情報流通プラットフォーム対処法(以下、情プラ法と略記します。)について (運用状況の透明化)― その2

 

令和6年5月17日に公布された情プラ法が、本日(令和7年4月1日)より施行されます。この間、総務省によりガイドライン(R6.3/11制定https://www.soumu.go.jp/main_content/000996607.pdf)が公表されております。今回は、先回に引き続き、運用状況の透明化についてお話します。

 

(1)判断基準の策定・公表(運用状況の公表を含む)について

SNS等で、どのような投稿が削除されたり、場合によってはアカウントが停止されるかどうかは、利用者にとっては重要な情報です。また、情プラ法が規制対象としている「大規模特定電気通信役務提供者」(以下、事業者といいます。)の行うサービスの利用者や投稿数は膨大な量となり、事業者の判断が、利用者の表現の自由に大きな影響を与え、また、被害者にとっても、削除の基準が明確になれば、被害情報が事業者によって削除されるかどうかの予見性が高められることになります。

削除基準について、行政が立ち入ることは、表現の自由を確保する観点から適切ではないので、従前どおり、事業者が自ら行うことを前提とする仕組みは維持し、ガイドラインの形で、その基準の具体化をはかっています。

違法情報ガイドラインによれば、①他人の権利を不当に侵害する情報(権利侵害情報)と②その他送信防止措置を講ずる法令上の義務がある(努力義務を除く)情報(法令違反情報)を含むものが送信防止(削除)義務の対象となります。

①の例としては、名誉権、プライバシー、私生活の平穏、肖像権、パブリシティ権、著作権、無体財産権、営業上の利益等が対象となり、

②の例としては、わいせつ関係、薬物関係、振り込め詐欺関係、犯罪実行者の募集関係、金融業関係、消費者取引における表示、銃刀法関係に関して、当該情報の流通が各法令に違反する場合が、その対象となります。

これらの基準は、事前に公表する義務が課せられ、情報の流通を知ることとなった原因別に、情報の種類を出来る限り具体的に定められていることや、利用者が容易に理解できる表現を用いること、基準について、その理解を助けるために、参考事例等を作成して公表することも求められています。

(2)削除した場合の発信者への通知

被害者の救済と表現の自由とのバランスから、発信者に対する削除またはアカウントを停止した場合には、その事実およびその理由を発信者に対して通知し、又は発信者が容易に知り得る状態に置く義務が課されています。これにより、発信者は、事業者に異議を申し立てて再考を促す機会を得ることにもなり、不当な削除については、事業者に対して民事訴訟で争う際の資料を得ることになります。

但し、例外的に、①過去に同一の発信者に対して同様の情報の送信を同様の理由により削除したことについて、既に通知等の措置を講じたり、②情報の二次被害を惹起する蓋然性が高い場合等、正当な理由のある場合には、通知等の措置は不要となります。

理由の通知にあたっては、その理由の説明をどの程度詳しく記載するか、発信者への分かりやすさの観点が重要であるとともに、悪意のある発信者による基準の潜脱に繋がらないようにすることへの配慮も必要です。いずれにしても、基準の具体的項目への該当性が示され、異議申立をする際の参考となる程度の具体性が求められることになります。

SNSには誹謗中傷、SNSを利用した犯罪や、犯罪への勧誘、詐欺が蔓延する中、今回の情プラ法の施行を受けて事業者が適切な対応をして、迅速に被害の拡大防止を計っていくことが、期待されます。池田総合法律事務所においても、SNSによる誹謗中傷等の相談を実施していますので、ご相談下さい。

(池田伸之)

 

情報流通プラットフォーム対処法について

1.はじめに

SNSの利用が増加し、多くの人にとって重要なコミュニケーションツールとなっています。その反面、インターネット上での誹謗中傷やプライバシーの侵害等、違法・有害な投稿も増加しており、深刻な問題となっています。

そこで、違法・有害な投稿への対応を強化するため、従来のプロバイダ責任制限法を改正した特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律、通称情報流通プラットフォーム対処法が、今年4月1日から施行されます。

情報流通プラットフォーム対処法では、新たに大規模プラットフォーム事業者に対し、①対応の迅速化、②運用状況の透明化に係る措置が義務付けられました。

これから2回に分けて、従来のプロバイダ責任制限法からの主な変更点について、ご紹介していきます。

本コラムでは、①対応の迅速化について、ご紹介します。続いて第2回目では、②運用状況の透明化等についてご紹介します。

なお、従来のプロバイダ責任制限法から変更のない部分については、2024年12月4日付法律コラム(リンク貼り付け)をご参照ください。

 

2.対応の迅速化について

総務省の委託事業として設置された違法・有害情報相談センターでは、インターネットの一般利用者などから、被害に関する相談を受け付けています。

ここに寄せられる相談は、年々増加していますが、中でも多いのが、住所・電話番号等の掲載(プライバシー侵害)、写真・映像などの掲載(肖像権侵害)、名誉毀損に当たる投稿、わいせつ画像等違法・有害情報の掲載です。

