パワハラ防止法について

2019年5月に成立した改正労働施策総合推進法(以下「パワハラ防止法」といいます。)の施行が2020年6月1日(対象は大企業。中小企業は2022年4月施行予定)と、目前に迫ってきました。

そこで、今回は、どのような行為がパワハラ行為に当たるのか、また、パワハラ防止法により、企業にどのような行為が義務付けられるのかについて、簡単に解説したいと思います。

 

1.パワハラとは

パワハラとは、パワーハラスメントの略で、優位的な立場にある者が、下の立場の者に対し「自らの権力や立場を利用した嫌がらせ」を行うことを言います。

厚生労働省の定義によると、職場におけるパワーハラスメントは、以下の3つの要素をすべて満たすものとされています。

① 優越的な関係を背景として、

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、

③ 就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 

①優越的な関係を背景とした行為の例には、つぎのようなものがあります。

  • 職務上の地位が上位の者による行為 ●同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの ●同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの

②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動の例には、つぎのようなものがあります。

  • 業務上明らかに必要性のない行為 ●業務の目的を大きく逸脱した行為 ●業務を遂行するための手段として不適当な行為 ●当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為

③身体的若しくは精神的な苦痛を与える行為の例には、つぎのようなものがあります。

  • 暴力により傷害を負わせる行為 ●著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為 ●何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感じさせる行為 ●長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を低下させる行為

 

2.企業に義務付けられる内容

パワハラ防止法により、企業には以下の措置が義務付けられるようになります。

(1)まず企業は、パワハラを防止するため、従業員が相談出来る窓口を設け、相談内容に応じて、適切に対応できるような体制を整えておかなければなりません(労働施策総合推進法30条の2第1項)。

(2)つぎに企業は、従業員が(1)の相談を行ったこと等を理由として、当該従業員に対して解雇その他の不利益な取り扱いをしてはなりません(労働施策総合推進法30条の2第2項)。

(3)また企業は、パワハラに当たる行為を行ってはならないこと及び当該行為に起因して起こり得る問題等について、従業員に対し研修を実施するなどして、従業員の理解を深めるよう努めなければなりません(労働施策総合推進法30条の3第2項)。

(4)また企業(役員)自らも、パワハラ問題に対する関心と理解を深め、従業員に対する言動に必要な注意を払うように努めなければなりません(労働施策総合推進法30条の3第3項)。

なお、パワハラ防止法には、企業が違反した場合の罰則規定は設けられていません。しかし、上記(1)や(2)に違反した企業が、厚生労働大臣の指導・勧告に従わない場合は、その旨が公表される可能性があり、企業イメージが大きく毀損することとなります。

また、パワハラを受けた労働者から、慰謝料の支払い等を求めて、裁判を起こされる可能性もあり、実際にもこれまでに多くの裁判が行われてきました。

パワハラは、大きな社会問題となっており社会の関心も高く、企業にとって避けては通れない問題となっています。

池田総合法律事務所は、企業からのご相談も積極的に受けております。パワハラを防止するための体制の整備や、パワハラが起きてしまった場合の対応等について、ご相談されたい場合は、是非お気軽にお問合せください。

以上

(石田美果)

事業の継続、廃止に向けた手続きについて

1.事業の継続に向けた手続き

(1)債権者との交渉

緊急事態宣言が継続されている現下の状況では、将来に向けた収支見込みが立たないのが実情です。

企業として体力があり、コロナ禍の中、資金繰りが出来る、あるいは、金融機関その他の債権者からの一時的な返済猶予が得られることが前提となりますが、今後、コロナによる影響が減じ、収支見込みが立つようになり、営業利益がプラスとなった時点では、金融機関などの債権者に対し、長期的な返済猶予や債務(元金、金利)カットの交渉をするということが考えられます。

その際は、企業のおかれた状況や経営者の個人資産も含め、資産負債の状況などを誠実に開示したうえで、金融機関とのミーティングを重ね、合意に向けた交渉をすることになりますが、全債権者から、猶予にとどまらず、債権カットの合意が得られたときは、金融機関側の無税償却の必要上、その合意内容を一定の司法的ないし準司法的な手続きで確認する必要があります。一般的には、特定調停手続を利用した手続がよく利用されます。

(2)M&Aの活用

また、事業自体は価値や独自性があって買い手があるような場合は、事業や雇用を継続する前提で、第三者に事業を売却して(手法として第二会社を設立するなどの方法があります。)、その売買代金で、債権者に債権額に応じて弁済し 、支払えない部分は、会社を破産、あるいは、特別清算という法的手続で、清算するという方法もあります。

その場合には、M&Aなどの手法で廃業を公的に支援する制度があります。詳細は、事業引継ぎ支援センター に関する当事務所の法律コラム(2015年8月11日「中小企業のM&A―『事業引継ぎ支援センター』って何?」を参照ください。

https://ikeda-lawoffice.com/law_column/

中小企業の%ef%bd%8d%ef%bc%86%ef%bd%81%ef%bc%8d「事業引継ぎ支援センター」

(3)民事再生手続

債権者との交渉の中で、一部の債権者が債権カットなどについて反対し、全債権者の同意が得られないときは、民事再生手続という法的な手続きが可能です。

民事再生手続では、手続きの中で再生計画案を提示し(たとえば、債権額の20%を5年で毎月分割弁済し、残りの80%は免除してもらう。)、会社の場合、債権者の頭数の過半数及び債権額で2分の1以上の賛成が得られれば、再生計画案が認可され、その再生計画に従って弁済をすることになります。他方で、この賛成が得られないときは、会社の場合には、申立が棄却され、自動的に、破産手続へ移行する(牽連破産といいます。)ことになり、注意が必要です。

