子どもの引き渡しを強制的に求める方法は?(子の引き渡しの強制執行)

子どもが親の間で引き裂かれるのは良いことではありませんが、例えば、親権のない親が子どもを連れ去ってしまった場合、裁判で子どもの引き渡しを命じられることがあります。子どもは物ではないのですが、だからこそ、どう引き渡しという命令を実現するのか、難しいところです。

従前、旧民事執行法には子供の引き渡しの強制執行につき、明文規定がなく、間接強制(債務者に対して金銭の支払いを命じるなど一定の不利益を課すことで心理的に圧迫し義務の履行を強制する)の方法のほか、動産の引き渡しの規定(民事執行法169条)を類推適用していました。引き渡しの現場ではどこまでの行為が許されるのか、判断が困難な事案も生じていたと思います。執行官が引き渡しを求めに現場に行って呼びかけても、居留守を使って子どもの引き渡しに応じない場合には強制的に押し入ることを断念せざるを得ない事態も生じていました。

 

一昨年法改正が行われ、民事執行法及び「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」の一部を改正する法律が成立して、ルールが変更され、2020年4月1日から子の引き渡しの強制執行に関する規定が施行されました。

 

先日、フランスの司法当局がフランス人の夫の申立に基づき、子どもを連れ去った日本人妻に逮捕状を発布したというニュースがありました。国をまたがる子どもの返還要求事件も少なくありません。国際的な事案での子の引き渡しに関しての規律として、ハーグ条約があります。

裁判所が親権のない親に対して引き渡すように命じた義務を裁判所の執行官に代わり実現するとし、引き渡しに協力しない場合には一日あたり支払う額を決めて金銭の支払いを求めることで義務を果たすように促す方法が、ハーグ条約の批准に伴い国内法の規律を定める一足先に、規定されていました。ハーグ条約では、前もって間接強制を行うことや引き渡しを命じられた親が同席することが必要とされていました。これに比べて、国内法は実効性がないということになり、改正をすることになったものです。

 

強制執行の申立ては、①間接強制の決定の確定した日から2週間経過したときだけでなく、②間接強制では引き渡しの見込みがあると認められないときや③子の窮迫の危険を防止するために必要があるときに認められます(民事執行法174条2項)。日本法では必ずしも、間接強制を前にする必要はありません。

また、実際の強制執行の手続きを行う際、執行官は子どもの住んでいる家屋に引き渡しの義務を負う親の同意なくとも立ち入り、子どもを探して連れてくることができます。従前には必要とされていた引渡しを命じられた親の同席は、不要です。その代わり、引き渡しを受ける親が引き渡しの現場に同席して、子どもが不安がらないように配慮することが可能です。

また、債務者が住居外に連れ出してしまった場合、執行不能になるのでしょうか。いえ、債務者の住居その他に占有する場所以外においても、相当と認められるときには、占有者の同意や許可を受けて引き渡しを受けることができるようになりました(新民事執行法175条2項)。ですから、学校や幼稚園・保育所などで子どもの安全やプライバシーに配慮しながら執行することができます。

 

平成28年から令和2年末までの5年間の子の引き渡し強制執行の対応件数は477件。連れ戻しに成功したのは約3割ということです。

日本では、離婚時に共同親権が認められていないので、父または母いずれかを親権者と取り決めることになっています(単独親権)。司法統計によると裁判所の審判や判決で子の引き渡しが確定したのに命じられた片方の親が命令に従わず強制執行申し立てに至ったのは年間50件超、引き渡しが成功したのは33.3%ということです。

 

子どもには子どもの意思や感情があり、無理やり連れ去ればトラウマを残すことにもなりかねません。子どもの最善の利益は何か、目の前のことだけでなく、子どもにとっての配慮をくれぐれも忘れないようにしたいものです。

<池田桂子>

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑬

いよいよ12月に入ります。クリスマスが近づいてまいります。

 

ニューヨーク五番街の58丁目、アップルストアー前に現れた巨大な郵便ポスト。この郵便ポストは2メートル以上もあります。そして、そこには「サンタへの手紙」と書かれています。これは、サンタさんへ便りを送る専用ポストです。クリスマスまでずっとサンタクロースへのメッセージを受け付けています。

アメリカでは、昔から子供がサンタクロースへ手紙を書く習慣があります。最近では、クリスマスの前日に世界中を回るサンタの動きがコンピューターで追えるようになっていたりします。

わたしの友人の中には、クリスマスの頃の忙しく郵便本局に行きサンタクロースの代わりに返事を書くボランテアをしていた人がいました。

今回見つけた2メートル以上の高さがある大きな郵便ポストは初めて見ましたが、同じものがメーシーズデパートの中にもあるそうです。あまり気に留めていなかったのは、サンタさん専用のポストが設置されていなくても、サンタクロース宛の手紙は、通常のポストに投函するか、または郵便局配達員に渡せば配達されるからです。