これらについて、被害者としては、まず事業者に情報の削除を求めたいと考えるのが一般的です。

そこで情報流通プラットフォーム対処法では、被害者からの削除の申請に対して、大規模なプラットフォーム事業者を対象に、一定の対応が義務付けられるようになりました。

ここで、大規模なプラットフォーム事業者とは、月間アクティブユーザー数が一定規模以上など、サービスの利用者数の多い事業者が想定されています。

大規模プラットフォーム事業者に義務付けられる対応は、以下の3点です。

①被害者から削除の申出を受けるための窓口や手続きを整備・公表すること

②削除の申出への対応体制を整備すること

③削除の申出に対する判断・通知を行うこと

上記①では、被害者がインターネット上で削除の申出をすることができ、且つ、申出の手続きが容易であることが求められています。

上記②では、事業者は、権利侵害への対処について十分な知識経験を有する者を選任することが求められています。

また、③削除の申出に対する判断・通知については、事業者は、被害者から削除の申請を受けてから、1週間程度で迅速に判断・通知を行わなければなりません。

従来のプロバイダ責任制限法では、事業者に対する上記対応は、定められていませんでした。

今後は、事業者は、表現の場を提供するだけでなく、不当な権利侵害に対して、より一層適切な対応をとることが求められます。

(石田美果)

刑事手続と証拠

1 冤罪事件と証拠

いわゆる袴田事件について,2024年9月26日,静岡地方裁判所が再審無罪判決を言渡し,その無罪判決が確定に至ったことは記憶に新しいことかと思います。

また,いわゆる湖東記念病院事件について,2020年3月31日に大津地方裁判所が再審無罪判決を言渡し,これも無罪判決が確定しています。

事件発生時期の古い,新しいにかかわらず,これまで数々の冤罪事件が発生してきました。

 

さて,弁護士(弁護人)として弁護活動を行うにあたって,冤罪事件を発生させることが決して無いように,証拠をよく吟味する必要があります。

しかし,刑事手続においては,警察,検察といった国家権力が,必要な捜査を強制力をもって行い,各種の証拠を収集し,弁護人はこれらの証拠を事後的にチェックすることが多くなります。

 

2 被疑者段階の証拠

刑事弁護をお引き受けする中で,よく被疑者段階(起訴される前の段階のこと)であっても弁護士(弁護人)は捜査機関(警察・検察など)が収集している証拠を見ることができるはずだから確認して欲しいといったことを言われることがあります。

しかし,刑事訴訟法47条は「訴訟に関する書類は,公判の開廷前には,これを公にしてはならない。但し,公益上の必要その他の事由があって,相当と認められるときは,この限りではない。」とされていることを根拠として,弁護士(弁護人)であっても,被疑者段階では捜査機関の収集した証拠を見ることは原則できません。

そこで,被疑者段階では,逮捕勾留などをされている方(被疑者の方)から,弁護士(弁護人)はお話しをお聞きすることで,事件の概要を把握することになります。

 

3 被告人段階の証拠

被告人段階(起訴された後の段階)になると,弁護士(弁護人)は,検察庁が刑事裁判の法廷で証拠調べを請求する予定の証拠の開示をはじめて受けることができ,やっと捜査機関の収集した証拠を見ることができるようになります。

もっとも,基本的には,検察庁が証拠調べを請求する予定の証拠だけが開示されるので,他にも膨大な量の証拠があったとしても必ずしも開示されるわけではありません。

そこで,弁護士(弁護人)としては,検察庁に証拠を任意に開示するように求めることになります。

 

4 裁判員裁判の被告人段階の場合

裁判員裁判の場合は,刑事訴訟法で証拠開示の手続が一定程度定められているので,証拠一覧表の開示制度(刑事訴訟法316条の14第2項。といっても本当に全ての一覧表になっているわけではなく,「検察官が保管する証拠」に限定されています。警察にある証拠は一覧表の対象外です),類型証拠開示請求及び主張関連証拠開示請求といった制度により,裁判員裁判の対象ではない事件に比べて,捜査機関がもっている証拠を入手しやすくなっています。

 

5 まとめ

いずれにしても,捜査機関がもっている証拠を入手できる機会は,基本的に第1審段階しかありませんので,第1審で徹底して証拠を入手し,証拠を分析していくことが必要になります。

刑事事件の弁護では,実務経験が民事事件以上に重要です。池田総合法律事務所では刑事事件も取り扱っていますので,刑事事件でお困りの方は,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

【法律コラム 目次】

 

