財産開示期日の後について

2023年3月,4月のブログにて,「財産開示手続」と「財産開示期日」の記事を載せました。

今回は,財産開示期日の後をご説明させていただきます。

 

1 財産開示期日後の理想的な展開

財産開示期日のその後として,もっとも目的を達成することができるのは,強制執行できる財産が期日で明らかになり,強制執行をして回収を果たすことです。

また,債務者(金銭を支払う義務がある者)から申出があって,一定額を回収する和解が成立することも,目的を達成することができます。

 

2 財産開示期日を経ても回収できない場合には

 債務者が,正当な理由もなく,財産開示期日へ出頭せず(不出頭),宣誓拒否,陳述拒否,虚偽の陳述を行った場合には,6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰が科されます(民事執行法213条1項5号,同6号)。

そして,この刑事罰にしたいと債権者として考えた場合,警察に民事執行法違反を理由として告発することになります。

しかし,告発状に記載するうえでは,不出頭・宣誓拒否・陳述拒否と,虚偽陳述では難易度が変わります。

(1)不出頭・宣誓拒否・陳述拒否

債務者が財産開示期日に出頭しない場合は,その不出頭は誰の目から見ても明らかです。

また,宣誓拒否・陳述拒否も,裁判所の作成する財産開示期日調書に宣誓拒否や陳述拒否が記載されることになりますので,裁判所という公的機関の書類上明らかになります。

したがって,財産開示期日調書などの裁判所の書類を証拠として告発状を警察に提出すれば良いことになります。

(2)虚偽の陳述

しかし,財産開示手続で虚偽の陳述を述べたとして民事執行法違反で告発する場合,虚偽の内容を具体的に説明できなければ告発が難しいことになります。

例えば,預金は無いと言っていたのに,本当は預金があったから,財産開示期日では虚偽の陳述をしたと告発する場合には,財産開示期日時点で預金が存在したことを裏付ける資料を告発状に付ける必要がでてきます。

そのためには,預金を探索して更に強制執行(預金の差し押さえ)をして,情報を収集し,告発のための資料を少しずつ揃えていく必要があります。

 

3 財産開示期日の後への弁護士の関与

民事執行法違反で告発を検討する場合には,どのような資料を揃え,どのような内容の告発状を作成して,警察に提出するかを十分に検討する必要があります。

そのためには,弁護士に依頼した方が手続の進行もスムーズですし,刑事告発に際して弁護士が担当する警察官に直接十分な説明をして刑事手続を進めるように求めることもできます。

当事務所でも,虚偽陳述を理由として民事執行法違反での告発の依頼を受け,刑事罰まで手続を進めた経験もあります。

なお,ご注意いただきたいのは,告発して刑事罰に至ったとしても,罰金を納付する先は国であって,債務者が債権者に金銭を支払うとは限らないという点には注意していただく必要があります。

債務名義はあるけれど,債務者が支払わず困っている方は,あきらめずに池田総合法律事務所にご相談ください。

        (小澤尚記(こざわなおき))

相続手続の変更点について(その2)(不動産、預貯金の調査)

1 はじめに

相続が始まると、亡くなった方(被相続人)の財産(相続財産や遺産と言います)を相続人などが引き継ぐことになります。

遺言書があれば原則として遺言書の記載通りに、遺言書がない場合には、相続人同士で話し合い(遺産分割協議)をして、誰がどの財産を引き継ぐか(遺産をどう分割するか)を決めます。

しかしながら、特に遺言書がない場合には、そもそも被相続人がどのような財産を持っていたか分からないと分け方を決めることが出来ません。そのため、遺産分割協議の前に、まずは遺産を把握するための調査が必要となります。

 

2 遺産調査の概要

相続人が被相続人の配偶者や子で、生前に交流があった場合には、生前の資産状況や存在しそうな財産がある程度把握できていることが多いため、不動産や預貯金などの主な財産を把握することは比較的やりやすいです。もっとも、最近では、通帳を紙で発行せずWEB上のみで管理をする預金や、いわゆる仮想通貨のようなデジタル財産など、本人以外が把握しにくい財産もあります。

相続人が被相続人の甥、姪等で、生前にほとんど交流が無いような場合には、一から相続財産を調査することになります。一般的には自宅に残された書類や郵便物、通帳の取引履歴などを手がかりに調査をしますが、自宅のある市区町村以外の市区町村にある不動産や紙の通帳が発行されていない預貯金などは見落とすこともあり得ます。

昨今は、一人暮らしの高齢者も増えており、こうした事態が生じる可能性もより高くなっていると思われます。

 

3 近時の変更点

このような現状を踏まえ、相続手続において、預貯金と不動産において、財産の調査をしやすくする制度が始まります。

(1)預貯金

令和6年4月1日に施行された、「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」(いわゆる「口座管理法」)により、生前にマイナンバーが紐付けされた(付番された)口座については、相続人が金融機関の窓口を通じて預金保険機構に請求することにより、当該金融機関以外の口座も含め、マイナンバーが付番された全口座の口座情報が一括して相続人に通知されるようになります(口座管理法8条)。(実際に制度として動き始めるのは、令和7年3月頃になるようです。)

生前にマイナンバーを届け出る(付番する)必要がありますが、預金口座の把握はかなりしやすくなります。

(2)不動産

現在、不動産は固定資産税課税台帳という形で、その不動産が所在する市区町村が管理しており、被相続人の不動産を調査する際には、当該市区町村に所在する不動産を所有者別にまとめた「名寄帳」を確認するということをしていましたが、そもそも被相続人の不動産が存在する市区町村がわからないと、名寄帳を確認することもできないという状態でした。

