下請法改正(2)

前回の下請法改正(1)に引き続き,製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)の概要を解説します。

 

1 運送委託の対象取引への追加

前回の下請法改正(1)でもふれましたが(リンクはる),発荷主と元請運送事業者との関係にも取適法が適用されることになります。

これまでは,製造,修理,情報成果物の作成,役務(サービス)提供の委託取引に下請法の規制は限定されていました。この役務提供の委託取引は,「再委託」を指していたので,運送業者が別の運送業者に運送というサービスを再委託した場合には,下請法の規制が及んでいました。

他方,メーカーや卸売事業者等が,荷主として,自社で製造した製品や自社で販売する商品の顧客向けの運送を運送業者に委託したとしても,「再委託」ではなく,下請法の規制が及ばないので,メーカーや卸売事業者等と,その物流を担う運送業者との間には独占禁止法以外の規制がありませんでした。

しかし,メディアなどでも取り上げられているように,メーカーや卸売事業者等の発荷主が運送業者に対して,無償で荷役をさせたり,指定された日時に物品を納入することを求めた結果等で荷待ちを求められたりという問題が顕在化してきました。

そのため,取適法2条5項で新たに「特定運送委託」という取引が定められ,発荷主と運送業者との間にも,取適法の規制が及ぶようになります。

そこで,発荷主としては,取適法の規制対象となる運送業者との取引の洗い出しを行ったうえで,取適法4条が定める代金の額,サービスの内容,支払期日・支払方法その他の事項が明示された書面を中小受託事業者に対して交付するように運用を修正する必要があります。加えて,取適法3条が定める運送サービスの提供を受けた日から60日の代金支払も遵守する必要があります。

また,運送業者としては,取適法の規制する特定運送委託に該当するかを,個々の荷主毎に検討し,燃料費や人件費の高騰での運送事業の採算悪化を改善できるよう,荷主側と交渉するきっかけにできれば,事業継続がし易くなると思われます。

 

2 従業員基準の追加

下請法では,下請法の規制対象となる場合を資本金を基準として定めていました。

しかし,事業規模に比べて資本金が少額である事業者には下請法の規制が及ばず,さらには減資をすることで下請法の規制を免れる事例や,そもそも受注者側に増資を求めて規制を免れようとする事例もあったとのことです。

そこで,取適法では,従業員数の基準が新設されます。

具体的には,

①製造委託,修理委託,情報成果物作成委託(プログラムの作成に限定),役務提供委託(運送,物品の倉庫保管,情報処理に関するものに限定),特定運送委託

「従業員300人超」の事業者が,「従業員300名以下(個人も含む)」に製造委託する場合

②①以外の情報成果物作成委託・役務提供委託

「従業員100名超」の事業者が,「従業員100名以下(個人も含む)」に情報

成果物作成委託,役務提供委託をする場合

が従業員数の基準となります。

そこで,取適法の規制が始まる前に,取引先の従業員数も確認しておき,規制に備えておく必要があります。

 

 

3 最後に

今回の改正により、取適法の規制が始まる前に事業者として準備する必要がある事項があります。

今回の改正では,事業を所管する事業所管省庁にも指導・助言権限が付与されることになりますので,コンプライアンスの観点からも,取適法の内容を正確に把握し,事業が法規制に合致しているのかを整理していく必要があります。

事業をするうえでコンプライアンスに関するアドバイスは,池田総合法律事務所でも多数の事業者様に提供している主要なサービスの1つです。御社の対応は万全ですか。是非、一度,当総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))

下請法改正(1)

下請法改正の概要

「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」(改正下請法)が令和7年5月16日に成立し、同月23日に公布されました。施行日は令和8年1月1日とされています。

改正により、従来の「下請代金支払遅延等防止法」という名称は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)に改められます。

近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、物価上昇を上回る賃上げを実現するためには、事業者がこの原資を確保する必要があります。そして、中小企業をはじめとする事業者が各々賃上げの原資を確保するためには、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させることが重要と考えられます。今回の改正は、発注者と受注者の対等な関係を基盤に、事業者間の価格転嫁や取引の適正化を進めることを目的としています。

主な改正内容としては、規制内容の追加(価格協議の義務化、手形払等の禁止)、適用範囲の拡大(特定運送委託の追加、従業員数基準の導入)を中心に、執行の強化、法律名・用語の変更などが含まれています。

本記事では、規制内容の追加、法律名・用語の変更、及びその他の改正事項について、詳述します。

なお、改正により法律名・用語の変更がなされていますが、混乱を避けるため、本記事では従来の用語(「下請法」「下請事業者」「親事業者」等)を使用しています。

 

1 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止(取適法5条2項4号)

近年のコスト上昇の中、協議することなく価格を据え置いたり、コスト上昇に見合わない価格を一方的に決めたりするなど、上昇したコストの価格転嫁が問題視されています。

改正前においても、「買いたたき」(発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い下請代金を不当に定めること)は禁止されていました。しかし、通常支払われる対価とは同種又は類似品等市価を指すため、買いたたきに該当するかを判断する際には、市価の認定が必要となります。買いたたきとは別途、対等な価格交渉を確保する観点から、適切な価格転嫁が行われる取引環境の整備が求められています。

そこで、改正により、親事業者が、下請事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、親事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に下請代金を決定することが禁止されます。

例えば、運送会社A(親事業者)が、運送会社B(下請事業者)から代金の引き上げについて協議を求められたにもかかわらず、これを無視して協議に応じなかった場合や、機械メーカー(親事業者)が、部品メーカー(下請事業者)から代金の引下げの説明を求められたにもかかわらず、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、代金の額を引き下げた場合などが該当し、こういった行為が禁止されます。