米国郵政省は、普通郵便として正式に11月1日から12月10日までサンタクロースへの手紙を受け付けます。この場合は、宛先は、Santa Claus, 123 Elf Road, North Pole 88888。返事が欲しい場合は、返信用封筒に差出人住所を書き切手を貼ったものを同封します。

このお知らせは、USPS(郵便局サイト)にサンタクロースへの手紙のテンプレートや送り方も丁寧に判りやすく載っています。どのくらいの手紙が送られるのでしょうか? 楽しみです。興味のある方はぜひ見ご覧いただきたいです。
https://about.usps.com/holidaynews/operation-santa.htm#faq

この時期になると、11月25日の感謝祭後からは、なんとなく暖かな気持ちになります。ロックフェラーの大きなツリーの点灯式も12月1日です。12月の風物行事はいろいろありますが、コロナでの自粛や行事中止で物寂しい感じが 少し戻ってきて嬉しい感じです。

メリークリスマス!!

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

 

環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載5

~太陽光発電と規制~

1 FIT制度のもとでの太陽光発電の普及と弊害

2012年,固定価格買取制度(FIT制度。Feed in Tariff)が導入されたあと,再生可能エネルギーとして太陽光発電の普及が進みました。

しかし,太陽光発電設備が,山林を切り開いて設置されるなど,環境への悪影響も同時に表れてきました。

そこで,条例などにより規制が設けられることになり,現在に至ります。

 

2 太陽光発電設備に対する条例の規制

(1)条例の制定状況

太陽光発電設備に対する条例は,一般社団法人地方自治研究機構(http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/005_solar.htm)によれば,2021年10月1日時点で県では4条例(兵庫県,和歌山県,岡山県,山梨県),市町村が161条例の合計165条例があるとされています。

愛知県であれば,瀬戸市,大府市,東栄町に条例があります。

岐阜県では,御嵩町,中津川市,恵那市,関市,瑞浪市,可児市に条例があります。

三重県では,志摩市,鳥羽市,南伊勢町,名張市に条例があります。

(2)条例の種類

市町村条例では,太陽光発電設備の抑制地域を設定し,抑制地域内の事業は許可しないとするものや,許可制とするもの,届出制として市との事前協議を求めるものなど様々です。

また,抑制地域を定めて,抑制地域外については届出・市の同意を必要とするものなどもあります。

他にも,禁止区域を設定し,禁止区域では事業を禁止し,禁止区域以外では太陽光発電事業を許可制とするものもあります。

さらに,禁止区域を設定したうえで,禁止区域以外に抑制地域を別途設定し,許可制とするものもあります。

禁止区域・抑制地域という区分なしに市町村全域について,届出制とする条例もあります。

 

3 太陽光発電設備と農地法

休耕農地などに太陽光パネルが設置されて,発電をしている光景は郊外では見ることが多くなりました。

しかし,農地については農地法で規制がかかっています。

そこで,農地に太陽光発電設備を設置する場合には,農地法の農地転用許可が必要になります。

許可を得ること無く,無断で太陽光設備を設置すると農地法64条で罰則が定められています。

太陽光発電設備を設置するための農地転用許可については,平成30年度で許可件数1万1105件(1695.5ヘクタール),令和元年度(平成31年度)で1万2256件(1981.8ヘクタール)の実績があると農林水産省は発表(https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/einogata.html)しています。

 

4 最後に

池田総合法律事務所では太陽光発電設備等のビジネスの構築の支援や助言などを行っておりますので,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

預貯金債権に関する情報の取得手続について

1.はじめに

裁判をして判決が確定しても債務者が債務を支払ってくれない場合には、債務者の財産に対し、強制執行をして回収することが考えられます。

強制執行には、不動産、給与債権の差押えの他に、預貯金債権の差押えがあります。不動産、給与債権の差押えについては、それぞれ10月11日、10月28日の法律コラムでご紹介しました。

そこで、今回は、預貯金債権の差押えを行う際に必要な預貯金債権情報の取得手続きについてご紹介します。

 

2.預貯金債権情報の取得手続きの要件

預貯金債権情報の取得手続きとは、執行裁判所が、債務名義を有する債権者からの申立てによって、銀行等の金融機関から債務者の預貯金債権等に関する情報を取得する手続です。

申立てには、以下の要件が必要です。

(1)債務名義

裁判等の手続きを経て取得した確定判決、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、執行証書(強制執行受諾文言付公正証書)など、金銭債権についての強制執行の申立てに必要とされる債務名義を有していることが必要となります(民事執行法207条1項)。

