相続土地国庫帰属制度の運用状況

2023年4月27日から、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限られます)により取得した土地を手放して国庫に帰属させる、相続土地国庫帰属制度が始まりました。

制度の概要は、2023年5月17日のコラム説明をしましたが、今回は、その運用状況を紹介します。

 

相続土地国庫帰属制度の運用状況については、法務省のウェブサイトで、「相続土地国庫帰属制度の統計」と題して公開されています。

2024(令和6)年12月31日時点での内容は以下の通りです。

(出典:法務省ウェブサイト(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html))

1 申請件数
(1)総数   3,199件
(2)地目別
  田・畑:1,195件
  宅 地:1,135件
  山 林:  505件
  その他:  364件
2 帰属件数
(1)総数   1,186件
(2)種目別
  宅  地:466件
  農用地: 363件
  森 林:   50件
  その他: 307件

 

以上のように、全体としては、申請件数の総数3,199件に対し、4割近い(約37%)1,186件の帰属が認められています。内訳をみると、宅地の帰属件数は466件と比較的多く、森林は50件と現状ではなかなか認められにくい結果となっています。なお、申請件数における「地目別」と帰属件数における「種目別」には若干の違いがあります。これは、申請段階の「地目」は登記によるのに対し、帰属件数における「種目」は「申請者から提出された書面の審査、関係機関からの資料収集、実地調査などによって、客観的事実に基づいて、どの区分に当てはまるか判断」される(「相続土地国庫帰属制度のご案内[第2版]48頁)ためだと思われます。

一方で却下・不承認件数と取下げ件数は以下の通りです。

3 却下・不承認件数(令和6年12月31日現在)

※ 1つの事件で複数の却下の理由又は不承認の理由が認められる場合があります。

(1)却下件数    51件

(却下の理由)
・11件:現に通路の用に供されている土地(施行令第2条第1号)に該当した
・ 1件:現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地(施行令第2条第4号)に該当した
・ 7件:境界が明らかでない土地(法第2条第3項第5号)に該当した
・ 5件:承認申請が申請の権限を有しない者の申請(法第4条第1項第1号)に該当した
・31件:法第3条第1項及び施行規則第3条各号に定める添付書類の提出がなかった(法第4条第1項第2号)

(2)不承認件数    46件

(不承認の理由)
・4件:崖(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの(法第5条第1項第1号)に該当した
・20件:土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地(法第5条第1項第2号)に該当した
・1件:除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地(法第5条第1項第3号)に該当した
・2件:民法上の通行権利が現に妨げられている土地(施行令第4条第2項第1号)に該当した
・1件:所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(施行令第4条第2項第2号)に該当した
・1件:災害の危険により、土地や土地周辺の人、財産に被害を生じさせるおそれを防止するための措置が必要な土地(施行令第4条第3項第1号)に該当した
・19件:国による追加の整備が必要な森林(施行令第4条第3項第3号)に該当した
・5件:国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地(施行令第4条第3項第4号)に該当した
 

4 取下げ件数    500件

※ 取下げの原因の例

・自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した
・隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった
・農業委員会の調整等により農地として活用される見込みとなった
・審査の途中で却下、不承認相当であることが判明した

却下・不承認件数は申請件数に対してそれほど多くありませんが、取下げ件数の中に「審査の途中で却下、不承認相当であることが判明した」とあるとおり、却下・不承認をされる前に取り下げていることも理由の1つと考えられます。

また、申請をしたものの、自治体や国、隣地所有者等による活用がなされることになり、取下げに至るケースもあるようであり、申請をきっかけとして、土地が有効活用されるという点で望ましいものといえます。

 

以上のとおり、相続土地国庫帰属制度により、4割近くが国庫に帰属し、それ以外にも有効活用される土地が出てきていることは、制度による成果といえます。

本制度を申請するにあたっては、境界をある程度明らかにしたり、建物や担保権のある土地についてはそれらを整理したりするなど、それなりの準備が必要です。

本制度の申請を検討されている方は、早い段階で、一度専門家にご相談されることをお勧めします。

(川瀬裕久)

業績連動報酬のこれから

昨年8月に、「これからの経営者報酬の設計について」というタイトルでお話ししたことがありました。今回はその続編となります。

コーポレートガバナンス(CG)コードが2015年6月に施行されて以降、役員向けの株式報酬制度を導入する企業は年々増加しています。当初は592社であったそうですが、2023年10月末の時点では全上場企業3914社の約6割2321社となっています。企業統治の観点から役員報酬の設計と開示が検討課題となって久しく、いろいろな取り組みが行われています。

特に日本企業では、最高経営責任者(CEO)の報酬において株式の占める割合が、他の先進国と比べると低いことが問題だと言われています。経済産業省によれば、日本企業のCEO報酬に占める株式など変動報酬の割合は58%です。一方、欧米の各国でその割合は70~90%となっており、このことからも日本企業の割合の低さがわかると思います。仮に変動報酬の割合を今よりも増やせば、経営者がより意欲的に経営に取り組むことが想像できるでしょう。

 

インセンティブ報酬制度は、優秀な人材を獲得、維持し、業績向上を促進するものですが、株主と対象者の利害を一致させ、中長期的な企業価値を向上させることにつながります。日本でも会社を巡るステークホルダーの目は様々なところから寄せられるようになりました。中長期的な計画の実行に向けて、業績に連動した報酬制度は多くの企業で意識される様になりました。スタートアップ企業(非上場会社)では、優秀な人材を獲得するために株式報酬を戦略的に活用していることは一般的な知識といってよいでしょう。