掲載日 テーマ 執筆者
R7.4.1 情報流通プラットフォーム対処法(以下、情プラ法と略記します。)について (運用状況の透明化)― その2 伸之
R7.3.18 情報流通プラットフォーム対処法について 石田
R7.3.3 刑事手続と証拠 小澤
R7.2.26 各種アカウントのパスワードをどう相続人に知らせるか・・・。 山下
R7.2.19 相続土地国庫帰属制度の運用状況 川瀬
R7.1.23 業績連動報酬のこれから 桂子
R6.12.15 遺言書保管制度のその後 伸之
R6.12.4 発信者情報開示請求 石田
R6.11.15 財産開示期日の後について 小澤
R6.11.7 相続手続の変更点について(その2)(不動産、預貯金の調査) 川瀬
R6.10.24 相続手続の変更点について(戸籍の取り寄せ手続) 山下
R6.10.1 法的な紛争と税制の関係⑥ 倒産と税務上の取り扱い 伸之
R6.9.15 法的な紛争と税制の関係⑤ 不動産取引 石田
R6.9.1 法的な紛争と税制の関係④  生前贈与するなら気をつけたいこと 桂子
R6.8.16 法的な紛争と税制の関係③  離婚と税金 小澤
R6.8.1 法的な紛争と税制の関係②  相続と税金 川瀬
R6.7.1 法的な紛争と税制の関係①  交通事故と所得税 山下
R6.6.21 介護報酬改定で令和6年4月から導入された「高齢者虐待防止の促進」について 小澤
R6.6.14 裁判のIT化で裁判実務はどこまで変わるか 桂子
R6.6.3 フリーランス保護法(正式名称:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)について-その② 伸之
R6.5.24 民法改正による嫡出推定制度に関する変更点 石田
R6.5.1 2024年労働基準法施行規則の改正内容 小澤
R6.4.23 相続登記を免れるために相続放棄をしたらどうなるか 山下
R6.4.17 相続登記の義務化がスタートしました! 川瀬
R6.3.15 最高裁判例紹介⑤ 桂子
R6.3.1 最高裁判例紹介④ 伸之
R6.2.15 最高裁判例紹介③ 石田
R6.2.1 最高裁判例紹介② 小澤
R6.1.25 最高裁判例紹介① (遺贈放棄後の相続財産の帰属) 川瀬
R5.12.15 公正取引委員会『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』について 小澤
R5.12.1 副業・兼業 これからの働き方を使用者側の立場から見てみると 桂子
R5.11.15 副業・兼業について(労働者側の注意点) 山下
R5.11.1 フリーランス保護法(正式名称:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)について 伸之
R5.10.19 社会保険の適用拡大、賃金デジタル払い解禁、育休取得状況公表義務化 ~働き方改革への対応は十分ですか~ 石田
R5.10.2 パワハラの定義と対応(「働き方」に関する労働法制連載) 小澤
R5.9.20 2024年の重大問題-時間外労働に関する法改正と未払残業代請求のリスク 川瀬
R5.9.6 「働き方」に関する労働法制について 山下
R5.8.15 これからの経営者報酬の設計について 桂子
R5.8.1 会社の機関設計 「監査等委員会設置会社」という選択について 桂子
R5.7.1 第6回 所有者不明土地・建物の管理制度 伸之
R5.6.19 第5回 共有物の変更・管理に関する見直し 石田
R5.6.1 第4回 民法の相隣関係の改正について 小澤
R5.5.17 第3回 相続土地国庫帰属制度について 川瀬
R5.5.1 第2回 相続登記が義務化されます!ご注意を 桂子
R5.4.14 所有者不明の土地に関する法律や制度の改正について(第1回) 山下
R5.3.31 財産開示手続について(第2回) 石田
R5.3.15 財産開示手続について 小澤
R5.3.1 自動車に対する強制執行 伸之
R5.2.14 AI(人工知能)と弁護士業務 小澤
R5.2.3 債権回収のセオリー 桂子
R5.1.25 法人破産について(第4回) 山下
R4.12.19 法人破産について(第3回) 石田
R4.12.1 法人破産について(第2回) 伸之
R4.11.15 法人破産について(連載第1回) 小澤
R4.11.1 下請法について(第3回) 桂子
R4.10.17 下請法について(第2回) 川瀬
R4.10.4 下請法について(連載・全3回) 石田
R4.9.21 商標について 4 ~商標とフランチャイズ契約~ 山下
R4.9.5 商標について 3 ~商標・不正競争に関する近時の裁判例の紹介~ 伸之
R4.9.5 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載10 小澤
R4.8.10 商標について 2 ~商標登録手続き、費用の概要~ 小澤
R4.8.2 商標について ~商標とは~ 川瀬
R4.7.25 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第6回~) 桂子
R4.7.11 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載9 小澤
R4.6.17 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第5回~) 山下
R4.6.2 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第4回~) 石田
R4.5.16 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第3回~) 伸之
R4.5.2 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第2回~) 小澤