これにより、発注者と受注者が対等に価格交渉を行い、適切な価格転嫁が進むことが期待されます。

 

2 手形払等の禁止(取適法5条1項2号)

改正前においては、下請代金の支払いにおける手形利用は一定の条件の下で認められていましたが、親事業者が下請事業者に資金繰りに係る負担を求める商慣習が問題視されていました。

そこで、改正により、下請代金の支払いに手形を使用することが全面的に禁止されます。また、その他の支払手段(電子記録債権やファクタリング等)についても、支払期日までに下請代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難なものは禁止されます。

手形等を用いて下請代金の支払いを行っている場合、速やかに対応を検討する必要があります。

 

3 運送委託の対象取引への追加(取適法2条5項、同条6項)

改正前においては、下請法の適用対象となる取引は、「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」の4つでした。

このうち、「役務提供委託」とは、他者から運送やビルメンテナンスなどの各種サービス(役務)の提供を請け負った事業者が、請け負った役務の提供の全部または一部を他の事業者に委託すること(再委託)をいいます。メーカーや卸売事業者等が、自社で製造した製品や自社で販売する商品を顧客に向けて運送する際、荷主として運送を運送事業者に委託することは、いわゆる自己利用役務に当たり、適用対象外とされていました。

しかし、立場の弱い物流事業者が、荷役や荷待ちを無償で行わされているなど、荷主・物流事業者間の問題がありました。

そこで、改正により、事業者が、販売する物品、製造を請け負った物品、修理を請け負った物品又は作成を請け負った情報成果物が記載されるなどした物品について、その取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対して運送する場合に、その運送の行為を他の事業者に委託すること(=「特定運送委託」)が、下請法の対象取引として追加されます。

これにより、物流業界における適正取引が進み、立場の弱い事業者の保護の強化が期待できます。

 

4 法律名・用語の変更(取適法2条8項、同条9項)

従来使用されていた「下請」や「親事業者」という用語は、上下関係を連想させ、発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるといった批判がありました。また、時代の変化に伴い、発注者である大企業の側でも「下請」という用語は使われなくなっています。

そこで、改正により、以下の法律名・用語が変更されます。

「親事業者」→「委託事業者」

「下請事業者」→「中小受託事業者」

「下請代金」→「製造委託等代金」

「下請代金支払遅延等防止法」→「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」

新たな法律名の略称は「中小受託取引適正化法」、通称として「取適法」が想定されています。

これに伴い、旧名称を使用した社内規程やマニュアル類、帳票類の修正が求められます。

 

5 その他の改正事項

⑴ 製造委託の対象物(取適法2条1項)

改正前においては、メーカー等の物品の販売や製造を行っている事業者が、自社製品を製造するための型等の製造を他の事業者に委託する場合において、専ら物品等の製造に用いられる金型のみが製造委託の対象物とされており、木型、治具等については、製造委託の対象物とされていませんでした。

そこで、改正により、専ら物品等の製造に用いられる木型、治具等についても、金型と同様に製造委託の対象物として追加されます。

 

⑵ 発注内容等の明示義務(取適法4条)

口頭発注による様々なトラブルを未然に防止するため、親事業者は発注に当たり、発注内容(給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法)等を書面又は電子メールなどの電磁的方法により明示しなければなりません。

改正前においては、明示方法について、下請事業者から事前の承諾を得たときに限り、書面の交付に代えて、電磁的方法によることができるとされていました。

しかし、改正により、下請事業者の承諾がなくとも、電磁的方法によることができるようになります。

 

⑶ 遅延利息を支払う義務(取適法6条2項)

改正前においては、下請代金の支払遅延について、親事業者に対し、その下請代金を支払うよう勧告するとともに、遅延利息を支払うよう勧告することとされていましたが、減額については規定がありませんでした。

そこで、改正により、親事業者が、下請事業者に責任がないのに、発注時に決定した下請代金の額を減じた場合、起算日から実際に減じた額の支払いをするまでの期間について、減じた額に対して遅延利息を支払う義務が新たに追加されます。

 

⑷ 勧告規定の整備(取適法10条)

改正前においては、受領拒否等をした親事業者が勧告前に受領等をした場合や、支払遅延をした親事業者が勧告前に代金を支払った場合に、勧告ができるかどうかが規定上明確となっていませんでした。

そこで、改正により、既に違反行為が行われていない場合等の勧告に係る規定を整備し、勧告時点において委託事業者の行為が是正されていた場合においても、再発防止策などを勧告できるようにします。

 

終わりに

今回の改正により、発注者と受注者の関係がより対等なものとなり、取引環境の適正化が期待されます。特に価格転嫁の問題や手形払の禁止、運送委託の対象取引追加など、実務に直接的な影響を与える改正が多く含まれています。この改正法の施行により、下請事業者の立場が一層強化され、健全な取引環境が整備されることが期待されます。

(栗本真結)

 

区分所有法の改正2025~マンション等の区分所有建物の再生と管理を円滑に~

多数の所有者が維持管理する集合住宅は専用部分と共用部分からなり、建物全体の管理や修繕、建替えなど重要なことについて、所有者皆の意見を反映するようにする必要があります。こうしたことを規律するのが区分所有法という法律です。制定されたのは1962年で社会の変化に応じて、改正が度々行われてきました。

今回は、2025年5月に改正された内容について整理してみます。施行の予定は来年4月です。

 

集合住宅の老朽化が進行し、5棟に1棟は築40年を超えている状態だと言われます。また、居住者の高齢化も進みます。さらにこの頃は、所有者の中にも居住していない空き家が増えています。

 

