法人破産について(連載第1回)

新型コロナウイルス感染症,コロナ特別融資の返済,円安,金利動向など経営環境は様々な変化があり,今後もどのような経営上の不安要素が突発的に発生するかが分からない難しい時代です。

池田総合法律事務所は,企業法務を主軸として取り扱っており,企業継続のための法的なサポート業務を日常的にご提供していますが,法人の倒産事案も相当数取り扱っています。

特に,池田総合法律事務所では,法人の破産申立だけではなく,裁判所から選任される法人破産の破産管財人も多く務めています。

今回は,破産・再生等の倒産分野にフォーカスをあてて,これから4回の連載をしていきます。

第1回は「法人破産の概要」,第2回は「代表者の破産(経営者保証ガイドラインの利用を含む)」,第3回は「法人破産申立のスケジュール,費用」,第4回は「法人の民事再生」です。

それでは,第1回は,法人破産の概要です。

 

1 破産とは

(1)破産とは

破産を簡単に説明させていただければ,会社にある財産(現金,預貯金,売掛金,不動産,機械設備その他のプラスの財産)と,会社の借金(債務)とを裁判所に明らかにして,裁判所が選任する破産管財人がプラスの財産を換価(=換金)して,破産管財人が債権者に配当という形で金銭を支払って,財産の無くなった会社を消滅させる手続です。

端的にいえば,裁判所によって,法人の債務を法人ごと消滅させてしまう制度が破産です。

(2)プラス財産の洗い出し

そこで,破産の申立てをするには,まずはプラスの財産の洗い出しをする必要があります。

実務上は,法人の2期分の決算報告書をもとに,現に存在している財産を把握して,裁判所に提出できるよう目録を作成します。

(3)債務の洗い出し

次に,債権者が誰で,債務額がいくらあるのかを把握して,これも債権者一覧表という形でまとめる必要があります。

また,債権者といっても,税金,給与(解雇予告手当も含む),銀行融資,取引先(仕入れ先など)などがありますが,法律上の位置付けは様々です。

例えば,給与を支払ってもらえなければ,労働者が生活できなくなるおそれがありますので,銀行融資や取引先などの債務に比べて,優先的に支払を受けることができると法律上定められています(ただし,未払給与の全部というわけではなく,期間的な制限はあります)。

実務上は,手持ちの現預金を確認して支払が可能であれば,いままで働いていただいた労働者の方に迷惑をかけないように給与等を支払うことを検討することになります。

(4)労働者(従業員)について

破産は,法人ごと消滅させる手続ですので,裁判所に破産を申し立てる前に労働者(従業員)は全員解雇するのが原則です。

もっとも,破産手続が始まった後に破産管財人が必要であれば,経理担当者などを一時的にアルバイト等として雇用することもありますが,いずれにしても破産申立前には基本的に全従業員を解雇します。

(5)破産申立をすることの決定

法人が破産を申し立てる場合,個人と違い,取締役などがいるので,取締役等の決議や同意が必要になります。

具体的には,

【取締役会設置会社(取締役会がある会社)の場合】

取締役会の決議が必要

【取締役会非設置会社(取締役会がない会社)の場合】

取締役全員が破産申立に同意したことが分かる同意書面が必要です。

仮に取締役が1名の会社であれば,1名が破産申立をすることを決定したことが分かる書面があれば良いですが,2名以上の取締役がいる場合には,全員の同意が分かる書面が必要になります。

ただし,反対している人や連絡がとれない場合でも,準自己破産という手続は準備されています(ただし,この場合,裁判所に予納する予納金の金額は通常に比べて高額になります)。

(6)裁判所への破産申立

取締役会等で破産申立をすることを決め,プラスの財産の目録や債権者一覧表が整った段階で,裁判所に破産を申し立てることになります。

破産を申し立てる場合には,申立をする弁護士の弁護士費用以外にも,破産管財人の費用として裁判所に一定額を予納する必要がありますが,この点は第3回で概要を説明させていただきます。

驚かれる方もいますが,破産を申し立てるにあたっては,裁判所に一定額のお金を予納する(支払う)必要があります。自らの費用で自ら法人を設立した以上,破産をするときも自らの会社を消滅させる手続の費用は自ら負担すべきだからです。

 

2 破産申立への弁護士の関与

破産申立をする場合,破産法を十分に理解したうえで,破産法上問題が無いように申立前にできる限りの準備をすることになります。

また,債権者に対する対応も必要になりますが,債権者対応は弁護士以外には難しいものです。問題無く破産手続を進めていくためには,弁護士の関与が必須です。

池田総合法律事務所では,多数の法人破産申立の実績もありますし,裁判所に選任される法人の破産管財人業務の実績も多くあり,申立てにあたってのノウハウも豊富に有しています。

法人破産の申立時期をいつとするのかは大変重要です。事業が立ちゆかないのではないか,後継者がいないが借金があるなどといった法人の廃業や破産をご検討の事業者は,切羽詰まってからではなく,早めに池田総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))

下請法について(第3回)

 

建設業における下請け契約で気を付けるべきことは?

