第2回 相続登記が義務化されます!ご注意を

本年令和5年4月1日から、いわゆる「所有者不明土地」にかかわる法律や制度が変わりました。今回は、所有者不明土地の発生を予防する方策の一つとして、今後私たちに影響のある相続登記の義務化についてお話しします。

所有者不明土地が増加する背景には、①相続登記の申請が義務とはされていないため、相続が生じても申請されず、申請しなくとも不利益が課されなかったこと、また、②相続した土地の価値が乏しく、または売却も困難であるといった場合には、登記申請する意欲も湧かないで放置されてしまう傾向にあるといったこと等の事情がありました。遺産分割をしないまま相続がくりかえされると土地の共有者が倍々ゲームのように増えてしまい、更に面倒臭くなります。

そこで、来年令和6年4月1日から相続登記申請は義務化され、また、住所変更登記申請の義務化も進められることになりました。その一方で、相続登記や住所変更登記の手続を簡単に行うようにする方策も採用されました。

 

相続登記の申請義務についての新しいルールは次の通りです。

(1)基本的なルールとして、

相続によって不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないことにされました。

(2)遺産分割が成立したときは、

遺産分割によって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請しなければならないことにされました。

(3)いずれの場合も、正当な理由がないのに義務に違反した場合、10万円以下の過料の適用対象となります。

 

相続登記は大変ではないのか、とご心配になる方もあるやもしれません。そこで、新しく「相続人申告登記」が設けられることになりました。

登記簿上の所有者について相続が開始したこと、自らがその相続人であることを登記官に申し出ることで、相続登記の申請義務を履行することができます。この申し出がなされると、申し出をした相続人の氏名・住所等が登記されますが、持分の割合までは登記されません。つまり、すべての相続人を把握するための資料は不要で、自分が相続人であることがわかる戸籍謄本等を提出すればよいのです。

そもそも相続人間で遺産分割の話し合いがまとまるまでは、すべての相続人で法定相続分の割合で共有した状態になり、共有状態を反映した相続登記をしようとすると、法定相続人の範囲や相続分の割合を確定しなければならないため、結局すべての相続人を把握するための資料を収集しなければなりません。そこで、より簡単に相続登記を促して行ってもらうための仕組みが必要だったというわけです。

 

では、そもそも、親の不動産がどこにあるのか、どう調べたらよいのでしょうか。登記官において、特定の被相続人の登記簿上の所有者として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度が新たに設けられました。

 

また、住所等の変更登記の申請義務化といって、登記簿上の所有者については、住所を変更した日から2年以内に住所等の変更登記をしなければならないこととされました。

 

相続登記の申請義務の実効性を確保するために、それを促す環境整備も議論され、登記手続きの費用負担を軽減し、登録免許税の免税措置の延長、拡充、また職権登記への非課税措置が導入されることになりました。地方公共団体との連携も必要であり、死亡届の提出者に対する周知や啓発活動が要請されます。

 

新しい制度の導入でご心配な方は、改めて、登記を調査することをお勧めします。そのようなお手伝いやご相談があれば、お力になれると思います。どうぞお気軽にご相談ください。

<池田桂子>

所有者不明の土地に関する法律や制度の改正について(第1回)

民法や不動産登記法が改正され、令和5年4月1日から、いわゆる所有者不明土地にかかわる法律や制度が変わりました(ただし、一部は未施行)。これから何回かに分けて、改正された内容について説明します。第1回目の今回は、民法が改正された背景や、改正の概要について説明します。

今回民法等が改正された背景には、だれが所有者かわからない所有者不明土地の問題がありました。この所有者不明土地とは、不動産登記簿をみても所有者がわからない土地(例えば、明治に登記された後相続登記がされていないケースや、○○他10名などすべての共有者が記載されていないケースなど)や、所有者が判明してもその所在が不明であ

ったり連絡が付かない土地のこと(例えば、転居先が追えないケースや、相続人が膨大なケースなど)です。全国の土地のおよそ24%が所有者不明と言われています。

このような所有者不明土地があると、土地が何ら活用できないままになってしまうだけでなく、公共事業が進まなくなるなど、大きな弊害が生じます。そして、高齢化の進展による死亡者の増加等によって、今後このような所有者不明土地は増加し、深刻化するおそれがあります。今回、民法が改正されたのは、このような所有者不明土地問題の解決のためです。