個人の場合は、債務総額が5000万円以下その他の要件がありますが、小規模個人再生という比較的簡易な再生手続きが認められています。この場合は、不同意の債権者が頭数で過半数、債権額で2分の1を超える場合には、計画案は認められませんが、「不同意」でなければよく、積極的に同意してもらう必要まではありません。

以上のように、大口の債権者が強硬に反対しているときは、慎重に検討する必要があり、その場合には、事業継続を断念して、事業を廃止して、破産などの手続を取ることにならざるを得ません。

 

2.事業の廃止に向けた手続き

(1)債務の弁済が可能な場合

資産で、債務の弁済が可能な場合は、会社の場合は、会社を解散して、清算手続を取ることになります。

清算手続の中では、清算人が(それまでの代表者が清算人となるケースが多いと思います。)、会社資産を換価し、契約関係については解消し、従業員は解雇し、債務の弁済をしていくことになります。

資産の換価をした結果、債務の弁済の見込みの立たないときは、そのまま、清算手続きを取ることは出来ず、清算人は破産申立の手続きを取らなくてはいけません。債務の中には、従業員の解雇予告手当や退職金(規定のある場合)も含まれますので、注意が必要です。

(2)債務の弁済が不可能(債務超過)の場合

債務の弁済が、資産では不可能な場合は、破産手続を取って清算することが考えられます。

 

3.個人保証への対応

金融機関などからの借り入れに際しては、ほとんど、会社経営者やその親族が連帯保証人となっているため、会社が再生手続や破産手続をとり、債務カットがなされた場合、そのカットされた債権につき、連帯保証人としての責任が残ります。その責任を法的に免れるためには、連帯保証人自身も、破産ないし民事再生の手続きを取ることも一つの方法です。

そのほか、経営者保証ガイドラインによる処理の運用が定着し始め、前述の特定調停と組み合わせることによる解決手法が広がりつつあります。債権者との合意が前提となりますが、破産と比べて、自由になる財産の範囲が広がり、費用も低額で、経営者にとっては有利な解決方法です。

詳細については、当事務所のブログ(2015年6月8日「経営者保証ガイドラインの活用について」https://ikeda-lawoffice.com/law_column/経営者保証ガイドラインの活用について/  2019年2月13日「経営者保証ガイドラインによる解決の手法が広がり始めている~代表者の保証債務からの解放・軽減~」https://ikeda-lawoffice.com/law_column/経営者保証ガイドラインによる解決の手法が広が/)を参照ください。

 

4.その他のサイトのご案内

コロナ問題に特化したものではありませんが、特定調停手続その他の手続きを説明したものとして、法務省のサイトwww.moj.go.jp/MINJI/minji07_00023.htmlがあります。

また、経営者保証ガイドラインの説明をしたものとして、中小企業庁のサイトhttps://hosho.go.jp/があります。

 

5.ご注意

以上いろいろな手続きについてご説明をしましたが、いずれの手続ついても、弁護士、税理士、裁判所などの専門家、国家機関の力を借り、ご本人自身にも頑張っていたただいて、苦境を解決していく手法です。手続により所定の費用の高低はありますが、弁護士費用、申立費用、裁判所への予納金などといった形で、金銭が必要となります。最後まで頑張って精神的にも、金銭的にも、全く余裕をなくしてしまった状態では、必要な手続きが取れません。少し先を見越し、早め早めにご相談をすることをお勧めします。

(弁護士 池田伸之)

新型コロナウイルス感染症と賃料・テナント料

1 はじめに

新型コロナウイルス感染症により、店舗やオフィスを賃貸借している法人・個人事業主では、売上げが十分に立たないため、賃料・テナント料の支払いが苦しくなってきています。

他方、貸主である大家も、法人や個人事業主であることが多く、その場合、大家も金融機関からの融資の返済や固定資産税等の納税のため、賃料・テナント料の収入がなくなると、経営が立ちゆかなくなることが起こりえます。

なお、賃料・テナント料については、現在,政府が支援策を検討しているようですので、その動向に注意する必要があります。

 

2 賃借している法人・個人事業主(いわゆる「店子」)の場合

店舗やオフィスを賃借している法人・個人事業主については、賃貸借契約書上、新型コロナウイルスの影響で賃料を減額する権利があるとは言えないことが多いと思われます。

そうすると、大家側に対して、現在の経営状況、店舗であれば営業自粛要請の対象業種のために売上げが減少あるいは消滅したことを丁寧に説明して、大家の理解を得て、賃料減額に結びつける必要があります。

大家側としても、現在の経済情勢から、新しく賃借人を探しても、入居者がなかなか見つからず空室を抱えるリスクがありますので、平時よりも積極的に減額に応じてくれる場合があると思われます。

まずは、大家に対する現状の丁寧な説明から始める必要があります。

 

3 賃貸している法人・個人事業主(いわゆる「大家」)の場合

店舗やオフィスを賃貸している法人・個人事業主については、月額で返済している融資の返済額、固定資産税等の納税額、所有物件の維持・メンテナンス費用等のコストから導かれる損益分岐点までであれば、賃料の減額に応じることも検討する必要があります。

それは、上記のとおり、店子が退去した場合、空室のリスクが生じますので、現在の経済情勢では空室リスクを抱える期間の予測が全く不可能であるためです。

そこで,例えば,合意によりあらかじめ元の賃料に戻る時期を定めた一時的な減額をするという方法なども考えられるところです。

そして,賃料の減額に応じた場合には,損金算入が可能となる場合が例示されています(https://www.mlit.go.jp/common/001343017.pdf)ので,減額に応じて損金算入し,将来的な税負担を軽減するという考え方もありえます。

