分割をしたとします。

このとき、次男の遺産の課税価格を計算するときには、2億円-3億円=マイナス1億円となりますが、マイナスのときは、マイナスのまま総額を計算するのではなく、0円となり、そのうえで、合計されます。したがって、上の場合には、課税価格の合計は、

 

(長男分)    (次男分)

1億円 +  (2億円-3億円)= 0 ではなく、

1億円 +    0円    = 1億円となります。

 

これが、基礎控除の範囲内に収まれば、相続税は課税されませんが、上記の場合は、基礎控除額は3000万円+600×2=4200万円ですので、1億円-4200万円=5800万円が課税遺産総額となり、相続税が課されます。

 

上の例で、法定相続分のとおり、遺産も債務も取得、負担するということになると、長男、次男の課税価格はそれぞれ1億×1/2+2億円×1/2-3億円×1/2=0となり、相続税の課税はありません。

 

収益物件を取得する相続人が、その収益物件建築のための借入債務を負担するのは、自然なことです。一方、相続税法上の評価としては、残ローンが物件の相続税法上の評価額を上回ることがあっても、実際の物件価格(時価)はその収益性等からローンを上回ることは十分ありうる話で、マイナスの形の課税価格となる相続人がいることも、珍しくありません。

 

上の例のように、取得した遺産の課税価格がマイナスとなる相続人がいる場合には注意が必要で、相続税の負担のことも念頭において、遺産分割の協議をする必要があります。

         (池田伸之)

法定相続情報証明制度について

法定相続情報証明制度をご存知ですか。あまり耳にしたことの無い方も多いと思います。今回は同制度の内容や手続き等について簡単にご紹介したいと思います。

1.法定相続情報証明制度とは

法定相続情報証明制度は、2017年5月29日に新しく開始した制度で、亡くなった方(被相続人)と相続人(法定相続人に限る)との相続関係等を証明するための制度です。

従来の相続手続では、被相続人が生前所有していた不動産の相続登記や預金の引き出しを行う際、被相続人と相続人の相続関係を証明するために、戸籍謄本等を遡って取得し、取得した戸籍謄本等の束を各窓口に提出することが必要でした。

戸籍謄本等の取得には、時間や費用がかかる上、各窓口では通常、原本の提示が要求されるため、同時に諸手続きを進めようとすると、行う手続きの数だけ戸籍謄本等を取得する必要があります。

法定相続情報証明制度を利用すると、登記官により、被相続人と相続人がどのような間柄なのかという情報を証明する法定相続情報一覧図の写しが発行されますので、同一覧図の写しを提出することで各種相続手続きが行えるようになります。戸籍謄本等の束を何度も取得し、提出する必要がなくなるので、大変便利な制度と言えます。

一度法定相続情報証明制度の申出手続きを行うと、認証文が付記された法定相続情報一覧図の写しを何通でも無料で取得することが出来ます。

なお、同制度の利用は任意なので、同制度を利用せず、従来の方法によることも可能です。

 

2.法定相続情報証明制度が利用できるケース

法定相続情報証明制度は、主に次のケースで利用することが想定されます。

ア.不動産の相続登記

イ.預貯金の名義変更や解約

民間の金融機関について同制度が利用できるか否かは、各金融機関の判断に委ねられています。現在、多くの金融機関で同制度の利用が可能ですが、一部利用できない金融機関もあります。

ウ.相続税申告

 

3.法定相続情報証明制度の手続き

法定相続情報証明制度を利用するには、次のような流れで手続きを行います。

(1)必要書類の収集

必要書類は各相続により異なりますが、必ず必要となるのは次の書類です。

ア.被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と除籍謄本

イ.被相続人の住民票の除票

ウ.相続人全員の戸籍謄本または戸籍抄本

エ.申出人の本人確認書類

他に、各相続人の住民票記載事項証明書(住民票の写し)等が必要となる場合があります。

(2)法定相続情報一覧図及び申出書の作成

被相続人と法定相続人全員の関係を記載した法定相続情報一覧図を作成します。ここには、相続放棄をした人、相続欠格の人、遺産分割協議の結果相続しないことになった法定相続人についても全て記載します。