所有者不明土地が増加する背景には、①相続登記の申請が義務ではなく、申請をしなくてもなんらのペナルティもなかったこと、②遺産分割をしないまま相続がくりかえされると土地の共有者が倍々ゲームのように増えてしまうことなどが指摘されていました。

そこで、所有者不明土地の発生を予防するため、登記がされるような仕組みづくりが進められました。具体的には、一方で相続登記申請義務化(令和6年4月1日から)や住所変更登記申請義務化(いつからかを定める政令は未制定)が進められ、もう一方で相続登記や住所変更登記の手続を簡単にしたり容易にしたりするなどして、登記簿上に現状が反映されるようにしました(第2回で解説します)。また、相続に関する法律や制度も改正されて遺産分割を促進する仕組み作り(一定期間経過後の寄与分や特別受益の主張の制限など)も進められました。

また、あらたに相続土地国庫帰属法が制定され、相続人が土地を手放すための制度である相続土地国庫帰属制度が設けられました(令和5年4月27日から)(第3回)。これも所有者不明土地を予防するための制度です。

その他に、不動産に関連する従前の民法の相隣関係(第4回)や共有関係に関する制度(第5回)が見直されるとともに、所有者不明の土地や建物の利用を円滑にするための所有者不明土地管理制度の見直し(第6回)も進められます。

第2回以降、それぞれの制度について、詳しく説明していきます。

 (山下陽平)

財産開示期日について(連載第2回)

前回の財産開示手続の概要を踏まえて、実際の財産開示期日の流れをご説明させていただきます。

 

1 財産開示手続の申立

財産開示手続の申立てを、債務者の所在地(=住所地)を管轄する裁判所に申し立てることになります。

そのため、弁護士として必要があると判断した場合には、債務名義の債務者の住所が現在も変わっていないかを、弁護士の職権で債務者の住民票を取得して確認します。なお、債務者の住民票は、債権者が住民基本台帳法12条の3第1項に定める手続によって取得することも可能です。

債務者の住所が確認できれば、債務者の住所を管轄する地方裁判所に財産開示手続申立書を提出します。たとえば、債務者の住所が名古屋市内であれば、名古屋地方裁判所に申立をすることになります。

申立書を提出すると、その内容に不備等の問題がなければ、裁判所が後日、財産開示手続実施決定をします。

この実施決定は、債務者にも送付されますが、債務者には財産開示期日の日時と、財産目録の提出期限が通知されます(財産目録のひな形も同封されています)。

財産開示期日は、実施決定の概ね1か月後に定められます。

財産目録の提出期限は、財産開示期日の日時の10日ほど前と定められますので、事案によりますが、財産目録が手元にある状況で財産開示期日に臨むことになります(債務者から財産目録が提出されても、裁判所から自動的に写しがもらえるわけではありませんので、謄写請求をして写しを入手します)。

また、財産開示期日前に、債務者に質問したい事項をまとめて、裁判所に提出しておきます。質問事項は債務者の財産状況に関する事項に基本的に限定されます。

 

2 財産開示期日

財産開示期日の流れは次のようなものです。

・裁判官が、債務者の住所・氏名等を確認します。

・裁判官が宣誓の趣旨を説明し、債務者が正当な理由無く陳述すべき事項について陳述をせず、又は虚偽の陳述をした場合には罰則があることを告げます。

・債務者が虚偽を述べない旨の宣誓をします。

・裁判官の許可を得て、事前に提出した質問事項に沿って債権者(又は債権者代理人

弁護士)が質問をします。

質問に与えられる時間は10~15分程度ですが、事案により裁判官からもう少し時間が与えられたり、事前の質問事項とは別の質問が認められることもあります。

・債務者が、上記質問に対し回答します。

以上が大まかな流れですが、所要時間は30分程度です。

池田総合法律事務所では、小澤尚記弁護士が、財産開示期日において、債務者の身につけている装飾品の内容について質問するなど、その場で依頼者である債権者と協議しながら臨機応変に質問をしたことがあります。

 

3 財産目録の内容

名古屋地裁で債務者に送付される財産目録のひな形では、

・債務者の住所・氏名・電話番号を記載する欄

・給与・俸給・役員報酬・退職金目録として、勤務先等を記入する欄

・預貯金・現金目録として、預貯金の金融機関名及び支店名等を記入する欄

・生命保険契約・損害保険契約目録として、保険の内容を記入する欄

・売掛金・請負代金・貸付金目録として、売掛金の内容等を記入する欄

・所有不動産・不動産賃借権目録として、不動産の所在等を記入する欄

・自動車・電話加入権・ゴルフ会員権目録として、自動車の登録番号等を記入する欄

・株式・債券・出資持分権・手形小切手・主要動産目録として、株式等の内容を記入する欄

・その他の財産目録として、上記に当たらないものを自由に記入する欄

から構成されています。

そこで、例えば、勤務先が記入してあれば、給与差押えを検討することになりますし、預貯金があれば預貯金の差押えを検討することになります。ただし、財産開示手続中で財産目録を提出した後に預貯金口座から出金されている可能性は否定できません。