(2)強制執行の不奏功

強制執行又は担保権の実行における配当等の手続きにおいて完全な弁済を得ることができなかったとき、又は知れている財産に対する強制執行を実施しても当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき等、強制執行の不奏功の要件が必要です(法207条1項、197条1項)。

なお、預貯金債権等に関する第三者による情報取得手続においては、財産開示手続の前置は必要とされていません。それは、預貯金債権は処分が容易であるため、事前に財産開示手続を必要とすると、債務者がその間に預金を引き出すなどして財産を隠匿してしまうおそれがあるためです。

 

3.情報提供義務者及び提供される情報等

情報開示を求めることができる第三者は、銀行、信用金庫、農業協同組合等、我が国において預貯金を取り扱う機関です。

債権者が申立てを行う際には、対象となる銀行等を具体的に指摘する必要があります。

上記金融機関から、提供を受けることができる情報は、預貯金債権に対する強制執行等をするのに必要となる情報(法207条1項1号下段)で、具体的には、預貯金債権の種別、口座番号、及び預貯金の額です。

 

4.振替社債等

預貯金の他にも、市場性のある上場株式等については、一般に財産的価値が大きく、その換価も容易であることから、強制執行を行うに有用な財産であると言えます。

そこで、振替機関等から振替社債等に係る情報を取得するための手続きが新設されました。

申立ての要件は、預貯金債権情報の取得手続きと同様です。

上記振替機関等から、提供を受けることができる情報は、債務者の有する振替社債等の存否、並びにその振替社債等が存在するときは、当該振替社債等の銘柄及び額又は数です。

 

5.終わりに

債務名義を持っていても債務者からの支払いがされずにお困りの方、不動産、給与債権及び預貯金債権の差押えを検討されたいという方は、一度池田総合法律事務所にご相談ください。

<石田美果>

環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載4

~再生可能エネルギー~

1 はじめに~FIT制度~

太陽光発電を筆頭に,風力,水力,地熱,バイオマス発電で得られるエネルギーを再生可能エネルギーといいます。

この再生可能エネルギーについては,2012年,固定価格買取制度(FIT制度。Feed in Tariff)が導入され,再生可能エネルギー設備で発電された電気については,10年間の買取期間中はあらかじめ決められた固定価格で電力会社が買い取ることが義務づけられました。

この固定買取制度では,事業の収支が分かりやすい点なども踏まえて,従来,発電に関与することもなかった異業種事業者やインフラファンドなどが新規参入して,一定の事業規模になっていきました。

そして,様々な事業者の参入により,FIT制度により急激に再生可能エネルギーが拡大しましたが,事業者等にとっては競争なく設備さえ導入すれば予想される収益が得られるという側面があるため,再生可能エネルギー設備による発電は,電力の需給バランスとは無関係になっていました。

また,電気料金にFIT制度の原資の一部を作り出すために賦課金が課され,広く国民から費用が徴収されることになっていました。電気料金の明細書に「再エネ発電賦課金等」とされているものです。2021年度の賦課金は総額2.7兆円に及ぶ見込みとなっています。

そこで,電力市場に再生可能エネルギーを統合するための制度として,2022年4月から「FIP制度」(Feed-in Premium)が導入され,FIT制度からFIP制度に変わることとなっています。

なお,FIT制度は2009年以降に設置された再生可能エネルギー設備の固定買取期間10年が2019年から順次終了していきますので,FIT制度での固定買取はいずれ終了します。この点,誤解があるようですが,FIP制度が始まるからといって,FIT制度下での固定買取期間が短縮されるといったことはありません。あくまでご自身の設備での固定買取期間が始まった時から10年後に固定買取期間は終了します。

 

2 FIP制度

 FIP制度のもとでは,「基準価格(FIP価格)」がまず定められます。FIP制度導入当初はFIT制度の調達価格と同水準から基準価格は始まる予定です。

次に,「参照価格」が定められます。参照価格は,電力市場での取引などによって発電事業者が期待できる収入分のことをいい,卸電力市場の価格等に連動することになります。

そして,「基準価格(FIP価格)」-「参照価格」>0となれば,その差額分が「プレミアム」となり,発電事業者は売電金額にプレミアムを加えた金額の収益を得られることになります。

このFIP制度でどのようなことが起きることが期待されているかですが,発電事業者が卸電力市場の動向などに注意を払うことになるので,電力が高値で取引される需要の大きい時に電力を売却し,需要の小さい時には蓄電池などで電気を蓄え,需給バランスを意識せざるを得ないことになります。

また,FIP制度では,発電見込みの計画値と,実際の実績値とを一致させることが求められ(バランシング),計画値と実績値との差(インバランス)が生じた場合には,発電事業者はインバランスを埋めるための費用を支払うことが必要になります(FIT制度のもとでは不要でした)。