R4.4.15 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回) 川瀬
R4.4.7 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載8 小澤
R4.4.1 労働審判の手続きで解決できる場合・できない場合とは 桂子
R4.3.28 労働審判手続きでの残業代請求について 山下
R4.3.4 労働審判制度の概要 石田
R4.3.1 紙の約束手形の廃止方針と廃業 小澤
R4.2.15 不正競争防止法における営業秘密保護3 伸之
R4.2.3 不正競争防止法における営業秘密保護2 小澤
R4.1.17 不正競争防止法における営業秘密保護1 川瀬
R4.1.13 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載7 小澤
R3.12.21 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載6 小澤
R3.12.13 賃貸物件の建物明け渡しの強制執行 山下
R3.12.7 子どもの引き渡しを強制的に求める方法は? 桂子
R3.11.26 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載5 小澤
R3.11.16 預貯金債権に関する情報の取得手続について 石田
R3.11.12 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載4 小澤
R3.10.28 給与債権に関する情報の入手手続きについて 伸之
R3.10.15 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載3 小澤
R3.10.11 改正民事執行法~不動産に関する情報取得手続と利用の実情~ 小澤
R3.9.30 民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情 川瀬
R3.9.22 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載2 小澤
R3.9.17 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載1 小澤
R3.9.13 会社法改正に伴う事業報告書の記載事項の変更について 伸之
R3.9.3 社債に関する改正点 山下
R3.8.23 株式交付に関する規定の新設 石田
R3.8.16 土壌汚染対策法の概要 小澤
R3.8.2 会社補償・役員賠償責任保険のルールの新設 小澤
R3.7.20 取締役の報酬に関する規律の見直し 川瀬
R3.7.2 社外取締役を置くことの義務付けについて 伸之
R3.6.7 中小企業とリース契約 小澤
R3.6.1 ハラスメント防止のための社内体制の強化を! ~ハラスメントはどこにでも起こりうる意識をもって~ 山下
R3.5.28 令和に入って初めての会社法の改正~株主総会の運営や取締役の職務執行の一層の適正化~ 桂子
R3.5.18 不正競争防止法を意識していますか 石田
R3.4.26 債権回収の進め方 小澤
R3.4.19 デジタル時代の契約書と文書管理について 川瀬
R3.4.6 身元保証は必要?約束するのなら契約を見直しましょう! 桂子
R3.4.1 情報管理-個人情報保護法改正と情報セキュリティ- 藪内
R3.3.16 スタートアップの資金調達について 桂子
R3.3.3 廃業の前に事業承継の検討を! 伸之
R3.3.3 事業再構築補助金について 小澤
R3.2.18 「最近の正規・非正規の格差解消をめぐる判例」 石田
R3.2.5 アフターコロナを見据えた働き方改革の枠組 山下
R3.1.18 はじめに
ポストコロナに向けて事業見直しの視点~コロナ禍危機下でここからが経営者の勝負どころ~
桂子
R3.12.18 立会人型電子契約に関する論点 藪内
R2.12.10 遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求権への改正による影響について 伸之
R2.11.24 コロナ版ローン減免制度について 石田
R2.11.9 若い人も遺言書を作成してみませんか 川瀬
R2.10.27 非接触事故でも、賠償請求ができますか その2 単独事故として処理された場合  山下
R2.10.2 公益通報者保護法の改正について 小澤
R2.9.18 スタートアップ(独立・起業)で大切にしたい商標と商号 桂子
R2.8.25 法務局における遺言書の保管制度が始まりました 伸之
R2.8.10 発信者情報開示請求 石田
R2.7.17 定期金賠償(令和2年7月9日最高裁)について 川瀬
R2.7.13 孤独死後の法律問題 山下
R2.6.11 土壌汚染が疑われる土地売買その他の注意点 小澤
R2.5.26 テレワークの推進に向けて 桂子
R2.5.21 商標等の「商標的使用」は許されるか、-「商標としての使用」を比較して- 伸之
R2.5.18 新型コロナウィルス感染拡大防止対策に関連する個人情報取り扱いの留意点 藪内
R2.5.12 パワハラ防止法について 石田
R2.5.8 事業の継続、廃止に向けた手続きについて 伸之
R2.5.8 新型コロナウイルス感染症と賃料・テナント料 小澤
R2.5.8 新型コロナウイルス感染症と雇用関係 小澤
R2.5.1 賃貸アパート経営における民法改正の影響(連帯保証について) 川瀬
R2.4.2 民法改正による交通事故の損害賠償請求の影響は? 山下
R2.3.2 刑事事件での『司法取引』について~最近の3事案を参考にして~ 小澤
R2.2.19 発明の進歩性判断~「予測できない顕著な効果」~について 桂子
R2.2.13 【配偶者居住権が新設されます】 藪内
R2.1.28 遺産分割の仕方により、相続税総額が違ってくることはご存知ですか。 伸之
R2.1.20 法定相続情報証明制度について 石田