 

4 債務者が不出頭、宣誓拒否、又は虚偽の陳述を行った場合

債務者が、正当な理由もなく、財産開示期日への不出頭、宣誓拒否、陳述拒否、または虚偽の陳述を行った場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されます(民事執行法213条1項5号、同6号)。

これにより、財産開示手続の実効性が期待できるようになります。

 

5 まとめ

財産開示手続を弁護士に依頼した方が手続の進行もスムーズですし、財産開示期日での質問についても弁護士が債務者の応答内容を考慮して、その場で随時組み替えていった方が、効率的に情報を収集できる可能性が上がります。

債務名義はあるけれど、債務者が支払わず困っている方は、あきらめずに池田総合法律事務所にご相談ください。

(石田美果)

財産開示手続について(連載第1回)

2021年9月30日の「民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情」(民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情)でご紹介したとおり,2019年の民事執行法により財産開示手続も改正され,改正前よりも使い勝手が良くなっています。

また,当事務所でも申立代理人として財産開示手続を利用し,実務的な流れについても把握できました。

そこで,財産開示手続の概略と実務の流れを2回に分けてコラムにします。

 

1 財産開示手続とは

(1)財産開示手続の概要

財産開示手続は,債務者を裁判所に呼び出し,どのような財産を持っているかを裁判官の前で明らかにさせる手続です。

債務者とは,主に次のような裁判所等が支払いを命じた書類(こういった書類のことを「債務名義」といいます。)により,金銭の支払いを命じられた者のことを言います。

①判決

②仮執行宣言付判決

③強制執行受諾文言付の公正証書

④家事審判(婚姻費用審判や養育費審判など)

⑤和解調書

⑥民事調停調書

⑦家事調停調書(婚姻費用の調停調書や養育費の調停調書など)

なお,債務名義は,金銭の支払いを命じるもの(=金銭債権)に限られます。

(2)財産開示手続の申立て

財産開示手続の申立ては,債務者(=金銭の支払いをしなければならない者)の所在地(≒住所地)を管轄する地方裁判所に行うことになります。また,財産開示期日も申立てを受けた地方裁判所が行います。

例えば,債権者が名古屋市在住,債務者が東京23区内在住であれば,財産開示手続を申し立てる地方裁判所は東京地方裁判所になり,財産開示期日も東京地方裁判所で実施されることになります。

(3)財産開示手続の費用

財産開示手続を申し立てる際には,裁判所に対し,債権者1名ごとに2000円と,予納郵券約6000円程度か予納金7000円程度が必要になります(予納郵券や予納金は手続後に余りがあれば返還されます)。

従って,裁判所に納める金額は約1万円程度です。

また,裁判所に納める金額とは別に,財産開示手続を弁護士に依頼する場合には,弁護士費用が別途必要です。

池田総合法律事務所では,事案ごとに個別性が強いですので,着手金・報酬金をご相談のうえで決定させていただきますが,着手金としては11万円(消費税込)及び実費を最低限とさせていただいています。

(4)刑事罰について

改正後の財産開示手続では刑事罰が導入されています。

具体的には,

①「執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において,正当な理由なく,出頭せず,又は宣誓を拒んだ開示義務者」(民事執行法213条1項5号)

②「財産開示期日において宣誓した開示義務者であって,正当な理由なく第199条第1項から第4項までの規定により陳述すべき事項について陳述をせず,又は虚偽の陳述をしたもの」(民事執行法213条1項6号)

については,『6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する』とされています。

具体的には,

・債務者が財産開示期日に正当な理由無く欠席した場合

・債務者が財産開示期日冒頭で求められる虚偽を述べない旨の宣誓を拒否した場合

・債務者が財産の内容の陳述を拒否した場合

・債務者が財産の内容について虚偽を陳述した場合

には,刑事罰の対象となります。

この場合には,警察に対し,民事執行法違反として告発をするかどうかを検討する必要があります。

告発をする際には,例えば不出頭や宣誓拒否であれば,裁判所の財産開示期日調書が証拠になります。

 