そこで,バランシングをして,電力需給バランスをも意識すると,事業者を束ねて,蓄電池システムなども導入して需給管理を行い,適時に市場取引を行うアグリケーターによるアグリケーションビジネスの活性化が期待されています。

 

3 最後に

池田総合法律事務所では環境関連ビジネスの構築の支援や助言などを行っておりますので,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

給与債権に関する情報の入手手続きについて

1.はじめに

債務者が、支払をしないとき、給与を差押えてその回収を図ることが出来ます。不動産等他の執行手続きと比べて手続きが簡易で迅速に回収が出来るということで債権回収にあたっては、検討されるべき手法の一つです。

ところが、肝心の勤務先が全くわからなかったり、転居・転職等で勤務先が変わってしまっているときには、差押えが出来ません。差押えをした給与(の一部)は、勤務先から直接支払ってもらうため、勤務先の住所、氏名(会社名)がわからなければ、差押命令自体の発令が出来ません。

 

2.勤務先情報の情報提供命令手続きの流れと要件

そこで、今回の執行法の改正により、勤務先名やその住所の情報を市町村や厚生年金を扱う日本年金機構等から入手する方法が認められました。

具体的には、債権者が裁判所に第三者(情報の照会先)に対し、勤務先情報に関する情報の開示命令の発令を申立て、裁判所に第三者宛情報提供命令の発令をしてもらい、第三者から情報提供を受けます。

但し、申立の日の3年以内に財産開示手続の期日における手続きが実施されていること、強制執行の不奏功が要件となっています。後者については、強制執行手続の中で6ヶ月以内に実施された配当等で完全な弁済を受けられなかったことの証明、あるいは不動産等の調査をして、強制執行をしても完全な弁済を受けられないとの疎明することが求められています(調査事項は、細かく決められています。)。

 

3.申立ての出来る債権者

といっても、全ての債権について認められるわけではなく、「債務名義」(※当事務所の法律コラム、不動産に関する情報取得手続きと利用の実情の2(3)参照)の対象となっている債権のうち、①「扶養等の義務に係る請求権」と「人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権」に限定されています。①は、婚姻費用や養育費の支払請求権が代表的です。②については、交通事故等の事故による治療費、休業損害、慰謝料、後遺症による損害といった人的損害が典型的です。

こうした債権に該当するかどうかの判断については、判決の場合は、判決理由中の記載で通常は明確になりますが、和解調書等の場合には、金銭給付の名目が、「和解金」のような場合には、それだけでは債権の性質が決定出来ず、また、「本件事故による損害賠償債務として」という記載だけでも不十分とされています。和解をしても不履行のおそれのあるようなときは、和解金の内容を調書中で特定をする等、調書の条項の表現にも気を付ける必要があります。

 

4.情報提供を求める第三者の選択

情報提供を求める第三者については、市町村、日本年金機構等厚生年金を扱う団体のどちらか、又は、両者を選択することも可能です。市町村は、当該市町村に住所のある給与所得者について、毎年1回提出される給与支払報告書を基本に情報を把握しているので、年度途中で転居・転職等をした場合には、情報が古くて空振りということがあります。

これに対して、厚生年金保険の場合は、異動を含めた加入に関する事由は短期間で処理されますので、こうしたリスクは小さいと考えられます。

また、厚生年金保険の実施機関は、複数あり、①民間か公務員か、②国家公務員か地方公務員か、③公務員でも、どの共済組合に加入しているのか等照会先については、検討する必要があります。③の場合で所属がわからない場合には、共済組合の連合会を照会先とすることも可能です(但し、市町村の職員の場合は、地方公務員共済組合連合会ではなく、全国市町村職員共済組合連合会を第三者とする必要であります。)。

 

5.最後に

勤務先情報の入手のための手続は、上記の通り、その要件や第三者の選択等法的に複雑な面もあり、また、その結果を受けて、引続き差押手続きを取ることになりますので、当初より、弁護士に相談・依頼されることをお勧めします。

池田総合法律事務所では、これらの業務も取り扱っておりますので、御相談下さい。

 

不動産に関する情報取得手続と利用の実情

(池田伸之)

環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載3

~水質~

 

1 はじめに

環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載の第3回目は,水質の問題を取り上げます。

我が国では,環境基本法が人の健康を保護し生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準として「環境基準」が定められています。

最近でも,令和3年(2021年)10月7日,人の健康の保護に関する環境基準のうち六価クロムについて基準値が0.05㎎/l以下から0.02㎎/l以下に見直され,生活環境の保全に関する環境基準のうち,大腸菌群数を項目から削除して大腸菌数を追加する見直しもなされており,適宜見直しがなされています。

この環境基準を達成するために,水質汚濁防止法が特定施設を有する事業場からの排水規制及び生活排水対策の推進を定めています。

そして,水質汚濁防止法は,工場や事業場から排出される水質汚濁物質について,物質の種類毎に「排出基準」を定め,排出者等は「排出基準」を遵守することが求められています。

