環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載4

~再生可能エネルギー~

1 はじめに~FIT制度~

太陽光発電を筆頭に,風力,水力,地熱,バイオマス発電で得られるエネルギーを再生可能エネルギーといいます。

この再生可能エネルギーについては,2012年,固定価格買取制度(FIT制度。Feed in Tariff)が導入され,再生可能エネルギー設備で発電された電気については,10年間の買取期間中はあらかじめ決められた固定価格で電力会社が買い取ることが義務づけられました。

この固定買取制度では,事業の収支が分かりやすい点なども踏まえて,従来,発電に関与することもなかった異業種事業者やインフラファンドなどが新規参入して,一定の事業規模になっていきました。

そして,様々な事業者の参入により,FIT制度により急激に再生可能エネルギーが拡大しましたが,事業者等にとっては競争なく設備さえ導入すれば予想される収益が得られるという側面があるため,再生可能エネルギー設備による発電は,電力の需給バランスとは無関係になっていました。

また,電気料金にFIT制度の原資の一部を作り出すために賦課金が課され,広く国民から費用が徴収されることになっていました。電気料金の明細書に「再エネ発電賦課金等」とされているものです。2021年度の賦課金は総額2.7兆円に及ぶ見込みとなっています。

そこで,電力市場に再生可能エネルギーを統合するための制度として,2022年4月から「FIP制度」(Feed-in Premium)が導入され,FIT制度からFIP制度に変わることとなっています。

なお,FIT制度は2009年以降に設置された再生可能エネルギー設備の固定買取期間10年が2019年から順次終了していきますので,FIT制度での固定買取はいずれ終了します。この点,誤解があるようですが,FIP制度が始まるからといって,FIT制度下での固定買取期間が短縮されるといったことはありません。あくまでご自身の設備での固定買取期間が始まった時から10年後に固定買取期間は終了します。

 

2 FIP制度

 FIP制度のもとでは,「基準価格(FIP価格)」がまず定められます。FIP制度導入当初はFIT制度の調達価格と同水準から基準価格は始まる予定です。

次に,「参照価格」が定められます。参照価格は,電力市場での取引などによって発電事業者が期待できる収入分のことをいい,卸電力市場の価格等に連動することになります。

そして,「基準価格(FIP価格)」-「参照価格」>0となれば,その差額分が「プレミアム」となり,発電事業者は売電金額にプレミアムを加えた金額の収益を得られることになります。

このFIP制度でどのようなことが起きることが期待されているかですが,発電事業者が卸電力市場の動向などに注意を払うことになるので,電力が高値で取引される需要の大きい時に電力を売却し,需要の小さい時には蓄電池などで電気を蓄え,需給バランスを意識せざるを得ないことになります。

また,FIP制度では,発電見込みの計画値と,実際の実績値とを一致させることが求められ(バランシング),計画値と実績値との差(インバランス)が生じた場合には,発電事業者はインバランスを埋めるための費用を支払うことが必要になります(FIT制度のもとでは不要でした)。

そこで,バランシングをして,電力需給バランスをも意識すると,事業者を束ねて,蓄電池システムなども導入して需給管理を行い,適時に市場取引を行うアグリケーターによるアグリケーションビジネスの活性化が期待されています。

 

3 最後に

池田総合法律事務所では環境関連ビジネスの構築の支援や助言などを行っておりますので,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

給与債権に関する情報の入手手続きについて

1.はじめに

債務者が、支払をしないとき、給与を差押えてその回収を図ることが出来ます。不動産等他の執行手続きと比べて手続きが簡易で迅速に回収が出来るということで債権回収にあたっては、検討されるべき手法の一つです。

ところが、肝心の勤務先が全くわからなかったり、転居・転職等で勤務先が変わってしまっているときには、差押えが出来ません。差押えをした給与(の一部)は、勤務先から直接支払ってもらうため、勤務先の住所、氏名(会社名)がわからなければ、差押命令自体の発令が出来ません。

 

2.勤務先情報の情報提供命令手続きの流れと要件

そこで、今回の執行法の改正により、勤務先名やその住所の情報を市町村や厚生年金を扱う日本年金機構等から入手する方法が認められました。

具体的には、債権者が裁判所に第三者(情報の照会先)に対し、勤務先情報に関する情報の開示命令の発令を申立て、裁判所に第三者宛情報提供命令の発令をしてもらい、第三者から情報提供を受けます。

但し、申立の日の3年以内に財産開示手続の期日における手続きが実施されていること、強制執行の不奏功が要件となっています。後者については、強制執行手続の中で6ヶ月以内に実施された配当等で完全な弁済を受けられなかったことの証明、あるいは不動産等の調査をして、強制執行をしても完全な弁済を受けられないとの疎明することが求められています(調査事項は、細かく決められています。)。

 

3.申立ての出来る債権者

といっても、全ての債権について認められるわけではなく、「債務名義」(※当事務所の法律コラム、不動産に関する情報取得手続きと利用の実情の2(3)参照)の対象となっている債権のうち、①「扶養等の義務に係る請求権」と「人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権」に限定されています。①は、婚姻費用や養育費の支払請求権が代表的です。②については、交通事故等の事故による治療費、休業損害、慰謝料、後遺症による損害といった人的損害が典型的です。