 

各種アカウントのパスワードをどう相続人に知らせるか・・・。

相続対策の分野で、「デジタル遺品」という言葉を目にするようになりました。デジタル遺品とは、法律用語ではなくいわゆる俗語ですが、電子マネー、ポイント、暗号資産、ネットバンクやネット証券の口座などから各種アカウント、電子データまでを含むものを意味するようです。いわゆる現物・実物や化体物等(たとえば現金や通帳がそうです)のないものというイメージが共通する点でしょうか。

 

現物・実物、化体物等があれば、相続人にとっても、所有していることが明らかであったり、探せば見つけやすかったりしそうです。しかし、デジタル遺品の場合、相続人からするとその存在自体把握しづらく、また、知りえたとしてもIDやパスワードを知らなければ相続手続きのためのアクセスすら難しい、ということがありえます。

デジタル遺品は、相続人が被相続人に知らせる工夫をしておいた方がよさそうです。

ネット銀行の口座等の場合、その存在を相続人に知らせておくだけでも、適切な手続きを踏めば払い戻しなどの相続手続きは可能です。遺言書にその存在を明記しておくだけ、また相続人に事実上知らせておくだけでもなんとか相続手続きができまです。

 

問題は、IDとパスワードの情報が必要な、アカウントの管理や、クラウドやデバイス上のデータです。家族と言えども、IDとパスワードを知らせておく、というのはなかなかハードルが高いのではないでしょうか。しかし一方で、クラウドやスマホなどのデバイスに保存された写真や動画など、残された家族にとっても重要なデータがアクセスできず、またその存在を知られぬ間に失われるのは惜しい。

IDとパスワードはだれかに一緒に知られるとまずいので、生前からアカウントの存在やIDだけは相続人に知らせておいて、死後にパスワードだけが相続人に知られるようにすればいいはずです。考えられるのは、信頼できる人にパスワードを託したり、紙に書き封をして仏壇にしまっておくなどという方法です。とはいえ、託す人が死んでしまったり、隠した封筒が見つけてもらえなかったりといった点に不安が残ります。

 

そんなデジタル遺品の相続の場面では、自筆証書遺言書保管制度が活用できるかもしれません。この制度は、自筆の遺言を法務局が保管し、希望すれば死後に、生前指定した相続人などに通知してもらうこともできるというものです。預かる際に形式上のチェックはしてくれますが、その内容については確認してくれないため、弁護士としてはあまりお勧めする場面はないなぁ、と思っていました。しかし、アカウントのIDやパスワードなど、生前には誰にも知られたくない情報を、死後に相続人に通知してもらうためのツールとしては有効といえるのではないか、と思いました。各種パスワードは定期的に変更したりするかもしれません(最近は、定期的に変更すると簡単なものにしがちなので、定期的な変更は推奨されていないようですが)。そんな場合でも、パスワードの管理ソフトを導入してそのマスターパスワードを記載するとか、記載をヒントに留めるとか、リスク許容度に応じて、いろいろな工夫が可能なように思います。

(山下陽平)

相続土地国庫帰属制度の運用状況

2023年4月27日から、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限られます)により取得した土地を手放して国庫に帰属させる、相続土地国庫帰属制度が始まりました。

制度の概要は、2023年5月17日のコラムで説明をしましたが、今回は、その運用状況を紹介します。

 

相続土地国庫帰属制度の運用状況については、法務省のウェブサイトで、「相続土地国庫帰属制度の統計」と題して公開されています。

2024(令和6)年12月31日時点での内容は以下の通りです。

(出典:法務省ウェブサイト(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html))

1 申請件数
(1)総数   3,199件
(2)地目別
田・畑:1,195件
宅 地:1,135件
山 林:  505件
その他:  364件
2 帰属件数
(1)総数   1,186件
(2)種目別
宅  地:466件
農用地: 363件
森 林:   50件
その他: 307件

 

以上のように、全体としては、申請件数の総数3,199件に対し、4割近い(約37%)1,186件の帰属が認められています。内訳をみると、宅地の帰属件数は466件と比較的多く、森林は50件と現状ではなかなか認められにくい結果となっています。なお、申請件数における「地目別」と帰属件数における「種目別」には若干の違いがあります。これは、申請段階の「地目」は登記によるのに対し、帰属件数における「種目」は「申請者から提出された書面の審査、関係機関からの資料収集、実地調査などによって、客観的事実に基づいて、どの区分に当てはまるか判断」される(「相続土地国庫帰属制度のご案内[第2版]48頁)ためだと思われます。

一方で却下・不承認件数と取下げ件数は以下の通りです。

3 却下・不承認件数(令和6年12月31日現在)

※ 1つの事件で複数の却下の理由又は不承認の理由が認められる場合があります。

(1)却下件数    51件

(却下の理由)
・11件:現に通路の用に供されている土地(施行令第2条第1号)に該当した
・ 1件:現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地(施行令第2条第4号)に該当した
・ 7件:境界が明らかでない土地(法第2条第3項第5号)に該当した
・ 5件:承認申請が申請の権限を有しない者の申請(法第4条第1項第1号)に該当した
・31件:法第3条第1項及び施行規則第3条各号に定める添付書類の提出がなかった(法第4条第1項第2号)

(2)不承認件数    46件

(不承認の理由)
・4件:崖(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの(法第5条第1項第1号)に該当した
・20件:土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地(法第5条第1項第2号)に該当した
・1件:除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地(法第5条第1項第3号)に該当した
・2件:民法上の通行権利が現に妨げられている土地(施行令第4条第2項第1号)に該当した
・1件:所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(施行令第4条第2項第2号)に該当した
・1件:災害の危険により、土地や土地周辺の人、財産に被害を生じさせるおそれを防止するための措置が必要な土地(施行令第4条第3項第1号)に該当した
・19件:国による追加の整備が必要な森林(施行令第4条第3項第3号)に該当した
・5件:国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地(施行令第4条第3項第4号)に該当した
4 取下げ件数    500件

※ 取下げの原因の例

・自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した
・隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった
・農業委員会の調整等により農地として活用される見込みとなった
・審査の途中で却下、不承認相当であることが判明した

却下・不承認件数は申請件数に対してそれほど多くありませんが、取下げ件数の中に「審査の途中で却下、不承認相当であることが判明した」とあるとおり、却下・不承認をされる前に取り下げていることも理由の1つと考えられます。