申出書は、登記所に法定相続情報証明制度の利用を申し出るための書類で、正式には「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」といいます。法務局のHPにテンプレートがあります。

(3)登記所へ提出

上記(1)(2)で収集、作成した書類を登記所に提出します。次のいずれかの住所地を管轄する登記所を選択して提出することができます。

・被相続人の死亡時の本籍地

・被相続人の最後の住所地

・申出人の住所地

・被相続人名義の不動産の所在地

手続きとしては、以上で終了です。

登記官による確認が終了し、認証文が付記された法定相続情報一覧図の写しが交付されるようになるまでの期間は登記所によって異なりますが、数日から数週間かかります。

 

法定相続情報証明制度を利用するためには、上記手続きが必要となるので、同制度を利用する方が良いのか、迷う方もいると思います。

まだ利用件数はそれほど多くないようですが、一般的には、相続財産に不動産や金融機関口座などが多ければ多いほど、行う手続きの数が増えるので、法定相続情報証明制度を利用するメリットが大きくなると言えます。

戸籍謄本等必要書類の取得や法定相続情報一覧図の作成等には、ある程度専門知識が必要となりますので、手続きの利用を考えたいという方は、池田総合法律事務所までご相談下さい。

法定相続情報一覧図の例

以上

(石田美果)

野上陽子の摩天楼ダイアリー④

「 今回の日本旅行で感じた事 その2 ~街角での良い?習慣について~ 」

 

今回の日本旅行で感じた事の第2弾です。日本でも、かつては、早朝、家の周りを掃き清めたりして、きれいにする習慣がありました。今も、見かける地域もありますが、かつてよりは少なくなった気がします。

ところで、家の周りをきれいに片付けておくのは、ニューヨークでは義務です。マンハッタンは管理費に歩道の整備と清掃費が含まれています。ビルの前の歩道はビル管理、車道は市の管理部分です。歩道の穴に氷が張って人が転ぶとビルの責任になります。お店の前の清掃もお店の責任で道路にゴミが有れば罰金、駐車違反も罰金、何もかもが罰金が付いて回ります。歩道で怪我人が出ると補償問題で裁判にもなります。

日本はどこも本当にきれいです。きれいにする習慣を訪れた観光客が学んでくれると良いのですが、きれいなところにペットボトルや食べ残しをその場に置いていく悪い習慣はなかなか治らないようです。

さて、昨年年末は(今回は)ちょうど、ハロウィンの時期の帰国でした。ニューヨークで見るNHKニュースからの印象ではハロインの東京はどこもが大変という印象でした。それが渋谷のような本当に限られた場所での大騒ぎだと初めて知りました。DJポリスと呼ばれるような警官もいて、警察官がマイクロホンで歩行者に注意を促していながら起きるいざこざや違法行為など報道されていていました。

ニューヨークだったらどうなのかと考えました。ハロインでは警官はマイクロフォンで注意をしません。違法行為が行われれば直ちにその場で手錠をかけ警察所へ連行します。警官は、罰金行為で有ればその場でチケットを切り、罰金を納めるか裁判所に出頭するかの選択が有ります。米国では知らなかったでは済まされませんから、気を付けないとなりません。

ニューヨーク1月1日0時のタイムズスクエアでの年越しの状況は世界的に有名ですが、その周り10ブロックはバックパック禁止、傘禁止です。バッグ検査も有り警戒厳重です。日本の初詣でバッグ検査は無いですし、テロ事件の心配もありません。

それからニューヨークのビルはどこも警備の為、写真入り身分証明が必要です。弁護士事務所が入っているビルなどは、その場で写真も撮ります。2020年からは、国内線の空港で写真入り身分証明書(今までの運転免許証)では飛行機に乗れません。州発行の新運転免許証は、もっと多くの資料が書き込まれているそうで、新しい運転免許証か、またはパスポートを提示しないとなりません。日本では警備員に身分証明書を見せませんし、空港で切符と身分証明書を提示しなくても良いのが、何時まで続くでしょうか。アジアへ旅行に行った時に日本パスポートが高く売れると聞いたことが有ります。指紋も偽造するそうです。

 

街角を歩くにもさまざまなルールがあるようです。こんなことを知るのも、それぞれの街角で安全にそして気持ちよく暮らすためのルールがあるということなのでしょう。

ニューヨークに来られた時には、その土地のルールやマナーにご注意を!