 

最近では、業績連動型の報酬は、役員にとどまらず、従業員にも適用されるようになってきました。経団連等の発表している調査によれば、業績連動型賞与を採用している企業は、半数を超える企業が導入するようになり、主流化しているとも言えます。

インセンティブ報酬には、株式で支給される報酬(株式報酬)と現金で支給される報酬(現金報酬)の2つに分けられます。株式報酬は資産性が高く、将来的に大きなリターンが見込めます。なぜなら、株価が上昇した時に売却すれば、入手した株式の価値以上のお金を得られるからです。例えば、株価が1万円から2万円に上昇すれば、数量に応じた金額を得るチャンスがあるのです。したがって、中長期的に資産が増やせるのが株式報酬の特徴です。

一方、現金報酬は価値が目減りするリスクが低く、短期的な利益が得られます。株式のように、価値が変動しないのが理由です。さらに、すぐに使える現金で入手できるので、安心感があると言えるでしょう。この様に、現金報酬は短期的なメリットがある点が特徴です。

 

まず、業績連動型賞与について

導入の方策として、従業員報酬への導入を考えるのであれば、まずは賞与という考え方があります。業績連動型賞与は、基本的に、賞与の原資総額を決め、さらに個人の成績を加味して支給額を決定します。賞与の在り方は、基本給(月給)の何か月分などのように、賞与算定基準日の基本給に支給係数をかけて計算する基本給連動型賞与がありますが、この方式では、賞与額も年功序列のままとなってしまいます。

近年、役員に対して株主との利害を意識して、長期的なインセンティブが働くような制度設計がなされていますが、社員においても業績と連動することでモチベーションアップにつながる効果を狙って、採用されるようになってきました。経営状態に関係して支給することとなれば業績悪化となっても、賞与の過払い的状態から経営圧迫を防ぐことができます。支給額についての説明も明確になります。

従来、賞与額は、給与額アップととともに、春闘等の労使交渉の場で決定されることが多かったと思いますが、業績連動型賞与では、事前に業績指標を取り決めておくことになるので、決定後の支給について、毎年交渉することを要しなくなる、というメリットもあるかと思います。

 

次に、従業員向けの株式支給制度

株式報酬には、ストックオプション(事前交付型、値上がり益還元)、譲渡制限付株式、株式交付信託(事後交付型)、持株会報酬(事後交付型、株式取得目的のために一定の金銭を支給し、それを原資として持株会を通じて自社株式を取得させる) 等の形式があります。

中でも、比較的最近使われているのが、信託型株式報酬制度で、従業員向けの信託型株式報酬制度は、従業員にポイントを付与し退職時などに相当数の自社株を従業員に付与する仕組みです。導入している企業は、2024年9月末で405社となっています。社員の株主マインドを醸成し、中長期的な企業価値の向上を図るのが狙いと言われます。人的投資として意識されたり、また資本政策的な効果として、制度を導入すれば、株を預かる信託銀行が株主となり、議決権は株主の確保につながりやすい、受け皿としてアクティビスト対策にもなりえます。

株式報酬制度は譲渡制限付きやストックオプション(株式購入権)と比較すると制約も少ない建付けと言えます。

 

なお、ここで注意すべき点として挙げられるのは、業績連動型の報酬に関し、株式で付与がなされる場合には、株式報酬の付与が「重要事実」に該当するという考え方もとりうるので、公表までの間、自己株の取得等の行動が制限されることがあります。2023年12月「インサイダー取引規制に関するQ&A」が改訂されていますので、その公表の要件を注意すべきです。

 

企業が社員に株式報酬を出す動きが広がっています。導入企業は2024年6月末で1176社に増え、過去最高となりました。社員に経営参加を意識づけし、業績改善につなげる。人手不足が強まるなか、現金よりも資産性の高い株式を配ることで優秀な人材をつなぎ留める狙いもあります。

企業が自社株を無償譲渡できる対象を役員から社員に拡大する会社法改正も検討されています。

<池田桂子>

 

遺言書保管制度のその後

遺言書を法務局に保管してもらうことができる遺言書保管制度が令和2年7月から施行され、4年が経過しました(制度の内容については、私の令和2年8月25日付の法律コラムのブログを見て下さい。。私どもの取り扱う案件においても、こうした形で保管されている自筆証書遺言が作成されている例が、出始めております。

施行後、4年間の遺言書の保管申請件数(カッコ内は、そのうち実際に保管された件数)は以下の通りです。

 

令和2年7月~令和3年6月まで 20,849件(16,655件)

令和3年7月~令和4年6月まで 16,612件(15,468件)

令和4年7月~令和5年6月まで 18,492件(18,458件)

令和5年7月~令和6年7月まで 21,152件(21,114件)

 

令和4年分の公正証書遺言の作成件数が、111,977件(日本公証人連合会の公表した総計数字)ということで、公正証書の作成数には及んでいませんが、以上のように、増加傾向であり、今後も利用が進んでいくと思われます。

 