マンションなどの共同住宅では、維持、管理、建替えに、決議要件が定められています。多数要件を充たすのが難しくなり、徐々に緩和することが必要となってきました。改正の要点は以下の通りです。

<決議要件の緩和>

〇建替え 区分所有者及び議決権の賛成の要件

これまで、5分の4以上 ⇒ 4分の3以上

〇共用部分の構造にかかわる大規模な修繕

所有者の4分の3以上 ⇒ 集会出席者もしくは所有者の3分の2以上

〇共用部分の変更(やバリアフリー基準への適合のための変更)

4分の3以上 ⇒ 3分の2以上

〇共用部分の修繕

所有者の過半数 ⇒ 集会出席者の過半数

 

<管理の円滑化>

〇所在不明の所有者がいる場合

裁判所が管理人を指名することができます

〇海外在住の所有者への対応

所有者に海外居住者がいることも当たり前の時代です。これへの対処として、国内の管理人を指名することができます(任意)。

 

重要な財産の価値が下がらないうちに、また、集合住宅の居住者同士気持ちよく隣人生活を送ることができるように、財産の品質を維持し、先のことを考えながら備えたいものです。

当然のことながら、法律が変わることにともない、管理計画や規約の見直しが必要です。

これまで、管理組合の議決により、管理を委託することは行われてきました。技術的なことも含め専門家の知識は欠かせません。外部の専門的な知識を持つ管理者に委託して行われることも、今後法制化が検討されていくようです。

 

さらには、今日的課題として、電子化された総会や議決の確認の連絡方法の見直し災害時の避難や対応ルールなど、検討すべき課題はたくさんあります。検討すべきことはお早めに!

(池田桂子)

公益通報者保護法の一部改正について

本年6月4日に、公益通報者保護法の一部改正が成立しました。公布日から1年6月以内の施行ということになっており、これにより公益通報者の保護が一層強化されますので、これを機会に、既に企業の内部通報制度を運用している企業にあっては見直しを、これから導入しようという企業にあっては、今回の改正を踏まえて制度構築をする必要があります。

今回の改正の概要は以下の通りです。内部通報、公益通報者保護法全般については、これまでのブログを参照して下さい。

(1)従事者指定義務違反をした事業者への対応

常時使用する労働者数が300人超の事業者は、公益通報を受け、調査・是正措置をとる業務への従事者を定めなければならないこととされていますが、従前認められていた内閣総理大臣の指導、勧告権限に加え、勧告に従わない場合の命令権、この命令に違反したときの刑事罰(30万円以下の罰金)を新設しています。

また、従事者指定義務違反の事実が公益通報の対象事実とされており、指定義務を履行していない事業者については、労働者等から公益通報される危険があり、至急体制を整えて従事者を指定する必要があります。

(2)公益通報者の範囲の拡大

公益通報者の範囲に、フリーランス及び業務委任関係が終了して1年以内のフリーランスが追加され、公益通報を理由とする業務委任契約の解除その他の不利益な取扱いが禁じられています。

(3)公益通報を阻害する要因への対処

事業者が、正当な理由なく、労働者等に公益通報をしないことの合意を求めること等によって、公益通報を妨げる行為をすることを禁止し、これに違反した法律行為は無効とされます。

また、事業者が正当な理由なく、公益通報者を特定することを目的とする行為も禁止しています。

(4)公益通報を理由とする不利益な取扱いについての抑止、救済の強化

公益通報者に対する解雇は従来より無効とされていましたが、改正により、懲戒も無効とされることになりました。通報後1年以内(又は、事業者が外部通報があったことを知って解雇又は懲戒をした場合は、事業者が知った日から1年以内)の解雇または懲戒は、公益通報を理由としてされたものを推定すると定められ、民事訴訟法上の立証責任が、事業者側が負担することになります。すなわち、事業者側で公益通報を理由としたものではないことの立証をする必要があります。

さらに、公益通報を理由として解雇又は懲戒したものに対し、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が課せられることになり、法人自体についても、3000万円以下の罰金が課せられることになりました。

また、一般職の国家公務員等についても、公益通報を理由とする不利益取扱いを禁止し、これに違反して、分限免職または懲戒処分をした者に対しても、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金刑が適用される旨の規定が新設されました。私企業にとどまらず、公務員を含めて、社会全般の内部通報者保護を拡大していこうとするものです。

当事務所では、複数企業等の内部通報制度の窓口を受任しており、また、従事者に指定されている弁護士も在籍しております。制度導入を検討されているような場合には、是非ともご相談下さい。

(池田伸之)

【法律コラム 目次】

 