この点については、いわゆる所有者不明土地解消のための法改正の一環として、全国の不動産を一括で照会できる「所有不動産記録証明制度」が令和8年2月から始まる予定になっています。この制度が始まれば、被相続人名義の不動産の見落としも避けられることになります。

 

4 遺言書・財産目録作成のすすめ

以上のとおり、被相続人の遺産を調査しやすくするための制度が順次始まっていきますが、こうした制度によっても、全ての財産を把握することは困難です。相続人が財産調査で困らないよう、遺言書か、せめてご自身の所有する財産(プラスの財産だけで無く借金、連帯保証などのマイナスの財産も)を記載した財産目録を生前に作成されておくことをおすすめします。

(川瀬 裕久)

相続手続の変更点について(戸籍の取り寄せ手続)

1 はじめに

相続の手続で最初にやるべき事は、相続人が誰か、また、遺産がどれだけあるかを調査によりはっきりさせることです。従前は、この調査にとても手間と時間がかかったのですが、昨今、制度の変更により調査の手間が大きく軽減されましたので、ご説明します。まず、今回の記事では、相続人調査の方法、具体的には戸籍の取り寄せの方法が大きく変わったことについて説明します。戸籍には、結婚や子どもの出生などの相続に必要な情報が記載されており、相続人の確定に必要不可欠な書類です。

 

2 従前の戸籍取り寄せの手続は大変でした。

この戸籍、従前の制度では、御本人の戸籍を取る場合においても、戸籍は本籍地でないと取り寄せられませんでした。そのため、本籍地と現住所が離れている場合には、本籍地の市町村の役場・役所まで出向くか、郵送で手続きをする必要がありました。

相続の場面でも同様で、父母・祖父母、戸籍を取る場合は、本籍地に出向いたり郵送したりで取り寄せなくてはならず、しかも本籍地を何度も変えていたりするとそのときどきの戸籍をたどって従前戸籍を取り寄せる事も必要で、その作業は膨大でした。

 

3 新たな広域交付制度での手続では、戸籍取り寄せの手間が大幅に省かれます。

令和6年3月1日から、改正戸籍法が施行されました。この法改正により新たに「戸籍証明書等の広域交付」を受けられることになりました。

広域交付制度を利用すると、遠方の戸籍についても、お近くの役所等で手続が可能となりました。遠方まで出向いたり、郵送の手続は不要になり、遠方が本籍地の戸籍の取り寄せがとても簡便になりました。しかも、度々本籍地を変えるなどして欲しい戸籍の本籍地が全国にあっても、1カ所の窓口で請求できます。相続の場面においても、父母祖父母の戸籍を一カ所の窓口で一括して請求できることになりました。

 

4 実際に戸籍を取得する手続を説明します。

広域交付制度を利用しての戸籍を取得するには、本人が窓口に出向き、運転免許証などの写真付きの本人確認書類を確認する必要があります。そのため、戸籍を集めることを弁護士などの代理人に依頼しても、広域交付で戸籍を集めることはできません。

また、取得できる戸籍は、ご本人だけのものではなく、配偶者や父母・祖父母、曾祖父母などの直系尊属、子・孫・ひ孫などの直系卑属も取得することができます。相続の場面で、例えば亡くなった親の出生から死亡までの戸籍を集めることができます。ただし、兄弟姉妹やおじやおば、甥や姪の戸籍の取得はできません。相続の場面において、常に相続人になりそうな親族の戸籍を取れる、と言うわけではありません。

 

5 おわりに

広域交付制度が始まったことにより、遠方の自治体からの出生から死亡までの戸籍の取り寄せは大幅に簡便になりました。

相続人の範囲がどこまでかは、離婚・再婚、養子縁組や認知の事実、また亡くなる順番によって大きく変わってくることがあります。また、集めた戸籍も、古いものだとなかなかこれらの事情を読み取りづらいこともあるでしょう。

相続手続については、相続人の確定以外にも、多くの検討要素があります。当事務所に、ぜひお気軽にご相談ください。

 

<山下陽平>

法的な紛争と税制の関係⑥ 倒産と税務上の取り扱い

今回は、企業が倒産をした場合の税務上の取り扱いについて、考えてみたいと思います。

1.債権者の有している債権の取扱い

企業の倒産により、債権者は、債権の回収が不能ないしは著しく困難となりますが、こうした場合に、貸倒損失として処理出来るかという問題があります。

(1)金銭債権が法律上切り捨てられた場合

①会社更生法による更生計画認可、民事再生法による再生計画認可、特別清算に係る協定の認可の各決定により、免除された金額については、その決定が確定した日が属する事業年度の損金の額に算入することができます。

また、更生、民事再生、破産、特別清算のそれぞれの開始が申し立てられた早期の段階においても、債権額の100分の50に相当する金額を、同様に処理することも可能です。

なお、特別清算の場合は、貸倒損失として認められるのは、上記のように協定による場合だけで、協定ではなく、個別債権者との和解による債権放棄(いわゆる和解型の特別清算)については、当然に免除額について貸倒損失として処理できるものではありません。これを認めず、逆に、債権放棄を「寄附金」とした裁判例があります(東京地裁H29.1.19、控訴審東京高裁同7.26)。

協定型と和解型でこのような取扱いの差があるのは、特別清算の協定型においては、債権消滅にかかる協定及び計画内容の合理性が法令の規制及び裁判所の審査と決定によって客観的に担保されているのに対し、和解型の場合は、そのような法令の規制及び裁判所の審査と決定を欠いていることが大きな理由です。

したがって、特別清算の和解等で解決する場合は、経済的合理性という客観的要件を満たすかどうかの検討をする必要があります。

②法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定、行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって、免除された金額についても、損金の額に算入することは可能です。

