ペットにかかる法律問題2(事業者編)
今回は、ペットにかかわる事業者の法律問題について、お話したいと思います。法律上は、「ペット」という用語はなく、「動物」としていますが、以下、家族で飼育されている動物を主な対象として、ペットと表現して話を進めます。
1.ペットの販売業の経営について
(1)犬猫等のペットを業として繁殖あるいは販売する場合(「第一種動物取扱業」と呼ばれます)は、動物愛護管理法(以下、法といいます。)によって、都道府県知事、あるいは指定都市の長への登録が必要となります。
「業として行う」ことが要件ですので、自分の飼い犬が子を産んで、子犬を知人等に単発で譲渡するだけでは、これに該当しません。一回だけのことであれば「有償」で譲渡する場合も同様に該当しません。但し、その後も売却を前提に繁殖を続けたり、複数回にわたって有償で販売するような意思がある場合は、「業として」と評価される可能性が高いので、注意が必要です。
(2)また、生後56日(8週)齢未満の犬猫等は、業者については、販売や販売のための展示が禁止されています。これは、業としてではなく知人に無償で譲渡するような場合には、適用はありませんが、社会性を育てる等の必要から、母・兄弟と出来るだけ一緒に一定期間過ごすのが望ましいとされています。
(3)また、繁殖業者や販売業者は、マイクロチップ装着と登録が義務付けられており、販売の際には、その登録事項の変更の手続が必要となります。
一般家庭で生まれた子犬にマイクロチップを装着する義務はありませんが、一旦装着をした場合は譲渡の際に登録事項の変更が必要です。
(4)また、販売にあたっては、対面での譲渡が義務付けられており、ネット上のやりとりだけでの販売は禁じられています。
2.ペットクリニック(動物病院)の経営
(1)動物病院の場合は、1に記載したように動物愛護の観点からの規制のほか、「医療行為」の側面から獣医師法や薬事法、廃棄物処理法等の規制があり、これらも意識して経営をしていく必要があります。
診療行為を行うには、必ず獣医師免許が必要であり、無免許による診療行為は違法であり、刑事罰の対象となります。
また、診療記録については、人の場合と同様診療記録の作成・保管義務があり、特定の感染症については、保健所への報告義務があります。
治療行為に使用した器具等は、医療用産業廃棄物として、特別な処理が必要ですし、薬品管理については、抗生物質、麻薬類等をはじめとして、厳重な管理が義務付けされます。
(2)また、治療ミス等で死亡事故等起こした場合は、民事上の損害賠償責任が問われます。但し、民法上、ペット(動物)は、物(動産)として扱われますので、逸失利益や休業損害は、原則認められません。
また、精神的苦痛に対する飼主の慰謝料についても、物の損害に対する慰謝料が一般論として認められないということがありますが、ペットに関しては、「家族の一員として愛情の対象」となりつつあるという社会的な了解もあることもあって、慰謝料を認める裁判例も出てきております。死亡事故でも数10万円から100万円程度のものが多く、人の場合と比してかなり低額なのが、実情です。
3.ペットショップの廃業
(1)ペットショップの経営が行き詰って、廃業をする場合、特に注意を要する点があります。
ペット等を遺棄(置き去り)にしたり、売れないからとして殺処分をすれば、刑事罰の対象となります(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
(2)廃業後は30日以内に、都道府県知事(保健所等)等へ廃業届を提出する必要があります。また、ペットの引取先が確保できるまで、動物の適正飼育義務は残るので、早急に引き取り先を捜す必要があります。
自治体は、ペットショップの在庫としての動物達の引取りを拒否することが出来(法35条但書)、他の動物取扱業者(販売店、ブリーダー等)への譲渡、認定NPO、保護団体へ相談をした上での引取り、また、個人への譲渡等を考えていく必要があります。但し、廃業後に、有償譲渡は出来ませんので、廃業届は、それが終了してからということになります。
(3)また、破産などの法的な倒産手続きの申立をする際も、飼育義務は破産管財人に引渡すまでは継続しますので、飼育するための餌やそれを購入する財源がないからといって動物を放置したり、勝手に殺処分したりすることは、違法となります。
したがって多数の在庫としてのペットを抱えているときは、出来る限り早めに、裁判所の間で、事前相談をし、やむをえず、動物達を無償で譲渡したり、他の業者へ一括して売却処分するような場合には、後日、破産管財人に処分行為を否認されないためにも、裁判所との事前相談の際に早期処分の必要性や処分代金の適正さを説明しながら、処分を進めていく必要があります。
(池田伸之)