 

2 排出水の規制

 水質汚濁防止法の排出基準では,人の健康に被害を生ずるおそれのある物質(有害物質)と,水野汚染状況を示す項目(生活環境項目)の2つの面から規制をかけています。

排出水に関する規制基準は,国が全国一律で定める一律排水基準,条例により国の基準よりも厳しくする上乗せ排水基準,東京湾・伊勢湾・瀬戸内海において化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand。COD)の総量を規制する総量規制基準があります。

CODは水中の有機物量の多さ,有機物による水質汚濁の程度の指標ですが,東京湾・伊勢湾・瀬戸内海に排水をする場合には,排水基準に加えて総量規制基準をも遵守しなければならず,それ以外の公共用水域に排水する場合では浄化設備が不足することになります。

 

3 制裁等

排出基準に適合しない排出水を排出するおそれがある場合には,都道府県知事から排水の一時停止等の改善命令等(水質汚濁防止法13条1項)を受けることがあり,それに違反した場合には罰則があります。

また,排水基準に適合しない排水を排出した場合,総量規制指定地域内の事業者が総量規制基準を遵守しない場合にも罰則があります。

事業者が廃棄物処理の許可を得ている業者の場合,廃棄物処理法上,水質汚濁防止法等の生活環境の保全を目的とする法令違反で罰金以上の刑に処せられると許可が取り消されます。

したがって,例えば,廃棄物の再生利用を図る際の副次的な発生物を公共用水面に排出する場合には,その排水が排出基準に違反していなければ,そのまま罰金となって,廃棄物処理業の許可もなくなり,廃業せざるを得なくなるリスクもあります。

 

4 最後に

水質は人間が健康に生活をしていくためには,絶対に一定の水準以上に維持されるべきものです。

これに対して,環境基本法や水質汚濁防止法が規制をかけていますが,環境法独特の厳しい側面があります。

水質汚濁をさせたことについて,従業員がやったなどということは言い訳になりません。環境法令で規制を受ける業種には弁護士のアドバイスが必要不可欠です。また,従業員研修による問題発生の予防,不正の早期発見のための外部通報窓口での問題の早期発見・是正も必要です。

池田総合法律事務所では環境法令に対するビジネスリスクに対する助言,従業員研修,外部通報窓口業務などを行っておりますので,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

                               〈小澤尚記〉

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑫

ynassociates.net の最近の投稿より

9.11からの20年間を振り返っ

~テロが生んだ入国時の検査と金融機関の規定、そして差別~

Posted 2021年10月3日 YokoNogami

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニューヨークのマンハッタンに住み始めて久しい私ですが、2001年9月11日、9.11の朝のことは、まだ鮮明に覚えています。事の重大さが判るまで時間が掛かったのは、“これは映画でしかあり得ない”と信じたくない思いがあったからです。テレビでの映像を、漠然と見ながら、これからどう行動するのが良いか全くわかりませんでした。ビル崩壊は、「テロリストとは何?」という、今までにない大きな重圧を感じました。

その日、仕事をしているオフィスのあるミッドタウンでは、グランドセントラル駅やエンパイアステートビルの爆弾テロが起きると噂が広がりました。その噂は1週間以上にわたり何度も起きました。そのたびに避難できるようにスニーカーは必需品でした。マンハッタンに自宅がある私は、テロ後も毎日事務所へ行っていましたが、今となっては何をしに行ったのかよく覚えていません。

テロ後1〜2週間の間、電話応対がトラウマになっていました。電話で、何人もの知り合いや顧客にテロで亡くなった、と伝えられていましたので、電話が鳴るたび「またかな?」と手が震えました。

強く印象に残っているのは、ある1本の電話です。テロの翌日、不安で眠れなくてウトウトしていた早朝、電話で起きました。その電話は日本からで「あぁ、やっと何十回もかけて繋がった。貴方と旦那さんは大丈夫?」その後の会話は、あまり覚えていないのですが、今もあの1本の電話がどれほど心強かったか計り知れません。20年経った今もその感謝の気持ちに変わりはありません。

退役軍人である私の夫は、戦争になるかもしれないと言い、この戦争はべトナム戦争より長くなるだろうと予想しました。その後、戦争が始まるニュースを聞いた時には、9.11の悲惨な無差別殺人を目のあたりにしていた怒りもあったせいか、私も戦争するのは当然のことと思いました。

ビルが崩壊した跡地に9.11記念碑が立つ話が起きた時に、すぐ近くに、イスラム教の寺院を作る計画が起きたのをよく覚えています。テロを憎むけれども、宗教を憎んではいけない。誰もがそう思ったと思いますし、法律でも宗教は守られています。米国では、宗教差別、人種差別は、社会問題ですし、厳しい法律があります。この当時、大変大きな話題になりましたが、消えてしまった計画です。