 

下請法について、第3回目は、資材の高騰や人手不足が懸念される業種の一つ、建設業にスポットを当ててみます。

 

1 建設業法と下請法

建設業法は、建設工事全般について規定した法律ですが、下請業者が元請業者と結ぶ下請け契約について、触れている箇所が少なくありませんので、注意が必要です。下請法では資本金で下請けに当たるか適用の有無を定めていますが、建設業法では、企業規模は考慮されません。

 

建設業法の下請け保護のために、丸投げの禁止があります(建設業法第20条)。丸投げをした事業者が工事を請負だけで利益を得るのは公正ではないからです。

 

2 「建設業法令順守ガイドライン」

建設業法上の下請け規制については、「建設業法令順守ガイドライン」(国土交通省総合政策局建設業課 発行)が参考となります。主要な点を見ていきます。

元請人は、下請け契約を締結する前に、見積条件として、以下の事項について具体的な内容を提示し、下請業者が適正な見積もりができるようにしなければなりません。

・工事内容

・工事着手時期や完成の時期

・請負代金の前金払いや出来高部分に対する支払いの定めをする時はその時期や方   法

・価格等の変動や変更に基づく請負代金の額や工事内容の変更

・工事完成の確認検査の時期や方法、引渡しの時期

・工事完成後における代金の支払いの時期や方法

・工事の目的物が種類・品質に関して契約内容に不適合な場合における担保責任やその責任の履行に関して講ずべき保証、保険契約の締結その他の措置

・遅延利息や違約金その他の損害金

・工事を施工しない日や時間帯の定めをする時はその内容

 

工事内容ついては、最低限、明記すべき事項がガイドラインで示されています。

 

3 2020年の改正

最近では、コンプライアンスの重視から、ガイドライン第7版―元請人と下請人の関係にかかる留意点―に網羅的な説明がなされていますので、こちらもご注意願います。

特に注目される改正点は下記の通りです。

(1)見積条件の提示(建設業法第20条の2)

①地盤沈下や地下埋設物による土壌の汚染その他の地中の状態に起因する事象

②騒音、振動その他の周辺の環境に配慮が必要な事象

が発生する恐れがあることを知っている時には情報提供が必要とされました。情報提供を行わずに見積を行わせたり、契約を行った場合には、法違反となります。

(2)長時間労働の是正→工事をしない日等の定め(法第19条)

(3)著しく短い工期の禁止(法第19条)

(4)下請代金の現金支払い(法第24条の3)

(5)不利益取扱いの禁止(法第24条の5)

 

4 ホットラインの開設

国土交通省の地方整備局には、法令違反行為の疑義情報の受付窓口が設けられています。通報や相談をしたことによる不利益な取り扱いは特に禁止されています。

 

5 独占禁止法にも注意を

建設業者が不当に低い請負代金の禁止や、不当に低い資材の購入強制の禁止、下請代金の支払い、検査や引き渡しなどに違反している事実があり、それが建設業法19条に違反していると認めるときには、公正取引委員会に対して、措置請求を行うことができると定められていますので、独禁法に抵触することもあるということを頭の片隅に入れておくことが望まれます。

 

6 まとめ

気を付けるべきことはいろいろですが、おかしなことをしていないか点検をする姿勢で、次のようなことを再度点検してください。

一方的な指値発注がないかどうか、やり直し工事で無理を言っていないか、赤伝処理(元請負人が一方的に諸費用を代金支払い時に差し引く)をしていないか、支払留保をしていないか、帳簿の備え付けや保存はしているか(5年間の保存義務あり)、工事完了時の検査機関が20日を超えていないか。

 

適正な取引は、元請と下請の良好な契約関係の維持、発展に資するものです。

契約書のチェックなどご相談がありましたら、お尋ねください。

 

(池田桂子)

下請法について(第2回)

親事業者の禁止行為~買いたたき、下請代金の減額を中心として~

 

本コラムでは、前回(2022年10月4日 下請法について(連載・全3回))に引き続き、下請法の概要を解説します。

今回のテーマは、親事業者の禁止行為です。

 

 

1 親事業者の禁止行為

下請法4条は、「親事業者の遵守事項」というタイトルで、親事業者による一定の行為を禁止しています(そのような行為を「親事業者の禁止行為」といいます)。

(1)禁止行為(下請法4条1項:次に掲げる行為をしてはならない)

禁止事項 概要
受領拒否

(1号)

下請事業者に責任がないのに、発注した物品等を受け取らないこと。
下請代金の支払遅延

(2号)

物品等を受け取った日から60日以内で定めなければならない支払日までに下請代金を支払わないこと。
下請代金の減額

(3号)