2 財産開示手続への弁護士の関与

財産開示手続を弁護士に依頼した方が手続の進行もスムーズですし,刑事告発の場面でも必要な助言をさせていただくことができます(ただし,刑事告発は財産開示手続とは別の手続ですので,ご相談のうえで別途の弁護士費用が必要となる場合があります)。

財産開示手続に罰則が導入されたことで,罰則の圧力のもとで,金銭を支払わない債務者から情報を引き出すことができるようになり,財産開示期日での和解や,財産開示手続で得た債務者の財産情報から給与差押え等の強制執行につなげていくことも可能となりました。

債務名義はあるけれど,債務者が支払わず困っている方は,あきらめずに池田総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))

自動車に対する強制執行

判決等の債務名義を得ても、相手方が任意にその支払いをしないときには、強制執行を検討しますが、依頼者の方から、「債務者は高級外車に乗っているので、差押えしたい。」と言われることがありますので、今回は自動車に対する強制執行(自動車執行といいます)について、お話します。

 

自動車執行の対象となる自動車は、道路運送車両法13条1項の登録自動車、いわゆるナンバーのある自動車で、軽自動車等は除外されており、今回はこれを除外してお話します(軽自動車等については、動産類への強制執行と同様となります。)。

 

まず、要件として、登録上の所有者と債務者が一致しなくては、強制執行はできません。使用者欄が債務者であったり、現実に使用しているのが債務者であっても、強制執行はできません。ローンで自動車を購入したような場合は、ローン会社の名義で登録されている場合がありますので、事前に登録事項証明書を取得して所有者の確認をする必要があります。ナンバーがわかっていても、車台番号がわからないと、私有地の放置車両のケースの場合を除いて、登録事項証明書を発行してもらえません。車台番号は、車体に打刻されていますが、外から見えにくい位置にあり、通常はわかりません。このような場合は、強制執行を弁護士へ依頼して、その調査の一環として、弁護士法による照会を利用することにより、ナンバーしかわからない場合でも、登録事項証明書を入手することが出来ます。登録上の名義と債務者が一致すれば、申立が可能となり、登録上の使用の本拠地を管轄する地方裁判所に申立をして、裁判所の決定が出れば、差押をした旨登録され、これで第三者に売却をしようとしても、普通のルートでは売却できなくなります。

 

しかし、これだけでは債権の回収はできません。開始決定には、自動車を執行官に引き渡すべき旨記載されており、執行官が引渡しを受けて、売却をするということになります。但し、自動車は簡単に移動して隠匿することができますので、通常は、債務者に開始決定が届く前に、執行官による引上げの執行を行います。自動車の所在は、執行官が捜してくれるわけではないので、債権者の側で調査をすることになり、債権者の方も通常同行します。

 

引渡を受けた後は、執行官が場所を定めて、売却までの間保管をしますが、予め債権者の方で保管費用を予納しておく必要があり、売却代金から後日、立替えた保管費用の返還を受けることになります。

 

過去に自動車執行を行ったことがありますが、執行の途中で逃げられたりしたこともあります(逃げられないよう、自動車等でふさぐ等の対応が必要です。)。また、大型トラックの売却代金の分割金を、初回から支払わず、トラック自体を回収するため引渡の仮処分を申立したケースではありますが、車の回収はできたものの、強制執行を察知したのか、新品のタイヤが全て古タイヤに交換されていて、数百万円の損害が発生したというようなこともありました。

 

昨今、世界的な半導体不足から、新車も納期が大幅に遅れる等している状況で、中古車市場が活気を得て、価格も上がっているようです。上述したように、自動車の強制執行は、難点もありますが、強制執行の方法として十分に検討には値すると思います。強制執行に関するご相談、受任にも池田総合法律事務所は対応しておりますので、ご利用下さい。              (池田伸之)

譲渡担保について

2月3日のコラム「債権回収のセオリー」のセオリーでも少し紹介をしましたが、債権回収において、事前に担保を得ておくことは大変重要です。

本コラムでは、担保の中でいわゆる非典型担保といわれる担保の一つである譲渡担保について取り上げます。

 

1 担保とは

契約どおりに債務の弁済が行われない場合に、他の債権者よりも優先して自己の債権の満足を受ける方法として、事前に担保を取っておくという方法があります。担保には、保証人など債務者以外の人の信用力で債権回収における優先的地位を確保する人的担保と、物や権利の上に債権回収における優先的地位を確保する物的担保があります。