また、申請をしたものの、自治体や国、隣地所有者等による活用がなされることになり、取下げに至るケースもあるようであり、申請をきっかけとして、土地が有効活用されるという点で望ましいものといえます。

 

以上のとおり、相続土地国庫帰属制度により、4割近くが国庫に帰属し、それ以外にも有効活用される土地が出てきていることは、制度による成果といえます。

本制度を申請するにあたっては、境界をある程度明らかにしたり、建物や担保権のある土地についてはそれらを整理したりするなど、それなりの準備が必要です。

本制度の申請を検討されている方は、早い段階で、一度専門家にご相談されることをお勧めします。

(川瀬裕久)

業績連動報酬のこれから

昨年8月に、「これからの経営者報酬の設計について」というタイトルでお話ししたことがありました。今回はその続編となります。

コーポレートガバナンス(CG)コードが2015年6月に施行されて以降、役員向けの株式報酬制度を導入する企業は年々増加しています。当初は592社であったそうですが、2023年10月末の時点では全上場企業3914社の約6割2321社となっています。企業統治の観点から役員報酬の設計と開示が検討課題となって久しく、いろいろな取り組みが行われています。

特に日本企業では、最高経営責任者(CEO)の報酬において株式の占める割合が、他の先進国と比べると低いことが問題だと言われています。経済産業省によれば、日本企業のCEO報酬に占める株式など変動報酬の割合は58%です。一方、欧米の各国でその割合は70~90%となっており、このことからも日本企業の割合の低さがわかると思います。仮に変動報酬の割合を今よりも増やせば、経営者がより意欲的に経営に取り組むことが想像できるでしょう。

 

インセンティブ報酬制度は、優秀な人材を獲得、維持し、業績向上を促進するものですが、株主と対象者の利害を一致させ、中長期的な企業価値を向上させることにつながります。日本でも会社を巡るステークホルダーの目は様々なところから寄せられるようになりました。中長期的な計画の実行に向けて、業績に連動した報酬制度は多くの企業で意識される様になりました。スタートアップ企業(非上場会社)では、優秀な人材を獲得するために株式報酬を戦略的に活用していることは一般的な知識といってよいでしょう。

 

最近では、業績連動型の報酬は、役員にとどまらず、従業員にも適用されるようになってきました。経団連等の発表している調査によれば、業績連動型賞与を採用している企業は、半数を超える企業が導入するようになり、主流化しているとも言えます。

インセンティブ報酬には、株式で支給される報酬(株式報酬)と現金で支給される報酬(現金報酬)の2つに分けられます。株式報酬は資産性が高く、将来的に大きなリターンが見込めます。なぜなら、株価が上昇した時に売却すれば、入手した株式の価値以上のお金を得られるからです。例えば、株価が1万円から2万円に上昇すれば、数量に応じた金額を得るチャンスがあるのです。したがって、中長期的に資産が増やせるのが株式報酬の特徴です。

一方、現金報酬は価値が目減りするリスクが低く、短期的な利益が得られます。株式のように、価値が変動しないのが理由です。さらに、すぐに使える現金で入手できるので、安心感があると言えるでしょう。この様に、現金報酬は短期的なメリットがある点が特徴です。

 

まず、業績連動型賞与について

導入の方策として、従業員報酬への導入を考えるのであれば、まずは賞与という考え方があります。業績連動型賞与は、基本的に、賞与の原資総額を決め、さらに個人の成績を加味して支給額を決定します。賞与の在り方は、基本給(月給)の何か月分などのように、賞与算定基準日の基本給に支給係数をかけて計算する基本給連動型賞与がありますが、この方式では、賞与額も年功序列のままとなってしまいます。

近年、役員に対して株主との利害を意識して、長期的なインセンティブが働くような制度設計がなされていますが、社員においても業績と連動することでモチベーションアップにつながる効果を狙って、採用されるようになってきました。経営状態に関係して支給することとなれば業績悪化となっても、賞与の過払い的状態から経営圧迫を防ぐことができます。支給額についての説明も明確になります。

従来、賞与額は、給与額アップととともに、春闘等の労使交渉の場で決定されることが多かったと思いますが、業績連動型賞与では、事前に業績指標を取り決めておくことになるので、決定後の支給について、毎年交渉することを要しなくなる、というメリットもあるかと思います。

 

次に、従業員向けの株式支給制度

株式報酬には、ストックオプション(事前交付型、値上がり益還元)、譲渡制限付株式、株式交付信託(事後交付型)、持株会報酬(事後交付型、株式取得目的のために一定の金銭を支給し、それを原資として持株会を通じて自社株式を取得させる) 等の形式があります。

中でも、比較的最近使われているのが、信託型株式報酬制度で、従業員向けの信託型株式報酬制度は、従業員にポイントを付与し退職時などに相当数の自社株を従業員に付与する仕組みです。導入している企業は、2024年9月末で405社となっています。社員の株主マインドを醸成し、中長期的な企業価値の向上を図るのが狙いと言われます。人的投資として意識されたり、また資本政策的な効果として、制度を導入すれば、株を預かる信託銀行が株主となり、議決権は株主の確保につながりやすい、受け皿としてアクティビスト対策にもなりえます。