今もテロリストがイスラム教徒であるために、イスラム教徒の米国入国検査が厳しい状況です(これを人種差別だと言う人もいます)。アフガニスタンだけでなく、中東諸国も、世界中にいるイスラム教徒にテロリストの疑いをかけられています。イスラム教は、世界第2番目に信者の多い宗教であるため、どの国からの移動も、今以上にパスポートやビザ検査が厳しくなるであろうと思われます。

私は以前銀行員でしたが、顧客を知る義務がありました。例えば、知らなかったとしても犯罪の送金に関わったりすれば、銀行員の罪になるからです。銀行の講習会では、顧客の口座の動向を知らなかったとは言い逃れはできない、と何度も注意されました。いわゆるマネーロンダリングへ加担するなということです。

経済の動きも、20年前と今では、簡単に比べることはできませんが、同時多発テロ後、大きな不安要因として株は大きく下がりました。その後持ち直した株はアフガニスタン戦争で再び株が下がりました。長く続くアフガニスタン戦争は、毎日の生活から離れたところで起きているせいか、株式には大きな変化はなくインフレと共に徐々に上昇しました。2009年のリーマンショックで大きく下落した株式も、2年間で完全回復しました。

話は変わりますが、アメリカの場合は、インフレが大きく経済に影響を及ぼし、その都度、個人所得税見直しがあります。税法が変わり、金利が変わり、とても流動的な経済対策が株式に影響を与えていて、物の価格と同じように株式も値上がりしていきます。

日本の場合は、インフレが少なく安定している経済に見え、国民の生活の安定が、まず大事であり、一般投資家の株式での利益はなかなか見込まれないように見えます(今月発表の日経平均が30年ぶりにバブル時を超えたと聞き、アメリカとの大きな違いを感じました)。

車社会でないマンハッタンでは、もともと宅配便やインターネット通販が盛んですが、コロナの自粛で需要が大きく増えて、多くのニューヨーカーが同じものを安く購入する方法を知り、便利で、品質の良い価格の安いものを探し、効率よく購入することが定着しました。毎日マンションの入り口では、荷物整理で大変です。これも新たな消費の形で、ウェブサイトや現金を使わないカードやスマホ決済などと生活が変化して、株の動きにも影響が出でいます。

変わったことといえば、最近は、道でタクシーを探す人がめっきり減ったことです。インターネットで近くにいるタクシーを探す、または予約する。時間と混雑状況で値段が変わりますから、需要と供給で値段が決まり、明瞭会計、運転手が誰であるか、感染対策がちゃんとされて、万が一感染しても誰がどこで濃厚接触が起きたかが即わかります。

それから、最近では、現金を使うことが本当になくなりました。何でもクレジットカード払い、チップも、チューインガム1つでもカードで払います。ニューヨークのバスや地下鉄は、スマホ決済が導入され、バスや地下鉄のカード(Suicaの様なもの)を購入する必要がなくなりました。特に感染拡大時には、現金お断りのマーケットやお店がほとんどでした。その理由は、お金のやり取りで感染する、とか、銀行に入金や小銭を取りに行く従業員がいないなど、理由は様々だったと思いますが、現金以外で決済をする習慣は、定着してしまいました。

薬局では、保険証明とクレジットカード登録で、無料同日宅配サービスを提供しています。おかげで自粛時には高年齢者が薬のためだけに街を歩く必要がなくなりました。飲み続ける薬に関しても、薬局と医師が連絡し合って、薬の管理をしますので安全だと感じました。

宅配便やインターネット通販が盛んになったせいでしょうか。大きなボトルに入った水やトイレットペーパーを抱えて道を歩く人を全く見なくなりました。

AIやコミュニケーション端末、移動手段の迅速と地球保護、20年でいろいろ変わりました。一般人が宇宙飛行をする時代になりましたし、自家用車の運転や公共交通もAIが行うようになりつつあるようです。今後ますます、世の中が変わっていく速度が増すと感じています。

米国株式の商品の多様化と売買については、今以上に簡単に、誰でも判りやすくなっていくと思います。証券マンを通して売買する形はなくなり、完全にパソコンや携帯で売買ができるようになるでしょう。すでに、世界中で何かが起きると株価が数分後には動きます。

その代償として、米国銀行は、現住所が米国になければ口座開設ができなくなりましたし、米国証券会社は、より安全な顧客に絞って業績を上げる方法を取るようになりました。新顧客の職業や国なども調べますし、不透明な資金の流れに関しては、厳しい規定があります。

付き合いの長い信頼してもらっている証券会社などを知らないと、多くの書類提出を求められ、質問攻めに遭い、どれほど多くの金額を用意していたとしても、口座開設ができない場合があります。ここニューヨークでは、“金融機関がお客を選ぶ”、という、日本では考えられない世界があります。良い証券会社ほどハードルが高いです。