 

2020年初春   野上陽子     サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

野上陽子の摩天楼ダイアリー③

「 今回の日本旅行で感じた事 その1 ~出入国について~ 」

 

明けましておめでとうございます。お読みいただき感謝申し上げます。どうぞ今年もよろしくお願い申し上げます。

 

大晦日にカルロス・ゴーン氏の日本脱出が話題となり、ニューヨークでも話題となっています。真相が次第に明らかになってきましたが、出入国の管理は国により、大きく異なります。

昨年11月から12月にかけて、仕事の関係でニューヨークから出かけ、日本に滞在しました。改めて、日本での「出入国」の手続きについて、感じたところがありますので、書いてみました。皆さんはどんな感想をお持ちでしょうか。

日本は、世界の中で然も安全な国だと旅行者は感じています。安全、時間に正確な鉄道、公共施設が綺麗です。何度も行き来している日本、今回、羽田空港では、今までよりも待たされずに入国出来ました。それというのも、日本の入国手続きは、顔認識と指紋、パスポートの検査が早いです。でもこんなに早くて大丈夫なのかしら?と思うのは私だけでしょうか。

それから出国時にはパスポートと上半身の認識だけでスタンプなしです。上半身の認識は気になりました、どこまで正確なのでしょうか? i-phoneは指紋認識か顔認識ですが、顔認識は正確ではなく、双子や姉妹の認識が完全ではないといわれています。

それから、出国スタンプが無いのです。国によってはまだ目でパスポートを確認する習慣が有り、日本経由でアジアへ行き、何時どこ経由でここに来たかと聞かれて説明する必要が出ました。

もっと厄介なのは、日本出国スタンプが無いため、アメリカでの税金申告上や移民局からの質問に、出国日数計算する時困ります。日本入国スタンプが有っても出国スタンプが無いので日数を自分で記載しておかないといけない注意が必要になります。移民局が持っている出国数字と申請書に書いた数字が違うと問題になります。観光客の呼び寄せの一環として出入国を簡単にして、招かざる客を受け入れる可能性や犯罪者を国外に出してしまう可能性が出るのではないかと考えるのは、私だけでしょうか? そして永住者や長期滞在者が今後増えると米国のように税金申告や他国での犯罪経歴など多種の問題が出てくると思います。

話が逸れますが、米国入国時に犯罪を犯したことが有りますか?警察に捕まったことが有りますか?この質問に、正しく回答する必要が有ります。犯罪を犯しても刑に服せば良いことであり、警察に捕まっても無実であれば問題にはなりません。それよりも正しく回答しないと偽証罪になり、偽証罪は入国拒否の可能性が有ります。それからハワイに新婚旅行で入国しようとして学生時代に不法滞在(許可期間以内に出国しなかった)で、入国時に拒否された例が有ります。米国はそんな国です。

ニューヨークのJFK国際空港では、外国からの渡航者は入国時にかなり待たされます。それはテロ対策の為だけでなく、違法移民や違法就業者、犯罪者などの取締りが厳しいからです。実際に日本からの社員が飲酒運転をして、出張が重なり裁判所からの出廷を何度か延期して、その後に罰金を支払いました。その後就業ビザ延長申請時に却下され、観光許可も下りなくなり、アメリカ大使館で入国許可を取りすべての引っ越しを終わらせました。

日本入国時は何も言葉を交わすことが有りませんが、米国では入国時に会話が有ります。係官がいろいろ聞きます。多分心理作戦で犯罪者を探しているのだと思うのです。

今、カルロス・ゴーンさんの日本脱出で、日本の出国手続きが緩いことが話題となっています。便利で迅速なことは良いことですが、出入国の手続きも、世界共通ではなく、社会の秩序を保ち、市民を安全から守るためには、まだまだ見直さなければならない点が多いと感じます。

今年も、摩天楼ダイアリーを楽しくお読みいただけるように、話題提供したいと思っています。

 