また、店子からの賃料減額については、単純に賃料の減額に応じた場合、新型コロナウイルスの問題が落ち着いたあとも、減額した賃料のままで賃貸借をしたいと言われ、元の賃料水準に戻せないリスクもあります。このリスクを回避するためには、一度、満額での賃料を受領し、そのうちの一部を経営の支援として、大家から店子に支払う(返金する)という方法もあり得ると思われます。この場合,国税庁の例示で損金算入できる場合に当たり得るのかは別途判断する必要があります。

〈小澤(こざわ)尚記(なおき)〉

新型コロナウイルス感染症と雇用関係

 はじめに

新型コロナウイルス感染症と雇用関係等について、厚生労働省が詳細なQ&Aを公開しています。

厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html)をご参照ください。

 

2 従業員を休業させる場合

新型コロナウイルス感染症を原因として、従業員を休業させる場合、休業手当を支払うべき義務があるかどうかは議論のあるところです。

雇用主に責任がある場合の休業の場合、雇用主は休業期間中の休業手当(平均賃金の60%以上)を支払わなければなりません。

しかし、政府による緊急事態宣言が出ており、かつ、営業の自粛要請が出ている業種について、在宅勤務も不可能であれば、雇用主に責任がある休業とはいえず、休業手当を支払う必要が無いとも解釈できるためです。

もっとも、どの法人、個人事業主でも、雇用している従業員を無給のまま休業させ、生活ができないような状況にするのは本意ではないはずですので、可能な限りで休業手当を払うことになるのではないかと思われます。

 

3 従業員を解雇せざるを得ない場合

法人や個人事業主が、人件費負担をしたままでは事業を残すことができないと判断した場合、従業員を解雇せざるを得ない場合があります。

こういった場合のことを「整理解雇」と言いますが、整理解雇は裁判例において、4つの要件があって解雇が有効とされています。

具体的には、①人員整理を行う必要性、②できる限り解雇を回避するための措置を尽くしたか、③解雇労働者の選定基準が客観的・合理的であるか、④労働組合との協議や労働者への説明が行われているか、の4点です。

新型コロナウイルスの影響で、事業継続が立ちゆかなくなりつつある場合には、整理解雇の有効性は認められやすいと思いますが、従業員に対して例えば「新型コロナウイルスのために解雇します」という説明だけでは④の点が不十分と評価される可能性がありますので、できる限り詳細に説明を行い、説明した事実を書面で残しておくことが必要となります。

 

〈小澤(こざわ)尚記(なおき)〉

賃貸アパート経営における民法改正の影響(連帯保証について)

アパート等を賃貸する際に、家賃等の支払いを担保するため、個人の連帯保証人をつけることが一般的によく行われています。そうした保証について、2020年4月から施行された新しい民法(新民法)では、いくつかの重要な改正がなされました。
今回は、不動産を賃貸する際の個人の連帯保証人に関して、実務上大きな影響を及ぼすと考えられる改正点について説明します。

1 契約を締結する段階
連帯保証契約を締結する(連帯保証人をつける)段階で注意すべき点として、
①契約書に連帯保証の極度額(上限)を定めることが必要になったこと
②「事業用に」賃貸するにあたって、賃借人(借主)から連帯保証人に対する財産の状況などの情報提供がなされているか確認する必要が生じたこと
について説明します。

(1)①契約書に連帯保証の極度額(上限)を定めることが必要になったこと
ア 改正の概要
アパート等の賃借人が家賃や原状回復費などの支払いをしなかった場合、賃貸人(大家)としては、保証人に請求することができます。保証人としては、賃貸借契約から生じるあらゆる賃借人の債務について保証することになるのですが、このような継続的債権関係から生じる不特定の債権を担保するための保証を、法律上「根保証(ねほしょう)」といいます。
ところで、これまでの賃貸借契約に伴う保証契約(賃借人の債務の保証)では、保証する金額の上限が特に決まっていなかったため、例えば、賃借人が何年も家賃を支払っていなかった場合など、思いもよらない金額を請求されることもありました。
今回の改正では、個人が根保証の保証人となる個人根保証契約について、予め契約書に保証する金額の上限(「極度額」といいます)を記載しておかなければ、保証契約自体が無効になるようになりました(新民法第465条の2)。
イ 具体的な対応
賃借人の債務を保証する連帯保証契約(ただし個人が連帯保証人になるもの)のうち、2020年4月1日以降に締結するものについては、契約書に極度額を記載する必要があります。
この際の極度額の記載方法は、「●●円」と金額を明示する方法や「家賃の●か月分」と記載する方法が考えられます。「●●円」という記載は特に問題がありませんが、「家賃の●か月分」という記載の場合には、同じ契約書の中に家賃の金額(「賃料月額10万円」など)が記載されている必要があります。また、「家賃の●か月分」という記載の場合に、後に賃料が増額された場合であっても、極度額は変わりません。
例:賃料10万円 極度額:家賃の3か月分と記載した場合
→ 極度額は30万円で確定
(後に家賃が11万円に増額されたとしても、極度額は30万円のまま)
賃料の変動にあわせて極度額を変更したいと考え、「賃料額が増額された場合には極度額も変更される」といった特約をもうけてしまうと、極度額が適切に定められていないとして連帯保証契約自体が無効になると考えられていますので注意が必要です。