また、相続人等への通知制度については、遺言書情報証明書の交付や、関係遺言書の閲覧をさせた場合に、他の全ての関係相続人等に通知をする関係遺言書保管通知制度のほか、死亡時通知というものがあります。これは、遺言書保管官(保管をしている法務局)が、遺言者の死亡の事実を確認したときは、遺言書を保管している旨を遺言者の指定した者に通知をする制度ですが、具体的に法務局が、遺言者の死亡の事実をどのようにして把握するのかについては、その仕組みが施行当時には整備されていませんでした。この仕組みについては、その後整備され、令和3年度から、この通知先の申出が遺言者からあったときは、遺言書保管官が遺言者の氏名、生年月日、本籍及び筆頭者の氏名を市町村の戸籍担当部署に提供し、遺言者が死亡した場合には、戸籍担当部署から遺言者死亡の事実に関する情報を取得することができるようになり、指定先に通知をすることが可能となりました。

 

公正証書遺言の場合でも、公証役場には、遺言者が死亡した事実はわかりませんし、自筆証書遺言を預かっている人も、必ずしも、遺言者の死亡事実がわからないということはありえますので、遺言が表に出てこないまま、遺産相続がなされてしまうというリスクもあります。ところが、この死亡通知制度により、遺言者の死亡の事実が確実に保管官に伝達され、通知先に遺言の存在が通知され、大きな意義があるものと思われます。

 

ただし、遺言書保管制度は、遺言の形式面はチェックしてもらえますが、内容面についてのチェックは行っていませんので、思わぬところで遺言が無効となり、遺言者の意思が全うされないということもありえます。また、遺言の内容の適否、その影響を含めた遺産相続全体についての相談をしてくれたり、アドバイスをもらうことはできません。そのため、自筆証書遺言を作成し、保管制度を利用するにしても、弁護士等の専門家への相談、検討をしたうえで行った方が安心です。池田総合法律事務所では、こうした相談、遺言にまつわるご相談はこれまで多数取り扱っておりますので、有益なアドバイスが可能であると思います。

(池田伸之)

発信者情報開示請求

1.はじめに

SNSで誹謗中傷等をされた場合に、書き込みを行った人を特定するための手段として、発信者情報開示請求があります。

その概要については、令和2年8月10日付の法律コラムでご紹介させていただきましたが、令和3年に発信者情報開示請求の根拠法令となるプロバイダ責任制限法が改正され、令和4年10月1日に施行されましたので、今回その改正内容についてご紹介させていただきます。

2.新たな裁判手続(非訟手続)の創設

(1)権利を侵害されたとする者が、情報の発信者に対して、慰謝料請求等を行う場合、発信者の特定が必要になります。

それには、発信者の氏名・住所等を保有する経由プロバイダ(通信事業者等)を特定するために必要となるIPアドレス等の情報が、コンテンツプロバイダ(SNS事業者等)から開示されないと、当該経由プロバイダを特定することができないことから、改正前の発信者情報開示請求では、まず、コンテンツプロバイダに発信者情報開示仮処分を申し立てた後、(場合によっては消去禁止の仮処分を経て)経由プロバイダに対し発信者情報開示請求訴訟を提起するという二段階の手続きが必要でした。

(2)これに対し、今回創設された手続きでは、基本的に、発信者情報の開示を一つの手続きで行うことが可能となります。

具体的には、権利を侵害されたとする者が、裁判所に発信者情報開示命令を申し立てると、裁判所は、開示命令より緩やかな要件により、コンテンツプロバイダに対し、(当該コンテンツプロバイダが自らの保有するIPアドレス等により特定した)経由プロバイダの名称等を、申立人に提供することを命じることができます(提供命令)。

加えて、裁判所は、コンテンツプロバイダが保有するIPアドレス等の情報を、申立人には秘したまま、コンテンツプロバイダから経由プロバイダに提供させることができるようになるため、経由プロバイダに、自ら保有する発信者の氏名及び住所等を特定・保全させておくことができます(消去禁止命令)。これにより、発信者情報開示命令事件の審理中に発信者情報が消去されてしまうことを防ぐことができます。

そして、上記により発信者情報が保全された状態で、発信者情報開示命令事件の審理が行われます。審理では、コンテンツプロバイダに対する開示命令の手続きと、経由プロバイダに対する開示命令の手続きが併合され、一体的に行われます。

3.開示請求を行うことができる範囲の見直し

近年普及しているSNSでは、システム上、投稿時のIPアドレス等を保存していないものがあり、投稿時のIPアドレスから通信経路をたどることにより発信者を特定することができないという課題がありました。

そこで、今回の改正により、SNSなどのログイン型サービス等において、発信者を特定するために必要となる場合には、投稿者がSNS等にログインした際の情報の開示を得ることが可能となりました。

これにより、SNSへのログイン時のIPアドレス等からも、発信者を特定することが出来るようになります。

(なお改正前も裁判所の個別の判断により、ログイン時のIPアドレス情報について開示請求が認容されるケースはあり、当事務所でもログイン時の情報が獲得できた事例があります。)

4.おわりに

発信者情報開示請求手続きは、改正によりいくつか見直しがされましたが、一般の方が自分で手続きを行うには大変複雑な手続きであり、専門的な知識が必要となります。誹謗中傷等でお悩みの方は、池田総合法律事務所にご相談下さい。

(石田美果)

【法律コラム 目次】

 