こうした債権に該当するかどうかの判断については、判決の場合は、判決理由中の記載で通常は明確になりますが、和解調書等の場合には、金銭給付の名目が、「和解金」のような場合には、それだけでは債権の性質が決定出来ず、また、「本件事故による損害賠償債務として」という記載だけでも不十分とされています。和解をしても不履行のおそれのあるようなときは、和解金の内容を調書中で特定をする等、調書の条項の表現にも気を付ける必要があります。

 

4.情報提供を求める第三者の選択

情報提供を求める第三者については、市町村、日本年金機構等厚生年金を扱う団体のどちらか、又は、両者を選択することも可能です。市町村は、当該市町村に住所のある給与所得者について、毎年1回提出される給与支払報告書を基本に情報を把握しているので、年度途中で転居・転職等をした場合には、情報が古くて空振りということがあります。

これに対して、厚生年金保険の場合は、異動を含めた加入に関する事由は短期間で処理されますので、こうしたリスクは小さいと考えられます。

また、厚生年金保険の実施機関は、複数あり、①民間か公務員か、②国家公務員か地方公務員か、③公務員でも、どの共済組合に加入しているのか等照会先については、検討する必要があります。③の場合で所属がわからない場合には、共済組合の連合会を照会先とすることも可能です(但し、市町村の職員の場合は、地方公務員共済組合連合会ではなく、全国市町村職員共済組合連合会を第三者とする必要であります。)。

 

5.最後に

勤務先情報の入手のための手続は、上記の通り、その要件や第三者の選択等法的に複雑な面もあり、また、その結果を受けて、引続き差押手続きを取ることになりますので、当初より、弁護士に相談・依頼されることをお勧めします。

池田総合法律事務所では、これらの業務も取り扱っておりますので、御相談下さい。

 

不動産に関する情報取得手続と利用の実情

(池田伸之)

環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載3

~水質~

 

1 はじめに

環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載の第3回目は,水質の問題を取り上げます。

我が国では,環境基本法が人の健康を保護し生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準として「環境基準」が定められています。

最近でも,令和3年(2021年)10月7日,人の健康の保護に関する環境基準のうち六価クロムについて基準値が0.05㎎/l以下から0.02㎎/l以下に見直され,生活環境の保全に関する環境基準のうち,大腸菌群数を項目から削除して大腸菌数を追加する見直しもなされており,適宜見直しがなされています。

この環境基準を達成するために,水質汚濁防止法が特定施設を有する事業場からの排水規制及び生活排水対策の推進を定めています。

そして,水質汚濁防止法は,工場や事業場から排出される水質汚濁物質について,物質の種類毎に「排出基準」を定め,排出者等は「排出基準」を遵守することが求められています。

 

2 排出水の規制

 水質汚濁防止法の排出基準では,人の健康に被害を生ずるおそれのある物質(有害物質)と,水野汚染状況を示す項目(生活環境項目)の2つの面から規制をかけています。

排出水に関する規制基準は,国が全国一律で定める一律排水基準,条例により国の基準よりも厳しくする上乗せ排水基準,東京湾・伊勢湾・瀬戸内海において化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand。COD)の総量を規制する総量規制基準があります。

CODは水中の有機物量の多さ,有機物による水質汚濁の程度の指標ですが,東京湾・伊勢湾・瀬戸内海に排水をする場合には,排水基準に加えて総量規制基準をも遵守しなければならず,それ以外の公共用水域に排水する場合では浄化設備が不足することになります。

 

3 制裁等

排出基準に適合しない排出水を排出するおそれがある場合には,都道府県知事から排水の一時停止等の改善命令等(水質汚濁防止法13条1項)を受けることがあり,それに違反した場合には罰則があります。

また,排水基準に適合しない排水を排出した場合,総量規制指定地域内の事業者が総量規制基準を遵守しない場合にも罰則があります。

事業者が廃棄物処理の許可を得ている業者の場合,廃棄物処理法上,水質汚濁防止法等の生活環境の保全を目的とする法令違反で罰金以上の刑に処せられると許可が取り消されます。

したがって,例えば,廃棄物の再生利用を図る際の副次的な発生物を公共用水面に排出する場合には,その排水が排出基準に違反していなければ,そのまま罰金となって,廃棄物処理業の許可もなくなり,廃業せざるを得なくなるリスクもあります。

 

4 最後に

水質は人間が健康に生活をしていくためには,絶対に一定の水準以上に維持されるべきものです。

これに対して,環境基本法や水質汚濁防止法が規制をかけていますが,環境法独特の厳しい側面があります。

水質汚濁をさせたことについて,従業員がやったなどということは言い訳になりません。環境法令で規制を受ける業種には弁護士のアドバイスが必要不可欠です。また,従業員研修による問題発生の予防,不正の早期発見のための外部通報窓口での問題の早期発見・是正も必要です。

池田総合法律事務所では環境法令に対するビジネスリスクに対する助言,従業員研修,外部通報窓口業務などを行っておりますので,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

                               〈小澤尚記〉

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑫

ynassociates.net の最近の投稿より

9.11からの20年間を振り返っ

~テロが生んだ入国時の検査と金融機関の規定、そして差別~

Posted 2021年10月3日 YokoNogami

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニューヨークのマンハッタンに住み始めて久しい私ですが、2001年9月11日、9.11の朝のことは、まだ鮮明に覚えています。事の重大さが判るまで時間が掛かったのは、“これは映画でしかあり得ない”と信じたくない思いがあったからです。テレビでの映像を、漠然と見ながら、これからどう行動するのが良いか全くわかりませんでした。ビル崩壊は、「テロリストとは何?」という、今までにない大きな重圧を感じました。