下請事業者に責任がないのに、あらかじめ定めた下請代金を減額すること。
返品

(4号)

下請事業者に責任がないのに、発注した物品等を受け取った後に返品すること。
 

買いたたき

(5号)

下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比べて著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
購入・利用強制

(6号)

正当な理由がないのに、親事業者が指定する物品、役務などを強制して購入、利用させること。
 

報復措置

(7号)

下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。

 

(2)禁止行為(下請法4条2項:次に掲げる行為をすることによって、下請事業者の利益を不当に害してはならない)

禁止事項 概要
 

有償支給原材料等の

対価の早期決済

(1号)

有償支給する原材料等で下請事業者が物品の製造等を行っている場合に、下請事業者に責任がないのに、その原材料等が使用された物品の下請代金の支払日より早く、支給した原材料等の対価を支払わせたり、下請代金の額から控除したりすること。
割引困難な手形の交付

(2号)

下請代金を手形で支払う際に、一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付すること。
不当な経済上の

利益の提供

(3号)

自社のために、下請事業者に現金やサービス、その他の経済上の利益(協賛金や従業員の派遣など)を提供させること。
不当な給付内容の変更及び

不当なやり直し(4号)

下請業者に責任がないのに、費用を負担せず、発注の取消しや内容変更、給付の受領後にやり直しをさせること。

 

(1)については、それぞれの禁止事項にあたる行為をすれば直ちに違法となりえますが、(2)については、それぞれの禁止事項にあたる行為をすることに加え、それによって下請事業者の利益が不当に害されることによって初めて違法の問題となります。

 

2 買いたたきについて

(1)買いたたきとは

下請代金の額を定める際に、

①下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い額を

②不当に定めること

をいいます(下請法4条1項5号)。

(2)買いたたきに当たるか否かの判断について

ア 「通常支払われる対価」について

「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)(以下「運用基準」といいます)では、「通常支払われる対価」について、

「当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。」とした上で、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱う。」としています(運用基準第4の5(1))。

イ 買いたたきに該当するかの判断について

買いたたきに該当するか否かは、

①下請代金の額の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等対価の決定方法、

②差別的であるかどうか等の決定内容、

③通常の対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況

及び

④当該給付に必要な原材料等の価格動向等

を勘案して総合的に判断します(運用基準第4の5(1))。

(3)買いたたきに該当するおそれのある行為について

運用基準第4の5(2)は、買いたたきに該当するおそれのある行為を列挙しています。

ア 多量の発注をすることを前提として下請事業者に見積りをさせ、その見積価格の単価を少量の発注しかしない場合の単価として下請代金の額を定めること。

イ 量産期間が終了し、発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず、単価を見直すことなく、一方的に量産時の大量発注を前提とした単価で下請代金の額を定めること。

ウ 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。

エ 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。

オ 一律に一定比率で単価を引き下げて下請代金の額を定めること。

カ 親事業者の予算単価のみを基準として、一方的に通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めること。

キ 短納期発注を行う場合に、下請事業者に発生する費用増を考慮せずに通常の対価より低い下請代金の額を定めること。

ク 給付の内容に知的財産権が含まれているにもかかわらず、当該知的財産権の対価を考慮せず、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めること。

ケ 合理的な理由がないにもかかわらず特定の下請事業者を差別して取り扱い、他の下請事業者より低い下請代金の額を定めること。

コ 同種の給付について、特定の地域又は顧客向けであることを理由に、通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めること。

以上の項目の中で、ウ、エについては、令和3年12月27日に内閣官房、消費者庁、厚生労働省、経済産業省、国土交通省及び公正取引委員会の出した「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」の中で、「中小企業等が賃上げの原資を確保できるよう・・・労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分を適切に転嫁できる」よう、「下請代金法上の『買いたたき』の解釈」を「明確化する」とされたことを踏まえ、令和4年1月26日の運用基準の改正で追加されました。

 

3 下請代金の減額について

下請法4条1項3号は、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」を禁止しています。

(1)下請代金の額を「減ずること」について

発注時に定められた金額(発注時に直ちに交付しなければならない書面に記載された額)から一定額を減じて支払うことを全面的に禁止する趣旨ですが、以下のような場合にも「減ずること」に当たると考えられます(運用基準第4の3(1))。

親事業者が下請事業者に対して、

・消費税・地方消費税額相当分を支払わないこと

・下請事業者との間で単価の引下げについて合意して単価改定した場合において、単価引下げの合意日前に発注したものについても新単価を遡及適用して下請代金の額から旧単価と新単価との差額を差し引くこと

・下請代金の総額はそのままにしておいて、数量を増加させること

・下請事業者と書面で合意することなく、下請代金を下請事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を下請事業者に負担させ、下請代金から差し引くこと