(2)事業のために賃貸借契約を締結する場合の情報提供義務
ア 改正の概要
新民法では、事業のために負担する債務について、個人に保証の委託をする場合に、主債務者は、保証の委託を受けた者に対して、①財産及び収支の状況、②主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況等について情報を提供しなければならないと規定されました(新民法第465条の10第1項・第3項)。
主債務者がこの情報提供義務を怠ったために保証人が主債務者の財産状況等について誤認をし、それによって保証契約を締結した場合には、情報提供義務違反があったことを債権者が知っていたか、もしくは知り得たことを条件に、保証契約の取消しができます。
イ 具体的な対応
賃貸借契約においても、対象の物件が店舗や事務所等の事業用に使用される場合には、この条項が適用されます。
したがって、賃借人としては、賃貸借契約と連帯保証契約を締結するにあたって、賃貸物件の使用目的が事業用か否かを確認するとともに、事業用である場合には、賃借人が情報提供をしたことを確認する必要があります。

2 賃貸借契約の継続中や連帯保証人への請求段階
賃貸借契約の継続中や連帯保証人に請求する段階で注意すべき点として、
①賃借人の家賃等の支払い状況に関する情報提供義務が定められたこと
②賃借人や連帯保証人が死亡した後に生じた債務については、連帯保証人に請求できなくなったこと
について説明します。

(1)賃借人の家賃等の支払い状況に関する情報提供義務
ア 改正の概要
新民法では、債権者は、主債務者から委託を受けて保証人となった者から請求された場合には、遅滞なく、債務の不履行(未払い)がないか、不履行がある場合がある場合にはその金額等の情報提供をする義務が生じることとなりました(新民法第458条の2)。
イ 具体的な対応
賃貸借契約においても、債権者である賃貸人は、連帯保証人から請求されときには、家賃等の未払いがあるかどうかや、家賃等の未払いがある場合の金額等について、連帯保証人に情報を提供しなければなりません。
賃貸人としては、連帯保証人から請求があった場合に対応ができるよう、予め準備をしておく必要があります。

(2)賃借人や連帯保証人が死亡した際の注意点
ア 改正の概要
個人根保証契約について、主債務者や保証人が死亡した後に発生した債務については、保証の対象とならないこととされました(新民法第465条の4)。法律上は、主債務者の死亡や保証人の死亡により、元本が確定するといいます。
従前は、連帯保証人が死亡した場合、連帯保証人の相続人は、その法定相続分に応じて、連帯保証債務を相続するものとされていました。
これに対し、新民法では、連帯保証人が死亡した後に発生した債務については、連帯保証の対象とならないことなります。
イ 具体的な対応
上記の改正により、連帯保証人は、賃借人の死亡後に発生した家賃の未払いが生じた場合であっても、家賃を代わりに支払う必要はありませんし、連帯保証人の相続人は、連帯保証人が死亡した時点ですでに未払いとなっていた分だけを支払えば足りることとなります。
このように、連帯保証人としては、責任の範囲が限定されるため、思いもよらない金額を支払わなければならないという事態は少なくなるものと思われます。
他方で、賃貸人としては、賃借人や連帯保証人の死亡後の債務については連帯保証人に請求することができなくなりますので、注意が必要です。
すなわち、賃貸借契約が続いている間に賃借人が死亡した場合、相続人は、賃借人の地位を相続するため、相続人の中で、賃借人が住んでいたアパート等に住みたいという人がいた場合、原則として、賃貸人はそれを拒絶することはできません。しかしながら、こうした相続人が家賃を滞納した場合、賃貸人は連帯保証人に請求することはできないのです。
対策としては、賃借人が死亡した際や連帯保証人が死亡した際には、改めて連帯保証人をつけるよう契約書に明示しておく方法が考えられますが、実際には、滞納が生じて初めて賃借人や連帯保証人が死亡したことに気づくということも十分あり得ます。そのような場合には、連帯保証人に請求することができませんので、未払額が膨らむ前に早めにの対応することが肝心といえます。
また、この改正は連帯保証人が法人の場合には適用されませんので、家賃保証会社等法人による連帯保証を使うのも一つの方法です。

3 新民法の規定の適用時期
これまで説明した新民法の規定は、2020年4月1日以降に締結する契約について適用されます。
したがって、2020年3月31日以前に保証契約を締結していた場合には、こうした新民法の規定は適用されません。

以上のとおり、保証に関する改正は、賃貸アパート経営に大きく影響を及ぼすものと考えられます。契約締結段階から請求段階まで様々な対応が必要となりますので、不安をお持ちの方は、池田総合法律事務所までご相談ください。   (川瀬裕久)

〈5月7日スタート〉法人・個人事業主様向け無料法律相談開始のお知らせ

 池田総合法律事務所では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による社会情勢の劇的な変化により,事業上で様々な影響を受けている法人・個人事業主様向けに,5月7日から5月末まで期間限定の無料での法律相談を始めます。

 法律相談を希望される法人・個人事業主様は,まず電話(052-684-6290)にて当事務所にお申し込みください(受付時間・平日午前9時30分から午後4時30分まで)。ホームページのお問い合わせフォームに入力していただいて,お申し込みいただくこともできます。

 また,不要不急の外出の自粛が求められておりますので,無料法律相談の方法は,①ZOOM,②Skype,③電話から,お申し込み時に,ご相談様にご指定いただく形式といたします。

 法律相談の内容は,「労務(労働)・雇用」,「家賃」,「事業の継続または廃止に向けた債務整理,再生,破産手続等」に限定させていただきます。

 なお,法律相談時間は最大30分とさせていただき,それ以上の相談時間が必要な場合には有料相談(30分5500円(税込))をご案内させていただきます。

 大変な時期において,弁護士として,少しでも法人・個人事業主様を法的にサポートさせていただきますので,是非お申し込み下さい。

 

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑤

「 新型コロナウィルスに悩まされるニューヨークは今・・・ 」

 