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養育費・婚姻費用算定表の改定と無料相談会のお知らせ

2019年12月23日、改定された養育費・婚姻費用算定表が公表されました(最高裁判所の司法研修所が作成)。

今回は、養育費・婚姻費用算定表とは何なのか、算定表の改定によって何がどのように変わったのかを説明します。また、合わせて公表された、成年年齢の引き下げが養育費の支払いに及ぼす影響についての考え方も説明します。

 

1 養育費・婚姻費用算定表の改訂について

(1)養育費・婚姻費用算定表とは

ア 養育費とは

養育費は、監護者となった親が、他方の親に対して請求する「子の監護に関する費用」のことです。

子どものいる夫婦が離婚をするときは、夫婦のどちらが子どもの監護をするかを決めますが、離婚しても親子関係が無くなるわけではありませんので、別居した親も子を扶養する義務があります(民法877条1項)。そのため、別居した親は、子と同居して監護している親に養育費を支払うことになります。

イ 婚姻費用とは

社会生活を営むには様々な費用が必要となりますが、夫婦は「婚姻から生じる費用を分担する」(民法760条)ものとされており、このような費用を婚姻費用と言います。

夫婦が別居するなどして生活費を別々に支出している場合に、例えば子と同居している方が、他方に対して婚姻費用を請求することがあります。

ウ 養育費・婚姻費用算定表の意義

養育費や婚姻費用をいくらにするかについて、夫婦が話し合って納得できる金額を決めることが出来るのであれば、その金額とすることに問題はありません。

しかしながら、そのように決めることが出来ない場合には、夫婦それぞれの収入や支出などを踏まえ、金額を決める必要が生じます。

もっとも、1件1件、個別の事情を考慮して一から金額を決めるのは、大変煩雑であり、また、当事者が金額を予測しにくいという問題もあります。そこで、平成15年、当時の統計資料などを参考に、当事者の収入や子どもの数などに応じて養育費・婚姻費用の目安を示す算定表が提案され、実務に定着してきました。これが、養育費・婚姻費用算定表です。

 

(2)算定表の改定

上記のとおり実務に定着した算定表ですが、提案された平成15年から15年以上が経過し、この間の税制等の法改正、社会情勢の変化等を踏まえ、より現在の社会実態を反映した内容にする必要性が生じました。

そこで、算定表についての見直しが行われ、この度、改定された算定表が公表されるに至りました。今後、調停や訴訟などの実務では、この算定表を基準として養育費・婚姻費用の金額を決めていくことになります。

 

(3)具体的な内容

従前の算定表と改定後の算定表を比較すると、改定後の方が養育費・婚姻費用の金額が高めに出る傾向があります。具体例でみると、以下のとおりです。

(なお、算定表はあくまで目安であり、最終的な金額は個別の事情を踏まえて決めることになりますのでご留意ください。)

<養育費>

例1 夫A(給与所得者・年収500万円)、妻B(主婦・無収入)

5歳の子が1名おり、妻Bが親権者となって子を監護するケースの養育費。

【従前の算定表】    4~6万円

【改定後の算定表】   6~8万円

 

例2 夫A(給与所得者・年収400万円)、妻B(給与所得者・年収350万円)

6歳と3歳の子がおり、妻Bが子2名の親権者となって子を監護するケースの養育費。

【従前の算定表】    2~4万円

【改定後の算定表】   4~6万円

 

例3 夫A(給与所得者・年収600万円)、妻B(給与所得者・年収600万円)

16歳と12歳の子がおり、夫Aが子2名の親権者となって子を監護するケースの養育費。

【従前の算定表】    4~6万円

【改定後の算定表】   6~8万円

 

<婚姻費用>

例4 夫A(自営業・年収600万円)、妻B(給与所得者・年収150万円)

夫婦は別居しているが離婚はしていない。3歳の子が1名で、妻Bが監護しているケースの婚姻費用。

【従前の算定表】   12~14万円

【改定後の算定表】  14~16万円

 

(4)運用についてのQ&A

Q1 私は3年前に離婚し、そのときに養育費の金額も決めたのですが、算定表が改定されたことを理由に、養育費を改定後の算定表に基づく金額に変更してもらうことはできますか?