これに属するものとしては、中小企業の事業再生等に関するガイドライン、  自然災害被災者債務整理ガイドラインに従い、債権者と協議し、簡易裁判所において、債務免除に関する合意(調停)が成立した場合、また、事業再生ADR制度を利用して合意に至った場合等、いわゆる準則型私的整理手続といわれるものが典型的です。

③債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済をうけることが出来ない場合に、その債務者に対して、書面で債権放棄の意思表示をした場合の、放棄をした金額

「債務超過」「弁済を受けることができない」といった要件に該当するかどうかの判断については、相応の資料の提出を求められます。

(2)債務者の法人格が消滅した場合

破産手続の場合は、上記と異なり、法的な債権の切捨手続がないまま、最終的に破産手続終結決定(配当がない場合は、廃止決定)の確定をもって、法人格が消滅し、その時点で、債権が消滅し、損金経理を経る必要もなく、貸倒があったと解されています。

 

2.資力喪失後の不動産譲渡における譲渡所得の取り扱い

不動産や株式等の譲渡については、通常は、譲渡益に対して譲渡所得税が課税されますが、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合に、強制換価手続、税務署等による滞納処分、債権者による強制執行、金融機関による担保権の実行としての任意競売、破産手続等により、資産を譲渡したことによる所得や強制執行手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡については、譲渡税は課税されません。

 

3.保証債務等の履行をするために、不動産を譲渡した場合の取扱い

(連帯)保証人、物上保証人、身元保証人等が、本来の債務者が債務を弁済しないときに、肩代わりのため、不動産等を売却して、その債務を弁済する場合に、譲渡所得の計算上、所得がなかったものとする特例があります。但し、

(1)本来の債務者が既に債務を弁済できない状態であるときに、債務の保証をしたものでないこと

(2)保証債務を履行するために土地建物等を売っていること

(3)履行をした保証債務の金額又は一部の金額が、本来の債務者から回収できなくなったこと(本来の債務者が破産をしている場合等が該当します。)

の3要件が必要です。

さらに、所得から控除出来る金額についても、制限があります。

所得がなかったことに出来る金額は、以下の金額のうち、一番低い金額です。

(1)肩代わりをした債務のうち、回収できなくなった金額

(2)保証債務を履行した人のその年の総所得金額等の合計額

(3)売った土地建物などの譲渡益の額

また、この特例をうけるためには、確定申告書の提出のほか、計算明細書その他特例の適用を受けるための要件を充足していることを証する資料の提出が必要です。

                   (池田伸之)

【法律コラム 目次】

 