日本では、コロナウィルスの感染拡大を防止する「3つの密を作らない」ということが繰り返し言われ、政府や自治体からの要請を繰り返しニュースや報道番組で流しています。しかし、3つの密―密閉、密集、密接―に関する記事(末尾に転載)をよく理解しないと大きな間違いを起こします。こんなことをするのは愚の骨頂です。この三つが重なると危ないのでなく、どれも危険で、してはいけない事です。大事な点は、3つの一つでも感染危機があるということです。

米国では外でも2メートル離れます。個人の家でも10人以上集まらない。ニューヨークで言われているのは、「近づかない、触らない、出かけない」の3つです。それでもすでに広がった感染は止められません。

学校に行くことの危険性を世界でいち早く阻止するために各国が進んで閉鎖しました。日本は衛生的な国だと過信しているのではないでしょうか。マスクをして手洗いをすれば大丈夫だと思っているのは、間違いです。マスクだけでは、空気中の菌を防げません。手洗いはハンカチやタオルに菌がついていれば同じことになります。日本でゴム手袋は、意味がない、などと言った意見を報道で流しているのを観ましたが、お馬鹿なことです。ニューヨークで見かけるのは、ゴム手袋したまま同じように何度も手洗いや消毒をしています。手袋は爪や細かな部分に菌が付きにくいです。

全般的に、日本では感染について甘い考えのように思います。野外でもどこでも感染します。現にバスの運転手や宅配便の人は密接していないのに感染しています。ニューヨークではレストラン、バー、洋服店など日常に支障がないお店は閉店し、同様に、美容院などは近くに客と店の人が長い時間一緒にいるので感染可能性が高いという理由で、名指しで閉店するよう指示が出されています。

日本では感染者と死亡者の数字だけに目が行き、どこで感染した否かだけがクローズアップされているのが目に付きます。日本の検査体制の整備が遅れていることが指摘されていますが、テストを増やせば実態が更に分かるでしょう。予想外に多くの人が保菌者で、本人が知らないうちに移している状況がわかるでしょう。そしてそれが感染経路がわからない原因です。

ニューヨークのTV等の報道に比べると、医師や看護婦がどれだけ苦労しているか、患者がどれだけ苦しんでいるかなどの報道が少ない印象です。考え方の違いでしょうか?

毎晩7時に2分間サンキューの叫びと鍋叩きがあります。ニューヨーク中の人がするこの時間はもう3週間になりますが 毎日雨でも寒くてもあります。医師、看護師、消防士、警察官、お店を開けてくれる従業員、みんなにありがとう😊のメッセージです。

ニューヨークでの報道では、最近まで、糖尿病などの持病持ちで高齢が危険だと言われていたのですが、これに、喘息と肥満が加わりました。年齢は免罪符にならなくなってきましたが、勿論、高齢者は体力と免疫がないので危険です。米国は、何でもオープンに報道するので状況や状態が把握しやすいと思います。感染者は、まず微熱と怠さが始まり、悪寒、節々が痛みます。咳はない場合もあります。息が苦しい感じが出たら、それから症状の悪化は速いです。肺炎の症状が出て3日間で亡くなる人もいます。風邪のような鼻水、鼻詰まりがないそうです。

4月7日までのニューヨーク市での感染者確認は7万2324人、そのうち3202人が亡くなりました。そして、私の住むマンハッタン地区では1万1504人が感染、604人が死亡しました。今回のコロナウィルス禍での死者は、2001年の同時多発テロによるアメリカ全体の死者数を越えました。

数日前に友人の息子さんが熱と下痢があったと連絡がありました。その後熱が下がったようです。先日、ニューヨークのCNNニュースキャスターが感染しました。今一番注目を浴びている夜10時からの番組キャスターです。彼はニューヨーク州知事の弟です。彼は毎日自分の症状、医師、州知事、政府、それぞれの報道をしていました。1週間目で、彼は熱が上がったり下がったり、悪夢と変なものを見る、息が切れる、肺が小さくなるように感じる、実際の彼の肺のレントゲンを見せて自分の状態を見せながら、毎日緊迫した体調と闘って素晴らしい報道をしていました。とても残念です。

ニューヨークのTV番組では、亡くなった人の紹介をしています。医師、看護婦、バスや地下鉄の運転手、マーケットの従業員、みんな人のために働いて亡くなっています。このような英雄を思い、無駄にしないように今頑張ろうと呼びかけています。

以上、ニューヨーカーの目に映っている心配事を書きました。感染は1度でなく3度波のように来ると過去の感染の歴史に照らして、アメリカの専門家たちは警鐘を鳴らしています。そのようにならないとよいけれど、と息を飲んで中国事情を見ています。

2020年4月10日   野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)、サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

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セミナー案内

【これから開催されるセミナー】

緊急事態宣言により、しばらくの間セミナー開催は中止させて頂きます。

 

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【これまでに開催されたセミナー】

2021.4.22  認知症対策、さいしょの一歩

2021.4.22  トラブル事例から考える、もめない遺言書の書き方

2020.10.1  個人情報の取扱いの基本

2020.11.5  「おひとりさま」の支援を考える

2020.9.12  相続法改正!改正による我が家への影響は?

2020.9.10  相続法改正!改正による我が家への影響は?

2020.2.19  知ってて安心、災害時の法制度

2019.11.7    アスベスト健康被害救済の現在

2019.12.12  家族信託(民事信託)って何だろう?