掲載日 テーマ 執筆者
R7.9.17 下請法改正(2) 小澤
R7.9.2 下請法改正(1) 栗本
R7.8.19 区分所有法の改正2025~マンション等の区分所有建物の再生と管理を円滑に~ 桂子
R7.8.1 公益通報者保護法の一部改正について 伸之
R7.7.3 財産分与に関する改正 石田
R7.6.16 養育費に関する民法改正 小澤
R7.6.9 養子縁組に関する改正 川瀬
R7.5.22 面会交流に関する改正 山下
R7.5.1 離婚後の子どもの監護(養育)に関するルールについて 栗本
R7.4.16 家族法の改正で、これからの「家族」の行方は? 桂子
R7.4.1 情報流通プラットフォーム対処法(以下、情プラ法と略記します。)について (運用状況の透明化)― その2 伸之
R7.3.18 情報流通プラットフォーム対処法について 石田
R7.3.3 刑事手続と証拠 小澤
R7.2.26 各種アカウントのパスワードをどう相続人に知らせるか・・・。 山下
R7.2.19 相続土地国庫帰属制度の運用状況 川瀬
R7.1.23 業績連動報酬のこれから 桂子
R6.12.15 遺言書保管制度のその後 伸之
R6.12.4 発信者情報開示請求 石田
R6.11.15 財産開示期日の後について 小澤
R6.11.7 相続手続の変更点について(その2)(不動産、預貯金の調査) 川瀬
R6.10.24 相続手続の変更点について(戸籍の取り寄せ手続) 山下
R6.10.1 法的な紛争と税制の関係⑥ 倒産と税務上の取り扱い 伸之
R6.9.15 法的な紛争と税制の関係⑤ 不動産取引 石田
R6.9.1 法的な紛争と税制の関係④  生前贈与するなら気をつけたいこと 桂子
R6.8.16 法的な紛争と税制の関係③  離婚と税金 小澤
R6.8.1 法的な紛争と税制の関係②  相続と税金 川瀬
R6.7.1 法的な紛争と税制の関係①  交通事故と所得税 山下
R6.6.21 介護報酬改定で令和6年4月から導入された「高齢者虐待防止の促進」について 小澤
R6.6.14 裁判のIT化で裁判実務はどこまで変わるか 桂子
R6.6.3 フリーランス保護法(正式名称:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)について-その② 伸之
R6.5.24 民法改正による嫡出推定制度に関する変更点 石田
R6.5.1 2024年労働基準法施行規則の改正内容 小澤
R6.4.23 相続登記を免れるために相続放棄をしたらどうなるか 山下
R6.4.17 相続登記の義務化がスタートしました! 川瀬
R6.3.15 最高裁判例紹介⑤ 桂子
R6.3.1 最高裁判例紹介④ 伸之
R6.2.15 最高裁判例紹介③ 石田
R6.2.1 最高裁判例紹介② 小澤
R6.1.25 最高裁判例紹介① (遺贈放棄後の相続財産の帰属) 川瀬
R5.12.15 公正取引委員会『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』について 小澤
R5.12.1 副業・兼業 これからの働き方を使用者側の立場から見てみると 桂子
R5.11.15 副業・兼業について(労働者側の注意点) 山下
R5.11.1 フリーランス保護法(正式名称:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)について 伸之
R5.10.19 社会保険の適用拡大、賃金デジタル払い解禁、育休取得状況公表義務化 ~働き方改革への対応は十分ですか~ 石田
R5.10.2 パワハラの定義と対応(「働き方」に関する労働法制連載) 小澤
R5.9.20 2024年の重大問題-時間外労働に関する法改正と未払残業代請求のリスク 川瀬
R5.9.6 「働き方」に関する労働法制について 山下
R5.8.15 これからの経営者報酬の設計について 桂子
R5.8.1 会社の機関設計 「監査等委員会設置会社」という選択について 桂子
R5.7.1 第6回 所有者不明土地・建物の管理制度 伸之
R5.6.19 第5回 共有物の変更・管理に関する見直し 石田
R5.6.1 第4回 民法の相隣関係の改正について 小澤
R5.5.17 第3回 相続土地国庫帰属制度について 川瀬
R5.5.1 第2回 相続登記が義務化されます!ご注意を 桂子
R5.4.14 所有者不明の土地に関する法律や制度の改正について(第1回) 山下
R5.3.31 財産開示手続について(第2回) 石田
R5.3.15 財産開示手続について 小澤
R5.3.1 自動車に対する強制執行 伸之
R5.2.14 AI(人工知能)と弁護士業務 小澤
R5.2.3 債権回収のセオリー 桂子
R5.1.25 法人破産について(第4回) 山下
R4.12.19 法人破産について(第3回) 石田
R4.12.1 法人破産について(第2回) 伸之
R4.11.15 法人破産について(連載第1回) 小澤
R4.11.1 下請法について(第3回) 桂子
R4.10.17 下請法について(第2回) 川瀬
R4.10.4 下請法について(連載・全3回) 石田
R4.9.21 商標について 4 ~商標とフランチャイズ契約~ 山下
R4.9.5 商標について 3 ~商標・不正競争に関する近時の裁判例の紹介~ 伸之
R4.9.5 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載10 小澤
R4.8.10 商標について 2 ~商標登録手続き、費用の概要~ 小澤
R4.8.2 商標について ~商標とは~ 川瀬
R4.7.25 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第6回~) 桂子
R4.7.11 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載9 小澤
R4.6.17 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第5回~) 山下
R4.6.2 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第4回~) 石田
R4.5.16 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第3回~) 伸之
R4.5.2 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第2回~) 小澤
R4.4.15 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回) 川瀬
R4.4.7 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載8 小澤
R4.4.1 労働審判の手続きで解決できる場合・できない場合とは 桂子
R4.3.28 労働審判手続きでの残業代請求について 山下
R4.3.4 労働審判制度の概要 石田
R4.3.1 紙の約束手形の廃止方針と廃業 小澤
R4.2.15 不正競争防止法における営業秘密保護3 伸之
R4.2.3 不正競争防止法における営業秘密保護2 小澤
R4.1.17 不正競争防止法における営業秘密保護1 川瀬
R4.1.13 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載7 小澤
R3.12.21 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載6 小澤
R3.12.13 賃貸物件の建物明け渡しの強制執行 山下
R3.12.7 子どもの引き渡しを強制的に求める方法は? 桂子
R3.11.26 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載5 小澤
R3.11.16 預貯金債権に関する情報の取得手続について 石田
R3.11.12 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載4 小澤
R3.10.28 給与債権に関する情報の入手手続きについて 伸之
R3.10.15 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載3 小澤
R3.10.11 改正民事執行法~不動産に関する情報取得手続と利用の実情~ 小澤
R3.9.30 民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情 川瀬
R3.9.22 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載2 小澤
R3.9.17 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載1 小澤
R3.9.13 会社法改正に伴う事業報告書の記載事項の変更について 伸之
R3.9.3 社債に関する改正点 山下
R3.8.23 株式交付に関する規定の新設 石田
R3.8.16 土壌汚染対策法の概要 小澤
R3.8.2 会社補償・役員賠償責任保険のルールの新設 小澤
R3.7.20 取締役の報酬に関する規律の見直し 川瀬
R3.7.2 社外取締役を置くことの義務付けについて 伸之
R3.6.7 中小企業とリース契約 小澤
R3.6.1 ハラスメント防止のための社内体制の強化を! ~ハラスメントはどこにでも起こりうる意識をもって~ 山下
R3.5.28 令和に入って初めての会社法の改正~株主総会の運営や取締役の職務執行の一層の適正化~ 桂子
R3.5.18 不正競争防止法を意識していますか 石田
R3.4.26 債権回収の進め方 小澤
R3.4.19 デジタル時代の契約書と文書管理について 川瀬
R3.4.6 身元保証は必要?約束するのなら契約を見直しましょう! 桂子
R3.4.1 情報管理-個人情報保護法改正と情報セキュリティ- 藪内
R3.3.16 スタートアップの資金調達について 桂子
R3.3.3 廃業の前に事業承継の検討を! 伸之
R3.3.3 事業再構築補助金について 小澤
R3.2.18 「最近の正規・非正規の格差解消をめぐる判例」 石田
R3.2.5 アフターコロナを見据えた働き方改革の枠組 山下
R3.1.18 はじめに
ポストコロナに向けて事業見直しの視点~コロナ禍危機下でここからが経営者の勝負どころ~
桂子
R3.12.18 立会人型電子契約に関する論点 藪内
R2.12.10 遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求権への改正による影響について 伸之
R2.11.24 コロナ版ローン減免制度について 石田
R2.11.9 若い人も遺言書を作成してみませんか 川瀬
R2.10.27 非接触事故でも、賠償請求ができますか その2 単独事故として処理された場合  山下
R2.10.2 公益通報者保護法の改正について 小澤
R2.9.18 スタートアップ(独立・起業)で大切にしたい商標と商号 桂子
R2.8.25 法務局における遺言書の保管制度が始まりました 伸之
R2.8.10 発信者情報開示請求 石田
R2.7.17 定期金賠償(令和2年7月9日最高裁)について 川瀬
R2.7.13 孤独死後の法律問題 山下
R2.6.11 土壌汚染が疑われる土地売買その他の注意点 小澤
R2.5.26 テレワークの推進に向けて 桂子
R2.5.21 商標等の「商標的使用」は許されるか、-「商標としての使用」を比較して- 伸之
R2.5.18 新型コロナウィルス感染拡大防止対策に関連する個人情報取り扱いの留意点 藪内
R2.5.12 パワハラ防止法について 石田
R2.5.8 事業の継続、廃止に向けた手続きについて 伸之
R2.5.8 新型コロナウイルス感染症と賃料・テナント料 小澤
R2.5.8 新型コロナウイルス感染症と雇用関係 小澤
R2.5.1 賃貸アパート経営における民法改正の影響(連帯保証について) 川瀬
R2.4.2 民法改正による交通事故の損害賠償請求の影響は? 山下
R2.3.2 刑事事件での『司法取引』について~最近の3事案を参考にして~ 小澤
R2.2.19 発明の進歩性判断~「予測できない顕著な効果」~について 桂子
R2.2.13 【配偶者居住権が新設されます】 藪内
R2.1.28 遺産分割の仕方により、相続税総額が違ってくることはご存知ですか。 伸之
R2.1.20 法定相続情報証明制度について 石田