掲載日 テーマ 執筆者
R6.11.15 財産開示期日の後について 小澤
R6.11.7 相続手続の変更点について(その2)(不動産、預貯金の調査) 川瀬
R6.10.24 相続手続の変更点について(戸籍の取り寄せ手続) 山下
R6.10.1 法的な紛争と税制の関係⑥ 倒産と税務上の取り扱い 伸之
R6.9.15 法的な紛争と税制の関係⑤ 不動産取引 石田
R6.9.1 法的な紛争と税制の関係④  生前贈与するなら気をつけたいこと 桂子
R6.8.16 法的な紛争と税制の関係③  離婚と税金 小澤
R6.8.1 法的な紛争と税制の関係②  相続と税金 川瀬
R6.7.1 法的な紛争と税制の関係①  交通事故と所得税 山下
R6.6.21 介護報酬改定で令和6年4月から導入された「高齢者虐待防止の促進」について 小澤
R6.6.14 裁判のIT化で裁判実務はどこまで変わるか 桂子
R6.6.3 フリーランス保護法(正式名称:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)について-その② 伸之
R6.5.24 民法改正による嫡出推定制度に関する変更点 石田
R6.5.1 2024年労働基準法施行規則の改正内容 小澤
R6.4.23 相続登記を免れるために相続放棄をしたらどうなるか 山下
R6.4.17 相続登記の義務化がスタートしました! 川瀬
R6.3.15 最高裁判例紹介⑤ 桂子
R6.3.1 最高裁判例紹介④ 伸之
R6.2.15 最高裁判例紹介③ 石田
R6.2.1 最高裁判例紹介② 小澤
R6.1.25 最高裁判例紹介① (遺贈放棄後の相続財産の帰属) 川瀬
R5.12.15 公正取引委員会『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』について 小澤
R5.12.1 副業・兼業 これからの働き方を使用者側の立場から見てみると 桂子
R5.11.15 副業・兼業について(労働者側の注意点) 山下
R5.11.1 フリーランス保護法(正式名称:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)について 伸之
R5.10.19 社会保険の適用拡大、賃金デジタル払い解禁、育休取得状況公表義務化 ~働き方改革への対応は十分ですか~ 石田
R5.10.2 パワハラの定義と対応(「働き方」に関する労働法制連載) 小澤
R5.9.20 2024年の重大問題-時間外労働に関する法改正と未払残業代請求のリスク 川瀬
R5.9.6 「働き方」に関する労働法制について 山下
R5.8.15 これからの経営者報酬の設計について 桂子
R5.8.1 会社の機関設計 「監査等委員会設置会社」という選択について 桂子
R5.7.1 第6回 所有者不明土地・建物の管理制度 伸之
R5.6.19 第5回 共有物の変更・管理に関する見直し 石田
R5.6.1 第4回 民法の相隣関係の改正について 小澤
R5.5.17 第3回 相続土地国庫帰属制度について 川瀬
R5.5.1 第2回 相続登記が義務化されます!ご注意を 桂子
R5.4.14 所有者不明の土地に関する法律や制度の改正について(第1回) 山下
R5.3.31 財産開示手続について(第2回) 石田
R5.3.15 財産開示手続について 小澤
R5.3.1 自動車に対する強制執行 伸之
R5.2.14 AI(人工知能)と弁護士業務 小澤
R5.2.3 債権回収のセオリー 桂子
R5.1.25 法人破産について(第4回) 山下
R4.12.19 法人破産について(第3回) 石田
R4.12.1 法人破産について(第2回) 伸之
R4.11.15 法人破産について(連載第1回) 小澤
R4.11.1 下請法について(第3回) 桂子
R4.10.17 下請法について(第2回) 川瀬
R4.10.4 下請法について(連載・全3回) 石田
R4.9.21 商標について 4 ~商標とフランチャイズ契約~ 山下
R4.9.5 商標について 3 ~商標・不正競争に関する近時の裁判例の紹介~ 伸之
R4.9.5 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載10 小澤
R4.8.10 商標について 2 ~商標登録手続き、費用の概要~ 小澤
R4.8.2 商標について ~商標とは~ 川瀬
R4.7.25 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第6回~) 桂子
R4.7.11 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載9 小澤
R4.6.17 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第5回~) 山下
R4.6.2 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第4回~) 石田
R4.5.16 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第3回~) 伸之
R4.5.2 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第2回~) 小澤
R4.4.15 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回) 川瀬
R4.4.7 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載8 小澤
R4.4.1 労働審判の手続きで解決できる場合・できない場合とは 桂子
R4.3.28 労働審判手続きでの残業代請求について 山下
R4.3.4 労働審判制度の概要 石田
R4.3.1 紙の約束手形の廃止方針と廃業 小澤
R4.2.15 不正競争防止法における営業秘密保護3 伸之
R4.2.3 不正競争防止法における営業秘密保護2 小澤
R4.1.17 不正競争防止法における営業秘密保護1 川瀬
R4.1.13 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載7 小澤
R3.12.21 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載6 小澤
R3.12.13 賃貸物件の建物明け渡しの強制執行 山下
R3.12.7 子どもの引き渡しを強制的に求める方法は? 桂子
R3.11.26 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載5 小澤
R3.11.16 預貯金債権に関する情報の取得手続について 石田
R3.11.12 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載4 小澤
R3.10.28 給与債権に関する情報の入手手続きについて 伸之
R3.10.15 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載3 小澤
R3.10.11 改正民事執行法~不動産に関する情報取得手続と利用の実情~ 小澤
R3.9.30 民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情 川瀬
R3.9.22 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載2 小澤
R3.9.17 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載1 小澤
R3.9.13 会社法改正に伴う事業報告書の記載事項の変更について 伸之
R3.9.3 社債に関する改正点 山下
R3.8.23 株式交付に関する規定の新設 石田
R3.8.16 土壌汚染対策法の概要 小澤
R3.8.2 会社補償・役員賠償責任保険のルールの新設 小澤
R3.7.20 取締役の報酬に関する規律の見直し 川瀬
R3.7.2 社外取締役を置くことの義務付けについて 伸之
R3.6.7 中小企業とリース契約 小澤
R3.6.1 ハラスメント防止のための社内体制の強化を! ~ハラスメントはどこにでも起こりうる意識をもって~ 山下
R3.5.28 令和に入って初めての会社法の改正~株主総会の運営や取締役の職務執行の一層の適正化~ 桂子
R3.5.18 不正競争防止法を意識していますか 石田
R3.4.26 債権回収の進め方 小澤
R3.4.19 デジタル時代の契約書と文書管理について 川瀬
R3.4.6 身元保証は必要?約束するのなら契約を見直しましょう! 桂子
R3.4.1 情報管理-個人情報保護法改正と情報セキュリティ- 藪内
R3.3.16 スタートアップの資金調達について 桂子
R3.3.3 廃業の前に事業承継の検討を! 伸之
R3.3.3 事業再構築補助金について 小澤
R3.2.18 「最近の正規・非正規の格差解消をめぐる判例」 石田
R3.2.5 アフターコロナを見据えた働き方改革の枠組 山下
R3.1.18 はじめに
ポストコロナに向けて事業見直しの視点~コロナ禍危機下でここからが経営者の勝負どころ~
桂子
R3.12.18 立会人型電子契約に関する論点 藪内
R2.12.10 遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求権への改正による影響について 伸之
R2.11.24 コロナ版ローン減免制度について 石田
R2.11.9 若い人も遺言書を作成してみませんか 川瀬
R2.10.27 非接触事故でも、賠償請求ができますか その2 単独事故として処理された場合  山下
R2.10.2 公益通報者保護法の改正について 小澤
R2.9.18 スタートアップ(独立・起業)で大切にしたい商標と商号 桂子
R2.8.25 法務局における遺言書の保管制度が始まりました 伸之
R2.8.10 発信者情報開示請求 石田
R2.7.17 定期金賠償(令和2年7月9日最高裁)について 川瀬
R2.7.13 孤独死後の法律問題 山下
R2.6.11 土壌汚染が疑われる土地売買その他の注意点 小澤
R2.5.26 テレワークの推進に向けて 桂子
R2.5.21 商標等の「商標的使用」は許されるか、-「商標としての使用」を比較して- 伸之
R2.5.18 新型コロナウィルス感染拡大防止対策に関連する個人情報取り扱いの留意点 藪内
R2.5.12 パワハラ防止法について 石田
R2.5.8 事業の継続、廃止に向けた手続きについて 伸之
R2.5.8 新型コロナウイルス感染症と賃料・テナント料 小澤
R2.5.8 新型コロナウイルス感染症と雇用関係 小澤
R2.5.1 賃貸アパート経営における民法改正の影響(連帯保証について) 川瀬
R2.4.2 民法改正による交通事故の損害賠償請求の影響は? 山下
R2.3.2 刑事事件での『司法取引』について~最近の3事案を参考にして~ 小澤
R2.2.19 発明の進歩性判断~「予測できない顕著な効果」~について 桂子
R2.2.13 【配偶者居住権が新設されます】 藪内
R2.1.28 遺産分割の仕方により、相続税総額が違ってくることはご存知ですか。 伸之
R2.1.20 法定相続情報証明制度について 石田