2019.10.11  産棄物処理法の基礎

2019.9.20  大きく変わる相続の手続き

2019.9.5   会社経営と認知症対策

2019.5.9  民法改正の保証契約に与える影響について

2019.4.9  民法改正の建築請負契約に与える影響について

2019.3.30   相続法改正セミナー(2)

 

2019.3.28  相続法改正セミナー(2)

2019.2.9    相続法改正セミナー(1)

2019.2.7     相続法改正セミナー(1)

2018.11.15 会社にまつわるインターネット上の問題

2018.9.19  契約実務はここが変わる!~債権法改正のポイント~

2018.7.11  労務管理の常識・非常識

2018.6.21 人口減少時代、バブル期の住宅・建築物のケア

2018.5.25      民法改正③ ~債務不履行、解除、売買・請負の担保責任~

2018.4.13  カンボジアへの日系企業進出の注意点

2018.4.12  平成30年度の税制改正について

2018.3.16     民法改正②~時効、約款、債権譲ほか~

2018.2.8    連邦グループ経営の勘所

2017.11.15  結構使えて助かる助成金制度!

2017.10.26    遺贈って何?相続とどう違うの?

2017.9.19  保証契約を見直しましょう!

~債権法改正を受けた、今後の保証契約のあり方~

2017.8.10 「なんとなく・・・」ではもったいない!

人事評価制度の活用方法

2017.7.25 「個人情報保護法セミナー」

2017.6.20 「賢いリフォームセミナー」

2017.5.23 「税制改正セミナー」

2017.3.22 「事業承継セミナー」

2017.1.26 「粗利改善セミナー」

2016.10.4 「ライフプランノートセミナー」

2016.9.26  「ライフプランノートセミナー」

2016.7.14   「介護業務に伴う事故・クレーム対応に関するセミナー」

2016.3.16  「情報の流出・流入に伴う法律問題~情報管理とセキュリティー」

(建設会社の社内研修)

2016.2.16 「賢い消費者セミナー~土地・建物購入のチェックポイント」

(当事務所にて 建築士 柳澤講次 先生)

2016.1.20 「事業承継と相続」

2015.12.17 「医療とIT-医療における個人情報の保護」(在宅医療クリニックの社内研修)

2015.12.9  「介護業務に伴う事故・クレーム対応」(アイプラザ一宮にて)

2015.11.24 「民法改正が不動産取引に与える影響について」(ウインク愛知にて)

(池田伸之担当、愛知県不動産コンサルティング協会主催セミナー)

2015.10.17 「成年後見人経験者向きセミナー」(東京にて)

2015.10.6      カウンセリングセミナー「カウンセリングの極意から、経営者として、

人の話を聴く、人への理解を深める方法を学びましょう」

2015.9.17    介護事業者セミナー「介護に伴うトラブル・クレーム対応」(岡崎にて)

2015.9.16    独禁法セミナー

(カルテル、公取委の事実認定の手法、課徴金制度、国際動向等、社内研修)

2015.9.2        相続セミナー「子どものいない夫婦、再婚夫婦向けの相続セミナー」

2015.7.10      相続セミナー「間違いだらけの相続対策」(瑞穂区役所にて)

2015.6.2    介護事業者セミナー 「介護事業者に求められる介護水準」(岡崎にて)

2015.4.16  会社役員としての法律知識(役員、執行役員向けの社内研修)

2015.3.31    米国生活セミナー どうしよう!?米国の口座

(相続財産等として米国預金があった場合の回収方法等)

2015.2.3    争族リスク「診断・対策まるごとセミナー」(節税対策を中心に)

2015.2.2    財務セミナー 銀行取引のツボ(銀行の貸付審査等にあたっての着眼点等)

2015.1.22  建設業特化セミナー

(商事留置権による請負代金の保全とその限界について判例傾向を分析)

2014.11.27  争族リスク「診断・対策まるごとセミナー」

2014.9.4   争族リスク「診断・対策まるごとセミナー」

 

民法改正による交通事故の損害賠償請求の影響は?

1 交通事故にかかわる民法の改正点

平成29年5月、「民法の一部を改正する法律」が成立し、120年ぶりの大改正と大きく報道されました。その改正民法が、令和2年4月1日から施行されました。交通事故の損害賠償請求についても、4月1日をもって、適用されるルールが変わりました。

交通事故の損害賠償請求にかかわる大きな改正点として、①消滅時効に関するルール、と②法定利率に関するルールが挙げられます。以下、説明しましょう。

 

2 消滅時効に関するルールの変更について

(1) 人的損害の消滅時効の期間が3年から5年に改正されました

ア 損害賠償請求権を行使できるようになった時、具体的には損害および加害者を知った時から一定期間が経つと、消滅時効が完成し、相手方は消滅時効の完成を主張して損害賠償をまぬがれることができるようになります。今回の改正によって、時効完成までの期間が一部3年から5年に変わりました。

改正前の民法では、「人的損害」も「物的損害」も時効期間に区別はなく一律に、損害賠償請求権を行使できるようになってから3年で、時効が完成するとされていました。なお、「人的損害」とは、生命身体に関する損害、具体的には治療費、けがや後遺症の慰謝料、休業損害などのことで、「物的損害」とは、自動車の修理費用、レッカー費用、レンタカー費用などのことです。

イ 一方、改正民法は人的損害に関してのみ特別に、権利を行使できる期間を3年ではなく5年に変更しました(物的損害は3年のまま)。

交通事故を含む不法行為が問題になる場面では、死亡に至ったり、寝たきり等の重い後遺障害が残るケースなど、人的損害の方が被害が大きく深刻になりやすいこと、また深刻な被害が生じた場合に速やかな権利行使が期待できないという事情があることを考慮したものと考えられます。

 

ウ また、損害賠償請求権を行使できるようになった時(「主観的起算点」といわれます)から進行する時効期間内でも、交通事故日や後遺障害の症状固定日等の「不法行為時」(「客観的起算点」といわれます)から20年を超えると、請求できません。この点については、改正前も後も同じです。