その日、仕事をしているオフィスのあるミッドタウンでは、グランドセントラル駅やエンパイアステートビルの爆弾テロが起きると噂が広がりました。その噂は1週間以上にわたり何度も起きました。そのたびに避難できるようにスニーカーは必需品でした。マンハッタンに自宅がある私は、テロ後も毎日事務所へ行っていましたが、今となっては何をしに行ったのかよく覚えていません。

テロ後1〜2週間の間、電話応対がトラウマになっていました。電話で、何人もの知り合いや顧客にテロで亡くなった、と伝えられていましたので、電話が鳴るたび「またかな?」と手が震えました。

強く印象に残っているのは、ある1本の電話です。テロの翌日、不安で眠れなくてウトウトしていた早朝、電話で起きました。その電話は日本からで「あぁ、やっと何十回もかけて繋がった。貴方と旦那さんは大丈夫?」その後の会話は、あまり覚えていないのですが、今もあの1本の電話がどれほど心強かったか計り知れません。20年経った今もその感謝の気持ちに変わりはありません。

退役軍人である私の夫は、戦争になるかもしれないと言い、この戦争はべトナム戦争より長くなるだろうと予想しました。その後、戦争が始まるニュースを聞いた時には、9.11の悲惨な無差別殺人を目のあたりにしていた怒りもあったせいか、私も戦争するのは当然のことと思いました。

ビルが崩壊した跡地に9.11記念碑が立つ話が起きた時に、すぐ近くに、イスラム教の寺院を作る計画が起きたのをよく覚えています。テロを憎むけれども、宗教を憎んではいけない。誰もがそう思ったと思いますし、法律でも宗教は守られています。米国では、宗教差別、人種差別は、社会問題ですし、厳しい法律があります。この当時、大変大きな話題になりましたが、消えてしまった計画です。

今もテロリストがイスラム教徒であるために、イスラム教徒の米国入国検査が厳しい状況です(これを人種差別だと言う人もいます)。アフガニスタンだけでなく、中東諸国も、世界中にいるイスラム教徒にテロリストの疑いをかけられています。イスラム教は、世界第2番目に信者の多い宗教であるため、どの国からの移動も、今以上にパスポートやビザ検査が厳しくなるであろうと思われます。

私は以前銀行員でしたが、顧客を知る義務がありました。例えば、知らなかったとしても犯罪の送金に関わったりすれば、銀行員の罪になるからです。銀行の講習会では、顧客の口座の動向を知らなかったとは言い逃れはできない、と何度も注意されました。いわゆるマネーロンダリングへ加担するなということです。

経済の動きも、20年前と今では、簡単に比べることはできませんが、同時多発テロ後、大きな不安要因として株は大きく下がりました。その後持ち直した株はアフガニスタン戦争で再び株が下がりました。長く続くアフガニスタン戦争は、毎日の生活から離れたところで起きているせいか、株式には大きな変化はなくインフレと共に徐々に上昇しました。2009年のリーマンショックで大きく下落した株式も、2年間で完全回復しました。

話は変わりますが、アメリカの場合は、インフレが大きく経済に影響を及ぼし、その都度、個人所得税見直しがあります。税法が変わり、金利が変わり、とても流動的な経済対策が株式に影響を与えていて、物の価格と同じように株式も値上がりしていきます。

日本の場合は、インフレが少なく安定している経済に見え、国民の生活の安定が、まず大事であり、一般投資家の株式での利益はなかなか見込まれないように見えます(今月発表の日経平均が30年ぶりにバブル時を超えたと聞き、アメリカとの大きな違いを感じました)。

車社会でないマンハッタンでは、もともと宅配便やインターネット通販が盛んですが、コロナの自粛で需要が大きく増えて、多くのニューヨーカーが同じものを安く購入する方法を知り、便利で、品質の良い価格の安いものを探し、効率よく購入することが定着しました。毎日マンションの入り口では、荷物整理で大変です。これも新たな消費の形で、ウェブサイトや現金を使わないカードやスマホ決済などと生活が変化して、株の動きにも影響が出でいます。

変わったことといえば、最近は、道でタクシーを探す人がめっきり減ったことです。インターネットで近くにいるタクシーを探す、または予約する。時間と混雑状況で値段が変わりますから、需要と供給で値段が決まり、明瞭会計、運転手が誰であるか、感染対策がちゃんとされて、万が一感染しても誰がどこで濃厚接触が起きたかが即わかります。

それから、最近では、現金を使うことが本当になくなりました。何でもクレジットカード払い、チップも、チューインガム1つでもカードで払います。ニューヨークのバスや地下鉄は、スマホ決済が導入され、バスや地下鉄のカード(Suicaの様なもの)を購入する必要がなくなりました。特に感染拡大時には、現金お断りのマーケットやお店がほとんどでした。その理由は、お金のやり取りで感染する、とか、銀行に入金や小銭を取りに行く従業員がいないなど、理由は様々だったと思いますが、現金以外で決済をする習慣は、定着してしまいました。

薬局では、保険証明とクレジットカード登録で、無料同日宅配サービスを提供しています。おかげで自粛時には高年齢者が薬のためだけに街を歩く必要がなくなりました。飲み続ける薬に関しても、薬局と医師が連絡し合って、薬の管理をしますので安全だと感じました。