 

法的な紛争と税制の関係⑤ 不動産取引

民事上の様々な紛争の結果として、不動産の所有権が移転する場合があります。例えば、遺贈や遺産分割等により不動産を相続する場合、離婚の際に居住不動産等を財産分与する場合、不動産を譲渡または贈与する場合などがあります。こうした場合に、課税される税金についてご紹介したいと思います。

また、併せて真正な登記名義の回復についてもお話ししたいと思います。なお、本コラムでは、当事者が個人の場合に限定してお話しします。

 

 

1 不動産を譲渡または贈与する場合

ア.不動産を譲渡する場合

譲渡する側に譲渡所得税が課されます。

なお、不動産の取得価格が、譲渡価格よりも高い場合は、譲渡により利益が出ていないため、譲渡所得税は非課税となります。

譲渡される側は非課税です。

ただし、時価と比較して譲渡価格が著しく低い場合は、実質的には贈与とみなされ、不動産を譲渡された側に、贈与税が課されます(みなし贈与税)。

一般に、譲渡価格が時価の8割を下回る場合は、みなし贈与と判断される可能性があると言われています。

イ.不動産を贈与する場合

贈与する側は非課税ですが、贈与を受ける側に贈与税が課されます。

贈与税を算出するための建物の価格は、固定資産税評価額が用いられます。

土地の価格は、国税庁が毎年公開する「路線価」を用いて算定します。

なお、上記ア、イどちらの場合も、不動産を取得した側に、別途不動産取得税(地方税)及び登録免許税(国税)が課されます。

 

2 不動産を相続する場合

遺贈や遺産分割等により不動産を相続する場合は、相続税が課されます。詳しくは、2024年8月1日付コラム(「法的な紛争と税制の関係② 相続と税金」で解説していますので、そちらをご参照ください。

 

3 財産分与により不動産を取得する場合

離婚の際に財産分与として、居住不動産等を取得する場合は、不動産を譲渡する側に、譲渡所得税が課されます。詳しくは2024年8月16日付コラム(「法的な紛争と税制の関係③ 離婚と税金」で解説していますので、そちらをご参照ください。

 

4 真正な登記名義の回復について

不動産の登記上の名義が、本来の所有者以外の名義になっている場合、これを本来の所有者の名義に修正する必要があります。

例えば、不動産の権利がAからBに移転したが、何らかの理由でBではなくC名義に移転登記がされてしまった場合、B名義に修正することになります。

このとき、C名義の登記を抹消して、A名義に戻し、その後B名義に移転登記をして訂正するというのが、本来のやり方です。

しかし、元の所有者(A)の協力が得られなかったり、誤った所有権の登記をもとに、第三者により抵当権等の設定登記がされた場合で、当該第三者の承諾が得られない場合には、登記名義を修正することが困難となります。そこで、C名義から直接B名義に「真正な登記名義の回復」を登記原因として移転登記をすることが認められています。

この真正な登記名義の回復による所有権移転登記を行うには、現在の登記が実体的な権利関係に合致しない理由や、真正な権利者が権利を有していること、真正な登記名義の回復の必要性があること等を記載した登記原因証明情報の提出が必要となります。

登記原因証明情報を作成するには、法律関係を把握し整理する必要があり、一定の専門知識を要しますので、真正な登記名義の回復を登記原因とする登記を行う必要がある場合は、専門家に相談されることをお勧めします。当法律事務所でもご相談を承ります。

なお、真正な登記名義の回復は、登記内容を修正するために行われるものなので、通常課税されることはありません。

但し、税務署は、登記原因が「真正な登記名義の回復」であれば課税をしないということではなく、登記に至った経緯を調査し、実質的に「贈与」に該当すると判断した場合には、贈与税が課されますので注意が必要です。

(石田美果)

法的な紛争と税制の関係④  生前贈与するなら気をつけたいこと

令和6年からの贈与税のルール変更その他

1 相続が開始すれば、遺言に従って、遺言がなければ法律の定めるところに従って、財産が承継されます。相続を待たずに、確実に財産を承継させたいという場合には生前に贈与を選択します。贈与は契約ですから、受ける方もしっかりとした契約意識が必要です。

相続税対策として、生前贈与で活用されているのは「暦年贈与」です。年間110万円以下の場合は贈与税は発生せず、税申告も不要です。そして、これまで、相続開始時から3年以内の相続人への贈与分は控除にならず持ち戻し相続財産に加算しなければなりませんでした。今年2024年の税制改正により、持ち戻しは3年加算から7年加算に拡大されました。年110万円の暦年贈与は開始から7年以上経過していないと非課税効果を得ることができなくなりました。

もっとも、加算の対象は、遺産を相続する相続人だけであり、相続権のない孫、子の配偶者(嫁や婿)への生前贈与なら、加算はされません。相続権のない親族への生前贈与こそ検討するに値します。

 

2 相続時精算課税制度、60歳以上の親や祖父母が18歳以上の子や孫に行う累計2500万円までの贈与がいったん非課税で行える(贈与税非課税、2500万円を超えた分は一律20%の課税あり)というものですが、この制度を利用すれば、毎年110万円までの贈与分は相続時に加算されません。2024年から110万円まで基礎控除が認められ、相続時の加算無しで、年110万円の生前贈与が可能です。

 

3 生前贈与をより効果的にするためには、生命保険を利用するという方法もあります。例えば、親が子どもに資金を贈与し、子どもはもらった資金で保険料を支払います。この場合の保険契約は、親を被保険者、子どもを契約者・受取人とします。親が亡くなるまで保険金は下りないため、贈与資金の無駄遣いを防ぐことができます。