(2)「下請事業者の責に帰すべき理由」がある場合について

同号が禁止をしているのは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに」下請代金を減額することですので、「下請事業者の責に帰すべき理由」がある場合には、下請代金の減額が認められることがあります。

例えば、下請事業者の給付の内容が下請法3条に基づき交付される書面(3条書面)に明記された委託内容と異なることを理由に受領を拒否した場合には、その給付に係る下請代金を減額することができます。

 

4 禁止行為を行った場合の制裁

親事業者が禁止行為を行った場合、公正取引委員会から、その親事業者に対し、禁止行為を取りやめて原状回復させること(減額分や遅延利息の支払い等)や再発防止等の措置を実施するよう勧告がなされるとともに(下請法7条)、勧告がなされたケースでは、原則として会社名とともに、違反事実の概要、勧告の概要が公表されます。

 

5 親事業者から禁止行為を行われているのではないかと考えたら

親事業者からの行為が禁止行為に当たるか否かの判断は、その行為が下請法4条1項2項の各号のいずれに該当するのか、事実関係を整理し、運用基準や過去の判例等を踏まえた上で検討をする必要があります。

親事業者から禁止行為を行われているのではないかと考えた場合には、公正取引委員会の相談窓口で相談するか、弁護士にご相談されると良いでしょう。

池田総合法律事務所でも、この種の案件を取り扱っておりますので、ぜひご相談ください。

(川瀬 裕久)

下請法について (連載・全3回)

1.はじめに

下請法(法律名:下請代金支払遅延等防止法)とは、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるために制定された法律です。

下請法に違反した場合には、公正取引委員会から、違反行為を取り止めるよう勧告されます。勧告があった場合、企業名、違反事実の概要などが公表されることになります。

企業の法令遵守が強く求められる中、下請法違反は、企業の信用を大きく損なう行為となり得ます。

そこで、下請法の内容を正しく理解し、公正な取引を行うことが重要です。

本法律コラムでは、全3回にわたって下請法についてご説明したいと思います。

 

2.対象となる取引

まず、下請法の規制対象となる取引は、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4つの取引に大別されています。

①製造委託

物品の販売や製造を営む事業者が、企画、品質、形状、デザインなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを依頼することをいいます。ここでいう「物品」は動産であり、家屋などの建築物は対象に含まれません。

②修理委託

物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託することなどをいいます。

③情報成果物作成委託

ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を営む事業者が、他の事業者にその作成作業を委託することをいいます。情報成果物の代表的な例としては、プログラム(ゲームソフト、会計ソフト、家電製品の制御プログラムなど)映像や音声などから構成されるもの(テレビ・ラジオ番組、映画など)、文字、図形、記号などから構成されるもの(設計図、各種デザイン、雑誌広告など)が挙げられ、物品の付属品・内臓部品、物品の設計・デザインに係わる作成物全般を含んでいます。

④役務提供委託

運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を営む事業者が、請け負った役務を他の会社に委託することをいいます。ただし、建設業法に規定される建設業を営む事業者が請け負う建設工事は、下請法の対象とはなりません。

 

3.対象となる取引の主体(「親事業者」「下請事業者」)

対象となる事業者は、以下のとおり資本金の額と、上記取引の内容により決まります。

(1)①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託(プログラム作成に関するもの)、④役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に関するもの)

親事業者 下請事業者
資本金3億円超 資本金3億円以下(個人を含む)
資本金1千万円超3億円以下 資本金1千万円以下(個人を含む)

(2)③情報成果物作成委託(プログラム作成を除く)、④役務提供委託(運送、物品

の倉庫における保管及び情報処理を除く)

親事業者 下請事業者
資本金5千万円超 資本金5千万円以下(個人を含む)
資本金1千万円超5千万円以下 資本金1千万円以下(個人を含む)

 

また、子会社を通して取引する場合であっても、事業者(直接下請事業者に委託をすれば下請法の対象となる場合)が、資本金3億円以下の子会社を設立し、その子会社を通じて委託取引を行っている場合には、①親会社-子会社の支配関係、②関係事業者間の取引実態について一定の要件を満たせば、その子会社は、親事業者とみなされて下請法の適用を受けるので、注意が必要です。

 

4.親事業者の義務

親事業者には、4つの義務が課されています。

(1)書面の交付義務

口頭発注によるトラブルを未然に防止するため、親事業者は発注に当たって、発注内容に関する具体的記載事項を記載した書面を交付する義務があります。

(2)書類作成・保存義務

製造委託をはじめとする下請取引が完了した場合、親事業者は給付内容、下請代金の金額など、取引に関する記録を書類として作成し、2年間保存することが義務付けられています。

(3)下請代金の支払期日を定める義務

不当な支払期日の変更、支払遅延により、下請事業者の経営が不安定になることを防止するため、親事業者は下請事業者と合意の上で、下請代金の支払期日を事前に定めることが義務付けられています。この場合、支払期日は納入された物品の受領後60日以内で、かつ、出来る限り短い期間になるように定めなければなりません。