宅配便やインターネット通販が盛んになったせいでしょうか。大きなボトルに入った水やトイレットペーパーを抱えて道を歩く人を全く見なくなりました。

AIやコミュニケーション端末、移動手段の迅速と地球保護、20年でいろいろ変わりました。一般人が宇宙飛行をする時代になりましたし、自家用車の運転や公共交通もAIが行うようになりつつあるようです。今後ますます、世の中が変わっていく速度が増すと感じています。

米国株式の商品の多様化と売買については、今以上に簡単に、誰でも判りやすくなっていくと思います。証券マンを通して売買する形はなくなり、完全にパソコンや携帯で売買ができるようになるでしょう。すでに、世界中で何かが起きると株価が数分後には動きます。

その代償として、米国銀行は、現住所が米国になければ口座開設ができなくなりましたし、米国証券会社は、より安全な顧客に絞って業績を上げる方法を取るようになりました。新顧客の職業や国なども調べますし、不透明な資金の流れに関しては、厳しい規定があります。

付き合いの長い信頼してもらっている証券会社などを知らないと、多くの書類提出を求められ、質問攻めに遭い、どれほど多くの金額を用意していたとしても、口座開設ができない場合があります。ここニューヨークでは、“金融機関がお客を選ぶ”、という、日本では考えられない世界があります。良い証券会社ほどハードルが高いです。

自由な米国でも、厳しい仕組みが出来たのが9.11以降だと感じます。入国も永住も、銀行口座も証券も、人の疑いの目も差別も、確かにどこでも起きることでしたが、2001年からは、明らかに変わったと感じます。でも、規律があって自由があると考えれば、住み辛いわけではないように思います。

未来へ、新しい社会へ、私たちは確実に向かっています。9.11から変わった多くのことの中に、新たに見えてきた差別にも、立ち向かっていかなければなりません。ニューヨークも変わっていく、そしてそこに住むニューヨーカーも変わっていく・・・。

 

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

 

改正民事執行法~不動産に関する情報取得手続と利用の実情~

1 はじめに

前回の令和元年の民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情のコラムの続編として,今回は不動産に関する情報取得手続についてのコラムをお届けします。

 

2 不動産情報の入手

(1)概要

判決等(債務者に対して金銭の支払いを命じる判決などのことを「債務名義」といいます。)を持っている債権者の申立てにより,裁判所が法務局に対して,債務者の不動産情報(登記情報)を提供するように命じ,法務局が裁判所に情報を提供する制度が改正民事執行法で導入されました。

(2)財産開示手続の先行(前置(ぜんち))

不動産情報の取得手続を裁判所に申し立てるためには,先行して財産開示手続をしたものの,財産開示手続が債務者不出頭などで成功しなかった場合(目的不奏功)である必要があります。

財産開示手続は,不動産情報の取得手続申立ての日の前3年以内に行っている必要があります。

(3)申立てができる債権者

申立てができる債権者の典型は,執行力のある債務名義(=判決等の末尾に執行文という強制執行ができるという裁判所の書面が付けられた判決等のことです)の正本をもっている金銭債権の債権者です。

金銭債権に限定されますので,例えば債務者に100万円を支払えと命じた判決をもっている債権者などが典型的な申立てができる債権者になります。

(4)管轄裁判所

債務者の住所を管轄する地方裁判所に対して,基本的に申立てをします。

(5)手続の流れ

裁判所に申立て

⇒債務者に情報提供命令を裁判所が送達・確定

⇒裁判所が東京法務局に対して情報提供命令を告知

⇒東京法務局が裁判所に不動産情報を提供

⇒債権者は裁判所で情報提供書面を謄写して情報入手

⇒情報提供がなされてから1か月以上経過後,裁判所が債務者に対し情報提供を通知

(6)裁判所の手数料

裁判所に納める申立手数料は,1件の申立てにつき1000円です。申立手数料のほかに裁判所に予納金を納める必要がありますが,具体的な金額は裁判所の指示した金額になります(例えば,東京地方裁判所であれば予納金は不動産情報1件あたり6000円とされています。2021年10月7日時点)。

 

 

3 申立ての実情について

不動産情報の取得手続制度は,令和3年(2021年)5月1日からスタートした新制度ですので,申立件数の実数などは裁判所からまだ発表されていません。

ただし,不動産については,不動産登記簿は法務局で誰でも取得できるものですし,債務者が所有している可能性がある不動産の所在地は大まかに把握することができることが多いことからすれば,裁判手続を利用するよりも法務局で直接登記を取得する方がよほど簡単です。

そこで,不動産情報の取得手続は,債務者が不動産を持っている可能性はあるけれど,どこにあるのか全く分からないという状況ではじめて利用価値が生じるものと思います。

利用動向や実例の集積を待つ必要はありますが,預貯金情報や勤務先情報の方が,情報取得手続の利用価値は高いものと思います。

強制執行,第三者からの情報取得手続などでお悩みの方は,一度,池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情

1 はじめに

売買の買主が契約の内容に基づいてお金を支払ってくれないとき、あるいは、交通事故の被害にあったのに加害者が損害賠償金を支払ってくれないとき、訴訟を提起するという手段があります。訴訟の中で請求者の言い分が認められた場合には、裁判所から「被告は原告に○○円を支払え」という判決が出されますが、それでも相手(被告)がお金を支払おうとしないことがあります。こうした場合でも、例えば裁判所が判決の通り支払いがなされることを保障してくれたり、あるいは、支払いをしなかった人に刑罰が科されたりすることはありません。請求者としては、強制執行という別の手続をとることで、相手の財産から強制的に取り立てる(例:預金や不動産を差し押さえてお金に換えるなど)ことができます。