A1 現在のところ、算定表の改定のみを理由として養育費の金額を改定後の算定表の金額に変更することはできないと考えられています。もっとも、相手が変更に応じるのであれば、変更することは可能です。

 

Q2 私は3年前に離婚し、相手に対して養育費を支払うことになりました。ところが、その後再婚し、新たに子どもが出来たため、養育費の金額を変更してもらいたいと考えています。この場合、従前の算定表と改定後の算定表のどちらに基づいて計算すればよいのでしょうか。

A2 現在のところ、養育費の金額を変更する必要が生じたと判断された場合には、改定後の算定表に基づいて計算することが想定されています。

 

2 成年年齢の引き下げが与える影響について

平成30年の民法改正により、令和4年4月1日から、民法上の成年年齢が18歳となります。

これに伴い、例えば、養育費の終期を「子が成年に達する日まで」などとした協議書や調停調書等について、養育費の終期が18歳までになるのかという問題があります。

この点について、取り決めをした時点で当事者は「成年」=20歳と認識していたのが通常であることから、こうした場合における「成年」とは、基本的には「20歳」を意味するものと理解すべきであるとの考え方が示されました。

また、養育費の支払義務の終期は子が未成熟子を脱する時期とされているのですが、従前は、その時期が成年年齢である「20歳」とされることも多くありました。この点について、成年年齢が18歳になったとしても、「未成熟子を脱する時期が特定して認定されない事案については、未成熟子を脱するのは20歳になる時点とされ、その時点が養育費の支払義務の終期と判断される」という考え方が示されました。

したがって、養育費の支払義務の終期の決め方に関して、基本的には成年年齢の引き下げはあまり影響をしないものと思われます。

 

3 無料相談会の実施

池田総合法律事務所では、養育費・婚姻費用の算定表の改訂を受けて、以下のとおり無料相談会を実施します。

離婚を検討されている方、養育費や婚姻費用の請求を検討されている方は、是非一度専門家にご相談ください(要予約)。

日時:令和2年1月23日(木)14時~16時

同日   17時~19時

同月25日(土)10時~12時

(お一人30分程度の相談時間となります)

場所:池田総合法律事務所内

<川瀬裕久>

刑事弁護④~身体拘束が長期化する場合~

1 被疑者段階(捜査段階)

刑事事件①のコラムでは,被疑者段階では,1事件につき23日間程度,自由を奪われると書きました。

しかし,カルロス・ゴーン氏の事件のように,被疑者段階が数か月続くこともあります。

カルロス・ゴーン氏の事件では,有価証券報告書の虚偽記載という金融商品取引法違反で最初に逮捕・勾留されました。

このときは,同じ有価証券報告書でも2011年から2015年の虚偽記載で最初に逮捕・勾留され,その後直近3年分の有価証券報告書の虚偽記載で逮捕・勾留され,最後に特別背任という会社法違反の被疑事実で逮捕・勾留が繰り返されました。

日産自動車株式会社は,上場企業として毎年有価証券報告書を作成・提出しなければならないのですが,その一部を切り取って一つの事件とし,他の部分を切り取って一つの事件とすることは,警察・検察といった捜査機関のある程度自由が効くところです。事件を組み合わせていけば,逮捕・勾留だけで数か月にわたる身体拘束も可能です。

また,例えば,遺体が河川敷で発見され,遺体を捨てた被疑者が逮捕・勾留される場合,まずは死体遺棄罪で逮捕・勾留されます。そして,被疑者が殺人をしたということであれば,殺人罪で再逮捕・再勾留され,23日間程度を2回,合計46日間程度は身体拘束が継続することになります。

このように,逮捕・勾留だけでも1か月半以上の身体拘束が継続することもあります。

この数か月に及ぶ身体拘束中,継続的に取調べを受けることは,精神的・肉体的に相当追い込まれることになります。数か月間,お前がやったんだろうと取調官に追及され続けても平気という人はまずいません。

そういった中で,的確にアドバイスができ,味方であることができるのは弁護人しかいません。

弁護人を選ぶことは大変重要です。

 

2 被告人段階(刑事裁判段階)