(4)遅延利息の支払義務

親事業者が、支払期日までに下請代金を支払わなかった場合、下請事業者に対して遅延利息を支払う義務が課されます。

 

次回は、買いたたきや下請代金の減額など、親事業者に禁止される行為について、ご説明します。

(石田美果)

商標について 4 ~商標とフランチャイズ契約~

1 はじめに

3回にわたって、商標の制度や判例について説明してきました。今回は、商標権の保護が重要な役割を担う一例として、フランチャイズ契約を取り上げます。

 

2 フランチャイズ契約と商標

フランチャイズ契約とは、フランチャイザー(コンビニチェーンの本部をイメージしてください)がフランチャイジー(コンビニ店舗の各店長さんをイメージしてください)に対して、特定の商標等を使用する権利を与えるとともに、フランチャイジーの事業や経営についてノウハウを提供して指導や援助を行い、それらの対価をフランチャイジーがフランチャイザーに支払うことを内容とする契約です。

フランチャイジーは、フランチャイズ契約によって、自身のサービスや商品にフランチャイザーの商標を付けることが許されます。フランチャイザーの知名度、信用力、集客力をフランチャイジーが利用するうえで商標は重要な機能を担います(自他識別機能、出所表示機能、品質保証機能、広告宣伝機能などについては、第1回の記事を参照ください)。一方でフランチャイザーは、自身の知名度、信用力や集客力を維持しなくてはなりませんから、商標の価値・ブランドイメージを維持するためにフランチャイジーに強い統制・コントロールを及ぼす必要があります。

そのため、フランチャイズ契約の中には商標権の使用に関する詳細な条項が置かれます。具体的な条項としては、商標権がフランチャイザーに帰属することの確認に始まり、使用目的の限定、使用方法の遵守、改変の禁止、第三者による侵害・違反事実の通知義務、フランチャイズ契約終了後の使用中止や原状回復、違約金の定めなどです。

以上のように、フランチャイザーにとって、その知名度等を適切にフランチャイジーに利用させるためには、商標権は使い勝手のいいツールです。フランチャイズ展開を検討する事業者は、早めに商標登録をしておくことをおすすめします。次項では、商標登録を怠ったままフランチャイズ展開を進めることのリスクについて説明します。

 

3 商標登録を怠った場合のリスク

フランチャイズ展開が始動したばかりの段階では、商標の出願を念頭に置いていないケースもあるでしょう。商標権の出願・登録を怠ったままでいると、別の商標登録を得ている第三者から、「同一の商標」や「類似の商標」などとして警告を受け、商標の使用差し止めや損害賠償請求を提起されるおそれがあります。

そのような場合、様々な反論が可能でしょうが、費用や労力を投じる必要がありますし、こちらの商標の使用が別の商標権を侵害していると裁判所に判断された場合には、商標権者から商標使用権の設定をうけて対価を支払って従前の商標の使用を続けるか、従前の商標の使用を諦めなくてはなりません。フランチャイズ展開が進んだ段階でそのような事態に到れば、チェーン全体の損害は大きなものとなります。商標登録をしないままフランチャイズ展開を進めることは事業にとって大きなリスクです。

フランチャイズ展開を考えるならば、商標登録は避ける事のできない必須のステップです。まず、自身の商標と類似する商標がないかの調査を行い、次に第三者の商標権の侵害がなければ商標出願の手続を進めます(商標登録手続は第2回でも説明しましたので参照ください)。類似性の判断は、判例などを元に検討する必要があるので、専門家に依頼した方が確実です。

また、商標登録に際しては、将来の事業計画を検討しておくことも必要です。例えば、飲食店の場合、役務商標(サービスマーク)だけで足りるようにも思われますが、将来、商品の販売(テイクアウトや冷凍食品)をも視野に入れる場合には商品商標の申請が必要な場面もあり得るでしょう。どの区分で申請するか等についても、専門家のアドバイスを受けるべきだと考えます。

 

4 おわりに

池田総合法律事務所・池田特許事務所では、商標を利用したフランチャイズ展開などのビジネススキームについての法的サポートもさせていただいております。商標登録や知的財産を中心としたビジネス法務についてご相談がありましたら、池田総合法律事務所・池田特許事務所までご連絡ください。

 

山下陽平

 

 

 

商標について 3 ~商標・不正競争に関する近時の裁判例の紹介~

1.「マツモトキヨシ」-音からなる商標登録(知財高裁 令和2年8月30日判決)