掲載日 テーマ 執筆者
R7.1.23 業績連動報酬のこれから 桂子
R6.12.15 遺言書保管制度のその後 伸之
R6.12.4 発信者情報開示請求 石田
R6.11.15 財産開示期日の後について 小澤
R6.11.7 相続手続の変更点について(その2)(不動産、預貯金の調査) 川瀬
R6.10.24 相続手続の変更点について(戸籍の取り寄せ手続) 山下
R6.10.1 法的な紛争と税制の関係⑥ 倒産と税務上の取り扱い 伸之
R6.9.15 法的な紛争と税制の関係⑤ 不動産取引 石田
R6.9.1 法的な紛争と税制の関係④  生前贈与するなら気をつけたいこと 桂子
R6.8.16 法的な紛争と税制の関係③  離婚と税金 小澤
R6.8.1 法的な紛争と税制の関係②  相続と税金 川瀬
R6.7.1 法的な紛争と税制の関係①  交通事故と所得税 山下
R6.6.21 介護報酬改定で令和6年4月から導入された「高齢者虐待防止の促進」について 小澤
R6.6.14 裁判のIT化で裁判実務はどこまで変わるか 桂子
R6.6.3 フリーランス保護法(正式名称:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)について-その② 伸之
R6.5.24 民法改正による嫡出推定制度に関する変更点 石田
R6.5.1 2024年労働基準法施行規則の改正内容 小澤
R6.4.23 相続登記を免れるために相続放棄をしたらどうなるか 山下
R6.4.17 相続登記の義務化がスタートしました! 川瀬
R6.3.15 最高裁判例紹介⑤ 桂子
R6.3.1 最高裁判例紹介④ 伸之
R6.2.15 最高裁判例紹介③ 石田
R6.2.1 最高裁判例紹介② 小澤
R6.1.25 最高裁判例紹介① (遺贈放棄後の相続財産の帰属) 川瀬
R5.12.15 公正取引委員会『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』について 小澤
R5.12.1 副業・兼業 これからの働き方を使用者側の立場から見てみると 桂子
R5.11.15 副業・兼業について(労働者側の注意点) 山下
R5.11.1 フリーランス保護法(正式名称:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)について 伸之
R5.10.19 社会保険の適用拡大、賃金デジタル払い解禁、育休取得状況公表義務化 ~働き方改革への対応は十分ですか~ 石田
R5.10.2 パワハラの定義と対応(「働き方」に関する労働法制連載) 小澤
R5.9.20 2024年の重大問題-時間外労働に関する法改正と未払残業代請求のリスク 川瀬
R5.9.6 「働き方」に関する労働法制について 山下
R5.8.15 これからの経営者報酬の設計について 桂子
R5.8.1 会社の機関設計 「監査等委員会設置会社」という選択について 桂子
R5.7.1 第6回 所有者不明土地・建物の管理制度 伸之
R5.6.19 第5回 共有物の変更・管理に関する見直し 石田
R5.6.1 第4回 民法の相隣関係の改正について 小澤
R5.5.17 第3回 相続土地国庫帰属制度について 川瀬
R5.5.1 第2回 相続登記が義務化されます!ご注意を 桂子
R5.4.14 所有者不明の土地に関する法律や制度の改正について(第1回) 山下
R5.3.31 財産開示手続について(第2回) 石田
R5.3.15 財産開示手続について 小澤
R5.3.1 自動車に対する強制執行 伸之
R5.2.14 AI(人工知能)と弁護士業務 小澤
R5.2.3 債権回収のセオリー 桂子
R5.1.25 法人破産について(第4回) 山下
R4.12.19 法人破産について(第3回) 石田
R4.12.1 法人破産について(第2回) 伸之
R4.11.15 法人破産について(連載第1回) 小澤
R4.11.1 下請法について(第3回) 桂子
R4.10.17 下請法について(第2回) 川瀬
R4.10.4 下請法について(連載・全3回) 石田
R4.9.21 商標について 4 ~商標とフランチャイズ契約~ 山下
R4.9.5 商標について 3 ~商標・不正競争に関する近時の裁判例の紹介~ 伸之
R4.9.5 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載10 小澤
R4.8.10 商標について 2 ~商標登録手続き、費用の概要~ 小澤
R4.8.2 商標について ~商標とは~ 川瀬
R4.7.25 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第6回~) 桂子
R4.7.11 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載9 小澤
R4.6.17 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第5回~) 山下
R4.6.2 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第4回~) 石田
R4.5.16 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第3回~) 伸之
R4.5.2 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第2回~) 小澤
R4.4.15 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回) 川瀬
R4.4.7 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載8 小澤
R4.4.1 労働審判の手続きで解決できる場合・できない場合とは 桂子
R4.3.28 労働審判手続きでの残業代請求について 山下
R4.3.4 労働審判制度の概要 石田
R4.3.1 紙の約束手形の廃止方針と廃業 小澤
R4.2.15 不正競争防止法における営業秘密保護3 伸之
R4.2.3 不正競争防止法における営業秘密保護2 小澤
R4.1.17 不正競争防止法における営業秘密保護1 川瀬
R4.1.13 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載7 小澤
R3.12.21 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載6 小澤
R3.12.13 賃貸物件の建物明け渡しの強制執行 山下
R3.12.7 子どもの引き渡しを強制的に求める方法は? 桂子
R3.11.26 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載5 小澤
R3.11.16 預貯金債権に関する情報の取得手続について 石田
R3.11.12 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載4 小澤
R3.10.28 給与債権に関する情報の入手手続きについて 伸之
R3.10.15 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載3 小澤
R3.10.11 改正民事執行法~不動産に関する情報取得手続と利用の実情~ 小澤
R3.9.30 民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情 川瀬
R3.9.22 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載2 小澤
R3.9.17 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載1 小澤
R3.9.13 会社法改正に伴う事業報告書の記載事項の変更について 伸之
R3.9.3 社債に関する改正点 山下
R3.8.23 株式交付に関する規定の新設 石田
R3.8.16 土壌汚染対策法の概要 小澤
R3.8.2 会社補償・役員賠償責任保険のルールの新設 小澤
R3.7.20 取締役の報酬に関する規律の見直し 川瀬
R3.7.2 社外取締役を置くことの義務付けについて 伸之
R3.6.7 中小企業とリース契約 小澤
R3.6.1 ハラスメント防止のための社内体制の強化を! ~ハラスメントはどこにでも起こりうる意識をもって~ 山下
R3.5.28 令和に入って初めての会社法の改正~株主総会の運営や取締役の職務執行の一層の適正化~ 桂子
R3.5.18 不正競争防止法を意識していますか 石田
R3.4.26 債権回収の進め方 小澤
R3.4.19 デジタル時代の契約書と文書管理について 川瀬
R3.4.6 身元保証は必要?約束するのなら契約を見直しましょう! 桂子
R3.4.1 情報管理-個人情報保護法改正と情報セキュリティ- 藪内
R3.3.16 スタートアップの資金調達について 桂子
R3.3.3 廃業の前に事業承継の検討を! 伸之
R3.3.3 事業再構築補助金について 小澤
R3.2.18 「最近の正規・非正規の格差解消をめぐる判例」 石田
R3.2.5 アフターコロナを見据えた働き方改革の枠組 山下
R3.1.18 はじめに
ポストコロナに向けて事業見直しの視点~コロナ禍危機下でここからが経営者の勝負どころ~
桂子
R3.12.18 立会人型電子契約に関する論点 藪内
R2.12.10 遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求権への改正による影響について 伸之
R2.11.24 コロナ版ローン減免制度について 石田
R2.11.9 若い人も遺言書を作成してみませんか 川瀬
R2.10.27 非接触事故でも、賠償請求ができますか その2 単独事故として処理された場合  山下
R2.10.2 公益通報者保護法の改正について 小澤
R2.9.18 スタートアップ(独立・起業)で大切にしたい商標と商号 桂子
R2.8.25 法務局における遺言書の保管制度が始まりました 伸之
R2.8.10 発信者情報開示請求 石田
R2.7.17 定期金賠償(令和2年7月9日最高裁)について 川瀬
R2.7.13 孤独死後の法律問題 山下
R2.6.11 土壌汚染が疑われる土地売買その他の注意点 小澤
R2.5.26 テレワークの推進に向けて 桂子
R2.5.21 商標等の「商標的使用」は許されるか、-「商標としての使用」を比較して- 伸之
R2.5.18 新型コロナウィルス感染拡大防止対策に関連する個人情報取り扱いの留意点 藪内
R2.5.12 パワハラ防止法について 石田
R2.5.8 事業の継続、廃止に向けた手続きについて 伸之
R2.5.8 新型コロナウイルス感染症と賃料・テナント料 小澤
R2.5.8 新型コロナウイルス感染症と雇用関係 小澤
R2.5.1 賃貸アパート経営における民法改正の影響(連帯保証について) 川瀬
R2.4.2 民法改正による交通事故の損害賠償請求の影響は? 山下
R2.3.2 刑事事件での『司法取引』について~最近の3事案を参考にして~ 小澤
R2.2.19 発明の進歩性判断~「予測できない顕著な効果」~について 桂子
R2.2.13 【配偶者居住権が新設されます】 藪内
R2.1.28 遺産分割の仕方により、相続税総額が違ってくることはご存知ですか。 伸之
R2.1.20 法定相続情報証明制度について 石田