通常の刑事裁判は,起訴後1か月すると第1回公判(裁判)の期日が入り,自白事件であれば,第1回公判の約2~3週間後に判決が出て,手続が終了することが多いです。

しかし,否認事件であれば,公判は1か月に1回程度しか入りませんので,証人の人数などによっては手続が終了するまでに数か月が必要になることもあります。

また,裁判員裁判対象事件(殺人事件など)は,起訴されて裁判が始まるまでに1年程度かかることは比較的多いです。

裁判員裁判では,長いものであれば3,4年程度,判決までかかる事案もあります。

このように刑事裁判(正式裁判)となった場合には,保釈が認められない限り,数か月の身体拘束が継続することになります。

 

3 最後に

刑事事件では,弁護人からアドバイスを受けつつ,捜査機関に対していくことは必要不可欠です。

刑事事件でお困りの方は,池田総合法律事務所までご相談ください。

 

〈小澤尚記〉

刑事弁護③

【刑事弁護①】【刑事弁護②】に続いて,刑事弁護での弁護士の依頼の仕方などのコラムです。

 

1 はじめに

刑事弁護のご依頼を受けた場合,弁護士は弁護人(べんごにん)と呼ばれることになります。

日本国憲法37条3項では,「刑事被告人は,いかなる場合にも,資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは,国でこれを附する」とされ,弁護人を付ける権利が憲法により保障されています。

そして,「資格を有する弁護人」は弁護士のみを指しますので,被告人には「弁護人」である弁護士を依頼する権利が認められています。

 

2 私選弁護人

私選弁護人は,捜査を受けていたり,刑事裁判を受けている本人や家族からご依頼を受けて,弁護人になる場合です。

私選弁護人の場合,ご本人やご家族と弁護士との間で直接,委任契約を締結し,弁護士の費用はご本人やご家族に負担していただくことになります。

 

3 国選弁護人

財産が50万円未満しか無い場合等には,国(裁判所)が弁護人を付けてくれます。

これを「国選弁護人」(こくせんべんごにん)と言います。

現在の法律では,被疑者段階の国選弁護人は,被疑者勾留をされた全事件について,被疑者本人が希望(請求)すれば選任されます。

国選弁護人は国(裁判所)が選任するものですので,国選弁護人が誰になるかは選ぶことができません。ある特定の弁護士が国選弁護人に就くことをご本人やご家族が希望したとしても,基本的にそのご希望とは関係無く,一定のルールで国選弁護人が国(裁判所)により選ばれます。特定の弁護士を希望する場合には,基本的に私選弁護人を選ぶ必要があります。

なお,国選弁護人の弁護士費用は,基本的に国が負担しますが,判決でご本人が負担することを命じられることもありますので,国選弁護人の費用がかからないとは限りません。

 

4 国選から私選への切り替え

国選弁護人が選ばれていても,親族などが私選弁護人を選ぶことは当然できます。

私選弁護人が選ばれれば,国選弁護人は当然に解任されます。

私選弁護人を選ぶ場合には,委任契約を締結のうえで,私選弁護人として選任していただくことになります。

 

刑事弁護でお困りの方は,池田総合法律事務所までご相談ください。

 

〈小澤尚記〉

「医療法人」の設立方法,税務について勉強会をしました

令和元年11月27日,池田総合法律事務所の小澤が入っている異業種交流会内での勉強会で,医療法人の設立から税務までを,医療法人の立ち上げに多く関わっているメンバーの鈴木昌道税理士(名古屋市中区栄2-2-23アーク白川公園ビルディング4階鈴木税務計事務所)に講師をお願いして勉強会をしました。

医科の法人割合は約43%程度,歯科の法人割合は約15%程度であり,法人化率はそこまで高くありません。

現在,設立可能な一般的な医療法人は,基金拠出型医療法人のみであり[i][ii],医師・歯科医が,基金を拠出し(株式会社の資本金と違い,出資ではなく,法的性質としては貸付金のなかでも劣後債に近い位置付け),法人を設立します。

そして,法人解散時に,拠出した基金額以上の財産が法人に存在すれば,国庫や医師会などに最終的に帰属させられることになります。そこで,内部留保をしすぎないように財務管理を行っていくことが必要とのことでした。

また,医療法人には監事1名が必要ですが,法人理事長の2親等以内の直系血族,兄弟姉妹,配偶者は監事になれないことから,監事の担い手確保が難しいとのことです。この医療法人の監事には弁護士であれば就任することができるとのことですので,弁護士の潜在的な需要がこういったところにもあるのではないかと感じました。