 

2 非典型担保

民法には、物的担保として留置権、先取特権、質権、抵当権の規定が置かれていますが、これらの担保権ではカバーできない場面において、実務上異なる方法での債権回収における優先的地位の確保がなされるようになりました。それが、譲渡担保や所有権留保といったいわゆる非典型担保と言われるものです。

なお、こうした非典型担保については、民法上に規定がないことから、主に実務及び判例の積み重ねによってルール作りがなされています。しかしながら、判例の射程がどこまで及ぶかは必ずしも明確でないことも多く、法的安定性に欠ける面があるほか、判例がルールを示していない論点も残されていました。そこで、現在、ルールの明文化・明確化を目指し、担保法制の見直しが審議されおり、令和4年12月に「担保法制の見直しに関する中間試案」が出されるに至っています。

 

3 譲渡担保の概要

譲渡担保とは、事業者Aが金融機関Bから融資を受けるにあたって、例えばAが所有する機械の所有権をBに譲渡するという担保形態です。

機械の所有権をBに譲渡するといっても、その機械がBの手元に置かれてしまうとAはその機械を使用して事業をすることができません。そこで、機械自体はAの手元においた状態で引渡す、占有改定(民法183条)という方法が用いられることになります。

機械のような動産を担保に取る場合、民法上定められた制度としては質権を用いることが考えられます。しかしながら、質権を設定するためには、担保の目的物(質物)の引渡しをする必要があるところ(民法344条)、その引渡しは占有改定ではできないと理解されていることから(民法345条)、質権を設定した上でAが機械を使用し続けることができません。そのため、譲渡担保という方法が採られるようになりました。

 

4 譲渡担保の実行方法(私的実行)

弁済期が到来したにも関わらず弁済がなされないときに、担保権者は設定者に対して譲渡担保権の実行通知を出し、目的物から優先的に弁済を受けることができます。裁判所による執行手続きは不要です(私的実行)。

私的実行の方法は2種類あります。

一つは、設定者が弁済期に被担保債権の弁済をしない場合、譲渡担保権者に目的物の所有権が確定的に帰属するという帰属清算型です。もう一つは、設定者が被担保債権の弁済をしない場合、譲渡担保権者は目的物の処分権限を取得し、処分の結果として得た価額から被担保債権を満足させた残額を清算金として設定者に支払うという処分清算型です。

いずれの場合であっても、目的物の価値が被担保債権の額を超える場合には、譲渡担保権者は差額を設定者に返還しなければなりません(清算義務)。

また、被担保債権の弁済期到来後であっても、譲渡担保権の実行が終了するまで(清算未了)の間は、設定者は被担保債権の弁済をすることで目的物の所有権を回復することができます。このことをとらえて、設定者には受戻権があると言われます。

 

5 集合物・集合債権等に対する譲渡担保

(1)集合動産譲渡担保

譲渡担保は、機械などの単体の動産だけでなく、動産の集合体(集合物)を対象として設定することもできます。例えば、ある一定の範囲に存在する在庫商品を一括して担保に取るというような場合です。このような譲渡担保を集合動産譲渡担保と言います。

集合動産譲渡担保では、譲渡担保権の実行通知があるまでは、設定者は、通常の事業の範囲内であれば、集合物を構成する個々の動産を処分することができます。上の例であれば、譲渡担保権の実行前であれば、通常の事業として在庫商品を販売することが可能です。他方で、集合動産譲渡担保を設定した後に集合物の範囲に入ってきた後の動産にも譲渡担保の効力が及びます。上の例であれば、譲渡担保設定後の増えた在庫商品も担保の対象となりえます。

(2)集合債権譲渡担保

複数の債権を一括して譲渡担保にとる場合があり、集合債権譲渡担保と呼ばれています。例えば複数の売掛金債権を一括して担保にすることが考えられます。将来発生する債権について譲渡担保の対象とすることも可能です。

(3)事業担保

事業担保とは「事業」すなわち動産等の有形資産や債権のみならず、契約上の地位、のれん等の無形資産を含めた全ての財産から成る有機的な一体としての事業を対象とする担保です。事業全体を一体として評価したときの価値が個別財産の清算価値の総和を上回る場合には、事業全体を担保とすることで資金調達の容易化や調達額の増大が期待されます。

現在、担保法の改正の中で導入が議論されています。

 