 

財産分与に関する改正

1.はじめに

令和6年(2024年)5月、民法の家族法の一部が改正されました。令和8年(2026年)5月24日までに施行される予定です。

今回は、財産分与の改正について解説します。

 

2.財産分与

(1)財産分与の請求期間

従来、財産分与は、離婚から2年以内に請求することが必要でした。

しかし、婚姻期間中に夫からDV等を受けていたため、離婚後も恐怖心から元夫に対して財産分与の請求が出来なかったり、子どもが幼く育児等に追われ、財産分与を請求する余裕がなく、時機を逃してしまったなど、離婚の際の事情によっては、2年以内に財産分与の請求ができないこともあり、離婚後に一方当事者が困窮することになるなどの指摘がありました。

一方で、財産分与の期間を伸ばすことで、財産分与の請求時から財産分与の基準時(通常は、離婚時または別居時のいずれか早い時点)まで、相当長期間遡ることになるため、基準時における財産分与の把握が困難になるおそれがあり、紛争が長期化・複雑化するといった懸念があります。

以上の事情を踏まえ、今回の改正では、5年に伸長されることになりました。

なお、年金分割は、原則として、離婚をした日の翌日から2年を経過すると請求できなくなります。今回の財産分与の期間伸長によっても、年金分割の手続期間は変わりませんので、注意する必要があります。

 

(2)財産分与の法的性質、2分の1ルール等

現行法では、財産分与の目的や考え方が定められていませんでしたが、今回の改正では、これらの点が一定程度明確になりました。

 

現行民法768条3項

家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

 

 

改正民法768条3項

家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。

 

今回の改正で、財産分与の目的として、「離婚後の当事者間の財産上の衡平を図る」ことが明示されるとともに、新たに追加された「各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入」の文言により、財産分与の法的性質として、清算的要素、扶養的要素、補償的要素を有することが明確になりました。