商標権の改正により、平成27年4月から「音からなる商標」その他の新しいタイプの商標出願も認められるようになりました。ドラッグストアの「マツモトキヨシ」を運営する会社がテレビコマーシャルでの例の「マツモトキヨシ」を含むフレーズを「音からなる商標」として申請したところ、特許庁は、これは、「人の氏名を含む商標」であり、使用にあたって、その人の承諾も得てないので、商標法4条1項8号に該当し、登録できないとしたため、知財高裁で争われたものです。

判決は、テレビコマーシャルやドラッグストアでの使用の結果、ドラッグストア「マツモトキヨシ」の広告宣伝(CMソングのフレーズ)として広く知られている取引の実情を踏まえ、「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音から、通常、容易に連想、想起するものは、ドラッグストアの店名、企業名としての「マツモトキヨシ」であって、普通は、「松本清」「松本潔」「松本清司」等の人の氏名を連想、想起するものとは認められないとして、商標法4条1項8号に該当するという特許庁の審決を取消しています。極めて常識的な判断だと思います。

このほか、音からなる商標としては、ラッパのマークの大幸薬品、半導体メーカーのインテル社等皆さんもCMで耳にしたことがあるものが商標として認められています。

このような新しいタイプの商標はブランド戦略上も大きな役割を果たしていくことが期待されます。

 

2.「無印良品」のユニットシェルフのデザインは、不正競争防止法により保護されるか(平成29年8月31日 東京地裁判決)

不正競争防止法は、他人の「商品等表示」として周知性のあるものと同一、類似の表示を使用する等して、他人の商品、営業と混同を生じさせる行為を「不正競争」の1つとし(同法第2条1項1号)、被害者に、その使用の差止、損害賠償請求の権利を与えております(同法3条、4条)。

工業製品のシンプルなデザインについては、それが商品の機能上、不可避な形態であり、また、ありふれた形態として、「商品等表示」に該当するということが、認められるケースがあまりない中、このケースは、それが認められた例外的なケースです(末尾に、一部の商品の外観の写真を付けてあります)。

複数のパーツを組み合わせて使う棚をユニットシェルフといいますが、無印側が、カインズのユニットシェルフの形態が自社製品と似ているとして、不正競争防止法に基づき販売差し止めを請求した訴訟の判決です。

無印側は、同社のユニットシェルフが6つの顕著な特徴をもつデザインとなっていることを主張し、このデザインは、需要者の間で無印良品のものとして周知であると主張をしたものです。

カインズ側は、その6つのそれぞれの特徴につき、強度等を維持するための不可避な形態である、ありふれた形態であり無印以外の事業者もユニットシェルフのデザインを備えた商品を製造、販売しており、無印良品のみがその形態を長年独占して使用してきた事実はなく、周知性はないと主張しています。

これに対して、判決は商品のデザインを考える場合、6つの形態それぞれではなく、組合わせた全体のデザインとして、ありふれているかどうか等を検討すべきであり、本件商品は、全体としてまとまり感のあるものとして、顕著な特徴のデザインであるとして、その類似品の製造、販売をカインズの不正競争と判断したものです。

無印良品が長年積み重ねてきた、簡素かつ機能性に注目してきた商品展開が評価されたものと思われます。

ひょっとしたら裁判官は、無印良品のファンだったかもしれません(笑)。

 

3.卸売、小売業者は、メーカーのつけた商品名を変更できるのか(令和4年5月13日 大阪高裁判決)

車輪付き杖の製造元として、「ローラーステッカー」の商品名でこれを販売していたメーカー(個人)が、これを仕入れた卸売業者が、「ハンドレールステッキ」との商品名を付して梱包箱の元のシールの上に新しい商品名のシール等を貼付け、卸売、又は小売を行っていたことに対し、新しい商品名を貼付したうえでの商品販売の差止と損害賠償の請求をした事例です。販売途中でもとの商品名につき、メーカーの商標登録が認められたことから、登録前は、不法行為、登録後は商標権の侵害を理由とする請求という形となりますが、判決はいずれも請求を棄却しております(原判決も同様)。

判決は、メーカー等との合意等特段の事情や公的規制のない限りは、当初の商品名をそのまま生かすことも、あるいは、より需要者に訴えることのできる商品名に変更したり、あるいは、より商品の内容を適切に説明しうる商品名に変更して販売することも許される、としています。

そのうえで、メーカーがブランドとしての統一を図る等の必要があれば、販売に際して、その旨の合意を得れば足り、そのような合意がない場合には、卸売業者、小売業者が常に当初の商品名によらなければならないと解すべき理由はない、としております(このような合意等が存在した場合には、これによって、メーカーに損害を生じさせた場合は、不法行為が成立すると解する余地があるとしています。)。

また、登録商標付の商品を商標権者から譲渡を受けた卸売業者が譲渡の過程で商標を剥離抹消し、さらに異なる自己の標章を付して流通させる行為は、商品の出所を誤認混同するおそれを生じさせるものではなく、その行為を抑止することが商標法の予定する保護の態様とは異なり、登録商標の剥離抹消行為等が、それ自体として、商標権侵害を構成するとは認められない、としています。