自由な米国でも、厳しい仕組みが出来たのが9.11以降だと感じます。入国も永住も、銀行口座も証券も、人の疑いの目も差別も、確かにどこでも起きることでしたが、2001年からは、明らかに変わったと感じます。でも、規律があって自由があると考えれば、住み辛いわけではないように思います。

未来へ、新しい社会へ、私たちは確実に向かっています。9.11から変わった多くのことの中に、新たに見えてきた差別にも、立ち向かっていかなければなりません。ニューヨークも変わっていく、そしてそこに住むニューヨーカーも変わっていく・・・。

 

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

 

改正民事執行法~不動産に関する情報取得手続と利用の実情~

1 はじめに

前回の令和元年の民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情のコラムの続編として,今回は不動産に関する情報取得手続についてのコラムをお届けします。

 

2 不動産情報の入手

(1)概要

判決等(債務者に対して金銭の支払いを命じる判決などのことを「債務名義」といいます。)を持っている債権者の申立てにより,裁判所が法務局に対して,債務者の不動産情報(登記情報)を提供するように命じ,法務局が裁判所に情報を提供する制度が改正民事執行法で導入されました。

(2)財産開示手続の先行(前置(ぜんち))

不動産情報の取得手続を裁判所に申し立てるためには,先行して財産開示手続をしたものの,財産開示手続が債務者不出頭などで成功しなかった場合(目的不奏功)である必要があります。

財産開示手続は,不動産情報の取得手続申立ての日の前3年以内に行っている必要があります。

(3)申立てができる債権者

申立てができる債権者の典型は,執行力のある債務名義(=判決等の末尾に執行文という強制執行ができるという裁判所の書面が付けられた判決等のことです)の正本をもっている金銭債権の債権者です。

金銭債権に限定されますので,例えば債務者に100万円を支払えと命じた判決をもっている債権者などが典型的な申立てができる債権者になります。

(4)管轄裁判所

債務者の住所を管轄する地方裁判所に対して,基本的に申立てをします。

(5)手続の流れ

裁判所に申立て

⇒債務者に情報提供命令を裁判所が送達・確定

⇒裁判所が東京法務局に対して情報提供命令を告知

⇒東京法務局が裁判所に不動産情報を提供

⇒債権者は裁判所で情報提供書面を謄写して情報入手

⇒情報提供がなされてから1か月以上経過後,裁判所が債務者に対し情報提供を通知

(6)裁判所の手数料

裁判所に納める申立手数料は,1件の申立てにつき1000円です。申立手数料のほかに裁判所に予納金を納める必要がありますが,具体的な金額は裁判所の指示した金額になります(例えば,東京地方裁判所であれば予納金は不動産情報1件あたり6000円とされています。2021年10月7日時点)。

 

 

3 申立ての実情について

不動産情報の取得手続制度は,令和3年(2021年)5月1日からスタートした新制度ですので,申立件数の実数などは裁判所からまだ発表されていません。

ただし,不動産については,不動産登記簿は法務局で誰でも取得できるものですし,債務者が所有している可能性がある不動産の所在地は大まかに把握することができることが多いことからすれば,裁判手続を利用するよりも法務局で直接登記を取得する方がよほど簡単です。

そこで,不動産情報の取得手続は,債務者が不動産を持っている可能性はあるけれど,どこにあるのか全く分からないという状況ではじめて利用価値が生じるものと思います。

利用動向や実例の集積を待つ必要はありますが,預貯金情報や勤務先情報の方が,情報取得手続の利用価値は高いものと思います。

強制執行,第三者からの情報取得手続などでお悩みの方は,一度,池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情

1 はじめに

売買の買主が契約の内容に基づいてお金を支払ってくれないとき、あるいは、交通事故の被害にあったのに加害者が損害賠償金を支払ってくれないとき、訴訟を提起するという手段があります。訴訟の中で請求者の言い分が認められた場合には、裁判所から「被告は原告に○○円を支払え」という判決が出されますが、それでも相手(被告)がお金を支払おうとしないことがあります。こうした場合でも、例えば裁判所が判決の通り支払いがなされることを保障してくれたり、あるいは、支払いをしなかった人に刑罰が科されたりすることはありません。請求者としては、強制執行という別の手続をとることで、相手の財産から強制的に取り立てる(例:預金や不動産を差し押さえてお金に換えるなど)ことができます。

もっとも、強制執行をするためには、請求者(債権者)において、対象者(債務者

がどんな財産を有しているのか、把握しておく必要があります。しかしながら、債権者が債務者の財産について全く情報を持っていないということも少なくありません。

法律(民事執行法)上は、債務者の財産に関する情報を債務者自身の陳述により取得する「財産開示手続」という制度が設けられていました。しかしながら、この制度はなかなか使いづらい側面があり、あまり利用されていませんでした。