したがって、今後事案によっては、単純に財産額のみから財産分与額を決するのではなく、上記の事情についてもより積極的に主張していくことが考えられます。

また、財産分与における寄与の割合について、「婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。」として、原則的には2分の1とすることが明記されました。

現在の実務においても、2分の1ルールについては既に定着しているところですが、これが条文に明記された形になります。

 

3.おわりに

財産分与は、離婚後に安定した生活を送るために、重要な制度です。夫婦の共有財産について出来る限りの調査を行い、必要な主張を尽くすことで、最終的に得られる財産分与の額が変わる可能性もあります。

どのようなことを調査するのか、その手掛かりは何かなど考えるポイントがありますので、お悩みの方は池田総合法律事務所までご相談ください。

(石田美果)

養育費に関する民法改正

親子関係の改正民法は令和8年(2026年)5月24日までに施行されます。

今回は,養育費について,どのような改正がされているのかを解説します。

 

第1 法定養育費の導入

1 現在の養育費の定め方

現在,養育費は両親の話し合いで決めるほかは,養育費請求調停で合意する,家庭裁判所の審判で定められるという形で,養育費の具体的な金額が決まっています。

2 改正民法での変化

(1)法定養育費の導入

改正民法766条の3が新設され,離婚の時に両親が養育費の具体的な金額を取り決めていない場合でも,離婚のときから引き続き子どもの監護を主として行う両親のいずれかは,他の親に対して,一定の法定養育費が請求できるようになります。

この法定養育費は法務省令で別途算定方法などを定めることになっています。

もっとも,法定養育費は,両親が養育費について合意できた時,または審判で定められた時(正確には審判が確定した時),子が18歳に達したときまでの暫定的なものですので,合意や審判などで養育費の具体的な金額が定まれば役割を終えることになります。

現在は,養育費の具体的な金額は,両親のそれぞれの収入状況から養育費の算定表等をもとに定められていますが,給与明細や源泉徴収票の提出が拒否された結果,なかなか養育費が決められないということが実務上はよく起こっています。

しかし,法定養育費が導入されることで,後述の養育費の額を当事者同士で定めた書面が何も存在しない場合でも,給与明細や源泉徴収票などの収入資料が無い場合でも,法定養育費として暫定的な養育費が定められるようになり,さらに法定養育費が一般の先取特権となるため,法定養育費の存在をもって強制執行ができるようになります。

(2)法定養育費の発生

法定養育費は,『離婚の日』から発生し,毎月末までに,その月の分の法定養育費を支払う必要があります。

(3)改正民法施行前の離婚と法定養育費

改正民法の施行前に離婚した場合,法定養育費の定めは適用されません。

改正民法の施行後に離婚した場合に限って,法定養育費が発生します。

 

第2 強制執行手続が容易に

1 現在の養育費の強制執行

これまでは養育費を口頭や夫婦間の覚書などで決めていた場合,養育費を支払うべき側の親が養育費を支払わないときは,公正証書を別途取り交わすか,養育費請求調停を家庭裁判所に申し立て,裁判所の公的な書面である調停調書や審判書が手元になければ,強制執行ができませんでした。

しかし,公正証書は,基本的に夫婦がそろって公証役場におもむいて,公証人の面前で公正証書を作成する必要がありますが,夫婦がそろって公証役場に出向くということ自体,ハードルが高いものです。

また,家庭裁判所で養育費請求調停を申立て,養育費について合意ができた場合には調停調書が作成されますが,すぐに養育費についての合意ができるわけでもなく,調停調書が入手できるまでには相応の時間がかかります。

そのうえで,調停で合意ができなかった場合には,家庭裁判所の裁判官が判断を下す審判がなされることになりますが,これは調停が成立しなかった場合ですので,調停でも時間がかかり,審判が出るまでに時間がかかるので,やはり相当の時間がかかってしまいます。

2 改正民法での変化 ~養育費債権が先取特権へ~

改正民法306条3号が新設され「子の監護の費用」が一般の先取特権になります。

先取特権は,債務者の財産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利(民法303条)をいいます。

簡単に説明すると,養育費を支払わない親が他にも借金をしていても,その借金よりも優先して回収ができる権利が養育費に認められるということです。

そして,養育費が一般先取特権となることで,前述の法定養育費とあわせて,先取特権の存在を示す文書があれば強制執行ができるようになります。

ただし,先取特権が認められる養育費の範囲(金額)は,改正民法308条の2において法務省令で定めることとなっていますので,実際には法務省令で定められた金額の範囲内になります。

したがって,改正民法が施行された後は,養育費の額を当事者同士で定めた書面が何か存在すれば,それが養育費という先取特権の存在を示す文書となって,その文書をもとに強制執行(例えば,給与の差押えや預貯金の差押えなど)を行えるようになります。

また,前述のとおり,養育費の額を当事者同士で定めた書面が何も存在しない場合でも,法定養育費が一般の先取特権になるため,やはり法定養育費の範囲内で強制執行が行えるようになります。

 

第3 その他の養育費請求の利便性向上

1 財産状況に関する情報開示命令

改正人事訴訟法34条の3,家事事件手続法152条の2が新設され,家庭裁判所が子を監護していない親の収入や資産の状況に関して情報を開示するよう命ずる情報開示命令制度が導入されます。