もっとも、強制執行をするためには、請求者(債権者)において、対象者(債務者

がどんな財産を有しているのか、把握しておく必要があります。しかしながら、債権者が債務者の財産について全く情報を持っていないということも少なくありません。

法律(民事執行法)上は、債務者の財産に関する情報を債務者自身の陳述により取得する「財産開示手続」という制度が設けられていました。しかしながら、この制度はなかなか使いづらい側面があり、あまり利用されていませんでした。

そこで、2019年に民事執行法が改正され、2021年5月までにその全てが施行されました。

本コラムでは、今後7回にわたり、民事執行法の改正内容や、強制執行の中で実務上重要な預貯金債権の差押え、賃貸物件の明渡について取り扱います。

 

2 民事執行法等の2019年改正の概要

上記のような背景の下、2019年5月10日に民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律が成立し同月17日に公布されました。

改正の概要は以下のとおりです。

(1)債務者財産の開示制度の実効性の向上(民事執行法の改正)

ア 現行の財産開示手続の見直し

財産開示手続をより利用しやすく実効的なものとすべく、現行制度の見直しがなされました。この点については、後記3で詳しくご紹介します。

イ 債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設

執行の対象となる債務者の財産の情報を取得する手段として、債務者以外の第三者からの情報取得手続が新設されました。

この制度では、裁判所の命令により、①金融機関から、預貯金や上場株式、国債等に関する情報を、②登記所から、土地・建物に関する情報を、③市町村、日本年金機構等から勤務先(給与債権)に関する情報を取得することができます。

 

(2)不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策(民事執行法の改正)

公共事業や企業活動等からの暴力団排除の取り組みが官民を挙げて行われている中、不動産の競売手続において、裁判所の判断により、暴力団員、元暴力団員、法人で役員のうちに暴力団員等がいるもの等が買受人となることが制限されるようになりました。

 

(3)国内の子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化 及び、国際的な子の返還の強制執行に関する規律の見直し

日本国内で子の引渡を強制的に行う場合、従前はその方法について規定がなく、動産と同じような取扱をしていました。

そこで、裁判の実効性を確保しつつ、子の利益に配慮する等の観点から、規律が明確化されました。

また、国際的な子の返還の強制執行に関しても同様の規律の見直しがなされました。

 

これらの改正以外にも、民事執行の手続が円滑になされるよう様々な改正がなされました。

 

3 財産開示手続に関する改正内容と利用の実情

(1)制度の概要

債務者を裁判所に呼び出し、どのような財産をもっているかを裁判官の前で明らかにさせる手続です。

確定判決等の債務名義(強制執行によって実現されるべき権利の内容などが記載された文書のうち、これを基に強制執行をすることが法律上認められているもの)を持っている債権者の申立により開始され、債務者が出頭しなかったり虚偽の陳述等をしたりした場合には、30万円以下の過料の制裁がなされることとなっていました(改正前民事訴訟法)。

 

(2)改正の内容

改正前の民事訴訟法では、財産開示の手続の申立を出来る債務名義が限定されていて、例えば仮執行宣言付支払督促や執行証書を持っていても、財産開示手続の申立をすることができませんでした。改正により、これらの債務名義でも申立ができることとなりました。

また、改正により、債務者の不出頭や虚偽陳述に対する制裁として、刑事罰(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科されることになりました。刑事罰として懲役刑まであるというのは、場合によっては逮捕・勾留され、前科となる可能性がありますので、債務者に対して大きなプレッシャーになると考えられます。

当該改正は、令和2年4月1日から施行されています。

 

(3)利用状況

財産開示手続の従前の利用状況は以下のとおりで、年々件数が減少しており、令和元年度の件数は、平成23年度の件数の約半分となっていました。

この間、債権執行の件数は概ね横ばいから微増という状態ですので、強制執行を要する案件の数は減っていない、むしろ増えているにもかかわらず、財産開示手続はあまり利用されてこなかったということがわかります。

ところが、令和2年になると財産開示手続の新件数が前年比約7倍と大幅に上昇しています。(コロナ禍の影響がなければもっと増えていたかもしれません。)

 

判決等は取得したが回収ができていないという方は、これを機に財産開示手続を検討されてはいかがでしょうか。

【2021年11月25日追記】

2021年11月20日で岐阜新聞のウェブサイトに、正当な理由無く財産開示手続に出頭しなかった債務者が、民事執行法違反の疑いで逮捕されたという記事が掲載されました。

https://www.gifu-np.co.jp/news/20211120/20211120-124341.html

 

本件で、逮捕に至った具体的な事情は明らかではありませんが、民事執行法の改正により、不出頭等に対する制裁として、懲役刑が法定されたことは大きく影響していると考えられます。

実際に被疑者の逮捕に当たっては、逮捕をするための一定の要件があるため、単に財産開示手続に出頭しなかったからといって直ちに逮捕されるという訳ではありません。しかしながら、上記のような法改正及び運用の状況をみると、財産開示手続の呼び出しがあった場合には、安易に変えて、無視してしまうことは危険です。

(川瀬 裕久)

環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載2

~盛土と残土~

 

1 はじめに

2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害では,盛土の崩壊が疑われています。

それをうけ,国が「盛土による災害防止に向けた総点検」をすることになり,例えば愛知県では2019箇所を抽出し(盛土の総点検における点検対象箇所の抽出結果について – 愛知県 (pref.aichi.jp)),今後は土地利用制限の権限をもつ地方公共団体が具体的な点検を行うことになります。