 

4 最近よく聞くNISA、口座開設の年の1月1日現在において18歳(2022年12月31日以前は20歳)以上の者を対象として、非課税口座で取得した上場株式等について、その配当やその上場株式等を売却したことにより生じた譲渡益が非課税とされる制度です。2024年からの「新しいNISA」では、資産所得倍増などの観点から、非課税期間が無期限となり、非課税保有限度額が拡大されました。生前贈与の資金を新しいNISAを利用して運用するといった方法が考えられます。

 

5 生前贈与の活用を検討するケースとはどんなケースかと言えば、財産を贈与したい人や贈与する目的が決まっているものの、遺言で財産を承継させることに不安がある場合だと思います。被相続人の財産が基礎控除以下の場合は相続税がかかりません。相続税の基礎控除額は相続人の数により変動し、相続人が1人の場合は3,600万円です。これより財産が少ないようであれば、相続税の計算上、生前贈与を行なうメリットはないとも言えます。

 

6 生前贈与は、相続に当たり、特別受益として相続の対象に持ち戻されることがありますので、その点に注意が必要です。共同相続人の中に被相続人から生前贈与などの特別の利益を受けた人がいる場合、相続人間の不公平を是正するため、この特別の利益を特別受益として相続財産に持ち戻す制度があります。各相続人の相続分を計算するときは、相続発生時において有した財産の価額に特別受益にあたる贈与の価額を加えます。特別受益にあたる生前贈与を受けた人は、特別受益を加えて計算した相続分から特別受益を除いた額の財産を受け取ります。生前贈与が特別受益として相続財産に持ち戻されるケースは、婚姻、養子縁組、生計の資本として贈与を受けた場合です。つまり、婚姻や養子縁組の際の持参金や開業資金、住宅購入資金などが該当し、通常の扶養の範囲に含まれるものは該当しません。

被相続人が特別受益の持ち戻しを免除する意思表示をした場合は持ち戻しの対象になりません(ただし、前記遺留分の制約は受けます)。また、婚姻期間が20年以上の夫婦間の居住用不動産の贈与についても持ち戻しの対象になりません。

 

財産の承継は、必要に応じて、また諸制度をよく考えて活用する必要があります。迷ったときには相談をされることをお勧めします。

<池田桂子>

 

法的な紛争と税制の関係③  離婚と税金

紛争の場面で税金が問題になる場合の連載第3回のテーマは,『離婚と税金』です。

離婚をしたからといって原則として税金が課税されることはありませんが,例外的に税金がかかる場合があり,注意が必要です。

以下では,離婚に伴って典型的に税金が問題となるケースを取り上げます。

 

1 財産分与と税金

夫婦が婚姻中に築き上げた共有財産は,離婚時あるいは別居時を基準として,基本的に2分の1ずつに分けることになります。

これを『財産分与』(ざいさんぶんよ)と言います。

(1)財産分与が金銭で支払われる場合

財産分与が金銭で支払われる場合には,原則として税金はかかりません。

これは,財産分与を渡す側(分与者)にも,分与を受ける側でも同じです。

(2)財産分与が金銭以外の財産で行われる場合

しかし,金銭以外の財産(例えば,不動産)で財産分与をする場合には,譲渡所得税の対象となり,課税がされます。法的には,譲渡所得税の課税要件である「資産の譲渡」(所得税法33条1項)に該当し,譲渡所得が生じますので,この所得に対して所得税が課税されることになります。

そして,譲渡所得の額は財産分与時の時価で算出されることになります(時価であって,相続税評価額などで譲渡所得の額が計算されるわけではないことに注意が必要です)。

具体的には,離婚する場合に,例えば夫名義の所有物件(時価5000万円・購入価格4500万円)に夫婦が居住していたものの,夫が別居して自宅を出て行った場合に,妻が財産分与として夫名義の物件の財産分与を求めて,所有物件が夫から妻に財産分与された場合には,夫には時価5000万円の不動産を譲渡したことでの譲渡所得税が課税される可能性がある(時価5000万円に対して,そもそもの購入額=取得費4500万円ですので,その差額分が利益になり,利益分の500万円に対して譲渡所得がかかります)ことになります(実質的に夫婦共有財産であれば,分与する者が有した持分のみが譲渡所得の対象となる財産の移転と考えられるとする東京高裁判決もありますので,裁判例にも注意を払う必要があります)。

なお,居住用不動産については,税制上の優遇措置もあるので,優遇措置の視野に入れる必要があります。

(3)まとめ

したがって,弁護士として,離婚のご依頼をいただく場合,特に財産を分与する側にとって,金銭以外での財産分与は税金でさらに財産が減少するリスクがありますので,この点も十分考慮に入れて頂く必要があります。

 

2 慰謝料と税金

法的な紛争と税制の関係①(https://ikeda-lawoffice.com/law_column/)で詳しく触れていますが,離婚に伴う慰謝料も基本的には損害賠償金と捉えられますので,慰謝料を受け取った側に所得税が課税されることはありません。

実務的には,調停や訴訟での和解の場合,『慰謝料』という言葉を使わずに,『解決金』という用語で金銭の支払いを定めることがあります。

この場合には,『解決金』が損害賠償金の実質があるかどうかが問題となり,仮に損害賠償金の実質が無いということであれば,解決金を受け取った側に贈与税が課税される可能性があります。

税務署の調査にも対応できるように,調停の資料や訴訟資料は保管しておくことが大切です。

 

3 養育費と税金

(1)毎月払いの養育費の場合

毎月支払うことと定められている養育費は,養育費を受け取る側に贈与税は課税されません。

これは,養育費の支払いは,親の子に対する扶養義務を果たすためですので,通常必要と認められている金額であれば非課税とされているためです(相続税法21条の3第1項2号)。