 

財産開示期日の後について

2023年3月,4月のブログにて,「財産開示手続」と「財産開示期日」の記事を載せました。

今回は,財産開示期日の後をご説明させていただきます。

 

1 財産開示期日後の理想的な展開

財産開示期日のその後として,もっとも目的を達成することができるのは,強制執行できる財産が期日で明らかになり,強制執行をして回収を果たすことです。

また,債務者(金銭を支払う義務がある者)から申出があって,一定額を回収する和解が成立することも,目的を達成することができます。

 

2 財産開示期日を経ても回収できない場合には

 債務者が,正当な理由もなく,財産開示期日へ出頭せず(不出頭),宣誓拒否,陳述拒否,虚偽の陳述を行った場合には,6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰が科されます(民事執行法213条1項5号,同6号)。

そして,この刑事罰にしたいと債権者として考えた場合,警察に民事執行法違反を理由として告発することになります。

しかし,告発状に記載するうえでは,不出頭・宣誓拒否・陳述拒否と,虚偽陳述では難易度が変わります。

(1)不出頭・宣誓拒否・陳述拒否

債務者が財産開示期日に出頭しない場合は,その不出頭は誰の目から見ても明らかです。

また,宣誓拒否・陳述拒否も,裁判所の作成する財産開示期日調書に宣誓拒否や陳述拒否が記載されることになりますので,裁判所という公的機関の書類上明らかになります。

したがって,財産開示期日調書などの裁判所の書類を証拠として告発状を警察に提出すれば良いことになります。

(2)虚偽の陳述

しかし,財産開示手続で虚偽の陳述を述べたとして民事執行法違反で告発する場合,虚偽の内容を具体的に説明できなければ告発が難しいことになります。

例えば,預金は無いと言っていたのに,本当は預金があったから,財産開示期日では虚偽の陳述をしたと告発する場合には,財産開示期日時点で預金が存在したことを裏付ける資料を告発状に付ける必要がでてきます。