 

2 盛土の規制について

 盛土は,ほかの場所から持ってきた土を使って土地を平らに造成するなどのため,土を盛ることです。

適切に施工されていないと,盛土はもともとの地盤ではないため,崩壊しやすいという側面があります。

盛土は,宅地造成等規制法の定める宅地造成工事規制区域となっていれば,宅地造成工事の許可が必要になります。また,都市計画法の開発許可の対象にもなりえます。

さて,熱海市の土石流災害では,仮に盛土が原因であるとすれば,誰にどのような責任が生じるでしょうか。

まずは,土地所有者の責任が考えられます。民法717条(土地工作物責任)は,土地の占有者(=土地の現実の利用者)が第一義的に責任を負いますが,占有者が損害発生を防止するために必要な注意をしていれば,土地所有者に損害賠償責任が生じます。

土地所有者の責任は無過失責任ですので,盛土が通常有すべき安全性を欠いていた場合には,盛土の強度などについて認識をしていなくても,土地を所有しているという事実のみで土地所有者は損害賠償責任を負うことになります。

次に,盛土の施工業者についても,強度等に問題のある盛土をしたのであれば,土石流災害で被災した方に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。

従って,盛土は十分な強度計算に基づいて施工されなければ,人命の喪失や家屋の損壊など取り返しのつかない損害を生じさせ,当然その賠償額は高額になりますので,重大なビジネス上のリスクになりえます。

 

3 残土の規制について

 盛土の原料となる土については,造成工事の区域内で一部の土地を切り土した場合にはその土が使われることもあるでしょうが,他の場所で生じた残土が利用されることもあります。

残土は,例えばトンネル工事をした場合には,山にトンネルの空間を空けますので,その分の土砂が残ります。これを残土(建設残土,建設発生土とも)といいます。

残土はただの土ですので,産業廃棄物処理法の「廃棄物」ではありません。地球の一部である土砂そのものはゴミとは言えないためです(昭和46年10月16日「環整43号」参照)。

もちろん,土砂ではなく汚泥となる場合(基準は,平成23年3月30日環廃産第110329004号を参照)や,陶器片や木材片等が混じっている土砂は土砂と廃棄物の混合物となりますので,全体として廃棄物となると考えるべき場合はあります。

では,純粋な土砂について,何か法規制があるかというと,従来は残土についての法規制は特にありませんでした。

しかし,残土を山のように積み上げたところ,それが崩落したなどといった残土の処理が問題となる事案もありましたので,愛知県内では以下の自治体で残土条例が定められています。

・半田市土砂等による埋立て等の規制に関する条例

・春日井市土砂等の埋立て等に関する条例

・刈谷市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例

・西尾市土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・常滑市土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・大府市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例

・尾張旭市土砂等の埋立て等に関する条例

・豊明市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例

・日進市土砂の採取及び埋立てに関する条例

・みよし市土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・長久手市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例

・東郷町土質等規制条例

・扶桑町埋立て等の規制に関する条例

・阿久比町土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・南知多町土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・美浜町土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・武豊町土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

 条例の内容は,例えば半田市であれば,1000㎡以上の土砂等による盛土工事を行うためには工事着手前に市に届出をし,住民説明会を実施することなどが事業者に求められています。また,土地所有者についても,土地を適正に管理する責務なども定められています。

 

4 最後に

生命や身体を守るため,地域環境を保全していくためにも,適切な盛土の施工や残土の処理が必要になります。

特に,開発をする際などには,ディベロッパーにとっては細心の注意を払うべきです。

土地開発や残土処理などについて,お困りの点がありましたら,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記〉

環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載1

~リサイクルと廃棄物処理法~

 

1 はじめに

持続可能な開発目標(SDGs)や企業の社会的責任(CSR)などの観点から,事業活動にはより一層,地球環境との調和,環境問題への十分な取組,再生可能エネルギーなどのより環境負荷の少ない事業モデルの構築などが求められるようになってきました。

そこで,今後,不定期ですが,環境法制,環境問題,再生可能エネルギーなど,環境分野について不定期でのコラムを掲載し,企業活動のための情報を提供させていただくこととしました。

不定期コラムの第1回は,廃棄物(ゴミ)とリサイクル(再生利用)の法規制を改めて検討してみます。

 

2 リサイクルと廃棄物処理法

(1)そもそも「廃棄物」とは?

私たちが食べるために育てている牛や豚,ニワトリからはふん尿が大量にでます。

肉も魚も野菜も売れ残ってしまえば,もったいないですが,処分されることになります。

建設現場からはコンクリートなどのがれきが大量にでてきます。

工場からは金属のくずが大量に出ますし,水での処理が必要な工程があれば汚水を処理した後には汚泥もでます。

設備を更新しても,古い設備は不要なものとして粗大ゴミなどになってしまいます。

そして,これらのゴミは,そのまま使う,資源となる物を取り出す,燃やして熱エネルギーに替えてしまう,埋め立ててしまうなど,地球環境に負荷をかけながら処理されていくことになります。

 

では,そもそも廃棄物とは何でしょうか?