(2) その他関連事項

ア 人的損害の場合、改正前民法の3年の時効期間の間に、改正民法施行日である令和2年4月1日を迎えるケースもありますが、このようなケースは改正民法が適用されます。

イ また、時効に関しては、時効の中断及び停止の事由が、時効の更新及び完成猶予の事由に再編成されました。従前の規定を引きついだ、時効の完成猶予に当たる訴訟提起や時効の更新にあたる判決の確定や承認等については、打つべき手立てが改正の前後で大きく異なるということはなさそうです。

特筆すべきは、改正民法では完成猶予に関して、当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面による合意があった場合に時効の完成を猶予する制度が新設されたことです。この制度によって、時効完成直前に時効完成を防ぐために慌てて訴訟提起や調停申し立てなどの手続きを取るような負担が軽減される場面があるかもしれません。

 

3 法定利率の変更とその影響について

(1) 法定利率の変更と遅延損害金の減少

利息が発生するような請求権について、交通事故のように事前に利率を当事者が定めていない場合の利率(「法定利率」といいます)が5%から当面3%に変更され、遅延損害金や中間利息控除の対象となる逸失利益の金額が増減することとなりました。なお、法定利率は3%に固定されず、市中金利に合わせた3年ごとの変動制です。

交通事故による損害賠償も、実際に支払われるまでに長い時間がかかることがあります。そのような場合、交通事故の時点から法定利率による遅延損害金を請求することができます。遅延損害金については、5%から3%に引き下げられることによって、改正前と比べると同じ期間支払いが遅れた場合に請求できる遅延損害金の額は減ることになります。

(2) 法定利率の変更と逸失利益の増加

ア 一方で、逸失利益に関しては、法定利息の引き下げによって、改正前と比べると請求できる金額が増えます。なお、ここで、逸失利益とは、交通事故による損害賠償で、後遺障害が残った場合などに、毎年の収入のうちの一定割合が失われたとして、損害賠償の対象となる利益の減少分のことです。請求できる逸失利益額が増加するのは、中間利息控除に法定利率がかかわってくるためです。

イ まず、将来の受け取る利益を現在の価値に換算する方法と利率の関係について説明します。

今現在手元にある100万円と、1年後にもらう100万円とを比べると、今手元にある100万円の方が価値があります。というのも、仮に利率が年5%だとすると95万2380円を1年運用すれば約100万円になるからです。この場合、95万2380円は、利率5%の場合の1年後の100万円の現在価値といえます。

952,380×1.05≒1,000,000

なお、上記の数式から、95万2380という現在価値は、1年後の将来の利益額100万を利率5%で割り引く、つまり1.05で割ることでも求めることができます。

1,000,000/1.05≒952,380

また、現在価値は、1年後の将来取得すべき利益から、利益を得るまでの期間の利息(「中間利息」といいます)を控除したものと言い換えることができます。

952,380×1.05             ≒1,000,000

(952,380×1)+(952,380×0.05)≒1,000,000

(952,380)+(47,619)        ≒1,000,000

952,380                 ≒1,000,000-47,619

仮に法定利率が3%の場合を検討すると、100万円を利率3%で割り引いた97万0873円が、利率3%の場合の1年後の100万円の現在価値ということになります。

1,000,000/1.03≒970,873

利率5%の場合の現在価値は95万2380円、利率3%の場合の現在価値は97万0873円となり、法定利率が低く中間利息が少なくなるほど、逸失利益が増加します

ウ 以上の説明は、1年後の収入だけに限定した説明です。

例えば10年間にわたり収入失われる場合には、1年後の収入の現在価値だけでなく、2年後の収入の現在価値、3年後の収入の現在価値・・・10年後の収入の現在価値をそれぞれ計算し、合計することになります。

先ほどの例にそくして、年収100万円が10年の間失われるということになると、1年後の収入を割り引いたもの(1,000,000/1.05≒952,380)、2年後の収入を割り引いたもの(1,000,000/(1.05)^2≒907,029)、3年後の収入を割り引いたもの、・・・・10年後の収入を割り引いたもの(1,000,000/(1.05)^10≒613,913)の合計が損害額となります(X^2は、Xの2乗の意味です)。

このような計算をすべて行うのは大変なので、損害の算定の際には、複利の年金原価係数(ライプニッツ係数)を使います。なお、年利5%の場合の10年間のライプニッツ係数は7.722 なので、逸失利益の額は772万2000円となりますし、年利3%の場合の10年間のライプニッツ係数は8.530なので、逸失利益の額は853万円となり、法定利率の差によって、賠償額に大きな差が生じます。

 

4 以上が、民法改正が交通事故による損害賠償請求に与える影響です。

被害者にとって、人的損害について消滅時効の期間が長くなったのは有利な改正だったといえるでしょう。また、事故で大きなけがをして後遺障害が残ったという場合には、法定利率が引き下げられたことによって、結果として逸失利益額が増加することも少なくないでしょう。

とはいえ、改正前後のどちらの法律が適用されるかは被害者の側で選択できるようなものではなく、適正な賠償を得るために改めて特別の手段を講じなければならないといった影響はなさそうです。

民法改正前と同様、実際に適正な賠償を得られるかどうかは、事故直後から適切な治療を受けているか、後遺障害診断書に適切な記載があるか、また、適切な時期に弁護士が介入しているか等の事情によるといえます。

というのも、後遺障害が認められるか否かには後遺障害診断書に適切な記載がなされているかが重要であり、また、相手方保険会社は被害者本人との交渉では裁判で認められる和解金額よりも低廉な和解金額の提案をすることが多いからです。交通事故に遭われた方には、早期に弁護士に相談することを強くお勧めします。