そこで、2019年に民事執行法が改正され、2021年5月までにその全てが施行されました。

本コラムでは、今後7回にわたり、民事執行法の改正内容や、強制執行の中で実務上重要な預貯金債権の差押え、賃貸物件の明渡について取り扱います。

 

2 民事執行法等の2019年改正の概要

上記のような背景の下、2019年5月10日に民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律が成立し同月17日に公布されました。

改正の概要は以下のとおりです。

(1)債務者財産の開示制度の実効性の向上(民事執行法の改正)

ア 現行の財産開示手続の見直し

財産開示手続をより利用しやすく実効的なものとすべく、現行制度の見直しがなされました。この点については、後記3で詳しくご紹介します。

イ 債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設

執行の対象となる債務者の財産の情報を取得する手段として、債務者以外の第三者からの情報取得手続が新設されました。

この制度では、裁判所の命令により、①金融機関から、預貯金や上場株式、国債等に関する情報を、②登記所から、土地・建物に関する情報を、③市町村、日本年金機構等から勤務先(給与債権)に関する情報を取得することができます。

 

(2)不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策(民事執行法の改正)

公共事業や企業活動等からの暴力団排除の取り組みが官民を挙げて行われている中、不動産の競売手続において、裁判所の判断により、暴力団員、元暴力団員、法人で役員のうちに暴力団員等がいるもの等が買受人となることが制限されるようになりました。

 

(3)国内の子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化 及び、国際的な子の返還の強制執行に関する規律の見直し

日本国内で子の引渡を強制的に行う場合、従前はその方法について規定がなく、動産と同じような取扱をしていました。

そこで、裁判の実効性を確保しつつ、子の利益に配慮する等の観点から、規律が明確化されました。

また、国際的な子の返還の強制執行に関しても同様の規律の見直しがなされました。

 

これらの改正以外にも、民事執行の手続が円滑になされるよう様々な改正がなされました。

 

3 財産開示手続に関する改正内容と利用の実情

(1)制度の概要

債務者を裁判所に呼び出し、どのような財産をもっているかを裁判官の前で明らかにさせる手続です。

確定判決等の債務名義(強制執行によって実現されるべき権利の内容などが記載された文書のうち、これを基に強制執行をすることが法律上認められているもの)を持っている債権者の申立により開始され、債務者が出頭しなかったり虚偽の陳述等をしたりした場合には、30万円以下の過料の制裁がなされることとなっていました(改正前民事訴訟法)。

 

(2)改正の内容

改正前の民事訴訟法では、財産開示の手続の申立を出来る債務名義が限定されていて、例えば仮執行宣言付支払督促や執行証書を持っていても、財産開示手続の申立をすることができませんでした。改正により、これらの債務名義でも申立ができることとなりました。

また、改正により、債務者の不出頭や虚偽陳述に対する制裁として、刑事罰(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科されることになりました。刑事罰として懲役刑まであるというのは、場合によっては逮捕・勾留され、前科となる可能性がありますので、債務者に対して大きなプレッシャーになると考えられます。

当該改正は、令和2年4月1日から施行されています。

 

(3)利用状況

財産開示手続の従前の利用状況は以下のとおりで、年々件数が減少しており、令和元年度の件数は、平成23年度の件数の約半分となっていました。

この間、債権執行の件数は概ね横ばいから微増という状態ですので、強制執行を要する案件の数は減っていない、むしろ増えているにもかかわらず、財産開示手続はあまり利用されてこなかったということがわかります。

ところが、令和2年になると財産開示手続の新件数が前年比約7倍と大幅に上昇しています。(コロナ禍の影響がなければもっと増えていたかもしれません。)

 

判決等は取得したが回収ができていないという方は、これを機に財産開示手続を検討されてはいかがでしょうか。

【2021年11月25日追記】

2021年11月20日で岐阜新聞のウェブサイトに、正当な理由無く財産開示手続に出頭しなかった債務者が、民事執行法違反の疑いで逮捕されたという記事が掲載されました。

https://www.gifu-np.co.jp/news/20211120/20211120-124341.html

 

本件で、逮捕に至った具体的な事情は明らかではありませんが、民事執行法の改正により、不出頭等に対する制裁として、懲役刑が法定されたことは大きく影響していると考えられます。

実際に被疑者の逮捕に当たっては、逮捕をするための一定の要件があるため、単に財産開示手続に出頭しなかったからといって直ちに逮捕されるという訳ではありません。しかしながら、上記のような法改正及び運用の状況をみると、財産開示手続の呼び出しがあった場合には、安易に変えて、無視してしまうことは危険です。

(川瀬 裕久)