6 債務者が他の債権者の抵当権がついていない不動産を所有しているのであれば、その不動産に抵当権を設定することが考えられますが、実際には、債務者が価値のある不動産を所有していない、あるいは、所有していても既に他の債権者の抵当権がついており、そこからの回収は困難という場合が少なくありません。

そうした場合には、債務者の他の財産に目を向け、本コラムで紹介した譲渡担保などの手段で担保をとることを検討します。

債権の保全について悩んでいるという方は、ぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。

(川瀬 裕久)

AI(人工知能)と弁護士業務

AI(人工知能)に契約書の文言を学習させ,契約書のチェックや定型的な契約書の作成をAIに担わせるということが世の中に徐々に広がりつつあります。

そして,現在,アメリカ合衆国のOpenAIが開発したChatGPTが話題になっています。

ChatGPTは,対話型AIですが,短文に対して応答できないSiriやAmazonエコーなどのAIとは異なり,まとまった文章(質問)に対して,まとまった文章で回答ができるというAIです。

ChatGPTの核心的な部分は,会話を成立させるための強化学習をし,文章での質問を,AIが検討し,質問に対してまとまった回答を文章として提示できるというところにあります。そのうえで,回答の内容も一見して人間があたかも回答したような水準に到達しています(内容として正しいか,間違っているかは別の問題です。また,AIに故意に偽の情報を大量に作成させ,インターネットに拡散させることも技術的に不可能ではないでしょう)。

このように言語を処理して,言葉を読み解き,言葉で返答,文章で回答できるようになれば,例えば,あるワードを提示すれば,一定の回答のようなものがAIにより提示される将来が来るかも知れません。スマートフォンに疑問に思っていることを言葉で入力すると,スマートフォンからまとまった回答が数秒後に言葉で返ってくるという世界です。

法律分野であれば,例えば,まずAIに我が国の法令をすべて機械学習させます。そのうえで,大量の判例を読み込ませ,どのような事案で,どのような法律が適用され,その結果として判決がどのような結論になったかを機械学習させます。更に,法曹が学習する法学や要件事実をも機械学習させるとします。

そうすると,法律的な問題を抱えた相談者は,その法律分野に特化したAIに,言葉や文章で事実関係を入力できれば,AIは事実関係を言語処理して読み解き,一定の文章等で回答できる未来が来るかもしれません。

そのような将来で,弁護士が果たす役割は,相談者から事実関係を聴き取ることになるかもしれません。人間の記憶は曖昧なものですし,必要な事実関係を相談者自身が適切に整理して,言語化するのは相当に困難であろうと思いますので,その事実の抽出が必要になるためです。もっとも,このような仕事は現在も弁護士として必要なスキルですので,弁護士の仕事はあまり変わらないのかもしれません。

また,AIが法律業務を担う場合には,弁護士法72条の問題は必ず生じてくるものと思われます。

池田総合法律事務所では,新しい技術で世の中をより良く変革できる可能性のあるサービスなどを提供するベンチャー企業様などにも,法的サービスを提供しています。企業の法務については,池田総合法律事務所にご相談ください。

                         〈小澤尚記(こざわなおき)〉

債権回収のセオリー

期限までに支払われなかった売掛金などの債権を回収するために債権者側が起こす行動(債権回収)として、日頃から考えておかなければならないことは何でしょうか。改めて、整理しておきたいと思います。 債権には一定期間権利を行使しないとその権利が消滅する消滅時効(債権者が権利を行使できることを知ったときから5年、または権利を行使できるときから10年)があるため、それまでに行動を起こす必要があります。

 

1 スムーズに債権回収を進めるには、まず債権の状況を把握する必要があります。

契約書と債権額のチェックをする要点は、支払期限、期限の利益喪失約款条項(例、一回でも支払いを怠れば一括請求できるなどの条項)の有無、連帯保証人の有無、裁判所の合意管轄、発注書などでの当事者の一致などです。

 

 債権回収の具体的方法を検討します。債権回収方法の例をご紹介します。

①電話や面会での交渉

②交渉に応じないような場合は、弁護士に依頼して督促。特に感情的な対立が起きている場合などは弁護士が客観的立場で話をすることで、交渉がスムーズに進むケースもあります。

③内容証明郵便での督促-差出日時や差出人、受取人、内容について、郵便局が証明する郵便物です。正式な請求であるという意思表示です。記載する内容は、一般に、債権の金額とその根拠のほか、遅延損害金の金額とその根拠、支払期限、振込口座などです。なお、それに加えて、「期限内に支払わなければ法的措置を講じる」といった一文を加えます。