確かに商標権の侵害に関する商標法の規定をみても、商品等に付された登録商標を剥離、抹消、変更する行為は商標権の侵害とは定められておりません。

意表をつかれるような論理構成で、商標権の使用、商標権の侵害・保護のあり方を考えるうえで、参考となる裁判例です。

以上

(弁護士 池田伸之)

無印良品の商品

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カインズの商品

環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載10

~廃棄物に関する新型コロナウイルス感染症対策ガイドラインの改定~

 

1 特定管理廃棄物に指定された感染性廃棄物について

 廃棄物処理法により特別管理廃棄物に指定された感染性廃棄物(人が感染し,または感染するおそれのある病原体が含まれ,もしくは付着している廃棄物またはこれらのおそれのある廃棄物)は,環境省の「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」に基づき処理される必要があります(https://www.env.go.jp/content/000044789.pdf)。

 

2 環境省「廃棄物に関する新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」の改定

昨今の新型コロナウイルス感染症の影響により,新型コロナウイルスが含まれていたり,含まれているおそれのある廃棄物が大量に発生しました。

こういった新型コロナウイルス感染症関係の感染性のある廃棄物は,医療機関だけではなく,宿泊療養施設でも発生しますし,介護施設や家庭,事業所でも日々発生しています。

環境省の「廃棄物に関する新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」 (https://www.env.go.jp/content/900532873.pdf)が令和3年6月に一部改訂されています。

ここでは,

①家庭,事業所及び宿泊療養施設

家庭,事業所及び宿泊療養施設から排出される感染者の生活系廃棄物(マスク,使用したティッシュ,使い捨ての食器,オムツなど)は,感染性のある廃棄物ですが,医師等が医業等を行う場所から排出されるものではありませんので,廃棄物処理法に定める感染性廃棄物が排出される施設には該当せず,感染性のある廃棄物であっても廃棄物処理法上の感染性廃棄物としての処理が義務づけられてないことが明確化されています。

もっとも,事業所及び宿泊療養施設から排出される廃棄物は事業系一般廃棄物または産業廃棄物には当たりますので,排出事業者は適切に処分をする必要があるのは,廃棄物一般と同様です。

②医療関係機関等

医療機関や検査機関等から排出される,注射針などの医療器材,カテーテル類等のディポーザブル製品,ガーゼ,オムツ等の衛生材料については,廃棄物処理法上の感染性廃棄物にあたるとされていますので,医療関係機関等の感染性廃棄物の排出事業者は,通常の感染性廃棄物を扱う際と同様に,廃棄物処理法の処理基準に従わなければなりません。

 

3 最後に

以上のとおりですが,その時々で新たに発生する廃棄物関係の問題についても,廃棄物処理法や環境省等の通達をもとに,排出事業者も処理業者も適切に対応していく必要があります。

池田総合法律事務所では廃棄物処理関係の支援や助言なども行っておりますので,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

商標について 2 ~商標登録手続き、費用の概要~

事業者や新たに起業される方から、「商標登録はした方が良いのですか」という相談を受けることがあります。

そこで、本コラムでは、4回にわたって、商標について取り上げたいと思います。

 

第2回は、商標登録手続や費用の概要を説明します。

 

1 商標登録手続

(1)手続きの流れ

 

(2)手続の大まかな期間

審査期間は通常の商標登録出願であれば、目安として10か月程度(出願する分野や国際出願かなどの事情により前後します)が必要です。

また、拒絶理由通知があった場合には、それに対応するために更に時間を要します。

 

2 費用

商標は、自社の商品・サービスと他社の商品・サービスを区別する機能を果たすものです。

そこで、商標登録出願に際しては、商品・役務(サービス)を分野別に分類した「区分」(第1類から第45類まであります)ごとに、自社のマークなどを登録して権利を得ることになり、権利を得たい区分ごとに出願料や登録料を特許庁に納付する必要があります。

具体的には、

・出願料 3,400円+(8,600円×区分数)

・登録料 32,900円×区分数(10年分の一括納付として)

がかかります。

また、池田総合法律事務所・池田特許事務所では、電子出願をしていますが、もし書面で手続をする場合には、

・電子化手数料として 2,400円+(800円×書面のページ数)

を特許庁に納付する必要があります。

例えば、指定商品・役務を『3区分』として、商標権を得たい場合には、

・出願料

3,400円+(8,600円×3区分)=29,200円

・登録料

32,900円×3区分=98,700円

となり、特許庁に納付する費用として合計127,900円がかかります(電子化手数料は省略)。

なお、池田総合法律事務所・池田特許事務所がご依頼を受け、代理人として商標登録申請をする場合には、所定の報酬・実費をいただきます。報酬・実費についての詳細はお問い合わせください。

 