そのためには,預金を探索して更に強制執行(預金の差し押さえ)をして,情報を収集し,告発のための資料を少しずつ揃えていく必要があります。

 

3 財産開示期日の後への弁護士の関与

民事執行法違反で告発を検討する場合には,どのような資料を揃え,どのような内容の告発状を作成して,警察に提出するかを十分に検討する必要があります。

そのためには,弁護士に依頼した方が手続の進行もスムーズですし,刑事告発に際して弁護士が担当する警察官に直接十分な説明をして刑事手続を進めるように求めることもできます。

当事務所でも,虚偽陳述を理由として民事執行法違反での告発の依頼を受け,刑事罰まで手続を進めた経験もあります。

なお,ご注意いただきたいのは,告発して刑事罰に至ったとしても,罰金を納付する先は国であって,債務者が債権者に金銭を支払うとは限らないという点には注意していただく必要があります。

債務名義はあるけれど,債務者が支払わず困っている方は,あきらめずに池田総合法律事務所にご相談ください。

        (小澤尚記(こざわなおき))

相続手続の変更点について(その2)(不動産、預貯金の調査)

1 はじめに

相続が始まると、亡くなった方(被相続人)の財産(相続財産や遺産と言います)を相続人などが引き継ぐことになります。

遺言書があれば原則として遺言書の記載通りに、遺言書がない場合には、相続人同士で話し合い(遺産分割協議)をして、誰がどの財産を引き継ぐか(遺産をどう分割するか)を決めます。

しかしながら、特に遺言書がない場合には、そもそも被相続人がどのような財産を持っていたか分からないと分け方を決めることが出来ません。そのため、遺産分割協議の前に、まずは遺産を把握するための調査が必要となります。

 

2 遺産調査の概要

相続人が被相続人の配偶者や子で、生前に交流があった場合には、生前の資産状況や存在しそうな財産がある程度把握できていることが多いため、不動産や預貯金などの主な財産を把握することは比較的やりやすいです。もっとも、最近では、通帳を紙で発行せずWEB上のみで管理をする預金や、いわゆる仮想通貨のようなデジタル財産など、本人以外が把握しにくい財産もあります。

相続人が被相続人の甥、姪等で、生前にほとんど交流が無いような場合には、一から相続財産を調査することになります。一般的には自宅に残された書類や郵便物、通帳の取引履歴などを手がかりに調査をしますが、自宅のある市区町村以外の市区町村にある不動産や紙の通帳が発行されていない預貯金などは見落とすこともあり得ます。

昨今は、一人暮らしの高齢者も増えており、こうした事態が生じる可能性もより高くなっていると思われます。

 

3 近時の変更点

このような現状を踏まえ、相続手続において、預貯金と不動産において、財産の調査をしやすくする制度が始まります。

(1)預貯金

令和6年4月1日に施行された、「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」(いわゆる「口座管理法」)により、生前にマイナンバーが紐付けされた(付番された)口座については、相続人が金融機関の窓口を通じて預金保険機構に請求することにより、当該金融機関以外の口座も含め、マイナンバーが付番された全口座の口座情報が一括して相続人に通知されるようになります(口座管理法8条)。(実際に制度として動き始めるのは、令和7年3月頃になるようです。)

生前にマイナンバーを届け出る(付番する)必要がありますが、預金口座の把握はかなりしやすくなります。

(2)不動産

現在、不動産は固定資産税課税台帳という形で、その不動産が所在する市区町村が管理しており、被相続人の不動産を調査する際には、当該市区町村に所在する不動産を所有者別にまとめた「名寄帳」を確認するということをしていましたが、そもそも被相続人の不動産が存在する市区町村がわからないと、名寄帳を確認することもできないという状態でした。

この点については、いわゆる所有者不明土地解消のための法改正の一環として、全国の不動産を一括で照会できる「所有不動産記録証明制度」が令和8年2月から始まる予定になっています。この制度が始まれば、被相続人名義の不動産の見落としも避けられることになります。

 

4 遺言書・財産目録作成のすすめ

以上のとおり、被相続人の遺産を調査しやすくするための制度が順次始まっていきますが、こうした制度によっても、全ての財産を把握することは困難です。相続人が財産調査で困らないよう、遺言書か、せめてご自身の所有する財産(プラスの財産だけで無く借金、連帯保証などのマイナスの財産も)を記載した財産目録を生前に作成されておくことをおすすめします。

(川瀬 裕久)

相続手続の変更点について(戸籍の取り寄せ手続)

1 はじめに

相続の手続で最初にやるべき事は、相続人が誰か、また、遺産がどれだけあるかを調査によりはっきりさせることです。従前は、この調査にとても手間と時間がかかったのですが、昨今、制度の変更により調査の手間が大きく軽減されましたので、ご説明します。まず、今回の記事では、相続人調査の方法、具体的には戸籍の取り寄せの方法が大きく変わったことについて説明します。戸籍には、結婚や子どもの出生などの相続に必要な情報が記載されており、相続人の確定に必要不可欠な書類です。