内容証明郵便などを利用して督促することで、消滅時効の完成を6ヵ月間猶予させることができます(催告)。

④民事調停手続-裁判所で当事者間の話し合いによって解決を図る。債務者が支払う意思を示すようであれば、柔軟な解決方法を探ることが可能です。弁護士を立てることも、立てずに自ら調停の申し立てを行うことも可能です。

⑤支払督促-簡易裁判所によって債務者に対して支払いの督促をしてもらう手続。支払督促を行って相手方が異議を申し立てなければ、仮執行宣言を得て、強制執行をすることができます。 但し、相手方が支払督促に異議を申し立てた場合には、支払督促は効力を失い、通常訴訟に移行します。

⑥通常訴訟

地方裁判所の民事事件第一審の平均審理期間は、9.5ケ月。相手方が争わない場合や相手方の主張に明らかに理由がない場合には、1回目や2回目の裁判期日で判決が出るケースもあります。また、一括ではなく分割で支払うなどの案を申し入れて、裁判上の和解が成立することもあります。

⑦少額訴訟

60万円以下の金銭の支払を求める場合は、簡易裁判所で少額訴訟を行うこともできます。少額訴訟は原則として1回のみで審理を終え、即日判決が出ます。しかし、相手が通常訴訟を求めた場合には通常訴訟に移行し、少額訴訟の判決に異議を申し立てると再び審理をやり直すことになります。

 

3 仮差押えと強制執行

訴訟が確定してからでは財産が散逸してしまう恐れがある場合には、訴訟提起に併せて、仮差押を申立て、保全します。保全の場合、裁判所の定める担保(現金等)を法務局に供託する必要があります。

裁判で勝訴判決や和解調書を得たにもかかわらず相手方が支払いに応じない場合、債権者の申立てにより、裁判所が差し押さえた債務者の財産から債権を回収します。強制執行には大きく分けて、不動産を売却して支払いにあてる「不動産執行」、在庫や設備などを売却して支払いにあてる「動産執行」、預金などを取り立てる「債権執行」の3種類があります。

差し押さえるべ物の有無がわからないときには、財産開示手続きを申し立てて、相手方を呼び出します。

 

4 債権回収できない場合に備えてファクタリングの活用

取引先の経営悪化などで債権回収が必要になった場合、多くの手間や時間がかかってしまいます。また、債権回収を行っても、回収できないケースもあるでしょう。そのような場合に備えて、債権保全の準備もしておきましょう。債権保全のためには、保証型ファクタリングの導入が有効です。取引先の倒産などにより売掛債権が回収できなくなった場合、取引先に代わって保証会社が支払いを行います。

 

5 その他の回収方法として重要な相殺

取引先が破産しても債権回収が図れるケースの代表例として「相殺」が挙げられます。相殺とは、当事者間で対立する債権を相互に保有し合っているような場合、両債権を同じ金額分だけ共に消滅させることができるという制度です。

取引先が破綻してしまった場合でも、取引先に対して債権と債務の両方が存する場合には、両者を相殺することにより、取引先に対する債権を回収したのと同様の効果を得ることができます。弁護士を利用すれば、破産手続等の法的整理手続に応じて、内容証明郵便を利用する等、より確実な方法で、相殺の意思表示を行うことができます。

 

6 債権の保全としての担保

契約時に、不動産に抵当権などを担保設定しておくことや集合動産担保、すなわち、債権者が有する第三債務者に対する複数の特定された個々の債権を一個の債権としてとらえこれに譲渡担保権等を設定しておくなどして、破産手続開始決定があっても、債権者の担保権は制限されることなく行使することができるのが原則です。

また、商品を納入している業種では、所有権留保で、商品を取引先に売買して取引先が倒産した場合、売買契約を解除し、取引先の了解をとった上で商品を引き上げます。取引先の了解をとらないと、窃盗罪などに問われるおそれがあるため、書面で了解をとります。了解をとる場合、代表者か取引先の弁護士とすべきです。

取引先がその商品を既に第三者に転売している場合、その第三者が商品の所有権を即時取得していることが考えられること、また、取引先との売買契約の中で第三者に転売されたときは所有権留保が解除されると定められている場合がありますので、その場合は所有権留保の方法によることは難しくなります。

抵当権の場合、裁判所に対し、競売の申立てを行います。申立に際して必要な書類は、抵当権の設定登記に関する登記簿謄本です。登記簿謄本は、他にも抵当権の存在を証明する確定判決でもよいですが、大抵は登記簿謄本で申立てを行います。申立を行う裁判所は、対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所に行います。