弊所(池田総合法律事務所)では、経験豊富な弁護士がそろっていますので、お気軽にご相談ください。

   〈山下陽平〉

 

刑事事件での『司法取引』について~最近の3事案を参考にして~

平成30年6月1日施行の改正刑事訴訟法で,刑事手続の中に,証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度,いわゆる日本版『司法取引』の制度が導入されました(政府としての略称は「合意制度」です。)。

これまで,

①第1号事案

海外での発電所建設を受注した会社による贈賄事件で,会社が東京地検特捜部と司法取引をし,贈賄をした会社の役員や従業員が不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)の事実で訴追された第1号案件

②第2号事案

日産自動車の事案で,会社が東京地検特捜部と司法取引をした事案

③第3号事案

アパレル企業幹部が会社の売上げの一部を横領した業務上横領事案において,会社と東京地検特捜部が司法取引をした事案

が報道等で司法取引が行われたことが明らかになっています。

企業,役職員と刑事司法という極めてシビアな領域での企業法務の話ですので,司法取引制度の概略を以下では説明します。

 

(1)導入の経緯

組織的な犯罪等では,首謀者の関与状況などを解明するためには,組織構成員から必要な情報を取調べの中で検察官が獲得する必要があるため,組織構成員から情報を得られやすくなるように導入されます。

(2)制度概要

いわゆる司法取引制度は,特定の犯罪について,検察官と被疑者・被告人とが,弁護人(弁護士)の同意がある場合に,被疑者・被告人が他人の刑事事件について証拠収集等への協力をし,検察官が協力行為を考慮して,被疑者・被告人本人の事件につき不起訴処分や特定の求刑等(主には求刑を減らすこと)をすることを内容とする合意をするものです。

従って,弁護人(弁護士)がいなければ,この司法取引制度は使えません。

(3)対象犯罪

①租税に関する法律(脱税など)

②独占禁止法違反(談合など)

③金融商品取引法違反,商品先物取引法違反,出資法違反

④贈収賄,特別贈収賄

⑤特別背任

⑥貸金業法違反

⑦銀行法違反,保険業法違反

⑧農業協同組合法違反,消費生活協同組合法違反,水産業協同組合法違反,中小企業等協同組合法違反,信用金庫法違反,労働金庫法違反

⑨不正競争防止法違反

⑩特許法違反等の知的財産関係法違反

⑪犯罪収益移転防止法違反

⑫資金決済法違反

⑬詐欺

などで,刑事訴訟法と政令で定められた犯罪類型(「特定犯罪」)です。

特定犯罪の領域は大変広いものであり,およそ企業活動をするうえで起こりうる犯罪はすべて網羅されているといえるかもしれません。

(4)被疑者・被告人による協力行為

合意の内容にできるのは,他人の刑事事件について,

①検察官や警察官の取調べに際して真実の供述をすること

②証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること

③検察官,警察官による証拠の収集に関し,証拠の提出等の必要な協力をすること

です。

(5)検察官による処分の軽減など

検察官は,

①公訴を提起しない(不起訴)

②論告求刑で,特定の刑を科すべきと意見を述べること

③略式命令の請求をすること(略式罰金)

などの処分の軽減等を合意できます。

ただし,釈放などの身体拘束に関することは合意できないと考えられます。

(6)三者協議

合意のためには,検察官,被疑者・被告人本人,弁護人の三者での協議が必要です。

そして,検察官は,合意に先立ち,弁護人同席のもと,被疑者・被告人本人から他人の刑事事件について供述を求め,これを聴取することができます。

(7)合意の成立

検察官は,三者協議の結果を踏まえ,被疑者・被告人の協力行為により得られる証拠の重要性,関係する犯罪の軽重及び情状などを考慮して,必要と認めるときは,弁護人の同意のもとで,検察官,被疑者・被告人本人,弁護人の三者連署での合意書を作成し,合意が成立します。

(8)合意からの離脱

合意の当事者が合意に違反したときは,検察官や被疑者・被告人は合意から離脱できます。

(9)企業法務への影響

司法取引の導入経緯からすれば,組織犯罪において,例えば末端の構成員の不起訴を前提として,犯罪組織のトップの刑事裁判を目指すというのが,当初もっとも想定されていた事案だったと思われます。

しかし,実際に司法取引がなされた3件の事案は,いずれも会社が,役職員の犯罪につき,検察に協力をするという形での司法取引が行われました。

司法取引と似通った制度として,独占禁止法の課徴金減免制度(リーニエンシー)がありますが,課徴金減免制度では公正取引委員会に最初に申請した事業者以外の事業者は,すべて課徴金という現金を支払うことで終了するものです。

他方,司法取引では,役職員が処罰される場合,役職員の行為により会社が利益を得ていたとしても,その利益は会社に残されたまま,役職員だけに刑罰がかされ,最悪の場合には国家により自由を奪われる懲役刑になる可能性すらあります。

個人に対して懲役を科す可能性すらある司法取引を軽々に検察と行うことは慎重に検討する必要があります。

その検討場面では,刑事手続について詳細に説明でき,捜査機関との折衝もでき,会社の評判の低下を含むダメージをいかにコントロールするかを検討できる弁護士の関与が必要となります。

また,検察などの外部機関を介入させず,会社が速やかに会社内部での不正を把握し,自浄作用をもって自社内で対応していくためには,有意義な内部通報制度の構築や第三者委員会による不正行為の徹底的な調査ができる体制作りが必要不可欠です。

 

司法取引や会社,役職員の不正対応,不正予防など,社内法令遵守(コンプライアンス)体制の充実をご検討されている企業は,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記〉