 

廃棄物処理法2条1項は,廃棄物を『ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん尿,廃油,廃酸,廃アルカリ,動物の死体その他の汚物または不要物であって,固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く)。』と定義しています。

また,産業廃棄物とは,『事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物』と定義されています。

 

簡単にいえば,廃棄物は『不要物』をいうことになります。

廃棄物処理法に触れる機会があれば,必ず一度は検討する「おから事件」(最高裁平成11年3月10日判決)は,(平成4年法105号改正前の条文の解釈にはなりますが)『不要物とは,自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい,これに該当するか否かはそのものの性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である。』と判示し,おからを産業廃棄物としています。

この判例は,総合判断説を採用されたといわれるもので,結局,物が不要物か必要物(有価物)かは,諸事情を検討して判断するとしたものです。

 

(2)リサイクル(再生利用・再資源化・熱回収など)

では,不要物を引き取ってリサイクルする場合,それは廃棄物を引き取っていることになり,廃棄物処理法の適用を受けるのでしょうか?

例えば,火力発電所などで石炭を燃焼させるときに発生する灰(フライアッシュ)は,もともとは産業廃棄物でした。

しかし,セメントにフライアッシュを混合したフライアッシュコンクリートは,強度の増進,乾燥収縮の減少などの特長があるため,フライアッシュはコンクリートの製造工場に納入される商品となっており,国内であれば国内需要に対応する供給である限り必要物となります。

 

まず,必要物(有価物)として引き取る側が代金を支払うという取引が成立する限りにおいて,廃棄物処理法の適用はなく,一般的な売買契約などの商取引になります。

この場合,平成17年3月25日環廃産業発第050325002号は,「引渡し側が輸送費を負担し,当該輸送費が売却代金を上回る場合等当該産業廃棄物の引渡しに係る事業全体において引渡し側に経済的損失が生じている場合であっても,少なくとも,再生利用又はエネルギー源として利用するために有償で譲り受ける者が占有者となった時点以降については,廃棄物に該当しないと判断しても差し支えないこと」としています。この意味は,譲り渡す側にとって手元マイナスが生じていても,総合判断の中で手元マイナスだけでは「廃棄物」となるという考え方はとられていないということです。

他方,不要物を引き取る場合には,どうなるのかが問題となります。

そこで,昭和52年3月26日環計37号は,「排出者が不要とした物を原則として無償で引き取り,専ら再生利用のみを行っている者について,その再生利用が確実に行われると都道府県知事が認める場合は許可を要しない」とし,「再生利用の認定は,再生利用の主体,目的及び方法並びに取引関係等を特定して行う」としています。

よって,認定を受ければ,廃棄物処理法上の許可を得ずに不要物の処理を業として行うことができます。

 

3 リサイクルと企業の責任

持続的可能な開発目標(SDGs)目標12「つくる責任つかう責任」のターゲット12.5は「2030年までに,廃棄物の発生防止,削減,再生利用及び再利用により,廃棄物の発生を大幅に削減する。」としています。

まずは,自社で生じてしまう廃棄物は,適切に処理できていますか?この点から,再確認することが必要です。そのうえで,さらに何をしていくかを考えることになります。

さらに何をしていくかは,方針だけであれば,リサイクル・リユースなどのより一層の推進です。

他方,リサイクル・リユースをするうえでは,国内法としての廃棄物処理法等の環境法制の十分な理解は必要不可欠です。環境法制の十分な理解なくしてコンプライアンス経営もできません。作業手順、社内規程の整理や見直しは必須であり、また、SDGsの目標達成の具体的なプラン作りも重要です。

弁護士として企業の事業活動をサポートさせていただく中では,事業者の皆さまが環境法制を十分にご理解されていないのではと感じる場面もあります。

池田総合法律事務所では,廃棄物処理法等の環境法にもとづくコンプライアンス構築のお手伝いもできますので,一度ご相談ください。

〈小澤尚記〉

会社法改正に伴う事業報告書の記載事項の変更について

これまで、会社法の改正点について、役員報酬、会社補償、役員賠償責任保険のルール変更等の解説をしてきましたが、これらの改正に伴い、事業報告書に記載すべき事項について、会社法規則により定められています。

なお、事業報告書には、計算書類ではわからない定性的な情報を補足する役割があります。すべての株式会社が作成を義務づけられています。

 

第1.役員報酬等について

以下のような事項が、事業報告書への記載対象として定められています。なお、上場企業等の公開会社を前提としています。

 

1.会社役員ごとの報酬等の総額(業績連動報酬等、非金銭報酬等及びそれら以外の報酬等がある場合は、それぞれの総額)及び員数

具体的には、下表のような記載となります。

役員区分 員数(名) 報酬等の総額(百万円) 報酬等の種類別の総額(百万円)
業績連動報酬等 非金銭報酬等 その他報酬等
取締役 社内取締役 5 470 150 160 160
社外取締役 3 13 13
合計 8 483 163 160 160

 

2.業績連動報酬等に関する事項については、その算定の基礎として選定した業績指標の内容及びこれを選定した理由、その額又は数の算定方法及び額または数の算定に用いた業績指標に関する実績

これは、業績連動報酬等が役員に適切なインセンティブを付与するものであるかどうかを株主が判断するために必要な情報の開示を求めているものです。必ずしも、株主が開示された業績指標に関する資料等から業績連動報酬等の具体的な額や数を導くことが出来るような記載までが、求められているものではないとされています。

 

3.非金銭報酬等については、その内容

 

 

4.会社役員等の報酬等に関し、定款の定めや株主総会決議がある場合には、その定め又は決議の日、内容の概要及び会社役員の員数

 