株式報酬制度は譲渡制限付きやストックオプション(株式購入権)と比較すると制約も少ない建付けと言えます。

 

なお、ここで注意すべき点として挙げられるのは、業績連動型の報酬に関し、株式で付与がなされる場合には、株式報酬の付与が「重要事実」に該当するという考え方もとりうるので、公表までの間、自己株の取得等の行動が制限されることがあります。2023年12月「インサイダー取引規制に関するQ&A」が改訂されていますので、その公表の要件を注意すべきです。

 

企業が社員に株式報酬を出す動きが広がっています。導入企業は2024年6月末で1176社に増え、過去最高となりました。社員に経営参加を意識づけし、業績改善につなげる。人手不足が強まるなか、現金よりも資産性の高い株式を配ることで優秀な人材をつなぎ留める狙いもあります。

企業が自社株を無償譲渡できる対象を役員から社員に拡大する会社法改正も検討されています。

<池田桂子>

 

遺言書保管制度のその後

遺言書を法務局に保管してもらうことができる遺言書保管制度が令和2年7月から施行され、4年が経過しました(制度の内容については、私の令和2年8月25日付の法律コラムのブログを見て下さい。。私どもの取り扱う案件においても、こうした形で保管されている自筆証書遺言が作成されている例が、出始めております。

施行後、4年間の遺言書の保管申請件数(カッコ内は、そのうち実際に保管された件数)は以下の通りです。

 

令和2年7月~令和3年6月まで 20,849件(16,655件)

令和3年7月~令和4年6月まで 16,612件(15,468件)

令和4年7月~令和5年6月まで 18,492件(18,458件)

令和5年7月~令和6年7月まで 21,152件(21,114件)

 

令和4年分の公正証書遺言の作成件数が、111,977件(日本公証人連合会の公表した総計数字)ということで、公正証書の作成数には及んでいませんが、以上のように、増加傾向であり、今後も利用が進んでいくと思われます。

 

また、相続人等への通知制度については、遺言書情報証明書の交付や、関係遺言書の閲覧をさせた場合に、他の全ての関係相続人等に通知をする関係遺言書保管通知制度のほか、死亡時通知というものがあります。これは、遺言書保管官(保管をしている法務局)が、遺言者の死亡の事実を確認したときは、遺言書を保管している旨を遺言者の指定した者に通知をする制度ですが、具体的に法務局が、遺言者の死亡の事実をどのようにして把握するのかについては、その仕組みが施行当時には整備されていませんでした。この仕組みについては、その後整備され、令和3年度から、この通知先の申出が遺言者からあったときは、遺言書保管官が遺言者の氏名、生年月日、本籍及び筆頭者の氏名を市町村の戸籍担当部署に提供し、遺言者が死亡した場合には、戸籍担当部署から遺言者死亡の事実に関する情報を取得することができるようになり、指定先に通知をすることが可能となりました。

 

公正証書遺言の場合でも、公証役場には、遺言者が死亡した事実はわかりませんし、自筆証書遺言を預かっている人も、必ずしも、遺言者の死亡事実がわからないということはありえますので、遺言が表に出てこないまま、遺産相続がなされてしまうというリスクもあります。ところが、この死亡通知制度により、遺言者の死亡の事実が確実に保管官に伝達され、通知先に遺言の存在が通知され、大きな意義があるものと思われます。

 

ただし、遺言書保管制度は、遺言の形式面はチェックしてもらえますが、内容面についてのチェックは行っていませんので、思わぬところで遺言が無効となり、遺言者の意思が全うされないということもありえます。また、遺言の内容の適否、その影響を含めた遺産相続全体についての相談をしてくれたり、アドバイスをもらうことはできません。そのため、自筆証書遺言を作成し、保管制度を利用するにしても、弁護士等の専門家への相談、検討をしたうえで行った方が安心です。池田総合法律事務所では、こうした相談、遺言にまつわるご相談はこれまで多数取り扱っておりますので、有益なアドバイスが可能であると思います。

(池田伸之)

発信者情報開示請求

1.はじめに

SNSで誹謗中傷等をされた場合に、書き込みを行った人を特定するための手段として、発信者情報開示請求があります。

その概要については、令和2年8月10日付の法律コラムでご紹介させていただきましたが、令和3年に発信者情報開示請求の根拠法令となるプロバイダ責任制限法が改正され、令和4年10月1日に施行されましたので、今回その改正内容についてご紹介させていただきます。

2.新たな裁判手続(非訟手続)の創設

(1)権利を侵害されたとする者が、情報の発信者に対して、慰謝料請求等を行う場合、発信者の特定が必要になります。

それには、発信者の氏名・住所等を保有する経由プロバイダ(通信事業者等)を特定するために必要となるIPアドレス等の情報が、コンテンツプロバイダ(SNS事業者等)から開示されないと、当該経由プロバイダを特定することができないことから、改正前の発信者情報開示請求では、まず、コンテンツプロバイダに発信者情報開示仮処分を申し立てた後、(場合によっては消去禁止の仮処分を経て)経由プロバイダに対し発信者情報開示請求訴訟を提起するという二段階の手続きが必要でした。

