遺言書保管制度のその後
遺言書を法務局に保管してもらうことができる遺言書保管制度が令和2年7月から施行され、4年が経過しました(制度の内容については、私の令和2年8月25日付の法律コラムのブログを見て下さい。。私どもの取り扱う案件においても、こうした形で保管されている自筆証書遺言が作成されている例が、出始めております。
施行後、4年間の遺言書の保管申請件数(カッコ内は、そのうち実際に保管された件数)は以下の通りです。
令和2年7月~令和3年6月まで 20,849件(16,655件)
令和3年7月~令和4年6月まで 16,612件(15,468件)
令和4年7月~令和5年6月まで 18,492件(18,458件)
令和5年7月~令和6年7月まで 21,152件(21,114件)
令和4年分の公正証書遺言の作成件数が、111,977件(日本公証人連合会の公表した総計数字)ということで、公正証書の作成数には及んでいませんが、以上のように、増加傾向であり、今後も利用が進んでいくと思われます。
また、相続人等への通知制度については、遺言書情報証明書の交付や、関係遺言書の閲覧をさせた場合に、他の全ての関係相続人等に通知をする関係遺言書保管通知制度のほか、死亡時通知というものがあります。これは、遺言書保管官(保管をしている法務局)が、遺言者の死亡の事実を確認したときは、遺言書を保管している旨を遺言者の指定した者に通知をする制度ですが、具体的に法務局が、遺言者の死亡の事実をどのようにして把握するのかについては、その仕組みが施行当時には整備されていませんでした。この仕組みについては、その後整備され、令和3年度から、この通知先の申出が遺言者からあったときは、遺言書保管官が遺言者の氏名、生年月日、本籍及び筆頭者の氏名を市町村の戸籍担当部署に提供し、遺言者が死亡した場合には、戸籍担当部署から遺言者死亡の事実に関する情報を取得することができるようになり、指定先に通知をすることが可能となりました。
公正証書遺言の場合でも、公証役場には、遺言者が死亡した事実はわかりませんし、自筆証書遺言を預かっている人も、必ずしも、遺言者の死亡事実がわからないということはありえますので、遺言が表に出てこないまま、遺産相続がなされてしまうというリスクもあります。ところが、この死亡通知制度により、遺言者の死亡の事実が確実に保管官に伝達され、通知先に遺言の存在が通知され、大きな意義があるものと思われます。
ただし、遺言書保管制度は、遺言の形式面はチェックしてもらえますが、内容面についてのチェックは行っていませんので、思わぬところで遺言が無効となり、遺言者の意思が全うされないということもありえます。また、遺言の内容の適否、その影響を含めた遺産相続全体についての相談をしてくれたり、アドバイスをもらうことはできません。そのため、自筆証書遺言を作成し、保管制度を利用するにしても、弁護士等の専門家への相談、検討をしたうえで行った方が安心です。池田総合法律事務所では、こうした相談、遺言にまつわるご相談はこれまで多数取り扱っておりますので、有益なアドバイスが可能であると思います。
(池田伸之)