3 先行商標調査

商標登録しようと考えている商標案を考えた場合、「1」の商標登録手続よりもまず、他人が既に同一・類似の商標を登録しているかを調査する必要があります。

厳密には、マークなどの商標が類似し、かつ、先行登録されている商品・役務が類似するものが先に商標登録されている場合には、商標案は商標登録される見込みがありません。

また、すでに商標案の利用を始めている場合には、登録されている商標権を侵害していることになりますので、速やかに商標案の使用を中止すべきという判断に至ります。

したがって、商標を登録しようと考える場合には、登録手続よりも先行商標調査に費やす時間の方が多いことが一般的です。

 

 

以上が、商標登録手続と費用のおおまかな説明になります。

商品やサービスの提供にあたり、商標が大きな意義・効果をもっていることは、多くの事業の成功例からも分かります。

池田総合法律事務所・池田特許事務所では、商標を利用したフランチャイズ展開などのビジネススキームについての法的サポートもさせていただいております。

商標登録や知的財産を中心としたビジネス法務についてご相談がありましたら、池田総合法律事務所・池田特許事務所までご連絡ください。

 

※以上は令和4年(2022年)8月16日時点の情報です。実際には特許庁の最新の手数料額等を確認する必要があります。

(小澤尚記(こざわなおき))

商標について ~商標とは~

事業者や新たに起業される方から、「商標登録はした方が良いのですか」という相談を受けることがあります。

そこで、本コラムでは、今回から4回にわたって、商標について取り上げたいと思います。

 

第1回は、商標とは何か、というテーマで、商標制度の概要を説明します。

 

1 商標とは

商標とは、事業者が、自己の取り扱う商品やサービスを他の事業者のものと区別するために使用するマーク(識別標識)のことです。

例えば、テレビにはメーカーのロゴがプリントされていることが多いですが、テレビの購入を考えている人は、ロゴを見ることで、そのテレビがどのメーカーが製造したものなのかすばやく認識をすることができますし、街角でゴールデンアーチ(「M」のような形をしたマクドナルドのロゴ)を見かけると、そこにファーストフードレストランのマクドナルドがあることがすぐにわかります。

 

2 商標の機能

上記のとおり、商標は、自社の商品・サービスと他社の商品・サービスと区別する機能を果たしますが、商標の持つ機能はそれだけではありません。

例えば、私たちは、あるメーカーのロゴがついたテレビを見たときに、「このメーカーの製品だから安心だ」と考えて購入することがあります。これは、事業者が商品やサービスの提供を通じて消費者の信用を積み重ねることにより、商標自体に「信頼できる」「安心」といったブランドイメージがついてくるという例です。このように、「同一の商標が使用される商品・サービスの品質が同一であることを示す機能」のことを品質保証機能といいます。

商標には、それ以外にも、出所表示機能(同一の商標が使用される商品・サービスの出所が同一であることを示す機能)や宣伝広告機能(商標が多く使用されることにより、需要者に記憶され、商品・サービスの需要を拡大・喚起する機能)があるといわれています。

 

3 商標の保護

商標は様々な機能を有することから、商標を他人に無断で使用されると、事業者は、その商標から得られたはずの利益を他人に奪われることになります。そのため、商標を保護する必要性が生じます。

その必要性から、一定の要件を満たす場合に、商標を保護することを定めているのが、商標法です。商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的と」しています(商標法1条)。

 

4 商標法で保護される要件

(1)商標法で保護される商標とは

商標法における「商標」とは以下の要件を満たすものをいいます(商標法2条1項)。

「人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。

①業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの

②業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)」

このように、商標法上は、単なる「標章」ではなく、「標章」とそれを使用する商品・サービスを組み合わせたものを保護の対象としています。

(2)保護を受けるための要件

商標法上の保護を受けるためには、特許庁に商標登録出願をする必要があります(商標法5条)。特許庁では、出願された商標が以下のような登録できない商標に当たらないかを審査し、いずれにも該当しない場合に登録査定を行い、登録料が納付されると、商標権の設定登録を行います。

①自己の商品・役務と、他人の商品・役務とを区別することができないもの

②公益に反する商標

③他人の商標と紛らわしい商標

(商標の出願・登録については、次回コラムで詳しくご説明します。)

 

5 商標登録の効果

商標登録がなされると、権利者は、登録の際に指定した商品(指定商品)又は指定したサービス(指定役務)について登録商標を独占的に使用できるようになります。

権利を侵害する者に対しては、侵害行為の差し止め、損害賠償等を請求できます。

 

6 商標権の存続期間

商標権の存続期間は、設定登録の日から10年で終了します。ただし、存続期間の更新登録の申請をすることによって、何度でも更新することが可能です。

 

以上が商標制度の概要となります。

次回は、商標登録手続きやその際にかかる費用について説明します。

 

(川瀬 裕久)