 

7 債権譲渡

取引先が別の会社に対して売掛金を持っている場合、取引先からその債権の譲渡を受け、譲り受けた債権を第三者に対して行使することにより、債権の回収を図ります。債権譲渡は原則として自由にできますが、債権譲渡を第三者に対抗するには、確定日付ある証書により、取引先から第三債務者に対して譲渡の事実を通知させる必要があります。内容証明ならば確定日付がありますので、内容証明を用いて、取引先に譲渡の通知をさせます。

 

8 自社製品・他社製品を回収する

所有権留保している自社製品を回収する方法は、所有権に基づいて回収しますが、取引先の承諾が必要になります。また、他社の製品を取引先から譲り受けることにより、代物弁済として債権の回収を図ることができます。

 

9 契約書作成段階での検討

契約を締結する段階で、私文書である一般的な契約書の作成でもよいのですが、公証人役場で作る公文書、公正証書を作成する場合には、記載内容すべてが当事者の合意に基づいて真正なものとして作成されたという推定が働きます。「証書に定める金銭債務を履行しない場合には直ちに強制執行することに服する」という強制執行認諾文言を入れておくことによって、訴訟手続きを省いて強制執行することができます。

 

池田総合法律事務所では、業種や事案にあった債権回収や予防の制度をアドバイスしています。早めにご相談して頂ければ、と思います。(池田桂子)

法人破産について (連載・全4回中第4回)

法人の民事再生手続について

1 はじめに

3回にわたって、法人破産について説明をしてきました。今回は、法人の民事再生手続について説明します。

 

2 破産と民事再生の違い

法人が経済的に破綻し、債務を弁済しなければならない時期に弁済ができない状態を倒産の状態といいます。このような状態の法人の清算をするための法的手続が破産です。

一方で、民事再生は倒産状態の会社の再建を目的とした法的手続です(なお、民事再生は法人の中でも主に中小企業を対象とし、比較的大規模な株式会社の再建型の手続は、会社更生手続という民事再生手続よりも厳格な手続が利用される場合があります。)。

破産手続では、裁判所に選任された破産管財人が、債務や財産の調査等を行って、財産を換価したうえで公平の観点から配当を行い、法人格を消滅させるという流れになりますが、会社の再建を目的とする民事再生では、裁判所に選任された監督委員の監督のもと、債務の一部を免除してもらい、分割して返済していく、あるいは免除後の債務を一括返済する等の計画をたてて、債権者の同意と裁判所の許可を得て、その計画(再生計画といいます)を実行していくという流れになります。

 

3 民事再生の3つの分類

民事再生手続上で、再生計画案は債権者集会での決議と裁判所の認可を得る必要がありますから、確かな裏付けを持った実行可能な弁済の計画を提示する必要があります。そのような再建のあり方については3つに分類されるとされています。自力再生型、スポンサー型、清算型の3つです。

自力再生型は、一部免除による債務の軽減と、不採算部門の閉鎖等の企業努力により再建を図るというものです。第三者の援助もなく比較的シンプルな方法で、規模の小さな会社の場合に選択されることが多いようです。

スポンサー型は、スポンサーとなる他の会社等から、直接的な資金援助を受けて再建を図る方法です。

清算型は、多角的に事業を展開している会社が、価値がある事業を営業譲渡して得られた代金で債務の弁済を図る方法です。

なお、スポンサー型や清算型のうち、スポンサーや事業譲渡先を、民事再生申立手続き前に決まっている場合のことをプレパッケージ型ともいいます。

 

4 早期のご相談の必要性

再建のあり方は以上のような3つですが、実行可能な再生計画でなくては、債権者の理解も裁判所の認可も得られません。債権者が、再生計画案に賛成するかどうかの判断に際しては、収支や弁済の見通しが立つのか、その裏付けとなるスポンサーや事業譲渡先となってくれるような企業があるのか、といった点が検討されます。さまざまな要因が絡んできますし、多くの場合状況は流動的です。また、民事再生手続きについては、申立代理人となる弁護士費用や監督委員選任のための予納金等の費用がかかりますので、厳しい資金繰りの中で諸々の費用を確保しなくてはなりません。費用の確保も重要なポイントです。

 

池田総合法律事務所では、倒産手続について多くの実績があります。会社の経営が思わしくない場合、できるだけ早くご相談くださいますと幸いです。最善の選択肢を模索することができるかと思います。

 

山下陽平