税務面では,租税特別措置法26条を利用していて税務申告をしている場合,法人化をすると措置法26条が使えなくなり,その想定が必要とのことでした。具体的には,社会保険診療報酬が例えば2500万円~3000万円であれば,「社会保険診療報酬×70%+50万円」が,措置法26条により概算経費として認められるため,精神科クリニック等の設備投資等があまり必要の無いクリニックでは法人化による税務面でのメリットは無いとのことでした。

したがって,医療法人を設立するか否かは税務面も含めて十分なメリットがあるかどうかの十分な事前検討が必要不可欠とのことです。

加えて,医療法人の場合,法人登記をしたからといって,すぐに診察を始められるわけではなく,必要な書類をすべて整えたうえで保健所への届出,保健医療機関としての指定申請が必要になり,この点のスケジュール感がなければ,クリニックの開業スケジュールが遅延するおそれがあり,開業支援にあたって特に緊張感が伴う領域とのことでした。

 

医療法人の設立は以上のように比較的特殊な分野で,十分な知識・経験が必要な分野ですが,弁護士として,医療法人の設立時や,医療法人の設立後の法人運営でも,お手伝いすることも色々あると実感しました。

 

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

[i] 平成19年の制度改正前までは,株式会社に近い出資額限度法人が設立できましたが,現在は設立できません。出資額限度法人は「当面の間」存続できることになっています。

[ii] 現行法による医療法人は,他に「社会医療法人」「特定医療法人」などがありますが,救急医療などを行う地域の大規模病院が主です。

刑事弁護②

前回は,逮捕勾留の概略でしたが,今回は刑事公判(裁判)段階です。

 

捜査段階が終わり,検察官が起訴をした場合,刑事裁判が始まることになります。

捜査段階から弁護人としてご依頼いただいていた場合,弁護人としては検察官が起訴しない処分(不起訴処分)をするように弁護活動をしますが,そのような活動にも関わらず起訴されてしまうということも当然ながらあります。

 

1 起訴の種類

起訴には種類があります。

まず,①略式命令で罰金の裁判を受けたときは、罰金を支払うことになります。

しかし,②正式裁判として起訴された場合、公開法廷で刑事裁判を受けることになります。

略式命令は,裁判所に必要な罰金を納めることにより,通常は直ぐに解放されます。これに対し,正式裁判は通常の刑事裁判を受けることになりますので,起訴されてから第1回公判(裁判)まで約1か月,その後必要な審理を経て,判決に至ることになり,数か月かかる手続です。

しかし,捜査段階で逮捕・勾留され,身体を拘束されていた方が,正式裁判となって起訴されたからといって当然に釈放されることはありません。通常は身体拘束がそのまま継続します。

 

2 起訴後の保釈

起訴後も身体拘束が継続した場合に,身体拘束を解く手続きを「保釈」と言います。裁判官に保釈を申し立てて,裁判官の許可を得られれば、保釈してもらうことができます。

ただし,保釈の許可を得るには様々な要件があります。

とりわけ保釈の許可を得るためには,保釈金(保釈保証金)を準備して裁判所に納める必要がありますが,この保釈保証金の準備ができることが保釈のための前提条件になります。

保釈保証金は、裁判官が案件に応じて金額を決めますので,個々の事件で金額が違います。そして,裁判官が決めた金額を原則として現金で納めなければなりません。

保釈保証金は100万円~300万円程度の水準とされることが比較的多いです。

なお,保釈保証金は、逃亡するなどの没取(没収)の事情がない限り,原則として刑事裁判が終了すれば全額返還されます。

 

3 刑事裁判

次に,公判(刑事裁判)ですが,刑事裁判は被告人が罪を犯したかどうかを判断し、罪を犯したと判断された場合は刑罰の内容を決める手続きです。

弁護人は,刑事裁判の手続きのなかで,検察官が請求した証拠に対して意見を述べたり,被告人質問を行ったりします。

そして,必要な証拠を調べたうえで、判決が言い渡されます。

 