5.取締役の個人別の報酬等の内容が、定款や株主総会の決議で具体的に定められていない場合には(取締役会で、その決定方針を定めなくてはいけません。)、決定方針の決定の方法、方針の内容の概要、個人別の報酬等の内容が、この方針に沿うものであると取締役会が判断した理由

 

6.取締役会から委任を受けた取締役等が、取締役の個人別の報酬等の内容を決定した場合には、委任を受けた者の氏名、地位及び担当、委任された権限の内容及び権限を委任した理由

従来から、取締役の報酬につき、株主総会から取締役会へ、取締役会から代表取締役への報酬の決定権限の委任といったことが行われてきましたが、そのプロセスを可視化し規制していくものです。

 

第2.会社補償、役員損害賠償保険に関する記載

役員等賠償責任保険や補償契約に関する事項についても、事業報告書に記載しなければならなくなりました。

また、これらの事項は、取締役等の選任に関する議案を株主総会に提出するとき、その参考資料としてその概要を記載することも求められています。

(池田伸之)

社債に関する改正点

1 社債に関する規定の改正について

2021年3月1日に施行された改正会社法で、社債に関する規定も改正されました。

社債は、会社法の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、募集社債に関する事項の決定に従い償還されるものと定義されており(会社法2条23号)、会社による資金調達の一手段です。

しかし、社債を発行するにはいくつかの高いハードルがあり、十分に活用されていないとの評価があったようです。今回の改正では、社債の活用を促進するための改正がなされました。以下、従前からある「社債管理者」制度と新たに創設された「社債管理補助者」制度を中心に社債に関する改正点について説明します。

 

2 社債管理補助者制度の創設について

(1) 改正の背景

社債を発行するには、原則として会社は「社債管理者」を定め、社債権者のために社債の管理を委託するとされていました(会社法702条本文)。しかし、社債管理者は広範な権限や裁量を有する一方で適切な権限行使の責任が大きいこと、銀行や信託銀行等しか社債管理者になれないという資格要件も厳格であることから、社債を発行する上で設置のコストの高さや担い手の確保が大きな障害となっていました。そのため、実際に社債を発行するケースでも、社債管理者の設置を免除される法律上の例外規定に該当するよう社債を設計することが多かったようです。

しかし、そのような例外措置には社債権者保護が不十分というデメリットがありました。本来、デフォルト発生時(債務被履行時)などには社債管理者が社債権者のために権利行使をすることになっていますが、社債管理者が設置されていない社債については、デフォルト発生時に社債権者自身が自ら権利行使をせざるを得ない点で、社債権者の負担が大きいのです。

このような点に配慮して創設されたのが、「社債管理補助者」(会社法714条の2)の制度です。

(2) 社債管理補助者制度の概要

社債管理補助者は、社債管理者よりもその権限や裁量を限定されるとともに、その責任やコストを軽減したという特徴があります。

社債管理補助者は、社債権者が自ら社債を管理することを前提に、あくまでその補助を行うものであり、その権限は社債管理者の権限の一部(会社法714条の4第1項)とその権限が限定され、その他の権限は委託契約で定めるとされました(会社法714条の4第2項)。

そして、権限が限定されたことに連動する形で、資格要件も緩和されました。つまり、社債管理者になる資格を有する銀行や信託銀行に加えて、弁護士及び弁護士法人も社債管理補助者になれるとされたのです(会社法714条の3、会社法施行規則171条の2)。要件緩和により社債権者保護の役割の担い手が増えることが期待されます。

なお、社債権者保護の役割を担う以上、社債管理補助者は、公平誠実義務(公平かつ誠実に社債の管理の補助を行う義務)および善管注意義務(善良な管理者の注意をもって社債の管理の補助を行う義務)が課せられます(会社法714条の7、704条1項、704条2項)。

社債管理者設置のハードルにより社債発行をためらっていた会社には、社債管理補助者制度の創設により、資金調達の選択肢が増えたといえるでしょう。

 

3 その他社債権者集会に関する改正事項

(1) 改正の背景

改正前の会社法では、社債権者集会の元利金減免権限や、社債権者集会決議省略手続きにつき、明文の規定がないため議論が分かれる論点がありましたが、今回の改正で明文規定が置かれました。

(2) 元利金減免権限の明文化について

改正前の会社法では、社債権者集会決議による社債の元本及び利息の全部または一部の免除(元利金減免)は、改正前会社法第706条1項1号の「和解」に含まれるので、社債の元利金減免ができるとする見解が有力でしたが、明文規定がなく解釈により運用されていました。

この元利金免除権限につき、改正会社法706条1項1号は、「当該社債の全部についてするその支払の猶予、その債務若しくはその債務の不履行によって生じた責任の免除又は和解」と改正され、社債権者集会の元利金減免権限が明文化されました。

(3) 社債権者集会の決議の省略の明文化について

一定の事項には社債権者集会を開催して決議をすることが法律上求められており(会社法第716条、706条等)、社債権者集会の決議は裁判所の認可を受けなければ効力を生じないとされています(会社法第734条)。

しかしながら、債権者の全員が個別に同意している場合に、わざわざ社債権者集会を開催した上での決議や裁判所の関与が必要かについては議論がありました。

その点について明文により、株主総会と同様に、社債権者全員の書面による同意があれば社債権者の決議があったと見なされ(会社法第735条の2第1項)、裁判所の認可も不要とされました(同条第4項)。

 

4 以上が社債に関する改正点のあらましです。

社債をはじめとする企業金融には多くの事項を検討する必要があります。お気軽にご相談ください。

山下陽平