これにより,家庭裁判所の養育費の調停などの際に,給与明細や源泉徴収票の提出を拒否する親に対して,収入や資産状況を開示させることができるようになります。

なお,情報開示命令に対して開示を拒否したり,虚偽の情報を開示した場合には,10万円以下の過料の制裁があります。

2 民事執行の各制度のワンストップ化

改正民事執行法167条の17が新設され,地方裁判所に養育費の支払いを求めるために財産開示手続を申し立てた場合には,同時に市町村に対して養育費の支払い義務者の給与情報の提供を命じる第三者の情報取得制度の申立てがあったことになり,さらに給与を差し押さえる債権差押命令の申立ても同時に申し立てられたとみなされることになり,強制執行手続の一部分がワンストップ化します。

 

第4 まとめ

養育費を支払ってもらえないことが多いという現実の前に,養育費の制度が大きく変革される時期に差しかかっています。

改正された法律を活用して,お子さんのために養育費を確保していくためには,弁護士の関与が必要不可欠です。

池田総合法律事務所では離婚,養育費なども取り扱っていますので,お困りの方は,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

養子縁組に関する改正

令和6年のいわゆる家族法改正により、養子縁組に関してもいくつか改正がなされました。

 

1 養子縁組がされた場合の親権の明確化

現行民法の規定

(親権者)

第818条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。

2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。

3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

 

改正民法の規定

(親権)

第818条 親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。

2 父母の婚姻中はその双方を親権者とする。

3 子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。

一 養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。)

二 子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの

 

⑴ 未成年子が複数の人と養子縁組をした場合の親権について

成年に達しない子(未成年子)は、父母の親権に服します(民法818条1項)。このときに、未成年子が養子である場合には、養親の親権に服することになります(同2項)。

ところで、我が国の民法では、1人が複数の人と養子縁組をすることも可能です(婚姻における重婚禁止(民法732条)のような規定がありません)。そのため、未成年子が複数の人と養子縁組をしたときに、どの養親の親権に服するのかについて現行法上は規定がなく、解釈に委ねられていました。

改正民法818条3項は、「子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。」と規定した上で、第1号として「養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。)」と規定し、最後の養子縁組で養親となった者が親権者になることを明確にしました。

⑵ 未成年子と養子縁組をした養親が、未成年子の父母の配偶者である場合について

実父母の離婚後、未成年子がその一方の再婚相手との間で養子縁組をすることがあります(いわゆる連れ子養子)。この場合に、改正民法818条3項1号の規定をそのまま適用すると、未成年子の親権者は再婚相手である養親となり、再婚をした実父母は親権者で無いようにも考えられます。しかしながら、実態としては、再婚をした実父母と再婚相手である養親が共同して子を養育することが一般的であると考えられることから、改正民法818条3項第2号は、「子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの」を親権者として定めました。

 

2 未成年養子縁組及び離縁の代諾に関するルール

⑴ 未成年養子縁組の代諾に関する規定

養子縁組は、養親となる者と養子となる者の合意によって成立しますが、養子となる者が15歳未満の場合には、その法定代理人が養子縁組の代諾をすることができます(民法797条1項)。未成年者の法定代理人は、親権者がいる場合には親権者ですが、父母双方が親権者である場合には、親権は共同で行使しますので(現行民法818条3項)、父母両方の同意が必要となります。しかしながら、父母の意見が対立したときについて、現行法では定めがありませんでした。

そこで、改正民法では、「第一項の縁組をすることが子の利益のため特に必要であるにもかかわらず、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが縁組の同意をしないときは、家庭裁判所は、養子となる者の法定代理人の請求により、その同意に代わる許可を与えることができる。」と規定されました(改正民法797条3項)。これにより、家庭裁判所が特定の事項について親権行使を単独で行うことを認めるということになります。

 

⑵ 養子の父母が離婚している場合における離縁の代諾

縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができます(民法811条1項)。養子が15歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でなされます(同2項)。この場合において、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、養子の離縁後にその親権者となるべき者を定めなければいけません(同3項)。

この「親権者となるべき者」について、現行民法では、養子の父母の「一方を」「親権者となるべき者」と定めなければならないとしていましたが、改正民法において、離婚後の父母双方を親権者とすることができるように改正された(改正民法819条)ことに伴い、離縁後の「親権者となるべき者」についても、養子の父母の双方を定めることが可能となりました(改正民法811条3項)。

 

3 実務への影響

養子縁組に関する改正のうち1については従前の取り扱いを明確化したものにすぎないため、実務への影響はさほど大きくありません。一方で2については、新たに制度が設けされたものであり、実務上の影響も少なくないと考えられます。

例えば、今後の家族の紛争として離婚時に共同親権を選択し、連れ子を養子縁組する場面などで、家庭裁判所が関わる事案も増えていくことが考えられます。子の利益に特に必要かという要件を満たすかが、鍵になるものと言えるでしょう。

(川瀬裕久)

面会交流に関する改正

親子関係の改正民法は、令和8年5月24日までに施行されます。今回は、親子の面会交流について、どのような改正がなされたのかを解説します。

 

離婚協議の過程で、夫婦が別居をすることは珍しくありません。夫婦仲が悪くなりトラブルになる、一緒に暮らす意欲が乏しくなる(別の人と暮らす意欲が増す)などという個別の事情もあるでしょうし、一定期間以上の別居期間を経れば一方当事者の意思のみで裁判手続での離婚が可能となるという法的な効果を狙ってのこともあるでしょう。

ただ、別居は当事者たる夫婦関係の問題であるのみならず、父母と子どもの親子関係の問題でもあります。夫婦の別居により子どもを監護していない親(非監護親)が子どもと定期的かつ継続的に面会することを、「面会交流」といいます。

この面会交流は、離婚の前後にかかわらず重要なはずですが、現行の民法では婚姻中の夫婦・父母が別居している場合の面会交流については、これまでも調停手続の中で話し合われてはきましたが、明文の規定がありませんでした。そこで、改正民法では第817条の13は、婚姻中の別居の場合の親子の面会交流の規定を新設しました。父母の協議によってさだめること、子の利益を最も優先して考慮しなければならないこと、父母での協議が調わずまた協議できないときは、家庭裁判所がこれを定めるという内容が明記されました。