地方裁判所、簡易裁判所の第一審判決に不満があれば、次に高等裁判所に不服を申し立てることができます。この不服申立てを控訴といいます。

また,高等裁判所の控訴審判決に不満があれば、次に最高裁判所に不服を申し立てることができます。この不服申立てを上告といいます。

控訴・上告には期間制限があり,判決言渡しの日の翌日から14日以内に申し立てる必要があります。この期間が経過すると判決が確定します。

従って,判決が実刑判決であれば刑務所に収監されることになります。

 

刑事弁護でお困りの方は,池田総合法律事務所までご相談ください。

〈小澤尚記〉

刑事弁護①

刑事事件では,逮捕・勾留された直後,できる限り早急に弁護士と会い,弁護士からアドバイスを受けることが非常に重要です。

 

刑事事件では,逮捕勾留される場合(身柄事件)には,警察による逮捕の場合,逮捕後48時間以内に検察官送致(いわゆる「送検」です。)され,送検から24時間以内に勾留の請求が裁判所にされます。

裁判所が勾留すると決めると,原則10日間,最大20日間,主に警察署の留置施設で身体を拘束されてしまいます(再逮捕等があれば,勾留期間の合計は20日間よりも長くなります。)。

したがって,1事件につき23日間程度,自由を奪われて,取調室での取調べを断続的に受け続けることになります。

例えば,えん罪事件では,本当は無実の人が罪を認める自白をしてしまうということが起こります。

これは,取調官以外に会話する人がいない中,数週間にわたり,取調室という密室で,取調官の取調べを受け続けると冷静な判断ができなくなり,楽になるためには自白してしまおうと考えてしまうためです。また,えん罪事件では,取調官から自分自身や家族の人格を否定するような発言や,志布志事件(踏み字事件)のように家族の名前が書かれた紙を無理矢理踏まされるという常軌を逸した取調べが行われることもあり,自白に追い込まれていきます。

本当はやっていないが,ここで自白してしまっても,裁判になったら裁判官は本当のことは分かってくれるだろうと考える方もいます。そこで,取調べが終わって,裁判(公判)になったとき,実はやっていなかったと自白を覆そうということが起こってきます。

しかし,現在の日本の刑事司法手続のなかでは,一度してしまった自白を無かったことにすることは法律上,非常に困難です。

本当にやっていないのであれば,何があっても自白するはずは無い,自ら進んで自白したのだから有罪であると考えがちなのは,一般の方も裁判官も同じです。

 

この孤独な逮捕勾留中の取調べに対し,どのようなことを取調べられていて,それに対してどのような権利があり,取調官の意図を解説し,取調べを受けるにあたっての心構えなどを法律的にアドバイスできるのは弁護士だけです。

また,取調官に対して,必要な抗議,申入れをして,適正な取調べが行われるよう求めることも弁護人にしかできません。

裁判になってから対応していたのでは手遅れになることも多々ありますから,できる限り逮捕勾留の早い段階で弁護士からアドバイスを受けることが,大変重要です。

特に,勾留を決めた裁判官が,接見等禁止決定(簡単に言うと,弁護士以外との面会が認めないと裁判所が決めることです。)をした場合には,逮捕勾留中には弁護士以外の誰とも会うことができませんので,会うことができるのは捜査機関を除いては弁護士だけになります。

また,そもそも勾留を決めた裁判所の判断に対して,法的に争っていくこと(「準抗告」といいます)ができるのも弁護士だけです。

さらに,逮捕・勾留の後,刑事裁判にするかどうかは検察官が判断します。そこで,被害者がいる事件であれば被害弁償をしたり,被害者がいない事件でも親族が監督するといったことを的確に検察官に伝えて,不起訴とするように検察官に働きかけるのも重要な弁護活動です。例えば,池田総合法律事務所では,殺人未遂事件で,被害者と示談することで不起訴処分となり,刑事裁判に至らなかった案件もありました。

 

また,道路交通法違反や交通事故などの場合には,逮捕勾留されずに在宅で捜査が進んでいくこともあります。在宅の場合も,警察・検察を相手として弁護活動をすることができるのは弁護士しかいませんし,捜査の流れなどの疑問に思われていることも弁護士であれば,アドバイスすることができます。

 

刑事事件でお困りの方は,池田総合法律事務所までご相談ください。

〈小澤尚記〉