同居している夫婦が生活費や教育費を出しても,生活費や教育費を受け取った側に贈与税が課税されないのと同じことです。

(2)一括払いの養育費の場合

養育費は原則,(1)のように,毎月後払いですが,合意により一括で受け取ることもありうるところです。

養育費を一括して受け取る場合,扶養義務を果たすために通常必要と認められる金額を超えるとして,受け取る側に贈与税が課税される可能性があります。

同居している夫婦が,子が例えば20歳になるまでの10年間分の生活費や教育費を前払いすることは基本的に無いことはご理解いただけることだろうと思います。

ご依頼を受ける中では,離婚した後も養育費をきちんと毎月支払ってくれるか心配なので,離婚時に一括で養育費を受け取りたいというご要望をいただくこともあります。

養育費を一括で受け取る場合には,贈与税が課税され,贈与税の税率は高率ですので,想定よりも多額の税金が課税され,実質的に養育費が目減りするという事態が生じえます。

(3)まとめ

したがって,将来にわたって養育費を受け取り続けられるかという心配はありますが,弁護士としては基本的に毎月払いでの養育費をおすすめすることになります。

 

4 最後に

最初にも触れていますが,離婚にともなって税金が課税されることは基本的にありません。しかし,場合によっては税金が生じますし,税金の点も含めて適切に対応する必要があります。

池田総合法律事務所では,税理士とも協働しながら,適切な解決に向けた対応をさせていただくことが可能ですので,離婚などでお悩みの方は池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

法的な紛争と税制の関係② 相続と税金

1 はじめに

法的紛争の中でも、相続の分野は、税金との関わりが大きい分野の1つです。我々弁護士が依頼を受ける時も、税理士さんと協力し合いながらすることもありますし、そもそも弁護士より先に税理士さんにご相談されているケースも少なくありません。

以下では、相続が開始した時の税金に関する留意点、法的紛争に至った際の税金に関する留意点をご紹介します。

 

2 相続が開始時の税金に関する留意点

⑴ 相続による遺産の承継

人が死亡すると相続が開始します(民法882条)。

相続が開始すると、相続人は、相続放棄をしない限り、被相続人(亡くなった方)の財産(遺産)を引き継ぎます(民法896条・939条)。

このときに、被相続人の遺言がある場合には、その遺言の記載に従って財産を引き継ぐことになりますが、遺言書がなく、相続人が複数いる場合には、相続人間で遺産分割協議をして、誰がどの財産を引き継ぐかを決めます(民法907条1項)。協議でまとまらない場合には、家庭裁判所で調停や審判の手続をします。

このように、相続が開始すると、遺言もしくは遺産分割協議や調停・審判によって遺産の引継ぎ方を決めることになりますが、それと並行して、税金のことを考える必要があります。

一般的に検討を要することが多いのが、相続税申告と所得税の準確定申告の要否です。

⑵ 相続税申告

相続や遺贈によって財産を取得するなどした人は、相続税を納める義務があります(相続税法1条の3)。もっとも、相続税については、基本的に相続財産が基礎控除額(3000万円+600万円×相続人の数)以下であれば申告の必要がありません。ただし、例えば相続財産が現預金だけであれば金額の計算がしやすいですが、不動産など金額の評価が難しい財産がある場合には、税理士さんにご相談されることをお勧めします。また、相続財産の金額自体は基礎控除額を超えるが、いわゆる小規模宅地の特例や配偶者の税額軽減の適用を受けることによって相続税がかからない場合という場合でも、相続税の申告自体はする必要があります。

⑶ 所得税の準確定申告

被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡した日までに得た収入については、相続人において、所得税の準確定申告という手続をしなければなりません。例えば、被相続人が生前に賃貸物件を所有しており、賃料収入を得ていた場合には、この準確定申告をすることになります。相続人は、相続が開始したことを知った日から4か月以内に申告・納税をしなければなりません。

 

3 遺産分割と相続税

⑴ 遺産分割の期限と相続税申告の期限

上記のとおり、遺言書がなく、相続人が複数いる場合には、相続人間で遺産分割協議をします。遺産分割協議自体に期限はないため(ただし相続開始から10年を経過すると特別受益と寄与分の主張ができなくなります(民法904条の3))、分割の仕方でもめているケースでは、相続開始(被相続人の死亡)後、遺産分割協議や調停・審判が成立するまでに2,3年以上かかることも少なくありません。一方で、相続税の申告・納付期限は、相続開始を知ったときから10か月です。相続税の申告期限までに遺産分割協議や調停・審判が成立していなかったとしても、申告・納税自体は可能ですし、しなければなりませんが、未分割のままですと、その時点では、小規模宅地の特例や配偶者の税額軽減を受けることができなくなります(定められた手続きをすることで、後で遡って適用を受けられる可能性はあります)。

したがって、この10か月の申告に間に合うように協議をすることが最初の目標となります。なお、調停・審判手続に移行した場合には、10か月以内に成立させることはなかなか困難です。

⑵ 未分割のまま申告をするケース

未分割のまま申告をした場合には、その時点で各相続人が負担する相続税の金額と、遺産分割が成立した段階で各相続人が負担する相続税の金額が異なることがあります。このような場合には、その差額の清算をどのようにして行うのか(当事者間で清算をするのか、最終的な遺産分割の内容に従って修正申告や更正の請求をするのかなど)を決めておく必要があります。