その他、改正民法では、父母以外の親族と子(例えば、祖父母と孫)の交流についての規定が新設されました。従前の判例では、父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に面会交流についての審判申立が出来ないとされていました。しかし、子にとって、長年一緒に暮らしていた祖父母と交流を絶たれてしまうのが望ましいとは思えません。そこで、改正法の第766条の2第1項は、親子関係と同じような親密な関係が形成されているような、「子の利益のため特に必要があると認めるとき」は、家裁は祖父母等との交流を実施する旨を定めることができるとしました。なお、祖父母や兄弟姉妹以外の親族でも、過去にその子を監護していた場合には、子との面会が認められる余地があります(同2項)

以上は、民法の改正点についての説明ですが、家庭裁判所での家事審判の進め方に関する家事事件手続法についても、関係する改正がありました。家事審判で面会交流をどのように定めるか検討する際に、よりよい面会交流のあり方を決めるため、結論を出す前の段階で、試行的に面会交流を実施出来るとしたのです(改正家事事件手続法第153条の3)

以上のような法律の改正がありましたが、子の利益を第一にするという基本方針には変わりはありません。子の利益を、よりきめ細やかに掬い上げるために改正が行われました。円満・円滑な面会交流が期待されます。

(山下陽平)

離婚後の子どもの監護(養育)に関するルールについて

令和6年5月の家族法改正により、これまで離婚後は認められていなかった「共同親権」が可能になりました。この記事では、共同親権の選択方法や行使方法、離婚後の子どもの監護(養育)に関するルールについて解説します。

1 離婚後も「共同親権」を選択可能に
改正前は、父母が離婚した場合、どちらか一方のみを親権者と定める「単独親権」しか認められていませんでした。しかし、改正により、離婚後も父母双方を親権者と定める「共同親権」を選択できるようになります。これは、父が認知をした子どもについても同様です。
具体的には、協議離婚や調停離婚の場合、父母の話し合いにより、共同親権とするか単独親権とするかを決定します。協議が調わず裁判離婚となった場合には、家庭裁判所が父母の子どもとの関係や生活状況などの様々な事情を考慮し、子どもの利益に照らして親権者を決定します。ただし、虐待やDVのおそれがある場合など、共同親権と定めることで子どもの利益を害すると判断されるときは、必ず単独親権と決定されます。
また、改正により、子ども本人やその親族は、親権者の変更として、父母の一方の単独親権から他の一方の単独親権だけではなく、単独親権から共同親権、共同親権から単独親権に変更することを請求できるようになります。家庭裁判所は、親権者を定める協議の経過やその後の事情変更を考慮して、子どもの利益のため必要があると判断した場合に、親権者の変更を認めることになります。
例えば、離婚前に父母の一方が他方に対して暴力をふるっていたようなケースでは、対等な立場での話し合いができず、やむを得ず暴力をふるっていた一方を単独親権と定めることが考えられます。そのような場合には、子ども本人やその親族は、離婚後に家庭裁判所に対して親権者の変更を請求し、協議の経過や事情変更を考慮してもらうことで、不適正な合意がなされたケースに対応することができます。
なお、改正前に離婚して単独親権と定めた場合には、改正により自動的に共同親権に変更されることはありませんが、改正後に家庭裁判所に対して親権者の変更を請求することにより、共同親権への変更が認められる可能性があります。

2 共同親権の行使方法
共同親権と定めた場合、原則として、父母が共同して親権を行使します。ただし、実際の子育てではすべてを父母で話し合って決定するのは現実的ではないため、一定の例外も設けられています。
例外的に父母の一方が単独で親権を行使することができるのは、監護教育に関する日常の行為をするとき(例:食事や服装の決定、習い事)や、子どもの利益のため急迫の事情があるとき(例:DVや虐待からの避難、緊急の医療対応)です。
また、上記の例外に当たらない事項で、父母の意見が対立するときには、家庭裁判所に対して、その事項に限って親権を行使する親を指定してもらうよう請求することができます。

3 離婚後の監護(養育)のルールが明確に
離婚の際、子どもの利益を最優先に考慮して、父母で子どもの監護の分担を定めることができます。例えば、平日は父母の一方が子どもを監護し、土日祝日は他方が担当するといった取り決めが考えられます。
また、父母の一方を「監護者」と定めることもできます。共同親権と定めたとしても、実際に子どもと暮らすのはどちらか一方だけというケースも考えられます。そのような場合には、父母の一方を「監護者」と定めることで、監護者に子どもの監護を委ねることができます。監護者は、日常の行為に限らず、子どもの住まいや育児方針などを単独で決定することができるようになります。監護者でない親権者は、監護者による監護の妨害をしてはなりませんが、妨害しない範囲であれば、親子交流の機会などに一時的に子どもの監護をすることができます。

家族法改正は、令和8年5月までに施行されます。今回の改正により、離婚後も父母がともに親権者として子どもに関わる「共同親権」の選択肢が広がり、親権や監護に関するルールがより柔軟かつ明確に定められるようになりました。これにより、離婚後も子どもの利益を最優先に考えた子育てが可能となり、父母双方の協力のもとで円滑な子育てが実現されることが期待されます。ただし、制度を活かすには父母の理解と協力が不可欠です。トラブルを防ぐためにも、弁護士など専門家のサポートを受けながら、子どもの利益を最優先に考えた親権・監護のあり方を選択していきましょう。

(栗本真結)