(2)これに対し、今回創設された手続きでは、基本的に、発信者情報の開示を一つの手続きで行うことが可能となります。

具体的には、権利を侵害されたとする者が、裁判所に発信者情報開示命令を申し立てると、裁判所は、開示命令より緩やかな要件により、コンテンツプロバイダに対し、(当該コンテンツプロバイダが自らの保有するIPアドレス等により特定した)経由プロバイダの名称等を、申立人に提供することを命じることができます(提供命令)。

加えて、裁判所は、コンテンツプロバイダが保有するIPアドレス等の情報を、申立人には秘したまま、コンテンツプロバイダから経由プロバイダに提供させることができるようになるため、経由プロバイダに、自ら保有する発信者の氏名及び住所等を特定・保全させておくことができます(消去禁止命令)。これにより、発信者情報開示命令事件の審理中に発信者情報が消去されてしまうことを防ぐことができます。

そして、上記により発信者情報が保全された状態で、発信者情報開示命令事件の審理が行われます。審理では、コンテンツプロバイダに対する開示命令の手続きと、経由プロバイダに対する開示命令の手続きが併合され、一体的に行われます。

3.開示請求を行うことができる範囲の見直し

近年普及しているSNSでは、システム上、投稿時のIPアドレス等を保存していないものがあり、投稿時のIPアドレスから通信経路をたどることにより発信者を特定することができないという課題がありました。

そこで、今回の改正により、SNSなどのログイン型サービス等において、発信者を特定するために必要となる場合には、投稿者がSNS等にログインした際の情報の開示を得ることが可能となりました。

これにより、SNSへのログイン時のIPアドレス等からも、発信者を特定することが出来るようになります。

(なお改正前も裁判所の個別の判断により、ログイン時のIPアドレス情報について開示請求が認容されるケースはあり、当事務所でもログイン時の情報が獲得できた事例があります。)

4.おわりに

発信者情報開示請求手続きは、改正によりいくつか見直しがされましたが、一般の方が自分で手続きを行うには大変複雑な手続きであり、専門的な知識が必要となります。誹謗中傷等でお悩みの方は、池田総合法律事務所にご相談下さい。

(石田美果)

財産開示期日の後について

2023年3月,4月のブログにて,「財産開示手続」と「財産開示期日」の記事を載せました。

今回は,財産開示期日の後をご説明させていただきます。

 

1 財産開示期日後の理想的な展開

財産開示期日のその後として,もっとも目的を達成することができるのは,強制執行できる財産が期日で明らかになり,強制執行をして回収を果たすことです。

また,債務者(金銭を支払う義務がある者)から申出があって,一定額を回収する和解が成立することも,目的を達成することができます。

 

2 財産開示期日を経ても回収できない場合には

 債務者が,正当な理由もなく,財産開示期日へ出頭せず(不出頭),宣誓拒否,陳述拒否,虚偽の陳述を行った場合には,6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰が科されます(民事執行法213条1項5号,同6号)。

そして,この刑事罰にしたいと債権者として考えた場合,警察に民事執行法違反を理由として告発することになります。

しかし,告発状に記載するうえでは,不出頭・宣誓拒否・陳述拒否と,虚偽陳述では難易度が変わります。

(1)不出頭・宣誓拒否・陳述拒否

債務者が財産開示期日に出頭しない場合は,その不出頭は誰の目から見ても明らかです。

また,宣誓拒否・陳述拒否も,裁判所の作成する財産開示期日調書に宣誓拒否や陳述拒否が記載されることになりますので,裁判所という公的機関の書類上明らかになります。

したがって,財産開示期日調書などの裁判所の書類を証拠として告発状を警察に提出すれば良いことになります。

(2)虚偽の陳述

しかし,財産開示手続で虚偽の陳述を述べたとして民事執行法違反で告発する場合,虚偽の内容を具体的に説明できなければ告発が難しいことになります。

例えば,預金は無いと言っていたのに,本当は預金があったから,財産開示期日では虚偽の陳述をしたと告発する場合には,財産開示期日時点で預金が存在したことを裏付ける資料を告発状に付ける必要がでてきます。

そのためには,預金を探索して更に強制執行(預金の差し押さえ)をして,情報を収集し,告発のための資料を少しずつ揃えていく必要があります。

 

3 財産開示期日の後への弁護士の関与

民事執行法違反で告発を検討する場合には,どのような資料を揃え,どのような内容の告発状を作成して,警察に提出するかを十分に検討する必要があります。

そのためには,弁護士に依頼した方が手続の進行もスムーズですし,刑事告発に際して弁護士が担当する警察官に直接十分な説明をして刑事手続を進めるように求めることもできます。

当事務所でも,虚偽陳述を理由として民事執行法違反での告発の依頼を受け,刑事罰まで手続を進めた経験もあります。

なお,ご注意いただきたいのは,告発して刑事罰に至ったとしても,罰金を納付する先は国であって,債務者が債権者に金銭を支払うとは限らないという点には注意していただく必要があります。

債務名義はあるけれど,債務者が支払わず困っている方は,あきらめずに池田総合法律事務所にご相談ください。

        (小澤尚記(こざわなおき))