⑶ 遺産分割と相続税申告における相違

ア 財産の取扱いの違い

次に、遺産分割の場面と相続税申告の場面では、同じ財産についても扱いが異なることがあるため、注意が必要です。例えば、死亡保険金は、遺産分割の場面では原則として受取人固有の財産であり遺産ではないという扱いをしますが、相続税申告の場面ではみなし相続財産として相続税課税の対象となります(相続税法3条)。また、相続人に対する生前贈与については、遺産分割の場面では相続財産ではないことを前提に、一定の条件の下で「特別受益」として分割に影響を与える扱いになりますが(民法903条)、相続税の場面では、相続人の死亡から遡って一定期間内になされた生前贈与については相続税課税がなされます(相続税法19条)。

イ 遺産分割のやり直しにおける違い

さらには、遺産分割協議のやり直しの場面でも違いが生じます。遺産分割協議自体は、すべての相続人が同意をすれば、何度でもやり直すことができますが、税金的には、遺産分割協議をやり直して各相続人が取得する遺産が変わった場合、贈与があったとみなされて贈与税が課税される可能性があります。

 

4 遺留分侵害額請求と相続税

遺留分侵害額請求をして、請求者が一定の金額を受け取った場合、その者には受け取った金額に応じた相続税が課され、支払者は支払った金額を控除して算出された相続税額を課されることになります。

相続税の申告期限までに遺留分侵害額請求に関する紛争が解決している場合には、遺留分侵害額を踏まえた相続税申告をすれば足りますが、申告期限までに紛争が解決しなかった場合には、まずは遺留分侵害額請求がない前提での申告・納税を行い、後に当事者間で清算をするか、もしくは各々修正申告と更正の請求をすることになります。

(川瀬 裕久)

法的な紛争と税制の関係①  交通事故と所得税

1 法的な紛争と税制の関係

事業などの経済活動やそれに付随する紛争、また親族間の離婚・相続などでは、現預金やその他の財産などの財産的価値の移転を伴うことが少なくありません。そのような場合無視できないのが税金の問題です。最適だと思われた解決案や手段も、発生する税金の点を合わせ考えると別の解決案や手段の方が望ましいということもありえます。今回から、何回かに分けて、紛争の場面で税金がどのような形で問題になるか、解説します。

 

2 交通事故の損害賠償と所得税

(1) 損害賠償と所得税

初回の本記事では、交通事故などの不法行為の損害賠償の場面で、所得税がどのような関わりを持ってくるかについて、基本的な考え方について説明します(なお、具体的な事例に応じた課税、非課税の判断には、専門的な知識が必要ですので、迷われた場合には税理士へのご相談が必須です)。

交通事故の場合、物損の修理費用や事故当時の時価額、お怪我についての慰謝料、休業損害や後遺障害による将来の逸失利益などが損害賠償の対象になり、損害賠償金を受け取ることができ、これらの損害賠償金は高額になることもあります。多額の賠償金を受け取った場合、所得税が課税されるのでしょうか。

(2) 結論と、「所得」についての大まかな考え方

結論として、基本的に、所得税は課税されません。受け取る損害賠償金が高額であるかではなく、「所得」に該当するか、が問題となるからです。

なにが所得に当たるかは、所得税法の細かな規定の説明も必要で、単純明快な説明は困難です。そこで、大枠の考え方を説明すると、一定の期間中の所得は、一定の期間中の財産的価値の増加分とされています。そのような財産的価値の増加分の把握・測定の仕方は一工夫が必要で、一定の期間の消費額と期間前後の財産的価値の増加分を足し合わせることによって把握・測定するとされています(より詳細な説明としては「サイモンズの定式」で検索すると、理論的な説明が出てくるはずです)。

従前からの資産の蓄積部分(いわゆる、元手や資本に近いといえます)は所得には当たらないのです。そして、先に挙げた損害賠償金は、このような元手や資本が毀損された部分の補填に当たり、元手や資本が形を変えたものにすぎないので、所得には当たらない、というのが理論的な説明です。お怪我に対する賠償が元手や資本が毀損された部分の補填にあたる、というのはやや違和感がありますが、健康の大切さを俗に「体が資本」と表現したりするのと近い考え方かと思います。

(3) 損害費目に応じた説明

ただ、先にあげた損害項目のうち、休業損害や将来の逸失利益は、事故がなければ所得税が課税されるべき部分とも考えられます。この点について、昭和36年の税制調査会答申が、「理論にのみはしらず、常識に支持されるものでなければならない」というスタンスを示したようで、結果、次のような整理がなされました。

慰謝料や休業補償などの人的損害に対する補償については、仮に事業所得の補償であっても非課税にするのが常識的との観点から、慰謝料も含む「心身に加えられた損害」は非課税とされ(所得税法9条1項18号)、給与の補償については非課税であることが政令に明記されています(所得税法施行令30条1号括弧書き)。

物的損害に対する補償については、「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金」は非課税とされました(所得税法9条1項16号、所得税法施行令30条2号)。ただし、暴走した自動車が店舗に飛び込んだケースで、売り物にならなくなった棚卸資産や休業損害は、所得税が課税されるので注意が必要です。

(4) 「損害賠償金」かどうかの実質的判断

ここまで損害賠償は基本的に所得税の対象とならないとの説明をしてきました。交通事故の場合、損害の賠償であることが明確な場合が多いので問題は少ないとは思います。もっとも、損害賠償にあたるかは実質的に判断されるので、名目を「損害賠償金」として支払えば全額が非課税になるわけではないので、注意が必要です。

実際に、マンション建設業者が反対住民に、損害賠償のためと明確に合意して支払った310万円のうち、実際の損害の填補部分は30万円以上ではないとして、残額については「建設の承諾を受けるための対価」であり一時所得とした裁判例(大阪地判昭和54年5月31日行集30巻5号1077頁)があります。

先にも触れましたが、事例に応じた課税、非課税の判断には、原則だけでなく細かな例外の知識や、通達や判例の専門的な知識が必要ですので、迷われた場合には税理士などの専門家へご相談ください。

山下陽平