 

2 従前の戸籍取り寄せの手続は大変でした。

この戸籍、従前の制度では、御本人の戸籍を取る場合においても、戸籍は本籍地でないと取り寄せられませんでした。そのため、本籍地と現住所が離れている場合には、本籍地の市町村の役場・役所まで出向くか、郵送で手続きをする必要がありました。

相続の場面でも同様で、父母・祖父母、戸籍を取る場合は、本籍地に出向いたり郵送したりで取り寄せなくてはならず、しかも本籍地を何度も変えていたりするとそのときどきの戸籍をたどって従前戸籍を取り寄せる事も必要で、その作業は膨大でした。

 

3 新たな広域交付制度での手続では、戸籍取り寄せの手間が大幅に省かれます。

令和6年3月1日から、改正戸籍法が施行されました。この法改正により新たに「戸籍証明書等の広域交付」を受けられることになりました。

広域交付制度を利用すると、遠方の戸籍についても、お近くの役所等で手続が可能となりました。遠方まで出向いたり、郵送の手続は不要になり、遠方が本籍地の戸籍の取り寄せがとても簡便になりました。しかも、度々本籍地を変えるなどして欲しい戸籍の本籍地が全国にあっても、1カ所の窓口で請求できます。相続の場面においても、父母祖父母の戸籍を一カ所の窓口で一括して請求できることになりました。

 

4 実際に戸籍を取得する手続を説明します。

広域交付制度を利用しての戸籍を取得するには、本人が窓口に出向き、運転免許証などの写真付きの本人確認書類を確認する必要があります。そのため、戸籍を集めることを弁護士などの代理人に依頼しても、広域交付で戸籍を集めることはできません。

また、取得できる戸籍は、ご本人だけのものではなく、配偶者や父母・祖父母、曾祖父母などの直系尊属、子・孫・ひ孫などの直系卑属も取得することができます。相続の場面で、例えば亡くなった親の出生から死亡までの戸籍を集めることができます。ただし、兄弟姉妹やおじやおば、甥や姪の戸籍の取得はできません。相続の場面において、常に相続人になりそうな親族の戸籍を取れる、と言うわけではありません。

 

5 おわりに

広域交付制度が始まったことにより、遠方の自治体からの出生から死亡までの戸籍の取り寄せは大幅に簡便になりました。

相続人の範囲がどこまでかは、離婚・再婚、養子縁組や認知の事実、また亡くなる順番によって大きく変わってくることがあります。また、集めた戸籍も、古いものだとなかなかこれらの事情を読み取りづらいこともあるでしょう。

相続手続については、相続人の確定以外にも、多くの検討要素があります。当事務所に、ぜひお気軽にご相談ください。

 

<山下陽平>

法的な紛争と税制の関係⑥ 倒産と税務上の取り扱い

今回は、企業が倒産をした場合の税務上の取り扱いについて、考えてみたいと思います。

1.債権者の有している債権の取扱い

企業の倒産により、債権者は、債権の回収が不能ないしは著しく困難となりますが、こうした場合に、貸倒損失として処理出来るかという問題があります。

(1)金銭債権が法律上切り捨てられた場合

①会社更生法による更生計画認可、民事再生法による再生計画認可、特別清算に係る協定の認可の各決定により、免除された金額については、その決定が確定した日が属する事業年度の損金の額に算入することができます。

また、更生、民事再生、破産、特別清算のそれぞれの開始が申し立てられた早期の段階においても、債権額の100分の50に相当する金額を、同様に処理することも可能です。

なお、特別清算の場合は、貸倒損失として認められるのは、上記のように協定による場合だけで、協定ではなく、個別債権者との和解による債権放棄(いわゆる和解型の特別清算)については、当然に免除額について貸倒損失として処理できるものではありません。これを認めず、逆に、債権放棄を「寄附金」とした裁判例があります(東京地裁H29.1.19、控訴審東京高裁同7.26)。

協定型と和解型でこのような取扱いの差があるのは、特別清算の協定型においては、債権消滅にかかる協定及び計画内容の合理性が法令の規制及び裁判所の審査と決定によって客観的に担保されているのに対し、和解型の場合は、そのような法令の規制及び裁判所の審査と決定を欠いていることが大きな理由です。

したがって、特別清算の和解等で解決する場合は、経済的合理性という客観的要件を満たすかどうかの検討をする必要があります。

②法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定、行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって、免除された金額についても、損金の額に算入することは可能です。

これに属するものとしては、中小企業の事業再生等に関するガイドライン、  自然災害被災者債務整理ガイドラインに従い、債権者と協議し、簡易裁判所において、債務免除に関する合意(調停)が成立した場合、また、事業再生ADR制度を利用して合意に至った場合等、いわゆる準則型私的整理手続といわれるものが典型的です。

③債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済をうけることが出来ない場合に、その債務者に対して、書面で債権放棄の意思表示をした場合の、放棄をした金額

「債務超過」「弁済を受けることができない」といった要件に該当するかどうかの判断については、相応の資料の提出を求められます。

(2)債務者の法人格が消滅した場合

破産手続の場合は、上記と異なり、法的な債権の切捨手続がないまま、最終的に破産手続終結決定(配当がない場合は、廃止決定)の確定をもって、法人格が消滅し、その時点で、債権が消滅し、損金経理を経る必要もなく、貸倒があったと解されています。

 

2.資力喪失後の不動産譲渡における譲渡所得の取り扱い

不動産や株式等の譲渡については、通常は、譲渡益に対して譲渡所得税が課税されますが、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合に、強制換価手続、税務署等による滞納処分、債権者による強制執行、金融機関による担保権の実行としての任意競売、破産手続等により、資産を譲渡したことによる所得や強制執行手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡については、譲渡税は課税されません。

 

3.保証債務等の履行をするために、不動産を譲渡した場合の取扱い

(連帯)保証人、物上保証人、身元保証人等が、本来の債務者が債務を弁済しないときに、肩代わりのため、不動産等を売却して、その債務を弁済する場合に、譲渡所得の計算上、所得がなかったものとする特例があります。但し、

(1)本来の債務者が既に債務を弁済できない状態であるときに、債務の保証をしたものでないこと

(2)保証債務を履行するために土地建物等を売っていること

(3)履行をした保証債務の金額又は一部の金額が、本来の債務者から回収できなくなったこと(本来の債務者が破産をしている場合等が該当します。)

の3要件が必要です。

さらに、所得から控除出来る金額についても、制限があります。

所得がなかったことに出来る金額は、以下の金額のうち、一番低い金額です。

(1)肩代わりをした債務のうち、回収できなくなった金額

(2)保証債務を履行した人のその年の総所得金額等の合計額

(3)売った土地建物などの譲渡益の額

また、この特例をうけるためには、確定申告書の提出のほか、計算明細書その他特例の適用を受けるための要件を充足していることを証する資料の提出が必要です。

                   (池田伸之)

法的な紛争と税制の関係⑤ 不動産取引

民事上の様々な紛争の結果として、不動産の所有権が移転する場合があります。例えば、遺贈や遺産分割等により不動産を相続する場合、離婚の際に居住不動産等を財産分与する場合、不動産を譲渡または贈与する場合などがあります。こうした場合に、課税される税金についてご紹介したいと思います。

また、併せて真正な登記名義の回復についてもお話ししたいと思います。なお、本コラムでは、当事者が個人の場合に限定してお話しします。

 

 

1 不動産を譲渡または贈与する場合

ア.不動産を譲渡する場合

譲渡する側に譲渡所得税が課されます。

なお、不動産の取得価格が、譲渡価格よりも高い場合は、譲渡により利益が出ていないため、譲渡所得税は非課税となります。

譲渡される側は非課税です。

ただし、時価と比較して譲渡価格が著しく低い場合は、実質的には贈与とみなされ、不動産を譲渡された側に、贈与税が課されます(みなし贈与税)。

一般に、譲渡価格が時価の8割を下回る場合は、みなし贈与と判断される可能性があると言われています。

イ.不動産を贈与する場合

贈与する側は非課税ですが、贈与を受ける側に贈与税が課されます。

贈与税を算出するための建物の価格は、固定資産税評価額が用いられます。

土地の価格は、国税庁が毎年公開する「路線価」を用いて算定します。

なお、上記ア、イどちらの場合も、不動産を取得した側に、別途不動産取得税(地方税)及び登録免許税(国税)が課されます。

 

2 不動産を相続する場合

遺贈や遺産分割等により不動産を相続する場合は、相続税が課されます。詳しくは、2024年8月1日付コラム(「法的な紛争と税制の関係② 相続と税金」で解説していますので、そちらをご参照ください。

 

3 財産分与により不動産を取得する場合

離婚の際に財産分与として、居住不動産等を取得する場合は、不動産を譲渡する側に、譲渡所得税が課されます。詳しくは2024年8月16日付コラム(「法的な紛争と税制の関係③ 離婚と税金」で解説していますので、そちらをご参照ください。

 

4 真正な登記名義の回復について

不動産の登記上の名義が、本来の所有者以外の名義になっている場合、これを本来の所有者の名義に修正する必要があります。

例えば、不動産の権利がAからBに移転したが、何らかの理由でBではなくC名義に移転登記がされてしまった場合、B名義に修正することになります。

このとき、C名義の登記を抹消して、A名義に戻し、その後B名義に移転登記をして訂正するというのが、本来のやり方です。

しかし、元の所有者(A)の協力が得られなかったり、誤った所有権の登記をもとに、第三者により抵当権等の設定登記がされた場合で、当該第三者の承諾が得られない場合には、登記名義を修正することが困難となります。そこで、C名義から直接B名義に「真正な登記名義の回復」を登記原因として移転登記をすることが認められています。

この真正な登記名義の回復による所有権移転登記を行うには、現在の登記が実体的な権利関係に合致しない理由や、真正な権利者が権利を有していること、真正な登記名義の回復の必要性があること等を記載した登記原因証明情報の提出が必要となります。

登記原因証明情報を作成するには、法律関係を把握し整理する必要があり、一定の専門知識を要しますので、真正な登記名義の回復を登記原因とする登記を行う必要がある場合は、専門家に相談されることをお勧めします。当法律事務所でもご相談を承ります。

なお、真正な登記名義の回復は、登記内容を修正するために行われるものなので、通常課税されることはありません。

但し、税務署は、登記原因が「真正な登記名義の回復」であれば課税をしないということではなく、登記に至った経緯を調査し、実質的に「贈与」に該当すると判断した場合には、贈与税が課されますので注意が必要です。

(石田美果)